1万2,000円以上の賃上げに取り組むとする2025年闘争方針を決定/金属労協の協議委員会

2024年12月11日 調査部

自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の5つの産業別労働組合でつくる金属労協(JCM、金子晃浩議長)は3日、都内で協議委員会を開き、来春の賃上げ交渉に向けた2025年闘争方針を決定した。方針は、「定期昇給などの賃金構造維持分を確保した上で、すべての組合で1万2,000円以上の賃上げに取り組む」と掲げ、2024年方針での要求基準(1万円以上)から2,000円引き上げた。金子議長(自動車総連会長)は、「JC共闘として何としても昨年以上の成果に至る取り組みを行わなければならない」と述べた。

積極的な賃上げの流れを止めずに強化していく

方針は、要求の基本的考え方について、「成長と分配の好循環を軌道に乗せ、日本経済の持続的発展につなげていくためには、賃上げを中心とする『人への投資』が核心的課題となっており、2023年以降の積極的な賃上げの流れを止めずに取り組みを強化していくことが重要」だと指摘。また、人材獲得競争が激化していることから、「人材の確保・定着は金属産業のバリューチェーン存続にかかわる課題」だとして、「人への投資」によって「産業・企業の魅力を一層高める必要がある」と言及した。

さらに、方針は、「賃金は組合員の生活の基盤であり、実質賃金の向上により働く者の生活を改善し、働く者のモチベーション向上を図ることで、人材の確保・定着につなげることが重要」だと指摘。また、「労働時間短縮などの働き方の見直しにより、誰もが能力を発揮し活躍できる職場環境整備や労働諸条件の改善が必要」だとして、働き方を含めた労働条件の改善の重要性も強調した。

中小含め組織全体で実質賃金の向上へ

そのうえで方針は、「今次闘争は、賃上げの流れが変わった2023年闘争から数えて3回目となり、今後、このような積極的な取り組みが定着するかどうかの重要な分かれ目となる」と、今次闘争の位置づけの重さを強調。「JC共闘全体で春闘の先頭に立ち、結果にこだわった取り組みを進め、中小を含めた組織全体で実質賃金の向上につなげるとともに、春闘結果を日本全体に波及させ、日本経済の好循環へ繋げていかなければならない」としたうえで、「成果が実感できる賃上げの実現に向け、金属労協が牽引役を果たしていくとの自負を持ち、この2025年闘争を進めていく」とした。

2024年方針の要求基準から2,000円引き上げ

賃金についての具体的な要求基準をみると、「定期昇給などの賃金構造維持分を確保した上で、すべての組合で1万2,000円以上の賃上げに取り組む」とし、要求水準を2024年闘争方針から2,000円引き上げた。

金属労協は、方針のなかで、めざす個別賃金水準(35歳相当・技能職)を「目標基準」「到達基準」「最低基準」の3つのポイントで示しているが、これらは2024年方針から変更せず、「目標基準」を「基本賃金36万4,000円以上」(基本賃金とは所定内賃金から各種手当を除いた賃金)、「到達基準」を「基本賃金33万4,000円以上」、「最低基準」を到達基準の80%程度(26万7,000円程度)と据え置いた。

公正な配分のための労使協議も

また、昨年の闘争を含めて近年は初任給の大幅な上昇や、中高年者の賃金水準の停滞もみられることから、「初任給の大幅な引き上げに伴うカーブ是正ができていないことにより賃金カーブに歪みが生じている場合や、中堅以上の年齢層に賃上げの配分が少なくなっているなど、賃金制度上の課題が見られる場合は、公正な配分が行われるよう労使で協議する」ことを新たに盛り込んだ。

「JC共闘として何としても昨年以上の取り組みを」(金子議長)

協議委員会であいさつした金子議長は、2024年闘争で残った課題として、① 足元の実質賃金の改善に至っていない ② 中長期的な労働分配率の低下傾向が続いている ③ 主要先進国で最も低い賃金水準の位置にいる――の3点をあげたうえで、「2025年闘争においては、JC共闘として何としても昨年以上の成果に至る取り組みを行わなければならないという強い思いに至っている」と述べた。

また、金子議長は、「1万2,000円以上」の数字の算出にあたっては、「先ほど述べたマクロ的観点からの課題、すなわち、① すべての組合員の実質賃金を改善させること ② 生産性の高さに見合った配分を求め、労働分配率の低下に歯止めをかけること ③ 国際的に低い賃金水準を引き上げていかなければならないこと――を踏まえる必要がある。また、規模間、業種間での格差拡大を抑制し是正していく必要もある。そして、一昨年を契機とした大幅な賃上げから3年目となる今次取り組みが、賃上げの流れを今後も定着させていくために極めて重要な年であることも踏まえている」と説明。

また、「以上」の文言を付けた点について、「さらなる取り組みが可能な組織については、躊躇なく相場を引っ張って欲しいという思いを込め、金額に『以上』を付けた」とし、「組織内で議論を尽くし、躊躇することなく積極的に取り組んでほしい」と呼びかけた。

同日、協議委員会開催前に行われた記者会見で金子議長は、「1万円から1万2,000円にしたという上向きのベクトルで、最後の成果を獲得するまで取り組んでほしいというメッセージを込めた」と、要求基準に込めた思いを語った。

企業内最低賃金は最低でも21万4,000円以上をめざす

企業内最低賃金協定については、方針は、JC内の全組合の締結をめざし、未締結組合は協定締結に取り組むとし、水準について「高卒初任給準拠」の考え方を堅持するとしたうえで、月額21万4,000円(時間あたり1,330円)を「最低到達目標」と位置付けるとした。「最低到達目標」を達成した組合が中期でめざす企業内最低賃金の目標は(到達目標)は、月額24万3,000円(時間あたり1,500円)」とし、その実現に取り組むなどとしている。

2024年方針では、「最低到達目標」は月額17万7,000円(時間あたり1,100円)で、到達目標は月額19万3,000円以上(時間あたり1,200円)としており、ともに大幅に水準を引き上げている。

そのうえで、特定最低賃金の金額改正と新設については、「すべての特定最低賃金について金額改正に取り組むとともに、産業・地域の状況に応じて新設を検討する」などとした。

金属労協では、これ以下の賃金水準では金属産業で働かせないとする「JCミニマム(35歳)」の取り組みを展開しているが、その水準(基本賃金)について、2024年方針から1万円引き上げて23万円とした。

なお、一時金については、年間5カ月分以上を基本とし、年間4カ月分以上を最低獲得水準とした。

労務費についても適正な価格転嫁を進める

このほかの取り組み項目は、労働時間の短縮、仕事と家庭の両立支援の充実、テレワークなど新たな働き方への対応、60歳以降の雇用の安定と処遇改善、男女共同参画推進、安全衛生体制の強化、非正規雇用労働者の雇用と賃金・労働条件改善、バリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」構築、人権デュー・ディリジェンスなど。

このうち、バリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」構築では、金属産業全体に積極的な賃上げの流れを定着させるために、「労務費についても適正な価格転嫁を進める」などとしている。

JAMは1万5,000円以上、基幹労連は1万5,000円で検討中

金属労協に加盟する産別のなかで、JAM(安河内賢弘会長)と基幹労連(津村正男委員長)では、それぞれの執行部が提示した要求方針案の素案が明らかになっている。

JAMでは、「2025年春季生活闘争方針大綱」のなかで「賃金構造維持分を確保した上で、直近に拡大した格差や企業内賃金格差など単組の課題を積み上げて、所定内賃金の引き上げを中心に1万5,000円以上の『人への投資』を要求する」としている。平均賃上げでの要求基準は「賃金構造維持分4,500円に1万5,000円以上を加え、『人への投資』として1万9,500円以上とする」と掲げている。ベアなどの引き上げ分の水準は、2024年方針では「1万2,000円基準」だった。

基幹労連の「AP25春季取り組み基本構想」は、2025年度の賃金改善の要求水準について、「基幹労連として相乗効果を生むべく、全体が一体感を持って取り組める水準とする」とし、要求額として1万5,000円を加盟組合に提示している。AP24方針では、要求額は「1万2,000円以上」だった。