満額回答が相次ぎ、ベアや賃金改善などの賃上げ額は2014年以降で最高に/金属労協に加盟する各産別のヤマ場の回答状況
2024年3月22日 調査部
自動車総連、電機機合、JAM、基幹労連、全電線の5つの産業別労組でつくる金属労協(JCM、金子晃浩議長)が3月13日に設定した賃上げの集中回答日では、大手労組に対する満額回答や高額回答が相次いだ。その結果、金属労協全体での14日現在の賃上げ額(ベアや賃金改善)の平均は昨年最終実績を6,000円以上上回る1万4,891円で、2014闘争以降で最も高い水準となっている。
平均1万4,891円(大手53組合)で昨年を6,000円以上上回る
集中回答日をめがけて、先行して回答を引き出す大手組合で構成する「集計対象組合」は、今年は54組合が登録されている。金属労協が3月15日に発表した14日現在の回答状況によると、回答を引き出した53組合すべてがベアや賃金改善などの賃上げを獲得。回答額の平均(単純平均)は1万4,891円で、昨年の最終結果である8,131円を6,000円以上上回るとともに、賃上げが復活した2014闘争以降で最も高い水準となっている。
一時金をみると、集計対象組合のうち31組合が要求方式、23組合が業績連動方式を採用しており、要求方式を採用している組合では29組合が回答引き出している。平均月数は5.53カ月で、昨年の最終結果(5.54カ月)とほぼ同水準。内訳をみると、前年水準を上回ったのが16組合、同水準が7組合、下回ったのが5組合となっている。
企業内最低賃金については、40組合が水準引き上げを実現しており、平均引き上げ額は1万3,501円。昨年の最終結果(7,740円)を5,761円上回るとともに、2014年以降で最も高い引き上げ額となっている。
「日本経済の好循環実現の原動力となる回答結果」(JCM議長)
集中回答日の午後1時時点で金属労協が発表した賃上げ回答額の平均は1万4,877円(45組合)だった。この結果をうけ、その後開催された記者会見で金子議長(自動車総連会長)は、「組合員の生活の安心・安定に寄与するものであるのはもちろん、金属産業の地位向上、さらには現場での競争力を高めるものである。もっと言えば日本経済の好循環を実現しうる原動力ともなる回答結果だ」と評価した。
自動車総連では1975年以降での最高額(1万3,896円)を記録
各構成産別の回答状況をみると、自動車総連は20日、最新の回答状況を発表した。それによると、20日現在で1,048組合中186組合(17.7%)が解決済みとなっている。賃金カーブ維持分と賃金改善分を合わせた引き上げ額全体の総額は1万3,896円で、1975年以降で最高額を記録した。賃金改善分だけでみると、昨年同時期を4,174円上回る9,448円となっている。
自動車総連では加盟組合の7割を300人未満の中小組合が占めているが、300人未満の組合の獲得額は昨年同時期を4,084円上回る1万2,211円で、比較可能な1995年以降での最高額となっている。
一時金の平均獲得月数は4.99カ月となっている。
日産、本田、マツダは2月の段階で早期満額回答を受ける
各大手メーカーの回答をみると、トヨタは平均賃金の要求、回答額ともに非公開となっているが、経営側は組合に対して満額で回答した。日産、本田、マツダは2月中に満額回答を提示されるという展開となった。日産は賃金改定原資の総額で1万8,000円、本田は総額で2万円、マツダは総額で1万6,000円を要求していた。三菱自工は総額で2万円の要求に対し、経営側は1万7,500円を回答した。
一時金については、トヨタが7.6カ月(要求どおり)、日産が5.8カ月(同)、本田が7.1カ月(同)、マツダが5.6カ月(同)、三菱自工が6.0カ月(要求は6.3カ月)などとなっている。
13日の会見で金子会長は「各社の労使で、人材の確保や定着に向け認識が1つになるとともに、産業の魅力を維持・向上させていこう、さらには働く者に対してしっかり報いてあげたいという気持ちで合致したことが成果につながった」などとコメント。中小労組の賃上げにとって鍵となる価格転嫁の取り組みについては「ティア(サプライヤー)の深いところまで浸透していくよう取り組みたい」などと語った。
電機中闘はシャープを除いて満額回答
電機連合(神保政史委員長)の大手メーカー組合で構成する中闘組合(12組合)は、統一して「開発・設計職基幹労働者」(30歳相当)の個別賃金水準を1万3,000円引き上げることを要求し、シャープグループ労連・シャープ労組を除く11組合が満額回答を受けた。シャープ労組は、1万円の引き上げで決着。電機連合は3月11日に、回答未達の場合、闘争行動に入るいわゆる「歯止め基準」を1万円以上に設定していた。
交渉方式を採用する組合の一時金の回答をみると、日立グループ連合・日立製作所労組は年間6.17カ月、三菱電機労連・三菱電機労組が年間5.8カ月、富士電機グループ連合・富士電機労組が「年間6.2カ月+0.1カ月」、OKIグループ連合・沖電気工業労組が年間4.5カ月で妥結した。
13日の会見で神保委員長は、「積極的な人への投資により、実質賃金の向上を図るとともに、経済の好循環への転換を着実なものとするという電機連合の基本方針に沿った回答だと受け止めている」などと語った。
構造維持分込みの平均賃上げ額は中小でも1万円を超える(JAM)
金属、機械関連の中小労組を多く抱えるJAM(安河内賢弘会長)は18日までの回答状況をまとめている。賃金について要求を提出しているのは1,024組合で、そのうち459組合が回答を受け、209組合が妥結している。平均賃上げの妥結額(賃金構造維持分込み)の単純平均は1万2,771円で、同一単組で前年と比べると2,886円増。300人未満の組合では1万981円で、同一単組で前年と比べると2,035円増となっている。
賃金構造維持分を明示している単組で、賃金改善分を獲得した組合は353組合あり、賃金改善分の平均額は8,021円。規模別にみると、300人未満の組合は6,940円で、3,000人以上の組合では1万4,345円と、1万円を大きく超える水準となっている。
大手組合の賃上げ回答をみると、クボタユニオンは平均方式で「2万円+α」(αは別原資で3,000円加算)の賃金改善を獲得し、コマツユニオンは同方式で1万7,390円(うち1,390円は再雇用社員・非正規社員への配分)の賃金改善を獲得した。また、アズビル、ジーエス・ユアサ、NTNは同方式でそれぞれ、1万4,000円の賃金改善で妥結した。
13日の会見で安河内会長は、先行して回答を引き出した大手組合の回答額について「歴史的な水準での回答が出ている」とし、価格転嫁の取り組みについて「まだまだ道半ばと言わざるを得ないが、大きな期待感はある」と話した。
日本製鉄では組合要求を5,000円超える3万5,000円の回答
鉄鋼、造船重機、非鉄などの業界を束ねる基幹労連(津村正男委員長)に加盟する大手組合の回答をみていくと、鉄鋼大手では2024年度の賃金改定について、日本製鉄が3万5,000円の賃金改善、JFEスチールと神戸製鋼がそれぞれ3万円の賃金改善の回答を受けた。3組合の要求額はいずれも3万円であり、日本製鉄では経営側が満額を超える額を回答し、JFEスチールと神戸製鋼は満額決着となった。
鉄鋼大手の3組合は、2022年度と2023年度の2年分の賃金改定について2022年の春季交渉(AP22)で経営側と交渉し、「2022年度3,000円、2023年度2,000円」の賃金改善で合意した。ただ、2023年の他産業での大手の賃上げ結果が高額決着となったことから、格差是正も意識して今回の要求額を3万円に決めた。
重工大手では、三菱重工、川崎重工、IHI、住友重機械の各組合が要求満額(1万8,000円の賃金改善)を獲得した。非鉄大手では、三菱マテリアル、住友金属鉱山、三井金属、DOWAの各組合が1万5,000円の賃金改善を要求し、三菱マテリアルが「1万5,000円+3,000円」、住友金属鉱山と三井金属がともに2万円と、経営側が要求を上回る水準を回答。DOWAは満額回答となった。
要求方式を採用する組合の一時金の回答をみると、三菱重工が6.10カ月、IHIが4.80カ月、住友重機械が5.80カ月、住友金属鉱山が178万円などとなっている。
「2年間で10%を超える賃上げ率」と津村委員長
13日の会見で津村委員長は、鉄鋼大手の回答について、2023年度からの2年間で賃金改善額を合計すれば、日本製鉄は12%の賃上げ率(定昇相当分を含めれば約16%)、JFEスチールと神戸製鋼は10%強(同15%超)に相当し、重工大手でも10%超になる、などと説明しながら、大手の先行組合は「しっかりとその役割を果たせた」と評価した。
全電線(佐藤裕二委員長)の大手では、古河電工(1万5,000円の賃金改善)と住友電工(1万3,000円の賃金改善)が要求満額で決着し、フジクラでは1万3,000円の賃金改善の組合要求に対して経営側は1万3,700円を回答した。SWCCは1万3,000円の要求に対して1万円の回答だった。