絶対額を重視した方針は維持しつつも要求目安として賃金改善分1万2,000円の水準を提示/自動車総連の中央委員会

2025年1月17日 調査部

自動車総連(金子晃浩会長、78万1,000人)は9日、神奈川県横浜市で中央委員会を開催し、今春の賃上げ交渉に向けた取り組み方針(「2025年総合生活改善の取り組み」)を決定した。月例賃金における平均賃金の取り組みでは、絶対額を重視した方針は維持しつつも、中小組合の底上げや全年代での実質賃金の低下を防止するため、賃金改善分として1万2,000円の水準を提示。具体的な目安の金額を示したのは、2018年以来7年ぶりとなった。また、価格転嫁を含む企業間取引の適正化や、年間休日増の取り組みの推進も強調している。

「絶対額を重視した取り組み」を今年も継続

方針でははじめに、2019年の賃上げ交渉から進める、賃金の引き上げ幅でなく絶対額に力点を置いた「絶対額を重視した取り組み」について、「各組合が訴求力のある要求を構築し、成果に結び付ける流れが着実に前進している」と評価し、今年の取り組みでも継続することとしている。

また、消費者物価指数を上回る賃金引き上げによって実質賃金を早期にプラスに転換させることや、拡大傾向にある人数規模別の賃金格差に歯止めをかけるための取り組みを進める必要性を強調。生産性のさらなる向上や付加価値の適正循環を推し進め、賃金引き上げに向けた環境を整備していく重要性も提示している。

こうした考え方のもと、取り組みの方向性では、「自動車産業は我が国の基幹産業であり、総合生活改善の取り組み結果が日本経済に与える影響は大きい」と指摘。「自動車産業に集う全ての組合が積極的な賃金引き上げや総合的な生活改善に向けた力強い要求構築を通じ、日本経済の転換期を確実なものにするとともに、自社・産業の永続的な発展を目指すこと」を訴えた。

「グッドサイクル運動」方針に基づき価格転嫁を含む企業間取引の適正化を推進

具体的な取り組みの内容をみていくと、方針ではまず基盤整備に向けた取り組みとして、価格転嫁を含む企業間取引の適正化に言及。「中小を含めた産業全体の発展に向け、適正な価格転嫁の実現と賃金の引き上げを両輪で進めていく必要がある」として、受発注双方が本音で困りごとを話し合える環境の整備や取引課題の解決に向け、「グッドサイクル(好循環)運動」と名付けた方針に基づき、総連・労連・各組合がそれぞれの立場で取り組みを推進することを示した。

主な取り組みとしては、(A)企業向け依頼書を労使協議(あるいは準ずる場)にて提出(B)労使協議(あるいは準ずる場)にて、取り組み主旨を踏まえた意見交換を実施(C)労使協議に限らず、取り組み主旨を踏まえた意見交換を実施――の3つを例示。労連や各組合で実施に向けた環境整備が異なることから、それぞれのコンディションを尊重し、(A)~(C)の取り組む順序は問わないとしている。

取り組み主旨・企業向け依頼書の具体的な内容については、① 労務費指針に基づいた行動の徹底 ② 自工会・部工会の自主行動計画(含む徹底プラン)や中小企業庁の下請適正取引等推進のためのガイドラインの内容確認・履行 ③ パートナーシップ構築宣言の実施、および宣言に基づいた活動の履行――の3つを挙げており、これらの取り組み状況について、労使で情報共有・協議を行い、活動のフォローアップを実施することとしている。

なお、方針では、価格転嫁を含む企業間取引の適正化を「総合生活改善の取り組みに留まらず、通年で取り組みを進めていく」ことも付言している。

月例賃金の個別ポイント賃金は若手技能職、中堅技能職で各6基準を設定

次に、各項目の要求基準をみていくと、月例賃金では、各組合の自ら取り組むべき賃金水準の実現に向け、引き続き「個別ポイント賃金の取り組み」と「平均賃金の取り組み」を併せ持った「絶対額を重視した取り組み」を進めるとの考え方を提示。

その上で、個別ポイント賃金の取り組みでは、6つの基準額を、それぞれ技能職若手労働者と技能職中堅労働者の2銘柄で設定している。具体額は、「賃金センサスプレミア」が若手:34万1,400円、中堅:39万6,900円、「自動車産業プレミア」が同順(以降同じ)で29万8,000円、32万8,000円、「自動車産業アドバンス」が27万円、30万8,000円、「自動車産業目標」が25万3,000円、28万4,000円、「自動車産業スタンダード」が23万2,000円、26万2,000円、「自動車産業ミニマム」が22万9,000円、25万3,000円となっている。

消費者物価指数などの要素を考慮して目指すべき賃金水準を構築

平均賃金の取り組みでは、実質賃金の低下防止や地域別最低賃金の急速な引き上げへの対応など、「あらゆる要素を総合的に勘案した自ら目指すべき賃金水準を構築し、積極的な賃金引き上げを行う」と強調。取り組みにあたっては、「賃金カーブ維持分を含めた絶対額を強く意識した賃金引き上げの考え方を踏まえ、自ら目指すべき賃金水準や賃金課題の解決を目指す」こととしている。

なお、上記で掲げた賃金水準の構築にあたっては、2024年の消費者物価指数(4月~11月平均でプラス2.5%)や、同年の実質賃金(きまって支給する給与。4月~10月平均でマイナス0.9%)、地域別最低賃金の引き上げ状況などを考慮すべき要素として掲げている。目指すべき賃金水準や賃金課題の解決については、成長意欲・やりがい向上や、働き方・役割・責任に見合う賃金水準・カーブの引き上げ、グループ各社などとの賃金格差是正を例示している。

また今年は、中小組合の底上げや、少なくとも全年代で実質賃金の低下を防止するため、「賃金改善分として1万2,000円の水準を踏まえた上で要求の構築を行う」ことも明記している。絶対額を重視した方針は維持しつつも、自動車総連が具体的な目安の金額を示したのは、2018年以来7年ぶり。

1万2,000円の水準の主要構成要素については、2024年度物価上昇分や、自動車総連における2024年取り組み実績に基づく年齢別実質賃金の最大マイナス分(50歳:マイナス3.16%)、中小底上げ分などを踏まえている。ちなみに、2024年の自動車総連における年齢別の実質賃金増減率平均はマイナス1.53%で、特に27歳以降でマイナスが続き、最大マイナス分が前述した50歳のマイナス3.16%にあたる。

企業内最低賃金は18歳で20万円以上を目指す

企業内最低賃金は、取り組み基準として「協定未締結の全ての組合は、必ず新規締結に向けて要求を行う」「既に締結している組合は、それぞれの状況を踏まえ着実に取り組みの前進を図る」ことを提示。

既に締結している組合については、「① 締結額を、18歳の最低賃金要求は『20万円以上』、20万円以上の要求が困難な場合は、『19万円以上』を目指して取り組む ② 締結対象の拡大に向けては、非正規雇用で働く仲間への対象拡大を目指して取り組む」としている。なお、現在の達成状況は、17万3,000円の組合が66.5%、18万円の組合が41.8%となっている。

また、特定最低賃金の金額改正へ波及することも踏まえ、「各組合・各地域の実態に応じて① ② の優先順位を決定する」ことや、特定最低賃金の審議が時給換算で行われることから、「月額のみに限らず必ず時給換算も念頭に検討を行う」ことも示した。

年間一時金は年間5カ月を基準に

年齢別最低保証賃金の協定化については、20歳から55歳まで5歳刻みで設定している取り組み基準の金額を全年代で増額。具体額は、20歳:19万3,000円、25歳:20万8,500円、30歳:22万9,000円、35歳:25万3,000円、40歳:26万5,500円、45歳:27万3,000円、50歳:28万2,000円、55歳:28万3,000円とした。

年間一時金は、昨年同様、年間5カ月を基準に取り組む。

働き方の改善については、総労働時間短縮の取り組みとして2022年から使用していた「New START12(第2次)」の名称を「SMILE12」に改め、共通ガイドライン、部門別ガイドラインに基づき、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて総労働時間の短縮に取り組むことなどを明記している。

年間休日は5日増の126日を目指す

方針では、年間休日増の取り組みについても言及。年間休日日数は1994年に121日と統一されて以降増えていなかったが、他産業と比較して劣後していることから、誰もが働きやすい職場環境の実現と自動車産業を選ばれる産業とするために、引き上げに取り組む考えを示した。

取り組み基準は、「① 現在休日数121日の組合は2027年までに5日増の126日を目指す ② 休日数121日未満の組合は現状の休日数から5日増を目指す。なお、5日増を達成した組合は、休日数の格差是正のために引き続き休日数126日を目指して取り組む」としている。

昨年の課題として規模間格差の拡大と実質賃金の改善に至っていない点を強調

中央委員会で挨拶した金子会長ははじめに、絶対額を重視した取り組みについて「毎年、着実に継続した賃上げが図られてきており、全体としては一定の成果を挙げることができていると認識している。本年の取り組みにおいても基本的なスタンスは変えるべきではない」とした上で、昨年の取り組みにおける課題として「規模間格差の拡大」と「実質賃金の改善に至っていないこと」の2点を挙げた。

「規模間格差の拡大」については、中小労組について「2023年以降の大幅な物価上昇分も踏まえた賃上げ協議では、大手との体力差が顕著に表れてしまっている。中小組織の交渉支援として極めて有効なのが取引の適正化であり、とりわけ労務費を含めた価格転嫁を着実に進展させなければならない。この1年間で進展してきた面はあったと言えるが、すそ野の広い自動車サプライチェーン全体では、まだまだティアの深いところまでは十分に浸透しきれていない」として、重要課題として取り組みを加速させる必要性を訴えた。

「実質賃金の改善に至っていないこと」については、依然として物価上昇の伸びに賃上げが追い付いていないこと、自動車総連の昨年の取り組み実績に基づく集計結果において、「単組平均では上回っていても、若年層への配分を厚くしたことにより、主に30代以降の中高年齢層では実質賃金がマイナスとなってしまっている」ことに言及。「極めて深刻に受け止め、決して同じことを繰り返してはならない」と訴えた。

「あえて具体的な水準も示し、要求の後押しをしたい」(金子会長)

また、金子会長は、取り組みの意義について、「今次取り組み方針は特に中小労組を念頭に、十分な底上げを図るため、格差に歯止めをかけるためにあえて具体的な水準も明示し、要求の後押しとしたいという意図を込めている。自動車総連に集う全員が、何としても昨年以上の成果に至る取り組みを行うという強い意思と実行力を備える必要がある」と強調。30年間変わっていない年間休日増の取り組みを方針に掲げたことに関しても、「働きやすい職場環境を実現し、産業の魅力を高めるためにもこの取り組みが必要だと判断した」と述べた。

方針は、要求提出日を2月末日まで、大手メーカーなどの主要組合の統一要求提出日を2月12日(水)までと設定した。主要組合の統一交渉日は、2月19日(水)、2月26日(水)、3月5日(水)の3回設ける。