ベア分を含め5%以上を要求目標とする2024春季生活闘争方針を決定/連合の中央委員会
2023年12月6日 調査部
連合(芳野友子会長、683万7,000人)は1日、都内で中央委員会を開催し、2024春季生活闘争方針を決定した。賃金引き上げの要求目標を「賃上げ分3%以上、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め5%以上の賃上げを目安とする」と設定。賃上げ要求幅の数字「5%」は2023闘争方針と同様だが、「程度」としていた表現を「以上」に改め、昨年を上回る賃上げをめざすスタンスを明確にした。
「程度」を「以上」にして要求トーンを強める
前回の2023闘争方針では、賃上げの要求目標を「賃上げ分を3%程度、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含む賃上げを5%程度とする」と掲げた。「程度」という表現にして、産別労組の要求基準設定に幅を持たせたのは、航空や旅行、レジャーなどコロナ禍で打撃を受けた産業に配慮したため。2024闘争方針では「賃上げ分3%以上、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め5%以上の賃上げを目安とする」と掲げ、要求水準の数字「5%」は据え置いたものの、ベアや賃金改善などの「賃上げ分」3%以上、定昇相当分含めて5%以上の獲得を連合全体でめざす姿勢を明確にした。
要求目標の記載ではまた、「経済社会のステージ転換を着実に進めるべく、すべての働く人の生活を持続的に向上させるマクロの観点と各産業の『底上げ』『底支え』『格差是正』の取り組み強化を促す観点から、前年を上回る賃上げをめざす」と明記して、前年を上回る賃上げ獲得をめざす考えを強く表現。
「賃金は上がり続ける」というステージへの転換を
方針は「基本スタンス」のなかで、「この2年間の取り組みの結果、20年以上にわたるデフレマインド(長きにわたるデフレの経験によって定着した物価や賃金が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行)が変化しつつある。2024 春季生活闘争は、経済も賃金も物価も安定的に上昇する経済社会へとステージ転換をはかる正念場」だと訴え、「その最大のカギは、社会全体で問題意識を共有し、持続的な賃上げを実現することにある」と強調した。
中央委員会であいさつした芳野会長は「長い間、賃金が上がらないという日本の負の構造を2023春季生活闘争で打破し、『賃金は上げることができる』という事実を作ることができた。まさしく、ターニングポイントとなった闘いだった。今度は、『賃金が上がった』というステージにとどまるのではなく、経済の成長とともに、『賃金は上がり続ける』ということを根付かせ、次のステージへと転換する社会経済を作っていかなければならない」と話した。
規模間格差の是正に向けた目標水準は「35歳:29万6,000円」など
格差是正を進めるための要求目標では、規模間格差を是正するための指標について、目標水準を「35歳:29万6,000円 30歳:26万6,000円」に設定。これらは2022年賃金センサスのデータをもとに算出した。最低到達水準については、「35歳:27万4,500円 30歳:25万2,000円 企業内最低賃金協定1,200円以上」とし、これらについては、1年1歳間差を4,500円、35歳を勤続17年相当、30歳を勤続12年相当との前提とし、時給1,200円から積み上げて算出した。
一方、雇用形態間の格差を是正するための指標については、目標水準を「昇給ルールをつくる」「昇給ルールを導入する場合は、勤続年数で賃金カーブを描くこととする」「水準については、『勤続17年相当で時給1,795円・月給29万6,000円以上』となる制度設計をめざす」とし、最低到達水準を「企業内最低賃金協定1,200円」と設定した。目標水準は、2022年賃金センサスのフルタイム労働者の平均的な所定内賃金の平均値から時給を算出し、それをまた月額換算した。
賃金の「底支え」を図るための要求目標としては、「企業内のすべての労働者を対象に協定を締結する」「締結水準は、生活を賄う観点と初職に就く際の観点を重視し、『時給1,200円以上』をめざす」とした。
中小組合は格差是正分を含めて1万5,000円以上をめざす
中小組合で、賃金実態が把握できないなどの事情がある場合の要求目標については、「格差是正分を含め、1万5,000円以上を目安とする」とし、2023闘争方針で設定した「総額1万3,500円以上」から1,500円水準を積み増し、前年以上の賃上げをめざす全体方針と平仄を合わせた。
男女間賃金格差の是正に向けては、企業規模にかかわらず男女別の賃金実態の把握と分析を行うとともに、問題点の改善と格差是正に向けた取り組みを進めるとしている。
「取引の適正化」に向けて5つの重点を設定
24闘争方針は前年に引き続き、中小組合の賃上げに向けた基盤整備を取り組みの柱の1つに据えた。サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配などの「取引の適正化」に取り組むとし、重点を5つ設定した。
第1が、労働組合の立場からも「パートナーシップ構築宣言」のさらなる拡大と実効性強化に取り組むこと。「パートナーシップ構築宣言」は、企業が「発注者」の立場で自社の取引方針を宣言する取り組みで、すでに3万7,000社以上が登録している。産別労組は、加盟組合のある企業の締結状況を把握し、締結促進に取り組む。
第2は、11月29日に内閣官房と公正取引委員会が連名で策定した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の周知と浸透に向けた活動を行うこと。第3は、業界などへ自主行動計画や業種ガイドラインの改訂・新設を働きかけること。第4は、中小企業などへの各種支援策の周知・活用促進に向けた取り組みで、5つめには、政府への要請活動や経営者団体との懇談会などを通じた世論喚起などを掲げた。
「価格転嫁、価格交渉、環境整備」の3点セットが24闘争のポイント
芳野会長は「企業の99.7%、労働者の7割を占める中小企業で賃上げが実現されなければならない」と強調し、2024闘争のポイントは「価格転嫁、価格交渉、環境整備」の3点セットだと言及。「大手企業は能動的に価格転嫁の努力を、中小企業は遠慮せずに価格交渉を、そして政府はその環境整備に力を入れて欲しいと思う。特に、公正取引委員会のガイドラインは作って終わりではなく、使って初めて意味をなすものだ。現場の調達部門レベルまでその内容を周知して、実際の取引の場面に活かしてほしい。調達部門で働く組合員も大勢いると思う。自分の仕事が取引先の賃上げにつながることを想像しながら相対していくことを望む。加えて、すべての労使交渉において、発注側であっても受注側であっても、自社の取引が適正に行われているのか、経営のチェック機能を果たしてほしい。また、消費者の立場としても、安さを追求するのではなく、商品やサービスには、その価値に見合った値段があることを認め合おう」と呼びかけた。
方針ではこのほか、ビジネスと人権の取り組みを初めて盛り込んだ。企業規模、業種、海外取引の有無にかかわらず、連合加盟のすべての労働組合がそれぞれの現場で取り組みを進めていくとし、組合としての取り組み方針の策定や、企業に対する教育・研修の実施の要求などを掲げた。
先行組合回答ゾーンは3月11日(月)~15日(金)
闘争の進め方では、日程について、「原則として2月末までに要求を行う」とし、3月にヤマ場を設定するとした。また、例年どおり、「金属」「化学・食品・製造等」「流通・サービス・金融」「インフラ・公益」「交通・運輸」の5部門による部門別共闘連絡会議を設置し、会合を適宜開くことで有期・短時間・契約等の労働者も含めた賃金上げの状況や中小組合状況などについて情報交換と連携をはかるとした。
中央委員会後、連合は「共闘連絡会議」の「第1回全体代表者会議」を開催。回答ゾーンについて、先行組合回答ゾーンを3月11日(月)~15日(金)とし、ヤマ場を同12日(火)~14日(木)とすることを正式に確認した。3月月内決着回答ゾーンは同18日(月)~31日(日)とした。