組織の7割超を占める中小労組への支援体制を強化/JEC連合定期大会

2024年8月2日 調査部

化学・エネルギー関連産業の組合でつくるJEC連合(堀谷俊志会長、12万5,000人)は7月18、19の両日、京都府京都市で定期大会を開き、昨年の大会で決めた「2024~2025年度運動方針」の補強内容を決定した。補強方針は、組織の7割超を占める中小労組への産別全体でのサポート強化や、部会中心の活動のあり方を見直す必要性などを提起。組織拡大にあたっては、組合員を増やす取り組みだけでなく、減少の歯止めとなる情報も加えて連携することも打ち出している。大会では24春闘の「まとめ」も確認。堀谷会長はあいさつで、格差是正に向けた中小組合への支援について、「様々な取り組みを行ったが、まだまだ課題の残る結果だ」などと述べ、支援の継続と対応強化の必要性を訴えた。

JEC連合は昨年の定期大会で、「『持続可能性』と『包摂』を基本に労働組合が果たすべき社会的役割を踏まえた労働運動に取り組む」として、① すべての働く仲間の立場に立った能動的運動 ② 思いを共にする仲間と共に行動し仲間を増やし、減らさない運動 ③ それぞれの主体性を尊重した多様性のある組織 ④ 国内外の働く仲間と手を結び、社会から信頼される組織 ⑤ 社会と共存し持続可能で健全な産業の発展――の5項目を基本理念とする向こう2年間の運動方針を確認している。今年の大会では、この方針に今後1年間の取り組みについての具体的な補強内容を盛り込んだ。

60歳以降の雇用方針やジェンダー平等計画の見直しを検討

すべての働く仲間の立場に立った能動的運動について、方針は「労働組合の社会的役割と責任を常に考え、すべての働く仲間の立場に立った運動を能動的に展開し、自由、平等、公正、包摂的な社会の実現をはかる」として、安全衛生活動や労働条件・処遇の維持向上、60歳以降の雇用の安定と働きの価値にふさわしい処遇、ジェンダー平等社会の取り組みなどを掲げている。

補強方針は60歳以降の雇用について、2022年1月の中央委員会で確認した「60歳以降の雇用に関する基本方針」などを参考に、「定年延長を基軸としたJEC連合方針の周知・徹底を進める」構え。定年延長に移行するまでの再雇用者の処遇に関しても、「高年齢雇用継続給付金制度が2025年4月より改定されることも視野に入れながら、方針の見直しの必要性などを検討していく」とする。

2022年7月から2025年6月までの3カ年計画の取り組みで、今年度が最終年度となる「ジェンダー平等推進計画」では、「最終的な進捗調査を行い、計画の見直しについても検討する」としている。

なお、方針で改訂を行うこととしている「安全衛生対策指針」については、「ハンドブックとして使用できるよう刷新していく」ことも盛り込んでいる。

組織拡大にあたり組合員減少の歯止めとなる情報も

共に行動し仲間を増やし、減らさない運動については、組織拡大を「最重要課題の一つ」と位置付け、「業種別部会・地方連絡会・加盟組合の取り組みをJEC連合全体で支援しながら推進する」。具体的には、① 正社員を含む組織内の対象組合員を増やす ② 加盟組合の関連・関係企業の組織化 ③ 連合未加盟組織の組織化――等に取り組むとともに、「加盟組合の状況や情報を適宜キャッチできるよう、常にアンテナを張り巡らし、組合員減少の歯止めとなるような対応をしていく」ことを明記している。

補強方針は、組織拡大にあたり、2019年度に作成した「ターゲットリスト」を用いた取り組みが「効果的に活用できていなかった」として、「リストの見直しも含め、部会と連携しながら定期的に進捗を確認し、取り組みを強化する」考えを示した。あわせて、「組織拡大ターゲットの情報だけでなく、組合員減少の歯止めとなる情報を加えて連携する」ことも打ち出している。

中小労働運動を本部と6業種別部会が連携しながらサポート

JEC連合はネットワーク型組織として、「石油」「化学」「セメント」「医薬化粧品」「塗料」「中小・一般」の6つの業種別部会を中心に活動を展開しているが、加盟組織の約75%を中小組合が占めており、中小・一般部会を除く5業種別部会でも6割超の組合が300人未満のいわゆる中小組合。方針は、産業別組織としての基本機能強化を提示するなかで、中小組合へのサポートやオルガナイザーの育成、産業別組織の取り組みの再点検などをあげている。

この点について補強方針では、これまで中小・一般部会が積極的に取り組んできた中小労働運動を、「JEC連合全体に波及させ、その重要性を共有する必要がある」として、JEC連合全体の中小規模の加盟組合に対し、本部と6つの業種別部会が「連携しながらサポートする」方向性を示した。これに伴い、「中小・一般部会」の名称を「一般部会」に変更。中小支援に携わるオルガナイザーの「人材を確保し、その育成を積極的に推し進める」ことも記述している。

堀谷会長はあいさつで、「労働組合は助け合いの組織だから、産別が中小労組の支援をするのは当然のこと。中小支援については更なる強化をしていきたい」などと述べたうえで、補強方針で中小・一般部会の名称変更を提起したことについて、「その心は、『中小=中小・一般部会』のイメージを払拭し、中小労組全体の支援をこれまで通り部会として対応するのはもちろん、本部組織局においても人的資源を増強し全ての部会に存在する中小労組の支援を行う」ことだと説明。さらに、「組織拡大等によって生まれた資金を中小支援に振り向けていくことも今後の重要課題としたい」と付言した。

グローバル企業労組特有の課題について情報交換する場を

主体性を尊重した多様性のある組織に関しては、JEC連合が「ネットワーク型組織として、それぞれの立場を尊重し積極的に活動することが組織の強みだ」と指摘する一方で、「各業種別部会が、部会の垣根を越え、一体感をもって活動していくことも重要だ」として、6部会合同執行委員会や2部会合同執行委員会を開催するとしている。

補強方針は、こうした考え方を踏まえたうえで、6部会合同執行委員会の名称を「拡大中央執行委員会」に変更するとともに、2部会合同執行委員会についても「開催目的が拡大中央委員会と重複している」として、同委員会に一本化していく考えを示した。

また、「部会中心の活動がネットワーク型組織の良さを弱くしている面がある」として、部会のあり方についても検討を進める方向性を明記。グローバル企業が増えてきているなか、今年度は「試験的な取り組みとして、グローバル企業労組特有の課題について部会の枠を超えた横串での情報交換ができる場を検討する」としている。

化学産業を担う産別の連携やヘルスケア産業プラットフォームの発展をめざす

社会から信頼される組織では、「化学ならびに医薬化粧品産業の発展に向けた取り組み」を推進。「それぞれの産業が一丸となって活動できるよう、新たな関係の構築に取り組む」方針。「化学産業における課題解決や産業の発展には、より多くの働く者の声を社会に発信していかなければならない」として、UAゼンセン製造産業部門化学部会との間で、「産業政策を中心とした連携を継続し具体的な活動を進める」ほか、化学総連とも「引き続き、連携についての協議を進める」。

医薬化粧品産業についても、「ヘルスケア産業の課題解決と発展に向け、産別横断的な組織であるヘルスケア産業プラットフォームに参画」し、ヘルスケア産業の発展とそこに働く労働者の雇用と生活の安全に寄与していく」とする。

補強方針は、化学産業の健全な発展には、「仲間の声を社会に強く発信することが求められる」として、「化学産業を担う3産別(JEC連合、UAゼンセン、化学総連)による具体的な連携について協議する」ことを記載。プラットフォームの活動に関しては、「ヘルスケア産業の発展にむけ、JEC連合本部の活動として積極的に取り組んでいく」スタンスを鮮明にしている。

エネルギー政策方針化の是非を幅広いレベルで議論

このほか、持続可能で健全な産業の発展では、JEC連合としてのエネルギー政策のあり方について「議論を開始する」ことを記した運動方針の補強として、議論を本部執行部だけにとどめず、「業種別部会執行部をはじめとする幅広いレベルでの議論を行いエネルギー政策方針化の是非について検討していく」ことを明記している。

定昇込みの賃上げ額は加重平均で1万8,6678円(5.42%)に

大会では、「2024春季生活闘争まとめ」も確認した。今春の賃上げ交渉の回答結果(5月末段階)をみると、回答を引き出したのは、昨年同時期より27組合多い170組合。そのうち、賃上げを獲得したのは、前年同時期より33組合多い143組合だった。回答額は、定期昇給相当分を含めた加重平均で1万8,667円(5.42%)、賃上げ額は同1万3,591円(3.73%)で、それぞれ前年同時期を3,332円、4,453円上回った。

規模別では、300人以上では、定昇相当分を含めた賃上げの加重平均は1万9,219円(5.50%)、賃上げ額は同1万4,016円(3.79%)。300人未満では、定昇相当分を含めた賃上げの加重平均は1万3,129円(4.51%)、賃上げ額は同8,536円(3.01%)となっている。

回答結果を昨年との比較が可能な69組合でみると、定期昇給相当分を含めた回答額の加重平均は1万8,780円(5.49%)、賃上げ額は同1万2,279円で、こちらも前年を2,998円、2,900円上回っている。

年間一時金は169万903円(5.25カ月)

年間一時金は、加重平均で169万903円(5.25カ月)で、額は昨年(174万3,710円)に比べ4万9,807円減。月数も昨年(5.26カ月)を0.01カ月下回った。

このほか、初任給について報告のあった97組合の半数以上にあたる57組合が前進回答を獲得。引き上げ幅は、高卒1万2,287円、大卒1万2,851円、大学院卒1万3,135円で、昨年同時期の引き上げ幅(8,000~9,000円程度)を大きく上回っている。

先行組合の早い段階での満額回答引き出しが後続に波及

「まとめ」は24春闘の結果について「これまで以上に『共闘』を重視し、様々な交渉のバックアップを行った。また、先行組合が早い段階で満額回答を引き出し、多くの組合がその回答を受け、後続の回答にも波及した」などと評価する一方で、「物価高を前面に押し出した交渉により、高い水準を引き出したという感も否めず、人手不足をはじめとする様々な問題も抱えている」ことを指摘。「2025春季生活闘争においても、賃上げの流れを継続し、『点』ではなく、『線』で交渉することが重要だ」などとして、継続的な賃上げの必要性を強調している。

「賃上げの流れを継続させるため中小支援のさらなる強化を」(堀谷会長)

2024春闘の賃上げ状況について、堀谷会長はあいさつのなかで、「5月末時点での回答引き出し組合は、額・率とも昨年を大幅に上回っている。規模別にみると、額・率とも規模間格差はみられるが、昨年度からの伸び率でみれば中小も大手と遜色はなく、多くの組合でベアの獲得をしている」などと解説。そのうえで、格差の是正に向けた中小組合への支援について「様々な取り組みを行ったが、まだまだ課題の残る結果であり、2025春闘にどう活かしていくかが重要だ」と強調した。さらに、25春闘について「あくまで現時点での個人的な考え」と前置きしたうえで、「2024春闘と同水準程度の取り組みは必要だ」と発言。「賃上げの流れを一過性ではなく中長期にわたって継続させるために、中小支援のさらなる強化に向けて積極的な議論を展開していこう」と呼びかけた。

なお、大会では、今後の春闘の取り組みについて「更なる共闘体制の強化とともに中小支援に注力していく必要がある」などとするアピールを確認した。