賃上げ獲得組合比率、平均賃上げ獲得額ともに2014年以降で最高水準に/金属労協の定期大会
2024年9月13日 調査部
自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の5産別でつくる金属労協(JCM、議長・金子晃浩自動車総連会長、200万7,000人)は3日、都内で定期大会を開催し、今春闘の総括となる「2024年闘争の評価と課題」を確認した。賃上げ獲得組合比率、平均賃上げ獲得額ともに昨年を上回り、2014年以降で最高水準となったことから、「評価と課題」では「JC共闘の社会的な役割を果たすことができた」と総括。金子議長は2025年闘争に向けて、「これまでの賃上げの流れを止める理由が全く見当たらない」と強調するとともに、取引の適正化や生産性の向上に向けた取り組み、賃上げを実現しうる環境の整備などを訴えた。
300人以上規模の組合の賃上げ獲得率は9割超に
2024年闘争の最終結果をみると、賃金については、回答を引き出した2,651組合のうち、「賃上げ(賃金改善分)」を獲得したのは2,249組合。賃上げ獲得組合の比率は84.8%となり、昨年(78.9%)を上回り、賃上げが復活した2014年以降で最高を記録した。
組合規模別にみると、「1,000人以上」が96.7%(昨年93.0%)、「300~999人」は94.1%(同90.1%)、「299人以下」は80.6%(同73.7%)となっており、299人以下でも8割を超えた。
また、賃上げ獲得組合の賃上げ額の平均は9,055円で、こちらも昨年(5,391円)を大きく上回り、2014年以降での最高となった。規模別にみると、「1,000人以上」が1万2,319円(同6,831円)、「300~999人」が1万756円(同5,951円)で、いずれも昨年より約5,000~5,500円増加。「299人以下」は7,949円(同4,950円)で、昨年より約3,000円増加となった。
課題の適正な価格転嫁の推進は、通年で粘り強く取り組む
これらの結果から、「評価と課題」では、まず闘争全体の評価について、JC共闘での賃上げの要求基準を「すべての組合で『1万円以上』」と設定し、各組合がさらに積極的な要求を行ったことで、「近年にない高い賃上げ額を獲得することができた」と指摘。実質賃金の確保や日本経済の好循環に資するなど、「JC共闘の社会的な役割を果たすことができた」と総括した。
一方、課題については、いまだ先進国の中での日本の賃金水準は低位で、「グローバルな人材確保が困難になることも懸念される」と指摘。また、「金属産業の賃金水準が付加価値生産性の高さに見合っていない」として、生産性向上を図りつつ、継続的に積極的な賃上げに取り組む必要性を示している。
また、組合員300人未満の組合が、1,000人以上の組合と比較して、賃上げ獲得組合の比率が約15ポイント、平均賃上げ額は4,000円以上低くなっている点にも言及。賃金格差の是正には賃上げの原資の確保が不可欠であり、「エネルギー・原材料価格等はもとより、労務費についても適正な価格転嫁が進むよう、通年で粘り強く取り組む必要がある」としている。
一時金の平均月数は4.67カ月に
一時金については、2,111組合が回答を引き出し、平均月数は年間4.67カ月で、昨年を0.09カ月上回った。昨年比2.9ポイント増の76.9%の組合が、最低獲得水準の年間4カ月以上を確保した。これに対し、「評価と課題」は「半数以上の組合が昨年を上回る回答を引き出し、2014年以降、最も高い水準となった。また、最低獲得水準である年間4カ月を下回る組合も大幅に減少することができた」と評価。一方、課題としては、人材獲得の観点や外資の流入により、年収ベースで賃金の比率を高める企業が出てきていることについて、「労使で慎重に議論を行う必要がある」としている。
また、企業内最低賃金の状況をみると、企業内最低賃金協定を締結していることが把握できる組合は1,681組合(締結率54.9%)で、18歳最低賃金協定は平均で月額17万8.013円、引き上げ額の平均は1万425円となっている。「評価と課題」では、「多くの組合で従来以上に大幅な引き上げを獲得することができた」と評価する一方、初任給水準準拠を基本に企業内最低賃金協定を最大限引き上げていくことなどを課題とした。
「これまでの賃上げの流れを止める理由が全く見当たらない」(金子議長)
2025年闘争に向けては、「賃金・労働条件の改善による産業の魅力向上によって人材の確保・定着を図るため、2023年闘争を契機とした積極的な賃上げを継続していく必要がある」と指摘。賃金への適正配分と物価上昇に対応した実質賃金確保を基本に、労働配分率の低下にみられる配分構造の歪みの是正や賃金の底上げ・格差是正などに取り組むことなどを示している。
金子議長も冒頭のあいさつで、2025年闘争に向けて、「現段階において物価上昇も引き続き進行し、慢性的な人手不足も変わらず、経済成長の実感も乏しく、さらに、国際的な賃金水準も低位のままという状況をみても、これまでの賃上げの流れを止める理由が全く見当たらない」と強調。価格転嫁をはじめとした取引の適正化や、職場での引き続きの生産性の向上に向けた取り組み、賃上げを実現しうる環境の整備を進めていくことを訴えた。
活動方針で人権デュー・ディリジェンスに関する取り組みなどを補強
大会ではまた、2024~2025年度運動期の後半1年に向けた「2025年度活動方針」を決定。方針では、国際連帯活動や人権デュー・ディリジェンスに関する取り組み、次世代の役員育成・スキルアップ支援、JC共闘の取り組みなどについて、活動の補強をまとめている。
国際連帯活動については、金属労協が加盟する国際産業別組織インダストリオール(140カ国、約5,000万人)の来年11月の世界大会で行われる規約改正の1つとして、金属労協が提起している、加盟会費納入(為替激変緩和措置)対策の規約変更の実現を目指し、積極的なロビー活動を行うことなどを明記している。会費はスイスフランで設定されることから、スイスフラン高の状況では、円建ての納入額が大幅に増加することになるのが理由。
企業にサプライチェーンを含めた人権尊重を求める人権デュー・ディリジェンスに関する取り組みについては、実施上の新たな課題(人権監査等)への対応を図るため、関連先への働きかけを行うことなどを提示。金子議長も冒頭のあいさつで、「あらゆる人権リスクを精査し、未然防止に努めることは大変なことだが、これはグローバルな企業労使として乗り越えなければならない責務」として、人権デュー・ディリジェンスにおける各産別組織での引き続きの対応を訴えている。
次世代の役員育成・スキルアップ支援については、労働リーダーシップコースの2026年度の開催に向けた周知方法・プログラムの見直しや、産別のニーズを把握し必要に応じて研修会・セミナーを企画・開催することを指摘。
JC共闘の取り組みについては、金属産業の魅力を向上し、人材の確保・定着を図るため、賃上げはもとより、企業内最低賃金協定の締結拡大と水準の引き上げや、その成果を特定最低賃金に波及させる取り組み、休日日数増や労働時間の短縮などに取り組むとしている。