賃金体系維持分を含め6%基準の引き上げを要求する闘争方針を決定/UAゼンセンの中央委員会
2024年1月26日 調査部
化学・繊維などの製造業からスーパーマーケットなどの流通業、また、サービス業に至るまで、幅広い業種をカバーするUAゼンセン(松浦昭彦会長、約189万4,000人)は23日、兵庫県神戸市で中央委員会を開催し、2024労働条件闘争方針を決定した。方針は「物価が継続的に上昇する中で、安心して消費を行い、生活を維持していくためには、物価を上回る賃金引き上げが必要最低限の条件」と強調。全体的な要求の考え方として、制度昇給等の賃金体系維持分に加えて4%基準(総合計6%基準)の賃金引き上げに取り組むと掲げた。
生活向上を実感できる実質賃金の引き上げが必要
方針は、2024闘争の基本姿勢について、「2024闘争においては、賃金と物価の好循環を定着させるとともに生活向上を実感できる実質賃金の引き上げを実現する必要がある。物価上昇分に、経済と生産性向上に見合う生活向上分を加えて賃金を引き上げることで、初めて2つの目標を実現できる」と強調。また、産業間・規模間・雇用形態間の格差是正にも積極的に取り組むとした。
さらに、「物価が継続的に上昇する経済を実際に経験するのは20年ぶりのことであり、多くの世帯が購入点数を減らすなど生活を切りつめている。物価を上回る継続的な賃金の上昇がなくては、労働者が安心して消費をし、経済の成長を持続させることはできない」と指摘。また、「一定の経済成長、生産性の向上がある中で実質賃金が減少することは、労働者への付加価値の配分が低下していることを意味する。経済の成長、生産性の向上に見合う実質賃金の向上は労働者の努力に報いるものであり、公正な配分である」と強調し、「労働者への公正な配分が、個人消費を拡大させ、投資を促進し、経済の成長力の強化につながる」などと訴えた。
「賃上げの社会的流れをけん引する役割を果たす」
闘争におけるUAゼンセンの役割として、方針は、政労使が2023年を上回る賃上げに取り組む方向性が一致しているなかで、「UAゼンセンとして、『物価上昇を明確に上回る賃上げ』『生活向上を実感できる実質賃金の引き上げ』を強く訴え、情報発信を強化し世論喚起に取り組み、賃上げの社会的流れをけん引する役割を果たしていく」と宣言。このほかでは、価格転嫁など中小をはじめとする労働条件交渉を促進するための環境づくりや、労働時間短縮をはじめとする労働条件改善による生産性向上などに取り組む姿勢を示した。
物価を上回る賃上げが必要最低限の条件
賃金闘争における要求の考え方をみていくと、「物価が継続的に上昇する中で、安心して消費を行い、生活を維持していくためには、物価を上回る賃金引き上げが必要最低限の条件である」と明言し、「実質賃金の減少により傷んだ家計を改善し、個人消費を支え経済の安定的な成長をはかるためには、生産性の向上を踏まえた生活向上分としての賃金引き上げが必要である」と言及。「2023賃金闘争で拡大した賃金の規模間格差是正、法定最低賃金の引き上げの流れを受け止めた雇用形態間格差是正、そして、産業間格差是正に積極的に取り組まなくてはならない」「最低賃金や初任賃金の引き上げとともに、既存者の適切な賃金構造を維持しながら賃金の底上げ(ベースアップ)を行い、モチベーションの向上をはかる必要がある」などと主張した。
そのうえで、「2024闘争では、物価上昇が名目賃金上昇を上回り、実質賃金の減少が続く一方で、経済成長が続き企業業績も全体としては最高益を更新すると見込まれる局面において、物価上昇分を上回る生活向上分としての賃上げを明確に要求していくことが求められている」とし、「2023年度の物価上昇率見通しや中期的な労働生産性向上および格差是正を総合的に勘案し賃上げに臨む。組合員の期待に応え、社会的な賃上げの流れをつくるべく、制度昇給等の賃金体系維持分に加えて4%基準(総合計6%基準)の賃金引き上げに取り組むこととし、人への投資、人材不足への対応、格差是正に向け、積極的な要求を行う」と掲げた。
昨年の闘争方針と比べると、昨年方針は「組合員の期待に応え、社会的な賃上げの流れをつくるため、制度昇給等の賃金体系維持分に加えて4%程度、合計6%程度の賃金引き上げを目ざす」との表現であり、賃金改善分で4%、合計6%という要求水準は変えなかったが、「程度」から「基準」、「目ざす」から「取り組む」へと文言を変更した。
短時間(パートタイム)組合員については、「『同一労働同一賃金』の考え方に基づく正社員(フルタイム)組合員との格差是正、地域別最低賃金の大幅上昇を踏まえた要求を行う」とした。また、いわゆる「年収の壁」への対応についても言及し、「組合員の能力の発揮、生涯にわたる生活の安定の観点から、短時間組合員の被用者保険加入に積極的に取り組む」ことを盛り込んだ。
賃金体系が維持されていないミニマム未達組合は1万4,500円が基準
賃金引き上げの要求基準(平均賃金)を正社員(フルタイム)組合員からみると、例年どおり、加盟組合が置かれた現在の賃金水準の状況別に基準を設定し、【ミニマム水準未達の組合、賃金水準不明の組合】では、「賃金体系維持分に加え、4%基準で賃金を引き上げる」とし、賃金体系が維持されていない組合は、「賃金体系維持分を含め1万4,500円または6%基準で賃金を引き上げる」とした。格差是正などが必要な組合には、積極的な上積み要求も促している。
なお、昨年方針は「賃金体系維持分に加え、3%以上賃金を引き上げる。賃金体系が維持されていない組合は、賃金体系維持分を含め5%以上賃金を引き上げる」との内容だった。
【到達水準未達の組合】では、「実質賃金の向上と格差是正の必要性を踏まえ、部門ごとに各部会・業種の置かれた環境に応じた要求基準を設定する」とした。UAゼンセンには、医薬、化学、繊維などの産業のメーカー組合が所属する「製造産業」、スーパーマーケットや百貨店、ドラッグストアなどの組合が所属する「流通」、フードサービス、ホテル・レジャーなどの組合が集まる「総合サービス」の3つの部門があり、各部門のなかに、部会が置かれている。
【到達水準以上の組合】については、「実質賃金の向上をめざすとの要求趣旨を踏まえながら、目標水準に向け部門ごとに要求基準を設定する」とし、部門が決定すれば、到達水準以上の組合は、要求基準のうち、一定部分については総合的な労働条件の改善として要求できるようにした。
【ミニマム水準】【到達水準】【目標水準】それぞれの具体的な水準設定をみていくと、【ミニマム水準】は「高卒35歳・勤続17年」「大卒30歳・勤続8年」の両銘柄ともに24万円で、昨年方針から変更はなかった。【到達水準】も昨年方針から変更がなく、両銘柄ともに「25万5,000円を基本に部門ごとに設定」(昨年方針から変更なし)とした。【目標水準】については昨年方針と同様、両銘柄とも「部門ごとに設定」とした。
時間額にすると昨年方針比で20円増の要求
短時間(パートタイム)組合員の要求基準については、「制度昇給分に加え、時間額を4%基準で引き上げる。制度昇給分が明確でない場合は、制度昇給分を含めた総率として時間額を6%基準、総額70円を目安に引き上げる」と設定。人への投資、人材不足への対応、法定最低賃金の引き上げを踏まえて積極的に上積み要求することも促している。
昨年方針は「制度昇給分に加え、時間額を3%以上引き上げる。制度昇給分が明確でない場合は、時間額を制度昇給分を含めた総率として5%以上、総額50円を目安に引き上げる」との内容だったことから、引き上げ幅を1%積み増し、制度昇給分が明確でない場合の同分を含めた引き上げ要求額では20円増額した。
最低賃金(18歳以上)の要求基準については、「月額18万5,000円、時間額1,120円をもとに、消費者物価の地域差を勘案して各都道府県別に算出した金額以上とする」とした。昨年方針と比べると、月額では6,000円高く、時間額では20円高い。法定最低賃金×110%に達していない場合は、まずその水準をめざす。
これをうけて正社員組合員の初任賃金の要求基準については、高卒を18万5,000円基準とし、大卒は22万2,000円基準とした。昨年方針から、高卒は6,000円、大卒は2,000円引き上げている。
「昨年の6%要求が各産別の要求目線を引き上げた」(松浦会長)
松浦会長はあいさつで、多くの産別が昨年を上回る賃上げ要求を検討している状況について、「昨年のようにUAゼンセンがより高い数字を掲げ社会水準をリードすることも重要だが、より高い妥結水準を導くには、多くの産別が同様の要求をもって闘うことも重要であり、歓迎すべきことだと思う」と述べるとともに、「昨年私たちが6%という数字を要求で掲げたことが、各産別の要求目線を引き上げることにつながっているとも言える」と話した。
今回の方針については、「昨年の『めざす』という言葉を『基準』に変えたのは、物価上昇が続いている中でこれを上回る賃上げをみんなで実現しようという考え方、そして産業の実勢や格差是正の観点から、さらに高い要求を掲げる部門や部会・業種を後押しする意味合いがある」と説明。「昨年の闘いでは、大手と中小の格差は残念ながら拡大してしまった。昨年の定期大会挨拶で私は『厳しい妥結を受け入れざるを得なかった一つひとつの組合が、どうすれば来年賃上げを勝ち取ることができるのか、加盟組合と都道府県支部・部門・本部が一緒になって考え、手を打っていく必要がある』と申し上げた。その後、こうした組合は労使間で議論を行っただろうか。前向きな議論が進んでいることを期待したいと思うが、もし『原材料やエネルギーコスト、労務費の価格転嫁は不可能で、従業員・組合員には我慢してもらうしかない』という話で終わっているのであれば、賃上げ交渉の前に、是非もう一度、労使で取引価格の是正について議論していただきたい」と述べた。
正社員組合の一時金は年間5カ月基準
2024年期末一時金闘争については、正社員(フルタイム)組合員については「年間5カ月を基準に各部門で決定する」とした。短時間組合員については「年間2カ月以上とし各部門で決定」し、正社員(フルタイム)組合員と同視すべき組合員については、正社員(フルタイム)組合員と同じ要求とする。それ以外の取り組み項目では、労働時間の短縮・改善について、所定労働時間の到達基準:2,000時間未満、年間休日115日以上、目標基準:1,900時間未満、年間休日120日以上といった基準の達成に向け、部門・部会ごとに目標を設定して取り組むとした。
闘争の進め方については、原則、すべての加盟組合が闘争に参加するとし、要求書の提出は原則2月20日(火)までとした。
翌日に3部門も闘争方針を決定
中央委員会の翌24日には、各部門が評議員会を開き、部門の2024労働条件闘争方針を決定した。
賃金闘争方針に限って内容をみると、製造産業部門では、「過年度の物価上昇を踏まえた実質賃金維持と、経済成長(実質GDP)の伸びを踏まえた実質賃金向上(生活向上)、確保すべき水準との格差是正を総合的に勘案した賃上げに取り組む。なお、各組合の要求は昨年度を下回らないこととする」との要求の考え方を提示。全体としての要求基準は、「賃金体系維持分に加え、4%を基準に3%以上の賃金引き上げを要求し、人への投資や体系是正に向けた積極的な上積みに取り組む」「賃金体系維持が確立されていない場合は、賃金体系維持相当分に4%を基準に3%以上の賃金引き上げを加え、6%を基準に5%以上を要求し、人への投資や体系是正に向けた積極的な上積みに取り組む」とした。
流通部門は短時間組合員で5.0%以上の引き上げをめざす
流通部門では、「物価・生産性向上・格差是正という、これまでの賃金要求の考え方を維持し、実質賃金が向上する賃上げを継続・強化する」「強まる人材不足感の解消につなげる、産業として魅力ある賃金水準の実現に向けて取り組む」「組合員の期待に応えるとともに、政労使での賃金引上げの機運(社会的要請)に積極的に応えていく」との考え方を提示。
そのうえで、【ミニマム水準未達の組合、賃金水準不明の組合】については、賃金体系維持とベースアップ含む賃金引き上げで「1人平均1万7,000円以上」とし、【部門到達水準未達の組合】については、賃金体系維持分が明確な組合は、ベースアップを含む賃金引き上げを「1人平均1万1,250円(4.5%)以上」とした。【部門到達水準以上の組合】については、賃金体系維持分が明確な組合はベースアップを含む賃金引き上げを「1人平均1万円(4.0%)以上」とした。
短時間(パートタイム)組合員については、「正社員組合員の要求水準同等もしくは、それ以上を要求する」を基本とし、正社員と職務の内容が異なる・職務の内容が同じ場合で、制度昇給がある組合員は「5.0%以上の賃金引き上げ」、制度昇給がない組合員は「7.0%(70円)以上の賃金引き上げ」と設定。正社員と同視すべき短時間組合員の場合は「正社員の賃金水準と均等になるよう、賃金引き上げを要求する」と設定した。
総合サービス部門は正社員組合員では5.0%基準
総合サービス部門では、「2023年度の物価上昇率予想や中期的な労働生産性向上および格差是正を総合的に勘案し賃上げに臨む。組合員の期待に応え、社会的な賃上げの流れを作るべく賃金引き上げに取り組む」との考え方のもと、正社員(フルタイム)組合員について、「賃金体系維持分に加え5.0%基準で賃金を引き上げること」を基本とし、【ミニマム水準未達、社会水準未達、賃金水準不明の組合】については「4,500円(賃金体系維持相当分)に加え賃金引き上げ5.0%基準、または1人平均7.0%基準を要求する」と設定した。【社会水準到達および目標水準到達の組合】については「賃金体系維持相当分に加え賃金引き上げ4.0%以上、または1人平均6.0%以上を要求する」とした。
短時間(パートタイム)組合員については「制度昇給分に加え、5.0%基準の時間額を引き上げる」とし、制度昇給分が明確でない場合は「制度昇給分を含めた要求総率として7.0%基準、総額として時間あたり80円を目安に引き上げる」などと掲げた。