「ステージ転換に向けた大きな一歩」と総括する2024春季生活闘争の中間まとめを確認/連合の中央委員会
2024年6月5日 調査部
連合(芳野友子会長、681万7,000人)は5月31日、千葉県浦安市で中央委員会を開催し、2024春季生活闘争の中間まとめを確認した。直近の回答集計で、定昇相当分を含めた賃上げ率が5.17%と1991年以来となる5%台を実現しているとともに、ベアや賃金改善などの「賃上げ分」が、比較可能な2015闘争以降で額・率ともに最高となっている状況をふまえ、中間まとめは「産業・企業、さらには日本経済の成長につながる『人への投資』の重要性について、中長期的視点を持って粘り強く真摯に交渉し、主体的に大きな流れを作った結果」だと評価し、「ステージ転換に向けた大きな一歩として受け止める」と総括した。
賃金改善獲得組合は昨年同時期比で177組合増
5月2日までの回答引き出し状況をみると、要求を提出したのは5,860組合で、うち4,940組合が月例賃金改善(定昇維持を含む)を要求。3,733組合が妥結しており、昨年同時期に比べ47組合増えている。賃金改善分を獲得したのは2,323組合で、昨年同時期よりも177組合多い。
平均賃金方式で要求・交渉を行った組合のうちの3,733組合が回答を引き出しており、定昇相当分を含めた賃上げ額の加重平均は1万5,616円、率で5.17%となり、昨年同時期を4,693円・1.50ポイント上回った。
「賃上げ分」の加重平均は1万778円で、率にすると3.57%
ベアや賃金改善などの「賃上げ分」が明確にわかる2,860組合の「賃上げ分」の加重平均は1万778円、率で3.57%と、昨年同時期を4,731円・1.43ポイント上回った。300人未満の中小組合でみると、「賃上げ分」は8,461円、率で3.22%となっており、昨年同時期を3,357円・1.22ポイント上回るとともに、比較可能な2015闘争以降で額・率ともに最も高くなった。
有期・短時間・契約等の労働者の賃上げは、時給(加重平均)では昨年同時期を9.24円上回る65.72円。平均時給(同)は1,158.07円となっている。月給(同)は1万2,883円、率で5.76%と、昨年同期を4,034円・1.80ポイント上回った。
2014年以降で最高かつ1991年以来となる5%台
こうした結果について中間まとめは、「連合が賃上げに改めて取り組んだ 2014年以降では最も高く、1991年以来となる定昇込み 5%台の賃上げが実現した。賃上げ分は過年度物価上昇率を上回った。デフレマインドを払しょくし、わが国経済社会のステージ転換をはかる正念場であるとの時代認識を労使で共有するとともに、物価高による家計への影響、人手不足による現場の負担増などを踏まえ、産業・企業、さらには日本経済の成長につながる『人への投資』の重要性について、中長期的視点を持って粘り強く真摯に交渉し、主体的に大きな流れを作った結果と言える」と評価し、「ステージ転換に向けた大きな一歩として受け止める」と総括した。
物価を上回る賃上げが実現できたかどうかについては、「2023年度の消費者物価(総合)は3.0%と要求検討時点の見通しより上振れした。2024年度については政府 2.5%、日本銀行 2.8%の見通しとなっている。賃上げ分は全体で 3.57%、中小で 3.22%となっている。賃上げ反映後の日本全体の実質賃金の動向を注視しつつ、次年度以降の取り組みにつなげていく必要がある」とだけ記述した。
労務費などの適正な価格転嫁が進んでいないと分析
格差是正が進んだかどうかについては、「中小組合も昨年より1.31%ポイント上昇し、全体的に健闘しているが、全体平均を下回っている」ことを指摘。「その原因の一つは、大企業と比べ中小企業の方が原材料費、エネルギー費、労務費などの適正な価格転嫁が進んでいないことに加え、商品・サービスの価値の取引価格が長期間据え置かれる/引き下げられるなどの取引慣行が依然として根強いことなどにあると考えられる。また、取引の慣行や課題は、産業による違いも大きい」との見方を示したうえで、「適正な価格転嫁、公正取引、および『人への投資』『未来への投資』を通じた生産性の向上などにより、継続的に格差是正を含めた賃上げができる環境を作っていくことが必要であり、政策面からの対応と労使コミュニケーションの強化がより一層重要になっている」とした。
有期・短時間・契約等労働者の賃上げについては、引上げ率の概算でそれぞれ時給6.02%、日給5.76%となり、一般組合員(平均賃金方式)の引上げ率を上回っていることから、「フルタイム組合員を上回り、連合が時給の集計を開始した2000年代中盤以降では最大の引き上げとなった」としたうえで、「仲間を増やし、『働きの価値に見合った賃金水準』をめざし引き続き格差是正に取り組むとともに、今年の法定最低賃金の引き上げを通じ労働組合のない企業で働く労働者の賃金の底上げにも波及させる必要がある」と整理した。
課題は持続的な賃上げと格差是正の取り組み強化
課題については、「物価を安定させ、積極的な人への投資によって実質賃金が継続的に上昇し経済が安定的に上昇するステージへの転換を確実なものとするためには、賃上げの流れを中期的に継続していくことが不可欠」だとし、「現在の局面は、ステージ転換の入り口である。動き始めた賃金、経済、物価を安定した巡航軌道に乗せていくためのマクロの経済社会運営と、労使による未来志向の労働条件決定が重要である」と指摘。
付加価値の適正分配と格差是正の取り組み強化に向けて、「持続的な賃上げと格差是正が実現できる環境をつくっていく必要がある。今次闘争における『サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配』の取り組みをさらに強化し、中小企業や有期・短時間・契約等で働く者の賃金を『働きの価値に見合った水準』に引き上げることをめざす」とした。
中小支援では、「人への投資」の政策的な支援、自動化や省力化への助成や税制優遇などによる生産性上昇によって「企業を持続的に発展させる必要がある」とするとともに、「公正取引委員会や中小企業庁の実態調査などを踏まえ、この間の政策効果を検証し、物価や賃金が継続的に上昇する新たな時代に対応する社会的ルール作りを進める必要がある」と提起した。
今次闘争の特徴は「多方面での心合わせの積み重ね」(芳野会長)
あいさつした芳野会長は「今次闘争の特徴をまとめると、“多方面での『心合わせ』の積み重ね ”であったと思う」とし、「企業内の労使間の心合わせはもちろん、30年近くデフレに苦しむ日本の経済状況をふまえたとき、この状況から抜け出さなければ未来はない、との危機感を労働界にとどまらずに共有するため、世論との心合わせ、政府・財界との心合わせ、地方での心合わせを行った」と述べた。
さらに、「危機感を共有するために行う心合わせは、すなわちその後の対応に向けて、一丸となって力あわせをすることにつながる」と話し、今回は「政労使の意見交換」の中央での開催とともに、47都道府県すべてで「地方版政労使会議」が開催されたことについて、「地方における賃上げ実現への心合わせが初めて実現した。初めての取り組みのため課題もあったが、春季生活闘争における新たな取り組みとして歴史的な挑戦だった」と評価した。
芳野会長はまた、「今次闘争のスローガンにある『みんなで賃上げ』を実現するためには、 賃上げが『大手企業だけ』とか『正社員だけ』というレッテルをはがす必要があった」とし、「その最大のポイントは、中小・小規模事業所での賃上げの実現だ」と強調。連合では中小の賃上げの実現に向けて「価格転嫁、価格交渉、環境整備」という3つの取り組みを繰り返し訴えてきており、「ここまでの結果を見ると、その成果はあったと受け止めている」としつつも、「ただし、規模間格差が見られることから、最終まとめに向けて成果を分析していく中で、企業の大小にかかわらず、本当に適正な転嫁が行われたのかをしっかりと見ていかなければならない」と話した。
労務費の価格転嫁に関する指針の周知を要望
中間まとめに関する討議では、金属、機械関連の中小組合を多く抱えるJAMが発言。政府から労務費の価格転嫁に関する指針が出されたものの、依然として、労務費の価格転嫁を求める行動を控える企業行動が見られるとして、連合に対し、指針の周知・徹底を公正取引委員会や中小企業庁などに要請していくことを要望した。また、労使で価格転嫁に関する話し合いの場を設けようとしても、談合やカルテルを疑われることをおそれて企業が参加してくれないケースがあるとして、公正取引委員会から談合やカルテルに該当しないとの見解を引き出したり、政府側からの国会答弁を引き出すことなどに向けた要請行動などを連合に求めた。