全職員の生活改善にむけた給与勧告の実現を求めることを柱とする当面の闘争方針を決定/自治労中央委員会
2024年6月5日 調査部
地方自治体の職員などを組織する自治労(石上千博委員長、71万7,000人)は5月27、28の両日、全面ウェブにて中央委員会を開催し、当面の闘争方針を決定した。方針は、2024人勧期にむけた取り組みとして、好調な民間企業の春闘妥結状況や物価高を踏まえて、全職員の生活改善にむけた給与勧告の実現を目指すことを強調。また、災害応急作業等手当の対象業務の拡大・手当額の引き上げ要求や、消防本部間の格差解消といった消防職員の処遇改善に取り組むことなども提示している。
職員・組合員のモチベーション維持のため全世代での賃金・労働条件の改善を(石上委員長)
中央委員会では、賃金・労働条件改善をめぐる人勧期を中心とした取り組みをはじめ、職場の権利と勤務条件の確立、地方自治・財政の確立と質の高い公共サービス改革の推進――など、11本を柱とする当面の闘争方針を決定した。
賃金・労働条件改善をめぐる人勧期を中心とした取り組みでは、上部団体である連合の2024春闘において、5月8日に公表された回答集計における賃上げ率が5.17%と、同時点では、昨年を上回り、比較できる2013年調査以来最大の大幅賃上げとなったことに言及。賃金をはじめ公務員の労働条件は交渉・合意によって決定されるべきものとの基本的考え方に立った上で、給与改定にあたっては、精確な調査による公平・公正な官民比較を求め、「好調な民間春闘の妥結状況を踏まえつつ、全職員の生活改善にむけた給与勧告の実現」を目指すこととしている。
石上委員長も冒頭のあいさつで、民間労組が5%を超える賃上げ水準を獲得している状況や物価高が組合員の生活を大きく圧迫している状況にコメントし、「公務員労働者としても賃上げを強く求めることは当然」と指摘。職員・組合員のモチベーションを維持していくために、全世代での賃金・労働条件の改善を目指していく必要性を訴えた。
初任給近辺の俸給月額引き上げの実施も要求
人事院勧告にむけた人事院への要求事項では、まず公務員労働者の賃金について、① 給与改定勧告にあたって、全職員に対する月例給の引き上げ勧告を行うこと、② 一時金について精確な調査と官民比較を行い、支給月数を引き上げるとともに、期末・勤勉の適正な配分を行うこと――の2点を提示している。
また、社会と公務の変化に応じた給与制度の整備についても言及。地方における職員の処遇改善と人材確保にむけた地域手当の改善や、初任給近辺の俸給月額引き上げを確実に行うこと、扶養手当・寒冷地手当といった各諸手当の見直しなどを掲げている。
石上委員長は、扶養手当の見直しや地域手当の大くくり化など、「地方公務員にも広く影響を与える課題であるとの立場に立ち、人事院との交渉に挑む」と強調。一方、「今後の検討課題とされている60歳前後の給与カーブも含め、中長期的な給与制度にも関わってくる可能性がある点にも留意しておく必要がある」として、中高年層も含めた全世代の職員のモチベーション維持・向上につながる給与制度となるよう公務員連絡会に結集して対応することを示した。
地方の実態と自主性を尊重した給与制度を要請
中央委員会では、地方の実態と自主性を尊重した給与制度を求める取り組みについても提示。自治労では、総務大臣宛ての組合員署名において、① 人事院が検討している「社会と公務の変化に応じた給与制度の整備」の具体化にあたって国の制度変更に準じた扱いを自治体に求めないこと、② 現行の給与制度は国家公務員の給与制度を基本とすべきとされているが、地方の実態と自主性を尊重した柔軟な対応を可能とすること、③ 国基準を上回る手当を支給したことによる特別交付税の減額措置を撤廃すること――の3点を要請していることから、同項目について公務員部長交渉を行うことを新たに盛り込んだ。
そのほか、災害応急作業等手当(災害が発生した現場で行う巡回監視、応急作業などの業務を対象に支給される特殊勤務手当の一種)の支給についても指摘。総務省が能登半島地震を受けて1月19日付けで発出した通知では、地方公共団体の職員が避難所運営等の業務や罹災証明にかかる家屋調査など、国の職員が業務を行うことが想定しにくい多くの現場業務に従事していることから、こうした業務も支給対象に該当しうることに留意して適切に取り扱うことが示されている。これを受けて、中央委員会では支給の実現にむけて6月中に、① すでに災害応急作業等手当が条例・規則等で規定されている自治体は対象業務の拡大、手当額の引き上げを求めること、② 条例が未整備の自治体は、9月議会での制定を目指し、条例・規則の制定を求めること、③ 支給にあたっては、業務開始日からの遡及適用を求めること――の3点に取り組むことを強調した。
公務員の労働基本権の回復にむけた検討を求める
職場の権利と勤務条件を確立する取り組みでは、公務員制度改革や消防職員の処遇改善、人員確保にむけた取り組みなどを提示している。
公務員制度改革にむけた取り組みとしては、国際労働機関(ILO)の第107回総会(2018年)において日本政府に対し、公務員の労働基本権の回復等についての勧告等が採択されたものの、未だ現状維持となっていることを指摘。政府に対し、ILO勧告等を受け入れ、「自律的労使関係制度の具体的措置について真摯に検討を行うよう、連合・公務労協に結集して強く求める」とした。特に2024年6月3日~14日の日程で開かれている第112回ILO総会の基準適用委員会で、日本の公務員の労働基本権の回復や、消防職員・刑事施設職員への団結権付与について、個別審査に取り上げられるよう、連合・公務労協と連携して対策を強化するとしている。
消防職員の処遇改善にむけた取り組みとしては、大規模災害の発生時に各地の消防本部からの応援者で構成され被災地に派遣される「緊急消防援助隊」について、被災地で同じ業務を行っているにもかかわらず、派遣元の消防本部によって特殊勤務手当の額や支給条件に違いがあることなどに言及。本部において6月に自治労県本部消防担当者会議を開催し、消防職場の課題の共有をはかるなど、消防本部間の格差解消をはじめとした処遇改善にむけて、全消協と連携し、取り組みを進めるとしている。
人員確保にむけた取り組みとしては、人員要求は職員の労働条件にかかわる重要な要求であることを再確認した上で、「職場単位の欠員や減員の状況、年間の時間外労働、年休・代休の取得状況を把握・分析し、人員確保要求チェックリストなどを活用して、2024人員確保闘争に取り組む」とした。
現行の水準にとどまらない地方財源の確保・充実を
地方自治・財政の確立と質の高い公共サービス改革の推進では、2025年度政府予算における地方財政の確立にむけて、社会保障の充実や地域活性化といった「増大する地方公共団体の財政需要を的確に把握するとともに、それを支える人件費を重視しつつ、現行の水準にとどまらない、より積極的な地方財源の確保・充実をはかること」などの視点が盛り込まれるよう、取り組みを進めることとした。
また、地方自治法改正に対する取り組みとして、政府が第213回通常国会で提出した地方自治法改正案について、DX化の進展を踏まえた情報システムの適正利用、地域における生活サービス提供体制強化にむけた多様な主体との連携強化などが盛り込まれていることを指摘。DX化についてはセキュリティ上の不安や新たな自治体負担が想定されること、連携強化については設置の意義に対して共通した理解が得られていないことなど、課題もあるとして、法案の問題点を厳しく追及しながら、協力政党と連携して取り組むことを示した。