「近年にない大きな成果を挙げ、社会全体への波及効果も」と今春の賃上げ交渉を総括/自動車総連の定期大会

2024年9月18日 調査部

自動車総連(金子晃浩会長、79万9,000人)は5日、新潟県新潟市で定期大会を開催し、2024年春季生活闘争(「2024年総合生活改善の取り組み」)の総括を確認した。今春の取り組みでは、賃金改善分の平均獲得額が7,696円となり、賃上げが復活した2014年以降で最高水準を記録。金子会長はあいさつで、「近年にない大きな成果を挙げ、未組織や取引先をはじめ日本社会全体への波及効果も一定程度あった」などと評価。来春闘に向けて「道半ばである取引の適正化を加速させ、立場の弱い人に寄り添った活動を進めていく」考えを示した。また、大会では2024~2025年度の運動方針の補強内容も決定。現在121日の年間休日数を5日増やして126日にすることを目指すと方針に明記した。

価格転嫁を含む企業間取引の適正化の流れを中小まで波及させるなどの方向性を提示

自動車総連は今春の総合生活改善の取り組み方針で、「自動車総連に集う全ての組合が日本経済のけん引に向けて取り組みを進める」ことや、「働く者の実質生活および労働の価値の維持・向上に向け、力強く取り組む」必要性を示したうえで「全ての組合で認識を合わせ、積極的な賃金引き上げを行う」と明記。「価格転嫁を含む企業間取引の適正化の流れを中小まで波及させ、労使で徹底した議論を行うことで、産業・企業・職場の競争力向上と働く者の総合的な底上げ・底支え、格差是正及び働きがいの向上を図る」ことなどを方向性として掲げた。

今春も「絶対額を重視した取り組み」を推進

そのうえで、方針は各項目における取り組み基準を設けた。自動車総連は賃上げの取り組みについて、各組合が取り組むべき賃金水準の実現に向けて、「個別ポイント賃金の取り組み」と「平均賃金の取り組み」を併せ持つ「絶対額を重視した取り組み」を推進している。

月例賃金では、「絶対額を重視した取り組み」を前提に、技能職若手労働者(若手技能職)と技能職中堅労働者(中堅技能職)について、各組合の目指すべき賃金水準に向けて、それぞれの状況を踏まえて要求するための個別ポイント賃金を設定。平均賃金では、「深刻化する人手不足や物価上昇による実質賃金の低下から組合員の生活を守るためにも、積極的な賃金引き上げを行う必要がある」として、賃金カーブ維持分を含めた絶対額を意識して取り組むとした。また、全ての組合で物価上昇や実質賃金の低下から組合員の生活を守ることなどを意識するとした。

そのほか、年間一時金「5カ月以上」や企業内最低賃金「(18歳の締結目標額)18万円以上」の目標設定に加え、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて総労働時間の短縮に取り組むことなども掲げた。

「絶対額」重視の取り組みは「着実に定着しており今後も継続して推進」と評価

大会では、藤川大輔・副事務局長が、今春の取り組み総括を報告した。「絶対額」を重視した取り組みでは、自動車総連が定める、① 賃金データの入手 ②賃金実態の分析・課題の検証 ③ 賃金カーブ維持分の算出・労使確認 ④ 賃金課題の明確化・目指す水準の設定・改善計画の立案 ⑤ 具体的な取り組み ⑥ 配分への関与・検証――の6つのステップの進捗状況を確認。具体的な進捗状況をみると、ステップ5「具体的な取り組みの実施」まで進んでいる組合の割合は65.5%、ステップ6「配分への関与・検証」まで進んでいる組合の割合は75.0%に達している。

こうした結果から、自動車総連は「取り組みは着実に定着してきており、今後も継続した取り組みを推進する」と強調。一方、課題としては、「規模間や業種間の十分な賃金格差是正には至っておらず、継続した取り組みが必要」だとした。

個別賃金の要求・回答状況をみると、要求単組数は603組合で昨年の666組合から63組合減少し、回答単組数も281組合と、昨年の285組合からわずかに減少した。回答単組数のうち、若手技能職については52組合、中堅技能職については146組合で回答があったが、どちらも昨年(それぞれ72組合、195組合)から減少している。この結果について自動車総連は、継続して取り組みを進めているものの、「要求根拠の設定や、会社の納得性の観点から取り組みの難しさがあり、要求・回答引き出しともに減少している」と指摘した。

9割超の組合が賃金の改善分を獲得

平均賃金の賃上げの最終結果をみると、賃金の維持分と改善分を合わせた平均獲得額は1万1,166円で1992年以降最高を更新。改善分のみの平均獲得額は7,696円で、昨年の5,050円から大幅に増加し、賃上げが復活した2014年以降最高水準となった。獲得した組合の割合は92.9%で、昨年の89.4%から3.5ポイント増加している。これについては、「産業の魅力向上や物価上昇への対応などの観点から労使で真摯に論議を実施した結果、力強い回答を引き出すことができた」と評価している。

「3,000人以上」より4,000円以上低い「299人以下」の賃金改善額

賃金改善分の平均獲得額を組合規模別にみると、「3,000人以上」では1万962円、「1,000人~2,999人」では9,995円、「500人~999人」では9,009円、「300人~499人」では8,480円にのぼっている。一方、「299人以下」については6,838円と、「3,000人以上」と比較して4,000円以上低くなっていることや、未獲得割合も「299人以下」の組合が5.6%と最も高くなっており、自動車総連は「賃金改善の取り組みはまだ途上」と課題視した。

業種別にみると、「メーカー部門」が1万930円で最も高く、次いで「一般部門」(8,194円)、「車体・部品部門」(7,737円)、「販売部門」(7,569円)、「輸送部門」(7,008円)の順で高くなった。

企業内最低賃金の平均締結額は17万6,000円台に

企業内最低賃金協定締結の取り組みをみると、締結割合は74.0%で、平均締結額は17万6,627円と昨年の16万9,331円から大幅に増加した。自動車総連では前述の通り、締結目標額を「18万円以上」として取り組みを進めていたことから、「目指すべき企業内最低賃金に向け、取り組みを前進させることができた」と評価。一方、要求・回答に至らない組合や、特定最賃の優位性確保に繋がる十分な引き上げに至らなかった組合もあり、継続した取り組みの必要性を訴えた。

年間一時金は、平均獲得月数が4.57カ月となり、昨年の4.45カ月から大幅にアップ。非正規雇用で働く労働者の取り組みについても、有額回答を引き出した81単組の時給引き上げ額の平均が51.9円となり、昨年の33.1円(同60単組)を大きく上回った。

賃金改善に影響及ぼす価格転嫁の可否

価格転嫁など企業間取引に関する取り組みでは、要請状況にかかるアンケート調査において、発注者に要望した労務費の価格転嫁がどの程度実施されたか尋ね、「価格転嫁できた組合」(「ほぼ全額転嫁」または「半分程度転嫁」と回答した組合)と「価格転嫁できない組合」(「3分の1未満転嫁」または「転嫁されていない」と回答した組合)とで、賃金改善額を比較。その結果、「価格転嫁できた組合」(8,352.9円)の方が「価格転嫁できない組合」(7,380.5円)に比べて、賃金改善額が1,000円程度高くなったことから、価格転嫁の反映度が賃金改善にも確実に影響している点を指摘した。総括では、価格転嫁に応じるための原資の確保や論議を通じて、「サプライチェーン全体の発展に向けた取り組みを進めることができた」と評価する一方で、現状は「論議がメーカーと車体・部品部門の一部に留まっている」として、継続した取り組みの必要性を強調した。

総合的な底上げや産業の魅力向上の取り組みを一定程度進められた

全体の総括では、大幅な賃上げの実現や、企業内最低賃金・価格転嫁などの企業間取引に関する取り組みも前進できたことで、「方針で掲げた『働く者の総合的な底上げや産業の魅力向上に繋がる取り組み』を一定程度進めることができた」と言及。一方、課題では「働く者の総合的な労働諸条件の底上げ・底支えに向けた取り組みは未だ途上」として、企業間取引に関する論議の継続や年間を通じて労使で課題解決に向けた取り組みを進めていく必要性を訴えた。

2025年の取り組みに向けては、「全産業で人手不足が深刻化している中、自動車産業が選ばれる産業となるためには、継続した賃金引上げや働き方の改善を進め、総合的な労働諸条件を高めていかなければならない」として、自動車総連全体の取り組みの最大化に向けて今後も論議を進めることを強調した。

来春に向けて「賃上げの流れを止める理由はない」と金子会長

金子会長はあいさつで、今春の取り組み結果について、「全体としては前年を上回る近年にない大きな成果を挙げ、未組織や取引先をはじめ日本社会全体への波及効果も一定程度あった」と評価。「来春に向けた方針検討はこれから」としつつ、「慢性的な人手不足や消費者物価指数、経済状況や格差是正等、どの観点からも少なくとも現段階において、この賃上げの流れを止める理由はない」と述べた。

さらに、「道半ばである取引の適正化を加速させ、ティア(メーカーとの関係先)の深い層にまで着実に行き届かせる」とも指摘し、「立場の弱い人に寄り添った活動を進めていく」姿勢を強調したうえで、賃上げを実現しうる環境の整備や働き方の改善による産業の魅力向上に向けた運動の推進などを訴えた。

運動方針に休日増に向けた取り組みなどを補強

大会ではまた、第30期(2024~2025年度の2年間)の運動方針の補強内容を決定。並木泰宗・事務局長が、補強の内容とその経緯について報告した。

補強内容は、方針の「持続可能な魅力ある自動車産業の実現に向けて」の項目で、「他産別を意識して、劣後しているものについては是正に向けた迅速な対応が不可欠」であることや、付加価値を認め合う適正なバリューチェーンの構築の実現に向けて、「物価上昇を上回る賃上げの継続」や「原資を確保するための価格転嫁・適正取引の浸透を進める」ことなどを追記。また、「労働諸条件の改善の取り組み」の項目について、重点活動項目として取り扱うこととし、「誰もが働きやすい職場環境の構築と選ばれる自動車産業の実現を目指し、自動車総連一体となって休日増の取り組みを強力に推進する」と明記した。

追記に至った経緯では、取引の適正化について、本来企業間で解決に繋げていくべきであるものの、転注・失注への恐れや、悪しき商慣行などにより、取引関係同士で困り事を伝えられていない現状があることを指摘。これにより賃上げの波及が不完全となるリスクもあることから、ビジネス関係でない労働組合ができることとして、「取引における困り事を把握し、届ける・伝える関係構築に取り組む」ことを目指し、今後、総連・労連・単組連携による個別の取引課題の解決などを進めるとした。

年間休日「5日増」を明記

休日増の取り組みについては、自動車メーカーなどで共通する年間休日数が121日と、1994年以降30年間変わっておらず、公務員や他産別と比較しても少ないことに言及。「働き方が多様化する中、人材確保・定着の観点から他産別に劣後している休日数を同等以上に引き上げる」として、現在の休日数(121日)から5日増の126日を目指し、遅くとも2027年までに実現させる考えを示した。