25春闘の基本的な考え方や取り組み課題を含めた「総合生活改善闘争・基本方針」を提起/生保労連定期大会
2024年8月29日 調査部
生命保険会社の労働組合で構成する生保労連(勝田年彦委員長、23万人)は8月22日、都内で定期大会を開き、2024年度の運動方針を決めた。春闘の取り組みも包含する方針の柱の「総合的な労働条件の改善・向上」では、2025春闘で賃金改善をはじめとした全組合が統一して行う「賃金・制度関係の取組み」の基本的な考え方や課題を盛り込んだ「総合生活改善闘争・基本方針」を提起。勝田委員長は、賃金改善の機運が高まるなかで取り組んだ24春闘の成果を踏まえ、25春闘では「組合員の期待に応えることに加え、さらに多くの人に生保産業を選んでもらうために、例年以上の取り組みが必要だ」などと訴えた。
労働諸条件全般を見据えた全組合参加の統一闘争に取り組む
運動方針の柱は、 ① 生保産業の社会的使命の達成 ② 総合的な労働条件の改善・向上 ③ 組織の強化・拡大 ④ 生保産業と営業職員の社会的理解の拡大――の4本。このうち、春闘の取り組みも含む「総合的な労働条件の改善・向上」については、「組合員の意識や取り巻く環境が変化していく中、『人への投資』を通じて安心と働きがいのもてる職場・ルールをつくることが一層求められている」との認識のもとで、「統一闘争を通じた共闘効果の発揮や相場形成、各組合の取組みに資する情報交換・情報提供等を通じて、組合員の総合的な労働条件の改善・向上をはかる」考え。2025春闘も包含した「総合生活改善闘争」の基本的考え方を踏まえ「労働諸条件全般を見据えた総合的な生活改善闘争」として、年間を通じた全組合参加の統一闘争に取り組む姿勢を打ち出している。
統一闘争で労働条件の引上げ・底上げ・安定化に取り組んだ24春闘
生保労連では2004年度から、春闘を「労働諸条件全般を見据えた総合的な生活改善闘争」と位置付け、「総合生活改善闘争」として年間を通じた統一闘争を推進してきている。
2024春闘では、2018年度に策定した「チャレンジビジョン2030」で示した「『人への投資』を通じて安心と働きがいのもてる職場・ルールをつくる」といった方向性や、2022年度に設置した「今後の総合生活改善闘争に関する研究会」での検討内容(「2022年度特別委員会」報告)を踏まえ、「統一闘争による効果を最大限発揮し、労働条件の引上げ・底上げ・安定化をはかるべく」統一取り組みを進めた。
全組合が「収入の向上」に向けた最大限の取り組みを推進
具体的には、組合員一人ひとりが「働きがい・生きがい」を感じられるように、① 全組合が取り組む「統一取組み課題」② 各組合の課題認識に基づき取り組む「主体的取組み課題」③ 両課題の中から全組合が統一して取り組む課題を抽出した「重点課題」――を設定して、総合的な労働条件の改善・向上に向けた統一闘争を展開。「統一取組み課題」では、「賃金改善」と「営業支援策の充実」について、「業界情勢を重視するとともに、とりわけ上昇傾向にある消費者物価等が組合員の生活と活動に与える影響等を考慮しつつ、一般情勢や労働界の動向、組合員の期待・納得感を踏まえ、『統一要求基準』の策定に向けた検討」を行った。
統一要求基準の策定にあたっては、「従来にも増して『賃金改善』の機運を産業全体で高めていく必要がある」との認識のもと、「全組合が『収入の向上』に向けた最大限の取組みを行う」方向性を決定。2024春闘の基本スタンスを労使協議会で生保協会会長に申し入れたほか、諸会議や単位組合オルグ等で共通認識の醸成をはかった。
「賃金改善の定義」を踏まえた幅広い要求を行い着実な成果/営業職員
大会で報告された「2024春闘の成果と課題」をみると、賃金改善について実質的な収入の向上をめざした営業職員は、出来高給体系を基本とする営業職員の賃金制度・体系を踏まえ、先述の「2022年度特別委員会」報告を基に新設した「取組みメニュー」を参考に概念を幅広く捉えることで、「各組合がそれぞれの課題認識等に応じた柔軟かつ効果的な取組み」ができるようにした。
具体的には、月例給与では「日々の活動・努力が反映される労働評価をめざして」全10組合が取り組み、「支給規定上の改善」に関わる回答を5組合が獲得したほか、「新契約活動に対する労働評価」(6組合)、「お客さまサービス活動に対する労働評価」(8組合)、「採用・育成に対する評価」(5組合)、「資格査定への対応」(2組合)「臨時・特別措置の実施」(4組合)といった回答を得た。
新契約活動に励む組合員の労働評価の観点から、成果配分機能を高めつつ「現行水準の確保・向上」をめざした臨時給与に関しても、各組合が現行水準を確保し、3組合で「支給規定上の改善」を引き出している。
こうした結果について「成果と課題」は、「各組合は『賃金改善の考え方』を踏まえた幅広い内容の要求を行い、着実な成果が得られた」と評価。その一方で、今後の課題として「引き続き上昇傾向にある消費者物価への対応等、営業職員の活動・生活に影響を与える情勢変化も見据えた上で、組合員の生活の安定・向上をはかるためにも、積極的な賃金改善に取り組む」必要性を強調。さらに、「各組合が月例給与に一層取り組みやすくなるよう、取組みメニューの充実をはかる」ことなども指摘している。
より柔軟な要求・取り組みが可能になる月例給与の要求基準を策定/内勤職員
統一要求基準として、「年間総収入の向上に取り組む」ことを確認して臨んだ内勤職員の賃金改善についても、「『2022年度特別委員会』報告および各組合の賃金体系や賃金交渉をめぐる経緯・状況等」を踏まえて考え方を整理。月例給与に関しては、「各組合の課題意識や取り巻く情勢、社会的要請等に応じた、より柔軟な要求・取組みが可能になる」よう、① 狭義ベア(全層一律の引上げ)② 広義ベア(特定層の引上げ、特定層へのファンドの重点配分)③ 生活関連手当等――で統一要求基準を策定することとした。
臨時給与は、① 規定対応または規定上の引上げ②特別対応――の区分とし、年収制については「賃金改善という幅広い概念をもって、各組合の制度・運営や交渉慣行等に応じた、より主体的・効果的な取組みを行う」考え方を明示している。
賃金改善の考え方の一層の定着・浸透を
こうした「統一要求基準」を踏まえ、月例給与の引き上げに関する要求を13組合、臨時給与で11組合、年収制では4組合が要求を掲げて交渉に臨んだ結果、月例給与では狭義ベアの「全層一律の引上げ」を7組合が獲得。広義ベアでも「初任給水準の引上げ」(3組合)、「特定の職種・職位への重点配分」(5組合)、「パート・契約社員の処遇改善」(4組合)、「60歳以降の就労者の処遇改善」(1組合)の回答を得た。生活関連手当等については、「単身赴任手当・帰省手当等の拡充・支給基準の見直し」の回答を4組合が得たほか、「テレワーク手当の創設・拡充」を2組合が引き出した。
臨時給与は、規定対応または規定上の引上げの区分で、「全層に対する規定上の引上げ」を2組合、「特定層に対する規定上の引上げ」を1組合が獲得。それ以外に「現行水準の維持」の回答も2組合が引き出した。特別対応でも、6組合が「特別対応分の確保・向上」の回答を得ている。
また、年収制では、「昨年を上回る水準の昇給原資獲得」と「現行水準の昇給原資獲得」の回答をそれぞれ2組合が引き出している。
「成果と課題」は、「精力的な交渉が展開された結果、組合員の頑張りに応えるとともに、消費者物価が上昇傾向にある中で、組合員の生活の維持・向上をはかるため最大限の対応が示された」と評価する一方、今後の課題として「賃金改善をめぐる各組合の課題認識にきめ細かく応えていくため、賃金改善の考え方(狭義ベア・広義ベア・生活関連手当等)および『学び・学び直し』に関する手当について一層の定着・浸透をはかる」ことや、統一要求基準の策定にあたり、「業界情勢や一般情勢、労働界の動向等の精微な把握に引き続き努める」必要性などをあげている。
全組合が統一して賃金改善などの「賃金・制度関係の取組み」を展開
こうした結果を踏まえ、大会では2025春闘の基本的な考え方や取り組み課題を含めた「総合生活改善闘争・基本方針」を確認した。
2025春闘における取組み課題については、「2022年度特別委員会」報告等を踏まえ、「『賃金改善』をはじめとした『賃金・制度関係の取組み』を全組合が統一して取り組む『統一取組み課題』」に設定。「『誰もが安心と働きがい・生きがいをもてる職場の実現に向けた取組み』等を各組合の課題認識に基づき取り組む『主体的取組み課題』」に位置づける。
なお、「重点課題」に関しては、「各組合の取組みの充実・強化や環境変化への対応、社会的要請等に応える視点から検討を行い、全組合が統一して取り組むべき課題が見出される場合には、『春季方針』にて別途提案する」とした。
これまでの総合生活改善闘争の趣旨も踏まえて、「統一闘争として共闘体制を確立し、年間を通じて情報交換・情報提供体制の充実をはかる」ことも明記。そのうえで、各組合は基本方針に掲げる「統一取組み課題」「主体的取組み課題」を念頭におき、「秋季から実効性のある取組みを展開する」としている。
「賃金・制度関係」は統一要求基準を定め、統一闘争で要求実現をめざす
「統一取組み課題」は、「賃金・制度関係の取組み」として、水準・施策面で「営業支援策の充実」(営業職員)と「賃金改善」(営業職員・内勤職員共通)、制度・運用面では「営業職員体制の発展・強化」(営業職員)と「人事・賃金制度」(内勤職員)を提示している。
「営業支援策の充実」と「賃金改善」については、「業界情勢、一般情勢、労働界の動向、組合員の期待・納得感を十分に踏まえた検討を行い」、中央委員会で「統一要求基準」を決めて統一闘争による効果を最大限発揮することで要求の実現をめざす。「営業職員体制の発展・強化」と「人事・賃金制度」は、各組合が主体的・積極的に課題を設定し取り組む。
各組合が主体的・積極的に取り組み課題を設定し経営の健全性向上を求める
一方、「主体的取組み課題」は、「経営の健全性向上」「誰もが安心と働きがい・生きがいをもてる職場の実現」「ダイバーシティ&インクルージョン」を掲げる。
「経営の健全性向上」については、通年的な労使協議による取り組みを中心に、各組合が主体的・積極的に取り組み課題を設定。「誰もが安心と働きがい・生きがいをもてる職場の実現」は、「『職場におけるジェンダー平等』および『ワーク・ライフ・バランスの実現』の着実な前進に向けた中期取組み方針」の考え方を踏まえた取り組みを推進する。「ダイバーシティ&インクルージョン」では、各組合の組織事情等に応じて、60歳以降の就労環境、パート・契約社員の処遇改善、障がい者、外国人の就労環境に関する取り組みを行う。
25春闘では「組合員の期待に応える例年以上の取り組みが必要」(勝田委員長)
勝田委員長はあいさつで、24春闘の対応等について「生保業界に対する春闘の申し入れを例年より2カ月前倒しで実施したことを皮切りに、様々な取り組みを展開してきた結果、多くの組合でベースアップを含めた賃金改善を獲得した」などと述べたうえで、25春闘では「労働組合としての存在意義を発揮し、組合員の期待に応えることに加え、さらに多くの人に生保産業を選んでもらうためには、例年以上の取り組みが必要になってくる」ことを強調。「いま何が一番大切なのかを考えて、粘り強く取り組んでいこう」と訴えた。
役員改選では、勝田年彦委員長(住友生命)を再選。田中祥平書記長(朝日生命)は退任し、新書記長に松田惣佑氏(日本生命)を選んだ。