賃金改善額、平均賃上げ額ともに過去最高に/JAMの定期大会

2024年9月11日 調査部

金属、機械関連の中小の労働組合を多く抱える産業別労組、JAM(安河内賢弘会長、36万7,000人)は8月29日から2日間、東京都内で第26回定期大会を開催した。2024年春季生活闘争総括を確認するとともに、2023年の定期大会で決定した「2024・2025年度運動方針」にもとづく2025年度活動方針を決定した。今春闘の賃金改善分の単組平均額は8,030円で、平均賃上げ妥結額は1万1,576円となり、ともに過去最高を記録した。活動方針では、企業組織の再編などにより、労使関係や組合員の雇用・労働条件に影響がでている組織が散見されることから、労使対等性など建設的な労使関係の構築を取り組むことなどを補強した。

過去最高の賃上げを獲得するも、規模間格差は拡大

2024年春季生活闘争総括によると、賃金構造維持分を明示している929組合のうち918組合が賃金改善分を要求(6月20日時点、以下同じ)。賃金改善分ありの回答を得た877組合の賃金改善分の単純平均額は8,030円とJAM結成(1999年)以来での最高を記録し、2023年に引き続き、高水準の賃上げとなった。平均賃上げでの妥結額も1万1,576円(4.36%)で過去最高となった。

総括は「今後も賃上げ水準の歴史的な転換に向けて、高い水準の賃上げを確実にしていかなければならない」とする一方、「実質賃金を維持できなかった単組もあり、同規模内でも賃金改善額のばらつきは大きかった」と述べた。規模別の集計をみると、一部の中小単組で高額の賃金改善額を獲得したものの、賃金改善額の平均は、300人未満が7,376円に対して300人以上が1万174円となるなど、規模が大きいほど高くなっており、全体でみると規模間格差は拡大した。

価格転嫁の成否が賃上げ額に影響

企業規模間の格差是正には、中小企業が適切に価格転嫁をしやすい環境の整備が求められる。総括は価格転嫁について、単組の取り組み状況や調査結果も盛り込んだ。

JAMの調査によると、24春闘で労務費上昇分の製品納入価格への上乗せを取引先と交渉した労組は60.3%。このうち、引き上げ額が要請した額の「ほぼ全額」となったのは2割弱だった。昨年11月には公正取引委員会と内閣官房が連名で、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を策定・公表したことも追い風となって一定の成果がみられるものの、調査結果からは取り組みが道半ばの状態にある様子がうかがえる。

また、価格転嫁と賃金改善の関係性も調べているが、労務費だけでなく原材料費やエネルギー費のいずれかで「半分以上価格転嫁できた」組合の平均賃上げ額が1万2,427円だったのに対し、労務費・原材料費・エネルギー費のすべてが「3分の1未満」もしくは「価格転嫁できなかった」組合の平均賃上げ額は938円低い1万1,489円。価格転嫁の成否が賃上げ額に影響していることがうかがえた。

個別賃金要求方式の早期取り組みを開始

今後の課題について総括は「格差是正の核となる賃金のあるべき水準を重視し個別賃金要求を推進する」と、あらためて個別賃金の取り組みの重要性を明記。具体的には、組合員賃金全数調査による賃金実態把握と格差の分析を強化していくとし、個別賃金の要求方式の導入に関しては、計画的な取り組みが必要となることから、「次年度に向けた早期の取り組みを開始する」とした。

「粘り強く要求を続けていくことが求められる」(安河内会長)

安河内会長はあいさつの中で、2024年春季生活闘争について「極めて大きな成果を上げることができた」とする一方、「残念ながら格差は開いてしまった」と総括。「しかし、けっしてあきらめることはできない。われわれは25年間、この問題に取り組んできた。何度も立ち上がって、粘り強く要求を続けていくことが求められている」と強調した。

また、安河内会長は「一部には、2年連続で高い賃上げを獲得したことから、3年目の来年はちょっと難しいんじゃないかとの声も聞かれるが、私はそうは思わない」と強調。インフレ局面では「しっかりと賃金を上げていく必要がある」とし、そうしないと「賃金の内外格差が大きく開いてしまう」などと指摘した。

25春闘に向けては、「ものづくり産業がこの国の基幹産業であり続けるためには、他の産業と比較して、より魅力的な賃金、より魅力的な労働条件を確立するしかないと思っている。したがって、25春闘の賃上げは、われわれの生活をしっかりと安定させるだけでなく、この国のものづくり産業、この国の中小企業をいかに守っていくのかというたたかいだ」と話し、金属産業・中小企業の基盤強化の観点からも賃上げの重要性を強調した。

建設的な労使関係の構築に向けて企業組織再編の対応を強化

2023年の定期大会で決定した「2024・2025年度運動方針」を補強する2025年度活動方針も決めた。

主な補強点をみると、単組・地方・本部が連携しながら組合員が問題に対峙できる体制の構築に取り組んできた企業組織再編とM&Aへの対応について、「就業規則や労働協約の改悪が行われている組織が散見される」として、労働協約の意義の確認と点検および履行確保への取り組みを強化していくことを提示。そのうえで「労使対等性を基軸とした建設的な労使関係の構築へ向けた取り組みを進める」とした。

JAMの加盟組合のなかには、企業再編に伴い、労使関係が悪化し、労働委員会に不当労働行為の申し立てを行うケースも出てきている。大会では、事業譲渡されようとしている子会社の労組から、組合の存続も労働協約の継承も譲渡先が認めないまま、事業譲渡が強行されようとしているだけでなく、組合の脱退工作も行われているなどとする現状の報告があった。JAM本部は「これはJAM全体のたたかいだ」と答弁し、紛争を抱えている各労組に対する全面的なバックアップを約束した。

職場・現場に根ざした組合員との対話、討議、議論を重視する組織強化の取り組みについては、組合の活動の現状と問題点を明確にすることを目的とする「第5回単組活動実態ヒアリング調査」を今年11月に実施する予定を明記。あわせて、担当オルガナイザーが単組を訪問し、組合活動の実態把握などに取り組むことも盛り込んだ。

価格転嫁の取り組みでは、価格転嫁を促進するために政府の「価格交渉促進月間」(2021年9月より毎年9月と3月に設定)の周知と定着を進め、地方JAMと連携しながら、価格転嫁が進んでいない単組・企業への対応に取り組んでいるが、価格転嫁に関する政府施策「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」について、周知徹底や実効性の確保に向けて現場実態を把握し、対策を検討・展開していくとした。

現状をふまえ新たなアクションプランの策定を行う

男女平等参画については、「新男女平等参画アクションプラン」で、すべての組織に対し、女性参画率30%達成への行動目標を設定するよう取り組んでいる。しかし、2024年度に実施した「単組女性活動実態調査」で、同プランの目標が単組に浸透していない実態が判明。これをうけて方針は、新たなアクションプランを策定する考えを示した。なお、討議では「男女平等参画に関わる方針を単組の労働方針に明記するよう各単組に発信してほしい」との要望も聞かれた。

大会ではこのほか、2025年7月に予定される第27回参議院議員選挙の比例代表で、JAM組織内候補として擁立する郡山りょう氏(JAM本部)の「必勝に向けた取り組み」を確認した。

大会後は結成25周年記念レセプションを開催した。