24年度のみ要求することにし、賃金改善の要求基準は
1万2,000円以上/基幹労連の中央委員会

2024年2月14日 調査部

鉄鋼、造船重機、非鉄などの業界の労働組合でつくる基幹労連(津村正男委員長、約27万1,000人)は7日、都内で中央委員会を開催し、AP24春季取り組み方針を決定した。本来は2024年度からの2年分の賃上げ要求基準を示す年にあたるが、国内外の情勢の先行きを見通すことが困難として、賃金改善について2024年度のみの要求とするとした。要求額は1万2,000円以上と掲げた。

AP24は2年サイクルの「総合改善年度」

基幹労連では、春の労使交渉の取り組みを「AP春季取り組み」と呼んでいる。APとは、「Active Plan」の略。「魅力ある労働条件づくり」と「産業・企業の競争力強化」の好循環を実現するため、活動のエネルギーを効果的に配分し、最大成果を発揮するとの考え方から、産別全体として賃上げに取り組むのは2年に1度とする「2年サイクル」方式をとっている。2年間の前半にあたる年を「総合改善年度」と位置づけ、この年に全体として2年分の賃上げ交渉に取り組んでいる。一方、後半にあたる年は、「個別改善年度」と位置づけ、「年間一時金」や、グループ関連や中堅・中小企業による「格差改善」が取り組みの中心となる。ただ、部門・部門内の部会がまとまりをもって、1年ごとに賃上げ交渉を行う方式も認めており、「総合重工」や「非鉄総合」部会などの組合は近年、単年度ごとの賃上げ交渉を行ってきた。

AP24は「総合改善年度」にあたることから、方針は、取り組みの基本的考え方のなかで、「賃金」「一時金」「退職金」「諸割増率関連(休日・時間外労働)」「労働時間・休日」「年休付与」「労災・通災付加補償」「ワーク・ライフ・バランス」「65歳現役社会の実現に向けた労働環境の構築」「働く者全てに関する取り組み」などの労働条件全般の改善に取り組むとし、今回も、各産業、企業で業績にばらつきが見られるものの、「基幹労連全体で一体感のある取り組みを行う」とした。

そのうえで、「賃金」をはじめとする項目について、部門・部会が「産別方針のもとでまとまりを持って取り組み方も含めて検討し、最も効果的と判断しうるものとなるようよう、時々の環境や産業・企業の状況をふまえ、取り組む」とした。

要求根拠の基礎は人材の確保・定着や実質賃金の維持・向上など

基本的な考え方は、「将来にわたる優秀な人材の確保・定着」「基幹産業にふさわしい賃金水準の確保」「生活の安心・安定に向けた実質賃金の維持・向上」などを視点にあげた。高技能・長期能力蓄積型産業である基幹産業にとって、「優秀な人材の確保・定着は至上命題」だとし、特に、中小企業が多い業種別組合は総合組合に比べ、「人材の確保・定着に苦慮している状況にあり、労働条件の底上げの取り組みがますます重要となっている」と指摘。しかし、加盟組合の賃金が「他産業との比較において決して優位にあるとは言えない」として、「基幹産業の魅力を高めるためにも、基幹産業にふさわしい賃金水準を確保しなければならない」と強調した。

また、物価が2022年度から急速に上昇していることに言及し、「物価上昇に見合う賃上げが実施されなければ、われわれの生活はこれまで以上に困窮してしまう懸念がある」としたうえで、「したがって、働く者の生活を維持・向上させるためには、実質賃金を維持・向上させることが必要」と強調した。

2025年度についてはAP25の方針で提示

項目ごとの取り組み方針について、賃金改善からみていくと、要求の考え方について、基本的な考え方にあげた項目を要求の根拠の基礎とするとした。そのうえで、要求ついては「長期化するロシアによるウクライナ侵攻、ハマスとイスラエルの戦闘激化等により、国際情勢が急激に変動していることに加え、国内の経済・物価動向や企業動向を見通すことが困難であるため、2024年度のみの要求とする」とし、今回は産別全体で単年度要求とする方針とした。なお、2025年度についてはAP25の方針で提示するとしている。

要求水準については、「連合・金属労協の方針もふまえつつ、消費者物価や経済成長といった基本的要素に加え、継続した『人への投資』、並びに経済の好循環や人材の確保・定着を総合的に判断し、基幹労連として相乗効果を生むべく、全体が一体感を持って取り組める水準とする」と述べ、賃金改善の要求額は「1万2,000円以上とする」と設定。そのうえで、「過去の取り組み経過や産業の取り巻く環境等を勘案し、部門・部会でまとまりを重視して取り組む」とした。また、条件が整う組合は格差改善にも積極的に取り組むとした。

「内需主導型の好循環経済へと転換させる好機」(津村委員長)

中央委員会であいさつした津村委員長は「バブル崩壊以降、長きにわたるデフレ環境において、デフレマインドでのAP春季取り組みとならざるを得なかったことが、結果、『安い日本』をつくりあげ、世界と比較して低い賃金水準を招く結果となった。これまでの取り組みからすれば、高い要求水準と受け取られているかもしれないが、今回の取り組みは、日本全体で物価上昇を上回る賃金改善を行い、内需主導型の好循環経済へと転換させる好機であると考える。賃金改善を広く波及させるためにも、交渉は個別の労使(が行うもの)であり様々な事情があることは承知しているが、基幹労連全体として、部門・部会のまとまりをもって最も効果的と思われる要求をしっかりと行い、また共有したい」と話した。

企業内最賃の要求額は法定最賃の4~5%引き上げを想定した水準で

企業内最低賃金については、AP23方針と同様、金属労協がJC共闘の最低到達目標として設定した月額17万7,000円(時間あたり1,100円)と、最低到達目標を達成した組合が中期でめざす中期目標である月額19万3,000円以上(同1,200円以上)の達成に向けて取り組むとしている。要求額は、「適用される法定最低賃金が年率4~5%の引き上げを想定し、優位性が担保できる水準とする」とし、2023年度の地域別最低賃金改定額をふまえて、「時間額で適用される法定最低賃金プラス50円以上を基本とする」とした。

年間一時金については、基幹労連が要求基準を示し、業種別部会でのまとまりを重視した要求を行うとし、「基幹産業にふさわしい水準として5カ月(160万円程度)以上の確保」「生活を考慮した要素としての4カ月(120~130万円)確保」の考え方をふまえるとした。要求基準は、「金額」を要求する方式では、「世間相場の動向や成果を反映した要素などをふまえながら、160万円を基本に設定する。厳しい状況においても、生活を考慮した要素としての120~130万円を確保するものとする」とし、「金額+月数」方式では、「40万円+4カ月を基本とする」とした。「月数」要求方式では、「5カ月を基本とする」とした。

賃金以外では退職金、労働時間・休日・休暇などが柱

このほかでは、退職金、労働時間・休日・休暇、労災通災付加補償、65歳定年制導入などの取り組みを掲げている。退職金(60歳・勤続42年/高卒技能労働者)では、ガイドラインとして定めている2,600万円に向けて取り組む。労働時間・休日では、年間所定労働時間1,800時間台や年間休日125日以上の実現に向けて部門・部会ごとの判断にもとづいて取り組む。

交渉体制では、中央戦術委員会を設置。中央戦術委員会のもとに必要に応じて合同業種別戦術委員会を開催するとした。また、今次取り組みでは、総合組合を対象とした合同総合戦術委員会を設置し、機動的な配置により戦略・戦術の調整をはかる。

「業種別組合に波及しうる取り組みを実現する」(三菱重工グループ労連)

方針討議では、三菱重工グループ労連は「AP23では三菱重工労組として49年ぶりの満額回答となる1万4,000円の賃金改善を獲得したが、それ以降、物価の上昇により、多くの組合員から、『実質賃金が低下している』『賃金が上がった実感が薄い』などの声も上がっている」と報告したうえで、AP24に向けて、「基幹労連全体の底上げ、底支えにつながるよう、連合、金属労協と従来以上に連携を深め、総合重工はもとより、業種別組合に波及しうる取り組みを実現し、物価上昇に負けない、かつAP25につながる取り組みにしないといけない」などと発言した。

川崎重工労組は「総合重工部会は、物価上昇と、『人への投資』に加えて人手不足が顕著になっている背景をふまえ、AP23を上回る要求を掲げることにした」と報告し、「交渉においては経営側にその趣旨を正しく伝えていく必要があり、これまでにない交渉力が必要となる」などと話した。

神鋼連合は、賃金改善について2024年度だけ要求するとした今回の方針について「環境の変化を的確に捉え、そのなかで最大限の成果を果たすとの考え方にもとづくものと認識しており、全面的に支持するとともに、長年続けてきた取り組み方法を変更するという英断と、そこに至るまでの真摯な論議に敬意を表する」と評価したうえで、要求水準について「昨年来、高まっている賃上げ機運をさらに高めるとともに、近年推進が図られている取引先を含めたサプライチェーン全体での公正な取引をさらに進める波及効果を生むもの」「今回の要求方針はインパクトが高く、職場の期待も相当に高まっている」などと話した。

日本製鉄労連は「鉄鋼産業としての魅力を高め、労働組合の最大の目的である組合員とその家族の幸せの追求に向けて、連合会、単組が一丸となって必ず成果を勝ち取るとの強い思いで、結果にこだわった精一杯の取り組みを展開する決意だ」と表明。JFEスチール労連も「鉄鋼部門の総合組合として、中核的組織であるということを自覚し、実質賃金の維持・向上に向けた賃金改善はもとより、労働時間の短縮や交代制勤務の処遇改善など、職場の課題改善に向けて最大限の取り組みを展開する決意だ」などと意気込みを語った。

9日には鉄鋼大手は3万円の賃金改善で要求提出

集中要求提出日に設定した2月9日(金)には、「鉄鋼総合」「総合重工」「非鉄総合」の各部会に属する大手組合が、経営側に要求書を提出した。

鉄鋼総合では、日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼の各組合が賃金改善だけで3万円を経営側に求めた。総合重工の三菱重工、川崎重工、IHI、住友重機械、三井E&S(マシナリー)、キャタピラー日本(製造)、日立造船の7組合は揃って、1万8,000円の賃金改善を経営側に要求した。非鉄総合では、三菱マテリアル、住友金属鉱山、三井金属などが揃って1万5,000円の賃金改善を求めた。

鉄鋼総合の3組合は、AP22で2022年度と2023年度の2年分の賃金改善について交渉し、「2022年度3,000円、2023年度2,000円」で妥結した。これに対し、総合重工の各組合はAP22、AP23ともに単年度交渉を行い、AP23では、三菱重工、川崎重工、IHIなどの組合は鉄鋼総合の23年度回答を大きく上回る1万4,000円の満額回答を引き出した。今回、鉄鋼総合の各組合が3万円という高い要求額を掲げたのは、結果的に、2023年度の賃金改善額が総合重工を含む他業種の大手組合を大きく下回ることになったこともふまえてのものだ。鉄鋼大手が賃金改善分だけで3万円を超える要求を行ったのは、1975年の鉄鋼労連の時代に、3万2,000円を要求して以来のこと。