2024春季生活闘争の中間総括を確認/JAMの中央委員会

2024年5月29日 調査部

金属、機械関連の中小の労働組合を多く抱えるJAM(安河内賢弘会長、36万7,000人)は24日、都内で中央委員会を開催し、2024春季生活闘争の中間総括を確認した。直近の集計では賃金改善額や改善額の獲得組合数は過去最高となっているものの、中間総括は「全体では規模間格差が更に拡大している」と指摘。「JAMの要求基準を満たす賃金水準を確保することが重要」などと今後に向けた課題を提起した。

妥結率は4月中旬以降、例年を上回る

JAMは今春闘で、平均賃金では1万2,000円以上の賃金改善を目指すことを方針に掲げて取り組んだ。中間総括から最新の回答・妥結状況をみると、要求の進捗率は80.6%で、妥結の進捗率は67.7%。妥結率は「4月上旬まで例年と比べ低く、妥結が遅れていたが、4月中旬以降は例年を上回っている」としている。

交渉単位である1,456組合のうち、賃金構造維持分を明示した組合は906組合あるが、そのうち895組合が賃金改善分を要求している(内訳は300人未満が688組合、300人以上が207組合)。賃金改善分の単純平均額は1万1,492円で、2023春闘の最終集計である8,448円を3,000円程度上回るとともに、JAM結成(1999年)以来、過去最高の水準となった。規模別にみると、300人未満が1万1,356円で、300人以上が1万1,944円。

要求での改善額別・規模別の組合数をみると、300人未満でも「1万1,000円~1万3,000円」(250組合以上)が圧倒的に多くなっている。

賃金改善分の単純平均額は8,071円

回答状況をみると、賃金改善額、賃金改善獲得単組数ともに「過去最高となった」としている。すでに回答を受けた賃金構造維持分を明示している組合は842組合あり、そのうち賃金改善分を獲得したのは802組合(内訳は300人未満が607組合、300人以上が195組合)。賃金改善分の単純平均額は8,071円で、2023春闘の5,330円を2,700円程度上回った。規模別にみると、300人未満が7,390円で、300人以上が1万191円と、300人以上では1万円を超えた。

回答での改善額別・規模別の組合数をみると、300人未満では「5,000~7,000円未満」に組合数のピークがあるが、300~999人では「9,000~1万1,000円未満」にピークがあり、1万人以上では「1万1,000~1万3,000円未満」にピークがある。

賃金改善の要求額に対する獲得率をみると、要求額の80%以上の回答を得た組合の割合は2014年~2022年では平均して約1割だったが、4月中旬の時点で4割を超えた(前年は約3割)。満額を獲得した組合の割合は21.7%、満額超えが9.5%で、それぞれ前年(16.5%、5.4%)を上回った。

個別賃金では現行水準の開示が減少

個別賃金の水準開示組合数は、「30歳現行水準」が前年同期差27組合減の495組合、「30歳要求水準」が同3組合増の317組合、「30歳確定水準」が同13組合増の198組合、「35歳現行水準」が同32組合減の487組合、「30歳要求水準」が同5組合増の307組合、「30歳確定水準」が同11組合増の194組合。両ポイントで現行水準の開示組合数が前年を下回った。

回答水準をみると、個別賃金に取り組む組合の賃金改善分獲得額(30歳が8,800円、35歳が8,791円)が平均賃上げでの賃金改善額(8,071円)を上回る結果となっている。

賃上げ率は4.41%で物価上昇分をクリア

今年の中間総括は、過年度物価上昇分に対する賃上げの状況を確認するため、平均賃上げ率についても言及した。2023年度の消費者物価指数(総合)の前年度比はプラス3.0%だったが、中間総括は今年の賃金構造維持分平均賃上げ率は現時点で4.41%になっているとし、規模500人以上の組合では5%を上回っているとした。

また、価格転嫁の成否別の賃上げ結果についても確認している。受注側として全般的な価格転嫁を「ほぼ全部」できている組合の賃金改善額の平均は9,362円だったが、「転嫁できない」組合では8,250円だった。また、労務費の価格転嫁を「ほぼ全部」できている組合の賃金改善額の平均は1万467円だったが、「3分の1未満」しか転嫁できていない組合は8,802円などとなっており、「平均賃上げ額、賃金改善額ともに価格転嫁できている単組に優位性がみられる」と記述した。

一時金については、直近の集計では年間一時金の回答平均は4.57カ月で、半期の回答平均は2.22カ月などとなっており、「コロナ禍以前の水準へ回復した」としながらも、「規模によるばらつきは大きく、中小・中堅労組の回復ペースは遅れている」とした。

企業内最低賃金については、協定または現行額の平均は17万4,663円となり、前年の16万8,674円から上昇したが、JAMが年齢別最低賃金(18歳)の要求基準に設定している17万5,000円には届かなかった。

今後も「個別賃金要求を推進する」

こうした結果をふまえ、中間総括は今後の課題として、まず、JAMが推進している個別賃金要求について触れ、「物価上昇局面となり、賃上げの上げ幅が注目されているが、格差是正の核となる賃金のあるべき水準を重視し個別賃金要求を推進する」とし、「組合員賃金全数調査による賃金実態把握と格差の分析を強化していく」とした。

また、「一部の中小単組では、高額の賃金改善額を獲得しているものの、賃金改善額の平均は、企業規模が大きい程高くなっており、全体では規模間格差が更に拡大している」と指摘したうえで、「事業継続の面からも格差是正を進め、JAMの要求基準を満たす賃金水準を確保することが重要となる」とした。

労組が配分に主体的に関与を

さらに、若年層是正への配分の優先や、高額の賃金改善が継続することへの対応として経営側からの賃金制度改定の提案も散見されるとして、「賃金改善額が高い時こそ、中長期的な賃金のあり方を踏まえ労働組合が主体的に配分に関与しなければならない」と指摘。そのためには、賃金制度や賃金構造の課題分析と対等な労使関係の確立が必要となる、とした。

価格転嫁の取り組みについては、「価格転嫁を促進する社会的な環境整備に取り組まれているが実施状況は十分とはいえない」と分析した。

「ベア春闘の中で取り残された仲間がいる」(安河内会長)

安河内会長はあいさつで、「詳細をみていくと、300人以上の大手・中堅労組では要求基準である1万2,000円の満額回答に大きなピークが立っているが、300人未満の中小労組ではピークは5,000円であり、ゼロという単組は300人未満の中小労組に集中している。この物価高の中で、歴史的なベア春闘の中で取り残された仲間がJAMの中にはいるんだということを、私たちは痛切に胸に刻む必要がある」と指摘。

一方、価格転嫁の取り組みについては、「JAMと自動車総連が本気で取り組み、大きな一歩を踏み出すことができた」と評価すると同時に、「しかし、残念ながら、今年は価格転嫁が進んだという喜びの声とともに、まったく認められなかったという悲痛な声も相変わらず寄せられている。いまだ道半ばと言わざるを得ない」と言及し、「けっしてあきらめることなく、運動を前進させよう」と呼びかけた。

また安河内会長は「中小企業労働者だから、低い賃金で我慢しなければならない。そんな理不尽なことはない。これは不当な格差だ」とし、「日本経済は中小企業が支えている。労働者の70%が中小企業で働いている。中小企業労働者の賃金を上げなければ日本経済の復活はないのだということをあらためて全体で確認したい」と強調した。

一時金については要求根拠が明確でなかったとの声も

中間総括に関する討議では、「賃金改善についてはしっかりとした要求が組みやすかったが、一時金については要求根拠が明確でなかった」(JAM甲信)、「(賃金を上げていく取り組みと同時に)JAMが目標設定する賃金水準を下回る労働者をなくす取り組みも進めるべき」(JAM神奈川)、「東海は、良かったとはけっして言えない状況にある。転換点の春闘であるからこそ、反省点も分析して、最終総括に盛り込むべき」(JAM東海)などの意見が出た。

中央委員会ではこのほか、次期参議院議員選挙(比例)に擁立する組織内候補、郡山りょう氏について、所属政党を立憲民主党とすることを決定した。