賃上げ要求目安5%以上、中小は6%以上で格差是正/連合の2025春季生活闘争基本構想
2024年10月30日 調査部
連合(芳野友子会長)は10月18日に開いた中央執行委員会で、2025春季生活闘争基本構想を確認した。基本構想は、2025春季生活闘争方針のたたき台となるもの。賃上げの要求指標としては、「賃上げ分3%以上、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め5%以上」と2024闘争と同じ水準を提示したが、規模間格差が拡大したことをふまえ、中小組合の要求指標については、「格差是正分1%以上を加えた6%以上」と2024闘争より1%高い水準を提起した。
賃金、経済、物価を安定した巡航軌道に乗せる年
基本構想は、2025闘争の意義と基本スタンスについて、「2025闘争では、四半世紀に及ぶ慢性デフレに終止符を打ち、動き始めた賃金、経済、物価を安定した巡航軌道に乗せる年としなければならない」としたうえで、「連合は、すべての働く人の持続的な生活向上をはかり、新たなステージをわが国に定着させることをめざす」と強調している。
2024闘争では33年ぶりとなる5%台の賃上げを実現したが、基本構想は「生活が向上したと実感している人は少数にとどまり、個人消費は低迷している。それは、物価高が勤労者家計を圧迫してきたことに加えて、中小企業や適切な価格転嫁・適正取引が進んでいない産業などで働く多くの仲間にこの流れが十分に波及していないことも要因の一つ」と現状を分析したうえで、「賃上げと適切な価格転嫁・適正取引のすそ野が広がらなければ、デフレに後戻りする懸念すらある」と指摘。
「『賃金も物価も上がらない』という社会的規範(ノルム)を変えるのは今」だと訴えながら、「ノルムを変えることで日本経済の体温を欧米並みに温め、実質賃金が継続的に上昇することで個人消費を拡大し、賃金と物価の好循環を実現する必要がある」と述べるとともに、「そのカギの一つが、賃上げの広がりと格差是正であり、もう一つが、適切な価格転嫁・適正取引の徹底、製品・サービスと労働の価値を高め認め合う取引慣行の醸成」だと強調した。
多くの働く人に生活向上の実感がない
また、基本構想は、名目GDPは600兆円を超えたものの、「未だ多くの働く人には生活向上の実感がない」との見方を示すとともに、日本全体の経常利益の6割を資本金10億円以上の大企業が占めていることなどを指摘。「企業から労働者への分配、企業間取引における付加価値の分配ともに見直しが必要であり、格差是正と分配構造の転換をセットで進めていく必要がある」と主張している。
労働者への分配については、「社会全体の生産性の伸びに応じて賃金の中央値を引き上げるとともに賃金の底上げ・格差是正をはかり、中期的に分厚い中間層の復活と働く貧困層の解消をめざす必要がある」とし、「2024 春季生活闘争の成果と課題を踏まえ、規模間、雇用形態間、男女間の格差是正の前進をはかる。また、誰もが安心・安全に働くことができ、個々人のニーズにあった多様な働き方ができるように、働き方の改善に取り組む」と盛り込んだ。
一方、企業間の取引については、「適切な価格転嫁・適正取引を徹底するとともに、製品・サービスと労働の価値を高め認め合い共存共栄できる価格設定をめざす必要がある」とし、「労働組合としても、受発注いずれの立場からも、自社の取り組み状況を点検し、適切な価格転嫁・適正取引を促すことにより賃上げ等の要求実現に結びつける必要がある」などとした。
適切な価格転嫁に向け、5つの項目に全力で取り組む
これらの基本的な考え方をふまえ、基本構想は、2025闘争に向けた基盤整備として、まず、「サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配、適切な価格転嫁・適正取引」を掲げている。これまでも行ってきたサプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配や、働き方も含めた「取引の適正化」の取り組みとともに、全力で取り組む項目を5点掲げた。
1つ目は、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(公正取引委員会・内閣官房)の周知強化と浸透など。2つ目が、労働組合の立場からも「パートナーシップ構築宣言」のさらなる拡大と実効性強化に取り組むことなど。3つ目には、構成組織による、加盟組合の取り組み状況や課題の把握とその組織内外の情報・意見交換などへの活用と、課題をふまえての自主行動計画や業種ガイドラインの改訂・新設などの働きかけなどをあげている。4つ目には、政府・政党や経営者団体との懇談会などを活用した、機運の醸成と政策反映などを掲げ、5つ目には、地方版政労使会議や連合プラットフォームなどの場の活用などをあげた。
賃金水準闘争を強化していくための取り組みについては、「要求案作りに先立ち、連合や構成組織等が掲げる賃金水準をはじめとする社会的指標との比較などを行い、企業規模間、雇用形態間、男女間の格差などを具体的に把握する」ことなどをあげた。
また、人材の確保・定着のためには、「同一地域の賃金相場に見劣りせず優位性をもてる賃金水準を意識した賃金決定が求められる」ことから、地域において不合理な賃金格差を是正する取り組みである「連合『地域ミニマム運動』」への参画と分析結果の活用も重要だとし、構成組織は、加盟組合による個人別賃金データの収集・分析・課題解決に向けた支援を強化するなどとしている。
実質賃金を少なくとも1%程度改善させる必要
闘争での具体的な取り組みの内容をみていくと、賃金要求については、「2025年は日本の実質賃金を少なくとも1%程度改善し、賃金における国際的ポジション回復をめざす必要がある」「今こそ未来を見据えて、傷んだ労働条件を回復させ『人への投資』を積極的に行うべき局面にある」「物価を安定させるとともに、2024闘争における賃上げの流れを定着させ、賃上げのすそ野を広げていく必要がある」「全体として労働側への分配を厚くし、企業規模間、雇用形態間、男女間の賃金格差是正を進めるとともに、中期的に分厚い中間層の復活と働く貧困層の解消をめざす必要がある」などと考え方を提示。
そのうえで、賃金要求指標について、「経済社会の新たなステージを定着させるべく、全力で賃上げに取り組み、社会全体への波及をめざす。すべての働く人の生活を持続的に向上させるマクロの観点と各産業の『底上げ』『底支え』『格差是正』の取り組み強化を促す観点から、全体の賃上げの目安は、賃上げ分3%以上、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め 5%以上とし、その実現をめざす」とした。
賃上げ分3%以上、全体で5%以上という要求水準は2024闘争と同じ。ただ、今回は「全力で」「社会全体への波及をめざす」との文言をあえて盛り込んだ。
35歳の最低到達水準は25万2,000円、到達目標水準は30万3,000円
規模間格差是正のための指標については、「最低到達水準」を30歳23万8,000円、35歳25万2,000円、「到達目標水準」を30歳27万9,000円、35歳30万3,000円に設定した。両指標の算定方法について、「最低到達水準」については、2023年賃金センサス産業計・男女計・学歴計・企業規模計の第 1 四分位を推計し、35歳23万8,000円、30歳22万5,300円に2024年6月の毎月勤労統計調査の共通事業所の一般労働者・所定内給与の前年同月比 2.7%と、2025闘争の賃上げ目標率3%を乗じて算出。「到達目標水準」については、2023年賃金センサス産業計・男女計・学歴計・企業規模計の中位数を推計し、35歳28万6,800円、30 歳26万3,700円に2024年6月の毎月勤労統計調査の共通事業所の一般労働者・所定内給与の前年同月比2.7%と、2025闘争の賃上げ目標率3%を乗じて算出した。
雇用形態間格差是正のための指標については、「経験5年相当で時給1,400円以上をめざす」と設定。1,400円については、2023年賃金センサス産業計・高卒男女計・企業規模計の23 歳勤続5年の所定内賃金の推計値22万円に、2024年6月の毎月勤労統計調査の共通事業所の一般労働者・所定内給与の前年同月比2.7%と、2025闘争の賃上げ目標率3%を乗じた月額を厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の一般労働者、企業規模計の所定内実労働時間数の全国平均(最新値を含む3年平均)から時給を算出した。
一方、底支えのための要求指標では、「企業内のすべての労働者を対象に協定を締結する」とし、締結水準を前年比50円増の「時給1,250円以上をめざす」とした。
中小組合は格差是正分を積極的に要求
基本構想はまた、中小組合の取り組みについて、「とりわけ中小組合については格差是正分を積極的に要求」と明記。すべての中小組合は賃金カーブ維持相当分(1年・1歳間差)を確保した上で、自組合の賃金と連合が示した規模間格差の指標などを比較し、その水準の到達に必要な額を加えた総額で賃金引き上げを求めるとした。また、獲得した賃金改善原資の各賃金項目への配分等にも積極的に関与するとしている。
賃金実態が把握できないなどの事情がある中小組合の場合は、賃金指標パッケージの目標値(5%以上)に、「格差是正分1%以上」を加え、「6%以上・1万8,000円以上を目安とする」とした。2024闘争方針では、5%以上に相当する「1万5,000円以上」を目安とすると掲げたことから、2024闘争から1%、要求水準を引き上げた形。2024闘争で4.45%と5%に届かなかった中小組合の賃上げ率を5%に乗せることが狙いで、連合の仁平章・総合政策推進局長は「中小が5%に達しないなかでは、連合がめざす『ステージ転換』とはならない」と話した。
11月28日の中央委員会で闘争方針を決定
連合は基本構想の内容について、11月1日の「2025春季生活闘争中央討論集会」で、構成産別、地方連合会と内部討議する。11月21日の中央執行委員会で闘争方針案をまとめ、同28日に開催する中央委員会で方針決定する予定だ。