イオングループ労連会長の永島智子氏が新会長に就任/UAゼンセンの定期大会
2024年9月27日 調査部
わが国最大の産業別労働組合であるUAゼンセン(松浦昭彦会長、189万4,000人)は18、19の両日、神奈川県横浜市で定期大会を開催し、「2024労働条件闘争まとめ」を含む2024年度の活動報告を確認するとともに、2025・2026年度運動方針を決定した。闘争まとめは「物価上昇分を一定程度上回り生活向上分を確保する結果を獲得できた」などと総括した。役員改選では、松浦会長が退任し、副会長で流通部門長を務めていた永島智子・イオングループ労連会長が新会長に選ばれた。同会長に女性が就任するのは今回が初めて。
「制度昇給」を含む平均妥結額は1万4,484円(4.95%)
活動報告に盛り込まれた「2024労働条件闘争まとめ」によると、正社員組合員については7月1日時点で1,338組合(61万2,549人)が妥結。「制度昇給」とベアなどの「賃金引き上げ分」を合わせた妥結額の加重平均は1万4,484円(4.95%)となった。なお、UAゼンセンの今回の賃金闘争での要求方針は「6%基準」。前年と比較できる1,278組合での前年差をみると、3,906円増(1.26ポイント増)となっている。
妥結額を規模別にみると、「300人以上」が1万5,090円(5.10%)、「300人未満」が1万494円(3.99%)。部門別では、「製造産業部門」が1万3,950円(4.60%)、「流通部門」が1万4,630円(5.01%)、「総合サービス部門」が1万4,690円(5.18%)となっている。
「賃金引き上げ分」の平均は1万487円(3.40%)
賃金体系維持が明確な組合(426組合、33万6,749人)の「賃金引き上げ分」の集計をみると、加重平均で1万487円(3.40%)で、規模別では「300人以上」が1万731円(3.46%)、「300人未満」が7,370円(2.58%)となった。部門別にみると、「製造産業部門」が9,867円(3.18%)で、「流通部門」が1万665円(3.45%)、「総合サービス部門」が1万1,080円(3.68%)と、いずれの部門でも3%を超えた。
「賃金引き上げ分」についても、前年と比較できる409組合での前年差を確認すると、全体の妥結額では3,766円増(1.16ポイント増)となり、「300人以上」は3,849円増(1.18ポイント増)、「300人未満」が2,684円増(0.88ポイント増)となった。
今年の闘争では、満額で妥結した組合の割合が14.7%にのぼり、前年(同一組合ベース)の11.6%を上回るとともに、満額を超える組合の割合も8.7%と前年の5.7%を上回った。
パートタイム組合員の妥結額の加重平均は62.5円(5.75%)
短時間(パートタイム)組合員については、387組合(88万9,731人)が妥結し、「制度昇給」と「賃金引き上げ分」を合わせた妥結額の加重平均は62.5円(5.75%)。前年と比較できる349組合で前年と比較すると、9.3円増(0.63ポイント増)となった。
部門別にみると、「製造産業部門」が29.7円(3.23%)で、「流通部門」が64.6円(6.01%)、「総合サービス部門」が55.1円(4.84%)と、「流通部門」では6%台に乗せた。
満額で妥結した組合の割合は28.7%と3割弱にのぼり、満額を超える水準で妥結した組合も5.9%あった。
「制度昇給」を含めた引き上げ率の分布をみると、今年は「4%~4.5%未満」と「7%~7%未満」の組合数が前年から大きく増加したのが特徴となっている。
物価上昇分以上のベアを確保した組合が多かったと分析
こうした妥結結果について「2024労働条件闘争まとめ」は、「精力的な労使交渉の結果、社会的な賃上げの流れを作ることができ、前年を大きく上回り、また、物価上昇分を一定程度上回り生活向上分を確保する結果を獲得できた」と評価。「全組合員への物価上昇以上の配分を基本とするという闘争方針に沿って、ベースアップとして全組合員への物価上昇分以上を確保した組合が多かった」と分析した。
その一方で、「高額の妥結が相次ぐ中、300人以上と300人未満の組合とでは部門にかかわらず妥結総合計率(筆者注:妥結額での「制度昇給」と「賃金引き上げ分」を合わせた引き上げ率)で1%程度の差が付き、前年に引き続き規模間格差の縮小には至らなかった」と規模間格差の是正面での課題を指摘。また、規模別(300人未満・300人以上)・賃金体系維持分が明確・不明確別に妥結額をみると、300人未満の賃金体系維持分が不明確な組合の妥結総合計率が最も低かったことから、こうした組合について「社会的に賃上げ促進の機運が醸成されている中でも十分な労使交渉ができていない恐れがある」と指摘した。
パート賃上げ率は正社員組合員を9年連続で上回る
パートタイム組合員の結果については、「妥結総合計7%を超える組合が一つの塊となった」とし、「早期・高額妥結が他組合の交渉に影響し全体をけん引し、満額以上を獲得した組合も多く、正社員組合員より率で9年連続上回った」とした。
中小賃上げ率が連合集計を下回ったことは課題
あいさつした松浦会長は2024労働条件闘争での賃上げ結果について、「正社員・短時間とも前年の妥結を大きく超え、また、働き方による格差の是正も一定程度進めることができた」と評価した。
一方、「課題もいくつか共有しなければならない」と述べ、「連合の正社員組合員の妥結平均をみると5.1%となっており、UAゼンセンを若干上回る結果となっている。なかでも300人未満の組合平均では、連合が4%台半ばであるのに対し、UAゼンセンは4%程度にとどまっている。部門間の幅も考慮して言えば、われわれが目標としてきた産業間の格差是正について今次闘争においては全体が達成するには至らず、企業規模間の格差についてはむしろ拡大した、ということになる」との認識を示した。
さらに松浦会長は、「この結果をさらに分析すると、業種的には医療・介護のように社会保険制度の枠組みの中で自由に価格が設定できない業種、そして繊維加工のようにサプライチェーンにおける価格転嫁が十分に進んでいるとはいえない業種が相対的に厳しい妥結となっている」と指摘。また、「賃金制度の側面では、個別賃金水準の把握ができず、体系維持分も不明の組合が明らかに低い妥結となっている」としたうえで、「われわれはこうした分析結果を踏まえ、次年度の闘争に活かしていかねばならない」と強調した。
円高、原材料価格が下落に転じても賃上げが起点に
安定した緩やかな物価上昇を上回る賃上げの必要性も強調した。松浦会長は、「長年の賃金停滞とデフレの結果、日本の賃金と物価はもはや先進国と呼べないほど相対的に低下した。ここから日本経済と働く者の生活を再浮上させるには、安定的で緩やかな物価上昇とこれを上回る賃上げ、そしてその裏付けとなる生産性向上の好循環を何としても実現していかねばならない」と主張。そのうえで、「ここ数年は円安やエネルギー・原材料価格の高騰が物価上昇の主要因となってきたが、日本と欧米の金利政策などにより今後は為替が円高方向に変化することも視野に入ってきている。円高によって原材料価格の上昇が止まり、あるいは下落に転じたときに、日本の物価上昇は止まってしまうのか。私は、そのときこそ、賃上げを起点とした緩やかな物価上昇を実現する正念場だと考えている」と述べた。
さらに、「賃上げは企業にとってコストアップ要因となるが、これをきっちりと価格に反映し、さらなる賃上げや生産性向上投資の原資を稼ぎ出す、そのような企業行動を産業全体、日本全体で進めていく必要がある」とし、「『物価上昇が収まってきたから賃上げを抑える』ような行動は、過去30年の停滞を繰り返すことにつながり、将来世代に必ず禍根を残す」と強調。「現役世代の皆さんが、社会保障などの負担を賄い、子育てに不安なく十分な生活が営める社会にしていくには、実質賃金の上昇を社会全体で長期継続的に実現していかねばならない」と、実質賃金上昇の重要性を強く訴えた。
「何のため、誰のための運動か」を考え、「200万UAゼンセン」を展望
「2025・2026運動方針」は、運動の基調として、「結成10年や3年余りのコロナ禍の経験を経て、あらためて『何のため、誰のための運動か』を考えながら、2025・2026年度の運動を進めていくことが重要である」と明記。そのうえで、「私たちUAゼンセンは、仲間をつくり、仲間(加盟組合)とともに仲間(組合員)の課題を解決していく運動体である」とし、「あらためて、産業別労働組合の使命として組織化の大切さを認識し、『200万UAゼンセン』を展望して、労働組合のない職場に一つでも多くの労働組合をつくり、働く者一人ひとりを守っていかなければならない」などと強調している。
重点方針として、①「200万UAゼンセン」を展望した積極的な仲間づくりとつながり強化 ② 日本経済の好循環の実現に向けた持続的な賃上げ ③ 短時間組合員にかかわる運動面・政策面の取り組みの推進 ④ 第27回参議院議員選挙における組織内候補者『田村まみ』の必勝に向けた取り組み――の4本を掲げた。
組織化目標は 2年間で8万人
このうち、1つめの積極的な仲間づくりでは、新規組織化・組織内拡大を合わせて2年間で8万人を目標に、オルガナイザーの育成や加盟組合・連合との連携・情報共有を強化するとしている。また、一つひとつの組合が力を高めることができるよう、特に中小組合や「ヨコ組合」を中心にオルグの充実・強化や本部・部門・都道府県支部の連携による支援と組織強化にあわせて取り組むとしている。
2つめの持続的な賃上げでは、「日本経済の賃金と物価の好循環の実現に向けて今後も積極的に賃上げを進めていかねばならない」としたうえで、「2025・2026闘争において、持続的で拡がりのある賃上げに向けた要求を策定し、情報発信を強化して世論喚起に取り組む」と2026闘争についても言及するとともに、「政府・地方自治体に対する要請や政労使による賃上げの枠組みづくりなど賃上げにつながる環境を整備し、社会的な流れをけん引する役割を果たしていく」とした。また、価格転嫁や生産性向上に向けた取り組みも掲げた。
パートタイム組合員の声をより反映させる取り組みを具体化
3つめの短時間組合員のための運動では、現在、UAゼンセンの集計で116万人を超えたパートタイム組合員の声を政策実現に反映させるため、「短時間組合員の活動への参画・参画機会の拡大」や「短時間組合員の声・ニーズの把握」の具体化を検討。また、パートタイム組合員のための労使を中心とした取り組みで、かつ、広く社会に訴える仕掛けをつくるために、「短時間組合員にかかわる政策実現に向けた取り組みの展開」「これからの『処遇のあり方』と『短時間就労』の研究」も検討して具体化を図るとした。
なお、方針のベースとなったUAゼンセンの「短時間組合員総合戦略本部」の3役会議への答申(2024年4月)では、パートタイム組合員の役員選出の促進や、パートタイム組合員の思いや声、意見を集約できる新たな方法の検討、闘争や政策要請におけるパートタイム組合員の取り組みの柱化などが提言されている。
書記長には西尾多聞氏が就任
大会ではまた、新役員の選出を行った。書記長を2期(4年)、会長を4期(8年)務めた松浦会長が退任。新会長に、副会長かつ流通部門長である永島智子氏(イオングループ労連会長)を選出した。古川大書記長は副会長に就任し、代わって副書記長を務めていた西尾多聞氏が書記長に就いた。なお、古川氏は後の中央執行委員会で会長代行に任命されることになっている。UAゼンセンの会長に女性が就任するのは今回が初めて。
大会では、代議員から「このあと役員選挙が行われるが、新しい会長は女性だから選ばれたという要素はあるのか」という質問がだされ、松浦会長は「これからの2年間も、UAゼンセンとして大きな取り組みとして位置づけ、継続してきた賃上げをしっかりと行っていかなければならない。この2年間、特に流通部門は、世の中の賃上げをリードする役割をしっかりと果たしてきた。そういうなかで流通部門長として引っ張ってきた手腕がまず1つある。UAゼンセンではこれまで男性が会長を務めてきており、今回が初の女性会長ということになるが、たまたま今回、春闘を流通部門で引っ張ってきたのが女性だったということ」などと答弁した。
大会前の11日に行われた記者会見で松浦会長は、永島氏が会長に就任することによる組織内部へのプラスの影響として、「流通部門は短時間組合員が働く職場自体のこともよく分かっている。また、組合員の多くを占める女性の組合員の皆さんにも期待してもらえるのではないか」と話した。
なお、松浦会長は冒頭の大会あいさつのなかで、当面する政治課題として、来賓として出席した国民民主党・玉木雄一郎代表、立憲民主党・泉健太代表(大会開催時点)を前に、連合が決定している衆議院選挙対策方針を受けて、両党に対して憲法やエネルギーといった国の基本政策に一定の合意形成と衆議院選挙での協力体制の構築を求めていく方針を踏まえて、「立憲民主党が野党第一党として、より中道・非共産の立ち位置を明確にしていただくこと、そのことが重要であるとの認識をあらためて申し上げておきたい」と述べた。