ベアなどの要求基準を1万2,000円とする2024年春季生活闘争方針を決定/JAMの中央委員会

2024年1月24日 調査部

機械・金属関連の中小労組を多く抱える産別労組のJAM(安河内賢弘会長、約36万7,000人)は19日、都内で中央委員会を開催し、2024年春生活闘争方針を決定した。ベアや賃金改善分だけでみた賃上げ要求基準を昨年方針の9,000円から3,000円上積みし、1万2,000円に設定した。安河内会長は、道半ばにある価格転嫁や人手不足などを理由に、「中小企業こそ大幅な賃上げが必要だ」と強調した。

「要求をしなければ賃金は絶対に上がらない」(安河内会長)

安河内会長はあいさつで、「残念ではあるが、中小製造業を取り巻く環境が極めて厳しい状況にあることは間違いない。価格転嫁は未だ道半ばであり、人手不足はより深刻さを増している。物価上昇局面にあるとはいえ、価格競争は相変わらず熾烈を極めており、多少、原材料費やエネルギー価格の上昇分の一部を転嫁できたとしても、利益率はさらに悪化していき、とても賃上げに回す原資はないというのが中小製造業の状況であり、とても賃上げできないというのが現実であろうと思う。それでも、あえて声を大にして言いたい。中小企業こそ、大幅な賃上げが必要だ。そして、要求をしなければ賃金は絶対に上がらない」と述べ、中小企業こそ賃上げが必要な局面であることを強調した。

方針は、2024年闘争の基本的なスタンスとして、「すべての単組がJAM方針に基づいた要求を提出し、実質生活の維持・改善をめざし、賃上げの流れを確実なものとする」と記述。2023年闘争は「物価上昇局面で、次元の違う賃上げを獲得し賃上げの転換点となったものの、実質賃金の維持と格差縮小に課題を残した」と振り返りながら、2024年闘争では「『2023年の結果』、『物価上昇による実質賃金の低下』に加え、『生産年齢人口の減少による人材不足』、『国際的に見劣りする賃金』、『賃金水準の低下』、『格差拡大』『分配構造のひずみ』など中長期的な課題、労働組合・春季生活闘争の意義、価格転嫁の必要性を含めた企業状況を職場討議において共有し、『賃金水準にこだわった要求』を徹底する」とした。

今年もすべての単組が賃金の絶対額を重視

JAMでは、大企業と中小企業との間の賃金水準の格差是正を効果的に進めることを狙いとして、個別賃金でめざすべき水準を要求する取り組みに重点を置いている。そのため、賃金要求の考え方では、今年も「すべての単組は、賃金の『底上げ』『底支え』『格差是正』に向け、賃金の絶対額を重視し、賃金水準にこだわった要求を追求する」との文言を掲げた。

各単組は、自らの賃金水準のポジションを確認したうえで、方針が示す「JAM一人前ミニマム基準」「標準労働者の要求基準」(それぞれ内容後述)に基づき、あるべき水準を設定し、要求する。平均賃上げに取り組まざるを得ない単組においても、特に、30歳と35歳の賃金実態を把握する取り組みを強化し、すべての単組が一人前労働者、標準労働者の賃金水準の検討が行われるように取り組むとしている。

また、考え方では、「過年度物価上昇に対する実質生活の維持・向上、中長期的に低下し世界に見劣りする日本の賃金の回復、あるべき水準との乖離の是正に向け、JAMは、『底上げ』『底支え』『産業内及び企業内の格差是正』を進め、分配構造の転換を図る」とし、「具体的には、賃金構造維持分を確保した上で、所定内賃金の引き上げを中心に、単組の課題を積み上げ1万2,000円を基準とし、実質賃金の維持・向上と格差是正に資する『人への投資』を要求する」と記載した。

1万2,000円は、昨年方針の9,000円よりも3,000円高い水準。単組が交渉の参考にする方針に関連する資料では、「労働政策委員会では、昨年以上の具体的要求として9,000円以上~1万5,000円基準で検討したが、最終的に全体で結集できる水準として設定した」と説明している。

一人前ミニマム基準では18歳~35歳の指標を増額

具体的な賃上げの要求基準をみると、絶対額での水準向上につながる個別賃金要求では、単組が各年齢ポイントでの賃金是正の目安とする指標で、組合員の賃金全数調査の結果をもとに設定した「JAM一人前ミニマム基準」について、所定内賃金で18歳:17万5,000円、20歳:18万7,500円、25歳:21万8,500円、30歳:24万9,000円、35歳:27万5,000円、40歳:29万5,000円、45歳:31万5,000円、50歳:33万5,000円と設定。昨年方針と比べると、18歳~30歳まではそれぞれ6,000円増、35歳が5,000円増となっており、40歳以降は昨年方針と同額となっている。

30歳と35歳の標準労働者の要求基準(高卒直入者の所定内賃金)も設定している。全単組が到達すべき水準である「到達基準」については、30歳で28万4,000円(昨年比1万1,000円増)、35歳で32万4,000円(同1万1,000円増)と設定。到達基準に達している単組が目標とすべき水準である「目標基準」では、30歳を30万1,000円(同1万1,000円増)、35歳を34万9,000円(同9,000円増)と設定した。

有期雇用労働者が無期転換した場合や、中途採用者の採用賃金の最低規制としても位置づける年齢別最低賃金基準については、昨年方針と同様、「35歳まで、各単組の年齢ポイントの一人前労働者賃金水準の80%を原則とし、高卒初任給を勘案して決定する」とし、最低水準を18歳:17万5,000円(同6,000円増)、25歳:18万9,000円(同6,000円増)、30歳:19万9,500円(同5,000円増)、35歳:22万円(同4,000円増)とした。

平均方式では構造維持分4,500円+1万2,000円で計1万6,500円以上が基準

平均賃上げ要求に取り組まざるを得ない単組のための平均賃上げ要求基準では、「JAMの賃金構造維持分4,500円に1万2,000円を加え『人への投資』として1万6,500円以上とする」とした。なお、方針によると、2023年賃金全数調査の規模計・所定内賃金平均額が31万5,228円となっており、1万2,000円はこの金額のほぼ4%に相当する。

企業内最低賃金協定の締結に向けた取り組みでは、18歳以上の協定を締結していない単組では、まず、18歳以上の協定締結に取り組む。法定最低賃金と企業内最賃の差が100円に満たない場合は、直ちに引き上げを要求し、その際の基準として、「18歳正規労働者月例賃金を、所定内労働時間で除した時間額とする」ことなどを明示した。

企業内賃金格差の是正に向けては、男女間格差問題にも継続的に取り組むことも掲げている。

一時金要求については、要求基準を昨年と同様、「年間5カ月基準または半期2.5カ月基準の要求とする」とし、最低基準を「年間4カ月または半期2カ月」とした。

今年もJCM集中回答日と前日を統一回答指定日に設定

闘争の日程については、統一要求日を2月20日(火)とし、統一回答指定日は、金属労協の集中回答日が3月13日(水)に設定されたことから、3月12日(火)と13日(水)に設定した。

中小企業が賃上げできる環境を整備するための価格転嫁の取り組みでは、単組は、すべての組合で企業経営者に対する価格転嫁に向けた要請書を提出するほか、職場の実態を把握して取り組みを展開する。また、価格転嫁に向けた価格交渉の状況を労使協議などで確認することなどを掲げた。