結成以来最高の賃金改善獲得額を高く評価/基幹労連の定期中間大会

2024年9月13日 調査部

鉄鋼、造船重機、非鉄などの業界の組合を束ねる基幹労連(津村正男委員長、27万1,000人)は5、6の両日、兵庫県神戸市で定期中間大会を開催し、「AP24春季取り組みの評価と課題」を確認するとともに、向こう1年間の運動期後半年の活動方針を決定した。AP24春季取り組みでは、賃金改善の平均回答額が1万5,696円となり、2003年の結成以降、過去最高の水準となった。中小が中心の業種別組合の平均回答額でも1万5,687円と1万5,000円以上の水準。津村委員長は「産業別で見てもトップクラスの回答水準であり、労働界全体の水準引き上げにも寄与した」と評価した。

基幹労連は、「魅力ある労働条件づくり」と「産業・企業の競争力強化」の好循環を実現するため、活動のエネルギーを効果的に配分し、最大成果を発揮するとの考え方から、産別全体として賃上げに取り組むのは2年に1度とする「2年サイクル」方式をとっている。2年間の前半にあたる年を「総合改善年度」と位置づけ、この年に全体として2年分の賃上げ交渉に取り組んでいる。一方、後半にあたる年は、「個別改善年度」と位置づけ、「年間一時金」のほか、グループ関連や中堅・中小組合による「格差改善」を取り組みの中心としている。

ただ、部門・部門内の部会がまとまりをもって、1年ごとに賃上げ交渉を行うことも認めており、三菱重工など「総合重工」や三菱マテリアルなど「非鉄総合」の組合は単年度ごとに賃上げ交渉を行ってきている(日本製鉄など「鉄鋼総合」は2年分交渉する方式をとってきた)。

A P24では2024年度のみの単年度要求を決断

AP24春季取り組みは「総合改善年度」に該当する年だが、基幹労連は賃金改善の取り組みについて、「国際情勢が急激に変動していることに加え、国内の経済・物価動向や企業動向を見通すことが困難である」ことを理由に、2024年度のみの単年度要求とした。

産別としての要求水準は、「全体が一体感を持って取り組める水準」として「1万2,000円以上」とし、「過去の取り組み経過や産業の取り巻く環境等を勘案し、部門・部会のまとまりを重視して要求」することにした。最終的に、交渉単位である284組合中、283組合が賃金改善要求を行った。

各部門の具体的な要求は、「鉄鋼部門」が1万2,000円~3万円で各部会のまとまりをもって取り組むこととし、「船重部門」は1万8,000円を部門方針として取り組むことにした。「非鉄部門」は1万5,000円を基本とすることを部門方針として取り組むこととし、「建設部門」と「独立部門」は基幹労連の方針をふまえ1万2,000円以上とした。

賃金改善の平均回答額は1万5,696円

回答結果をみると、280組合(賃金改善要求組合の98.9%)が「前進回答」を引き出し、回答額の平均は1万5,696円。前進回答を得た280組合のうち、要求額を超える回答が33組合、満額回答が103組合となり、要求額以上となった組合の割合は48.1%と半数近くにのぼった。「AP24春季取り組みの評価と課題」(以下、「評価と課題」)は、「全体として、過去との比較において前進回答率が向上したこと、平均獲得額が基幹労連結成以降で過去最高となったことは、大いに評価できる」とした。

大手組合の回答をみると、「鉄鋼総合」では日本製鉄が3万5,000円、JFEスチールと神戸製鋼が3万円の賃金改善となった。「総合重工」では、三菱重工など6労組が1万8,000円で、三井E&Sが1万2,000円。「非鉄総合」では、「前年度の物価上昇にともなう生活支援策に係る諸手当の基本賃金への繰り入れも含めて1万5,000円から2万円」の回答となった。総合組合の平均は2万234円と、2万円を超える水準となった。

中小を中心とする業種別組合でも1万5,687円に達する

一方、中小を中心とする業種別組合でも「満額回答を含め、高水準の回答」を引き出す結果となり、業種別組合の回答額の平均は1万5,687円となった。業種別組合全体では、基幹労連結成(2003年)以来の最高の獲得水準となった。

業種別組合での規模別にみると、「1,000人以上」が2万600円、「300~999人」が1万8,867円、「299人以下」が1万3,345円。業種別組合での部門別では、「鉄鋼部門」が1万7,887円、「船重部門」が1万3,692円、「非鉄部門」が8,932円、「建設部門」が1万1,117円、「独立部門」が1万3,497円となった。

業種別組合の回答について「評価と課題」は、「多くの組合では、満額回答を含め、総合組合と同水準の回答を引き出した。これは、総合組合の回答結果がけん引役になったことに加え、実質賃金の維持・向上、優秀な人材の確保・定着、職場全体の活力発揮、継続した『人への投資』の必要性を粘り強く主張し、会社と認識の共有をはかることができた成果と受け止める」と評価するとともに、「中央本部・総合組合による経営への要請行動等により、総合組合の獲得額そのものが、業種別組合の交渉を後押ししたことはもとより、部門・部会のまとまりによって得られた成果でもあると受け止める」とした。

総合組合のなかには年間1,800時間台を達成した組織も

賃金以外の結果をみると、年間一時金では、回答を受けた組合の平均は139万4,887円で、229組合が4カ月以上を確保。そのうち、5カ月以上を確保したのが137組合だった。労働時間・休日・休暇では、年間所定労働時間1,800時間台や年間休日125日以上の実現に向けて取り組んだが、鉄鋼部門を中心に124組合が要求し、70組合(前進回答率56.5%)が前進回答を引き出した。「評価と課題」によると、「いくつかの総合組合において、年間1,800時間台の実現がついにはかられた」という。

総合組合と業種別組合の賃金格差は縮小せず

今後の課題について「評価と課題」は、賃金改善では、「今後も生活の安心・安定に向けて、消費者物価指数の動向を注視していく必要がある。継続した賃金改善の取り組みにより、全体として賃金水準は引き上がっているが、総合組合と業種別組合の賃金格差は縮小していない」と記述。来春のAP25は「個別改善年度」であるが、総合組合も賃金改善に取り組むことになることから「格差改善の取り組みについて検討する必要がある」とした。また、法定最低賃金の引き上げへの対応や初任給の大幅な向上がはかられている傾向がみられるとして、「賃金カーブの変化について確認していく必要がある」とした。

取り組みの進め方について、今回、賃金改善を単年度要求としたことについては「その時々の情勢をふまえた対応として効果的であったと評価する」と整理。ただ、「産別方針(賃金改善)については金額に以上をつけて、具体的水準については、部門・部会で検討することとしたが、その検討スケジュールがタイトであった」と振り返り、AP25については「産別統一方針とするかも含め要求の考え方・進め方を前広に議論する必要がある」とした。

「労働界全体の水準引き上げにも寄与」(津村委員長)

あいさつした津村委員長はAP24春季取り組みについて、「(賃金改善は)産業別で見てもトップクラスの回答水準であり、労働界全体の水準引き上げにも寄与した」と評価。AP25の取り組みに向けては、「内需主導型の好循環経済へと転換をさせるためには、物価上昇を上回る継続した賃金改善を行い、デフレマインドからの脱却、そしてGDPの6割を占めると言われる消費の喚起につなげていかなければならない。また、生産性運動三原則、とりわけ『成果の公正な分配』、すなわち労使が一体となって生み出した成果をステークホルダーに対して公正に分配をするという大原則にのっとり、適正な価格転嫁の取り組みとあわせ、労働組合としての役割をしっかりと果たすことも求められる」などと話した。

なお、大会前の3日に基幹労連本部で行われた記者会見で津村委員長は、AP24方針での賃金改善要求基準に「以上」を付けた背景について、「鉄鋼総合」がAP23の取り組みで2024年度までの2年間の賃上げを確定させており、部門によって置かれている状況が違うという点もふまえたと説明。そのうえで、AP25では、「以上を付けるような水準ではなく、産別として一体感をもって、『この金額でやろう』という数字を決めるような議論をしていきたい」と語った。

今年の死亡災害件数がすでに昨年を上回る

後半年の活動方針では、特別重点活動に、来年予定される第27回参議院議員選挙に基幹労連の比例代表候補予定者として推薦を決定している郡山りょう氏(JAMの組織内候補予定者)の「必勝に向けた取り組み」を据えた。重点項目には、安全衛生活動の取り組みや組織強化と組織拡大の取り組み、労働政策の推進など掲げた。

安全衛生に関しては、今年に入っての死亡災害が12件・13人発生し、すでに昨年の状況を上回っている。方針では、「死亡災害速報」と「原因と対策」について速やかに発行し、情報の共有化に努め、死亡災害の撲滅に取り組むと掲げるとともに、安全衛生対策強化月間における各組織の取り組みの活性化・底上げや、産別内で共有している災害事例の労使での徹底した活用などを盛り込んだ。

石橋学・事務局長は、「中央本部としては、災害事例のみならず、好事例も含めた情報収集と迅速な発信に引き続き注力していく」としながら、「しかしながらこうした取り組みは加盟組合の協力が必要不可欠だ」と話し、労使の関係から情報開示が難しいケースもあるが、「できうる限りの情報提供の協力をお願いする」と呼びかけた。

グループ組合の底上げ支援を表明する総合組合も

活動方針の討議では、郡山りょう氏の支援の取り組み、安全衛生活動、AP25春季取り組み、政策実現の取り組みなどについて、加盟組合から言及があった。

AP25春季取り組みについて主な発言をみると、AP24で日本製鉄労組が3万5,000円の賃金改善獲得した日本製鉄労連が「グループ関連組合においても、総じて高い水準で回答が得られており、底上げに向けた大きな役割を果たすことができた」とし、AP25でも「継続した『人への投資』が重要であり、確かな成果獲得に向けて、精一杯の取り組みを展開していくとともに、グループ関連組合に働く仲間の労働諸条件の底上げに向けても積極的に取り組む決意だ」などと表明した。

神鋼連合は「人材獲得競争や物価高といった状況が継続することが予想される中、一体感を堅持し、『人への投資』を継続して求めていくという基幹労連の方針に沿って賃金改善に取り組む」としたうえで、本部に対して、「加盟組合のみならず、他産別の取り組み状況など前広な情報提供」を要請するとともに、「基幹産業に集う仲間が一体感を持った取り組みとなるような十分な検討」を要望した。

JFEスチール労連は、「JFEグループの中核組織という自覚のもと、引き続き業種別組合の支援についても最大限行う」などと表明。IHI労連は、AP25も含めた今後の取り組みについて「基幹労連の結成以来、要求方法、要求額、回答が部門ごとに異なることを互いに認め合ってきたが、結成20年を機に、さらなる相乗効果を発揮すべく、AP25およびそれ以降の賃金改善においては産別として真の統一要求となるよう、積極的な検討を要請する」と要望しながら、「最終的には統一回答を引き出すことで、基幹労連が労働界のけん引役になることを期待している」と述べた。