交通運輸・観光サービス産業の持続的成長に向けた政策の実現を/交運労協定期総会
2024年10月30日 調査部
交通運輸関係の産業別労組で構成する交運労協(57万6,000人、住野敏彦議長)は10月10日、都内で定期総会を開催し、2025年の活動方針を決めた。活動方針は、物流産業を取り巻く環境とトラックドライバーの処遇の改善の取り組みや、持続可能な地域公共交通の再構築、ライドシェアに関する課題への対応などに力を注ぐ方向性を明示。25春闘でも、社会的役割に見合う労働環境の実現に向けた取り組みを進める。役員改選では住野議長が退任し、新たに池之谷潤議長を選出した。
活動方針は、政策課題の実現に向けた取り組みとして、①「2024年問題」の課題解決と改正物流二法を活かす ② 持続可能な公共交通確立 ③ 「ライドシェア新法」制定を阻止し雇用破壊を許さない ④ 人材の確保・定着・離職防止 ⑤ カスタマーハラスメント防止⑥ポスト・コロナ時代における政策対応⑦観光立国実現――の7つを柱に掲げている。
商慣行の見直しと物流効率化の実効性担保を
持続可能な物流を構築するために、トラックドライバーの働き方改革が進められている。今年4月には「2024年問題」といわれるトラックドライバーの時間外労働の上限規制(年960時間)が5年間の適用猶予を経て導入。併せて、「改善基準告知」についても、年間拘束時間が原則3,300時間となるなどの見直しが行なわれた。
こうしたなか、荷待ち・荷役時間の削減に向けた規制的措置の導入と、賃金水準の向上に向けた適正運賃の収受・価格転嫁の円滑化などを目的とする「物流効率化法」と「貨物自動車運送事業法」のいわゆる物流二法の改正法案が可決・成立。その後、同二法の公布を受けて、国土交通省・経済産業省・農林水産省が合同会議を立ち上げた。
同会議は今後、法律の施行に向けて、① 荷主・物流事業者に対する規制的措置の実効性を確保するための制度設計のあり方 ② ドライバーの運送・荷役等の効率化のための物流に関わる様々な関係者間の連携・協力のあり方 ③ 荷主・物流事業者の判断基準等における物流効率化に向けたデジタル技術の活用のあり方 ④ 荷主等の意識改革・行動変容を促すための物流改善の取り組み状況の調査・評価のあり方――などについて議論する予定。活動方針は、こうした論点についての意見を合同会議に反映させ、「法改正の趣旨である商慣行の見直し、物流効率化の実効性が担保されるよう対応していく」としている。
適正な運賃収受の実現や労働環境の改善も
また、「2024年問題」で懸念されていた時間外労働の削減に伴う賃金低下を理由とするドライバーの離職増については、「顕在化してはいないものの、離職防止に向けた根本的な対策としての賃金・労働条件の向上は、未だ緒に就いたばかりだ」と説明。付帯決議に盛り込まれた「トラックドライバーの賃金引上げの原資となる適正な運賃収受の実現や物流効率化等の労働環境改善に向けた実効性のある取組を、一層強力に推進する」ことも明記した。
さらに、「2024年問題」の課題解決には、トラック等の自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい貨物鉄道や船舶の利用に転換する「モーダルシフト」を推進する必要があることにも言及。政府が「鉄道、内航の輸送量・輸送分担率を今後10年程度で倍増」との目標を示した「物流革新緊急パッケージ」の達成に向けた施策の遂行も求めていく。
改正地域交通法の趣旨を踏まえた支援策を求める
人口および輸送需要の減少や、近年の人手不足の深刻化により、厳しい状況に置かれている公共交通については、地域交通法の一部改正で「地域の関係者の連携と協働の推進」が盛り込まれるとともに、国の努力義務として「関係者相互間の連携と協働の推進」が規定された。また、同法の成立により、自治体と交通事業者が一定の区域・期間について交通サービス水準・費用負担等の協定を締結し実施する「エリア一括協定運行事業」と、ローカル鉄道の再構築について鉄道事業者と地方公共団体の連携と協働の取り組みに国が関与する制度として「再構築協議会」が創設されたが、「なかなか進んでいないのが現状」(住野議長)だという。活動方針は、「法改正の趣旨を踏まえた協議が行なわれることを期待するとともに、国には再構築に向けた運行費補助などの抜本的な財政支援策を求めていく」としている。
ライドシェア新法制定阻止の取り組みを強化
今年4月のスタートから半年が経過した、タクシー事業者の運行管理による「自家用車活用事業(日本版ライドシェア)」に関しては、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2024」で、「全国の移動の足不足の解消に向けて、自家用車活用事業等について、モニタリングを進め、検証を行い、各時点での検証結果の評価を行う。並行して、こうした検証の間、タクシー事業者以外の者が行うライドシェア事業について、法制度を含めて事業の在り方の議論を進める」などと記述された。
こうしたなか、交運労協は「ドライバーを請負契約としてプラットフォーマーの自由な参入を認める『ライドシェア新法』は、地域公共交通と正規雇用を破壊する結果しかもたらさないものであり断固反対」とのスタンスで街宣行動を実施したり総決起集会を開くなど、新法制定阻止に向けた運動を展開してきた。方針は今後の取り組みとして、① タクシー利用者を対象とするインターネット世論調査の実施と集計結果の発表 ② 「ライドシェア新法の制定に反対し、持続可能な公共交通の確立を求める署名」活動 ③ 総決起集会の開催など大衆行動――などをあげている。
このほか、人材の確保・定着・離職防止に向けては、「人材不足問題の解決の鍵は、他産業に劣後することのない賃金・労働条件の向上」だとして、「その原資となる運賃・料金の引き上げと適正な価格転嫁の実現」などを指摘。そのうえで、運賃が総括原価方式に基づく認可制に置かれている鉄道・バス・タクシー等について、「人件費の算定方法など運賃・料金制度の柔軟な見直しを求めていく」考えを示した。カスタマーハラスメント防止の取り組みでは、「労働者保護に向けた法整備に向け取り組みを展開していく」ことなどを記載している。
労働条件の向上こそが持続可能な産業の人材確保に重要
一方、活動方針は「労働条件改善」の取り組みも柱立てしている。
交運労協は24春闘の賃上げ要求で、「コロナ禍により傷んだ交通運輸・観光産業労働者の賃金水準を、今後、コロナ禍以前の水準に復元させる」ことを交渉の前提として確認したうえで、「賃上げをはじめとする労働条件の向上こそが持続可能な産業の基盤たる人材確保にとって重要」だと主張。そのうえで、「すべての構成組織は、定期昇給制度を死守するとともに、定期昇給相当分(一人平均基本給の2%)を確保」し、「3%以上の賃上げを掲げるとともに、可能な限り産業間格差是正に努める」などとした。さらに、「離職防止や採用競争力強化を念頭に置いた中期的な視点に立ち、『手当偏重の賃金体系』を改善し、基本給を主軸に据えた賃金制度の構築」も求めた。
なお、賃金制度に関しては、① 賃金制度が未整備の組合は、現行の賃金水準を基本とした定期昇給制度の確立を図る ② 歩合制度が採用されている自動車運転業務においては、各運転者の労働時間に応じ、各人の通常の賃金の6割以上の賃金保障を求める――としていた。
トラック運送での価格転嫁と適正取引が課題
活動方針は、24春闘の総括として、「産業間の熾烈な人材獲得競争と離職者の増加を背景に、前年を上回る賃上げを勝ち取ることができ、『人への投資』の重要性を労使で確認できた」と評価する一方で、他産業がより高い水準の賃上げ結果を出したことから「産業間の是正につなげることはできなかった」と指摘した。
価格転嫁に関しても、鉄道・バス・タクシー等では、「各事業者において上限運賃の認可申請が行われている」ものの、運賃・料金の適正収受が必要なトラック運送では「2024年3月の業種別の価格転嫁ランキングにおいて、27業種中最下位となっており、コスト増に対する転嫁率は僅か28.1%で、そのうち労務費の転嫁率に至っては24%という状況」と解説。「価格転嫁を着実に進め、適正取引を推進する」必要があるとして、前述の改正物流二法を活かした取り組みを推進していく必要性を打ち出した。
なお、産業内の規模間格差の是正についても、「本体会社の水準を上回る賃上げを勝ちとるグループ会社が現れるなど、潮目が変わる兆しを見せている」などと分析して、「この流れを25春闘につなげていく」姿勢を強調している。
「他産業との格差是正と役割に見合った労働環境の実現を」(住野議長)
こうした内容について、住野議長はあいさつのなかで、「24春闘では、額面では昨年に続く高水準での妥結となったが、燃料費等エネルギー価格の高騰をはじめ、食料品の物価上昇によって実質賃金は伸び悩んでいる」と指摘。25春闘でも「引き続き、他産業との格差を是正し、社会的役割に見合った労働環境の実現に向けて取り組んでいく」考えを強調した。
新議長に池之谷潤氏を選出
役員改選では、10年にわたり議長を務めた住野氏(私鉄総連)が退任。新議長に池之谷潤氏(私鉄総連)を選んだ。慶島譲治事務局長(JR連合)は再選された。