人事院勧告を踏まえた給与の引き上げや会計年度任用職員の処遇改善など当面の闘争方針を提示/自治労の定期大会
2024年9月11日 調査部
地方自治体の職員などを主に組織する自治労(石上千博委員長、71万7,000人)は8月29~30日まで、千葉県千葉市で定期大会を開催した。当面の闘争方針では、秋季・自治体確定闘争の取り組みとして、人事院勧告を踏まえた給与の引き上げや中堅層の改善、中途採用者の賃金改善、会計年度任用職員の処遇改善などを提示。組織力向上については、石上委員長が新規採用者や会計年度任用職員なども含めた組織化の強化を進める考えを強調した。
すべての職員の賃金・一時金支給月数の引き上げを求める
方針でははじめに、8月8日の人事院勧告の内容に言及。勧告では、行政職の月例給について、大卒初任給を2万3,800円、高卒初任給を2万1,400円増額するなどして平均1万1,183円(2.76%)引き上げ、一時金についても0.10月分引き上げるとしている。なお、月例給は若年層に重点を置きつつ、順次改定率を逓減させる形で俸給表全体を引き上げることとなっている。
また、勧告と同時に報告された「社会と公務の変化に応じた給与制度の整備」(給与制度のアップデート)について、地域手当の級地区分を都道府県単位で広域化し、現在の7区分から5区分へ再編成することや、配偶者手当の廃止と子どもへの扶養手当額の3,000円引き上げなどの措置内容も示された。
これを受け方針では、公務員採用試験の応募者減少や民間の初任給引き上げの状況を踏まえ、「初任給を中心とした若年層の賃金の引き上げは喫緊の課題」とする一方、「組合員のモチベーション向上につながる処遇改善が重要」として、すべての職員の賃金引き上げと一時金の支給月数引き上げを求めることを提示。「社会と公務の変化に応じた給与制度の整備」については、地域や組合員によっては賃金水準が引き下がる項目もあるため、「国の制度変更を機械的に自治体にあてはめることなく、賃金水準の維持・改善の観点から、独自の措置を講じること」を訴えた。
運用改善に向けた「1単組・1要求」の取り組みなど5点の重点課題を提示
そのうえで、確定闘争では、① 給与の引き上げ改定、②「社会と公務の変化に応じた給与制度の整備」への対応、③ 運用改善に向けた「1単組・1要求」の取り組み、④ 中途採用者の賃金改善、⑤ 会計年度任用職員の処遇改善――の5点の重点課題を掲げた。
① 給与の引き上げ改定では、人事院勧告を踏まえ、初任給をはじめとしてすべての職員の賃金を引き上げることや、一時金の支給月数の引き上げと引き上げ分の配分にあたり期末手当に重点を置くこと、通勤手当の引き上げなど地域の実情を踏まえた諸手当の改善を求めることとしている。
②「社会と公務の変化に応じた給与制度の整備」への対応では、地域手当の制度を見直し、民間賃金指数の低下を理由とした引き下げをしないことや、扶養手当について支給実態を踏まえ、拙速な見直しを行わないことなどを求めると指摘。
③ 運用改善に向けた取り組みでは、「1単組・1要求」に取り組み、とりわけ中堅層の改善のため、すべての自治体単組で38歳での等級4級への到達を目指すなどの昇格目標を明記。目標達成のために、在級期間の短縮を求めることとした。単組の到達目標として、「35歳・29万3,807円 、40歳・34万3,042円」といったポイント賃金などを設定し、賃金水準の改善を訴えることとしている。
④ 中途採用者の賃金改善では、「採用状況が厳しいなか、人材確保の観点からも、賃金面における対応が急務」として、民間経験等のある中途採用者への2級以上の初任給格付けを可能とすることなどを示している。
⑤ 会計年度任用職員の処遇改善では、2024年度より勤勉手当支給が開始するも、いまだ常勤未満の支給月数となっている自治体もあることから、期末・勤勉手当の支給月数を常勤職員と同月数とすることや、給与改定にあたり常勤職員と同様に4月に遡って改定を行うことなど、常勤職員との均等・均衡に基づく処遇改善を求めるとしている。
「自治体は発注者としての社会的役割と責任がある」(石上委員長)
石上委員長は冒頭のあいさつで、3年連続で月例給と一時金が引き上がり、月例給の引き上げ水準が32年ぶりに2%を超えたことについて、「日夜懸命に働く組合員の期待に一定応える内容」と指摘。「社会と公務の変化に応じた給与制度の整備」の措置内容については、「地方の自主的な給与決定の尊重や国基準を上回る手当支給に対する特別交付税の減額措置の撤廃は、自治労が長年にわたって求めてきた大きな課題」として、引き続き総務省・国会対策を行いつつ、早期の給与法改正に向け、公務員連絡会に結集し、取り組みを進めることを強調した。
また、物価上昇が続くなか、2025年春闘も引き続き継続的な賃上げを求める必要性にも触れ、「自治体は発注者として、労務費を適正に転嫁しなければならない立場であり、社会的役割と責任がある」として、公共サービスに携わる労働者全体の賃上げや、委託料・工事費などにかかる労務費の上昇分について来年度予算に反映させることを訴えた。
より人件費を重視した地方財源の充実などの要求実現を
方針は、地方自治・財政の確立と質の高い公共サービス改革の推進についても言及。増大する地方公共団体の財政需要の的確な把握や、より人件費を重視した地方財源の充実など、要求の実現に向けて、本部で政府・地方三団体(全国知事会、全国市長会、全国町村会)、政党に対する要請行動を行うことなどを示した。
また、地方自治法の改正を受け、総務省から発出される通知等について、「附帯決議において明記された、補充的指示に際しての自治体への速やかな周知と事前調整、事後検証、随意契約に関する地方議会の関与、公的収納におけるデジタル化にかかる自治体への財政支援などが十分に担保されているのか、検証を行う」としている。
組織率の向上と単組活動の活性化に向けた意思統一を図る
方針はほかにも、組織強化・拡大に向けた取り組みを提示。10月に県本部組織担当者会議と新規採用者対策会議をあわせて開催し、2023年9月から進めている「第6次組織強化・拡大のための推進計画」の進捗確認や組織率の向上と単組活動の活性化に向けた意思統一を図ることとしている。
また、役職定年者等の組合加入について、単組で2024年の取り組みを検証し、再度方針と取り組みのスケジュールを確認することを指摘。会計年度任用職員等の非正規労働者の組織化に向けては、県本部・単組で、臨時・非常勤等職員全国協議会といった横断組織と連携して組織拡大に取り組むこととしている。
石上委員長は、組合員の減少に歯止めがかかっていない現状について、「活動の停滞、交渉力など組合の力の低下へとつながり、さらには組合員が離れていくという悪循環に陥りかねない」と危機感を示したうえで、新規採用者、会計年度任用職員、再任用職員、役職定年者などの組織化の取り組みを強化することを訴えた。