「大きな成果」と評価する一方、価格転嫁は不十分/金属労協の「2024年闘争評価と課題」中間まとめ

2024年6月12日 調査部

金属労協(JCM 、金子晃浩議長)は5月30日、「2024年闘争評価と課題」の中間まとめを発表した。中間まとめは、中小労組でも賃上げ獲得組合の割合が8割に達したことから「賃上げの裾野を広げることができた」と評価。賃上げ回答額については、2014年以降の最高額となったことから「大きな成果を上げることができた」としたものの、中小組合の賃上げ額が大手を大きく下回ったことについて「価格転嫁が未だ不十分であることが要因」と分析した。

2,000超の組合が賃金改善やベアを獲得

5月27日現在での最新の回答状況をみると、賃金について回答を引き出した2,354組合のうち、賃金改善やベアなどの「賃上げ」を獲得した組合は2,008組合で、前年の1,833組合を上回っている。

回答引き出し組合に対する「賃上げ」獲得組合の比率は85.3%となり、前年の79.0%を上回るとともに、賃上げが復活した2014年以降でみると最も高くなっている。組合規模別にみると、「1,000人以上」が96.7%、「300~999人」が93.9%、「299人以下」が81.0%。

賃上げ額の平均は9,130円で、2014年以降で最高

今次闘争では賃上げ要求基準を「すべての組合で1万円以上」と設定したが、「賃上げ」獲得組合の賃上げ額の平均は9,130円。前年の5,424円を大きく上回り、2014年以降で最も高くなっている。規模別にみると、「1,000人以上」が1万2,344円、「300~999人」が1万797円、「299人以下」が7,955円で、300人以上の規模では1万円を超えた。

実質賃金を確保し、JC共闘の社会的な役割を果たす

こうした交渉結果について中間まとめは、全体的な評価について「価格転嫁に課題は残るものの、物価上昇や人材獲得競争の激化への対応が急務となっていることなどを背景に、中小労組においても賃上げ獲得組合が8割に達するなど、賃上げの裾野を広げることができた」と総括。また、「JC共闘として緊密に連携して相乗効果を発揮し、賃上げを獲得する組合を拡大するとともに、近年にない高い賃上げ額を獲得することができた。実質賃金を確保し、『人への投資』を加速することにより、組合員の生活の安心・安定はもとより、金属産業の現場力・競争力を高め、日本経済の好循環に資するなど、JC共闘の社会的な役割を果たすことができた」と評価した。

回答に対する評価では、「賃上げ獲得組合の割合は2014年以降最も高い比率となり、賃上げ額の平均も2014年以降で最も高い水準となるなど、大きな成果を上げることができた。2014年以降、10年以上にわたってJC共闘全体で継続して賃上げを基軸とした『人への投資』に取り組んできた積み重ねが、成果につながったものと受け止める」とするとともに、「大手労組が高水準の賃上げ回答を引き出したことが、中堅・中小労組の賃上げを牽引し、規模間で賃上げ額の差が広がったものの、中堅・中小労組においても近年にない高い賃上げ額の獲得につながった」との見方を示した。

各企業はこれまで以上に人材の確保に危機感

このほか、今次闘争の特徴として、経営側が「企業の社会的責任を意識するとともに、従業員への協力・努力や生産性向上に報いる姿勢を示した」ことや、各企業がこれまで以上に人材の確保・定着に危機感を持ったことが、賃上げによる「人への投資」を後押ししたこと、また、「基本賃金の引き上げを基軸とした『人への投資』が必要であることについて、社会全体に認識が広がったことが交渉の後押しとなった」ことなどをあげた。

課題は適正な価格転嫁の推進

課題に関しては、まず、実質賃金の確保について「299人以下の組合では2割程度が賃上げを獲得できないなど実質賃金の確保に至らなかった組合もある」と指摘し、「物価上昇が継続する中にあっては、組合員の生活を守り、労働の価値の低下を防ぐことが不可欠」だとした。また、「物価上昇に見合った賃上げを当然とする社会的コンセンサスを形成するとともに、中小の賃上げ原資を確保するため、適正な価格転嫁を推進していく必要がある」とした。

賃金の底上げ・格差是正については、「組合員300人未満の組合は、1,000人以上と比較して賃上げ獲得組合の比率が約15ポイント、平均賃上げ額は約4,000円下回る結果となった」とし、「金属労協および各産別は、中小企業の賃上げ環境の整備として、従来以上に適正な価格転嫁の推進に取り組んだが、多重構造の深い部分を担う企業では、価格転嫁が未だ不十分であることが要因であると考えられる」と指摘。そのため、「賃金格差の是正には、バリューチェーンを構成する各プロセス・分野の企業で付加価値を適正に確保・分配することによって、賃上げの原資を確保することが不可欠」だと指摘し、「エネルギー・原材料価格等はもとより、労務費についても適正な価格転嫁が進むよう、通年で粘り強く取り組む必要がある」と強調した。

公正な分配に労働組合が関与を

このほか賃上げの配分のあり方について、「経営側から成果や貢献に応じた配分を求める傾向が強まってきている」と指摘しながら、「配分にあたっては、労使で十分な論議を行った上で、組合員の納得感の得られる公正な分配が行われるよう労働組合が関与していくことが重要」だとした。

また、初任給の大幅な引き上げによって、若年層を越えた層でも賃金補正が必要となるケースが出てきているとし、「その場合は、賃金補正のための原資を別途確保し、賃金構造に歪みが生じないように取り組む必要がある」と加盟組合に注意をうながすとともに、「初任給の引き上げや若年者への賃上げの配分を厚くする一方で、中堅層以上の賃上げが抑制され、賃金水準が低下する傾向もみられる。今後も、人手不足により初任給が上昇する傾向が続くと想定されることから、中堅層の賃金カーブが低下することのないよう、中期的な観点から労使で議論を深めていくことが重要」だと強調した。

25闘争では引き続き賃金格差の是正が重要課題に

2025闘争に向けては、「金属産業全体として賃金の底上げが図られているものの、大手労組と中小労組の賃上げ額には乖離があり、賃金格差の是正は引き続き重要課題となっている」などと指摘。25闘争に向けた環境整備について、「引き続き賃上げの機運醸成など環境整備に取り組んでいくことが重要」とするとともに、中小企業の賃上げに向けて「金属産業全体で、継続的に賃上げを行うためには原資の確保が不可欠であり、エネルギー価格や原材料費とともに、労務費についても適正な価格転嫁を進めるよう、継続して取り組んでいかなければならない」とした。

そのうえで、「足下(編集部注:原文ママ)の物価上昇は継続しており、人材獲得競争も厳しさが増している」ことを理由にあげ、「生活の安心・安定を確保するとともに、賃金・労働条件の改善による産業の魅力向上によって人材の確保・定着を図るため、2023年闘争を契機とした積極的な賃上げを継続していく必要がある」と明記。2025年闘争においても、「マクロの生産性向上に見合った賃金への適正配分と物価上昇に対応した実質賃金確保を基本として取り組んでいく」などとした。

また、「2024年闘争では、要求基準の論議を進めるにしたがって、賃上げの社会的機運が高まったことなどから、金属労協の賃上げの要求基準が産別・単組の要求額を下支えする役割を担うこととなった」と述べ、「闘争をとりまく環境の変化を踏まえ、金属労協や産別の示す要求基準の位置付けについて認識を合わせ、要求の組み立て方について議論を深めていく必要がある」と指摘。さらに、「一体感を持った共闘の強化や社会的波及力強化の観点から、賃上げ要求や賃金水準の目標の示し方についても議論を深めていく」などと記述した。