芳野友子氏が再任され会長続投/連合の第18回定期大会

2023年10月13日 調査部

連合(芳野友子会長、約683万7,000人)は5、6の両日、都内で第18回定期大会を開催し、月例賃金の持続的な改善や、あらゆる政策におけるジェンダー主流化の追求などを基軸とした「2024~2025年度運動方針」を決定した。役員改選では、2年前の前回大会で連合初の女性の会長に選ばれた芳野氏が再任され、事務局長の清水秀行氏も再任となった。

社会経済のステージ転換を確かにする2年とする

今大会での主要議案は、「2024~2025年度運動方針案」と、新「地域ユニオン」設置と「地域ゼネラル連合」の創設について。決定した新運動方針のスローガンは、「社会を新たなステージへ、ともに歩もう、ともに変えよう~仲間の輪を広げ 安心社会をめざす~」とした。

方針は今期の運動の基軸について、「足元のコロナ禍や物価高、中長期にわたる国内外の構造的課題を踏まえ、『働くことを軸とする安心社会』に向けて社会経済のステージ転換を確かにする2年としていく」と強調。「人への投資」と月例賃金の持続的な改善や、雇用と生活のセーフティネットの充実・強化、適切な価格転嫁に取り組むとするとともに、「あらゆる政策におけるジェンダー主流化を追求していく」と打ち出した。

組織拡大・強化では、「労働相談などからの組合づくりに向けた構成組織・地方連合会・連合本部の連携強化、パート・有期契約など多様な働く仲間とのつながりおよび集団的労使関係の拡大を追求していく」とし、フリーランスなどで働く仲間との連携拡大を図ることも強調した。

フリーランス新法を遵守し、セーフティネットを強化

連合では、重点を置いて活動する分野を「重点分野」として明確に定めている。今期の重点分野は、 ① すべての働く仲間をまもり、つなぐための集団的労使関係の追求と、社会に広がりのある運動の推進 ② 安心社会とディーセント・ワークをまもり、創り出す運動の推進 ③ ジェンダー平等をはじめとして、一人ひとりが尊重された「真の多様性」が根付く職場・社会の実現――の3本。

1つめの重点分野の集団的労使関係の追求では具体的に、「組織化・組織強化および労働者代表法制の今後の導入も視野に入れた職場における過半数代表制の適正な運用徹底や、規定の厳格化」などに加え、フリーランス新法の遵守と同法を踏まえた「社会的セーフティネットの強化、『労働者』概念の見直し・拡充」などに取り組むことを盛り込んだ。

また、フリーランスと緩やかにつながる取り組みである「Wor-Q」の取り組みを通じて仲間づくりを進めるとし、フリーランスの課題解決や労働環境改善にも取り組みながら、Wor-Qの機能強化を進めるとしている。

「組織拡大プラン2030」の実現に向けては、人的基盤の強化の観点から、「ジェンダーバランスを踏まえた組合づくりを担う人財の確保と育成に取り組む」ことも盛り込んだ。

中小基盤強化では適正な価格転嫁を盛り込む

2つめの重点分野では、賃金・労働諸条件の向上について、「2023春季生活闘争まとめと取り巻く情勢を踏まえ、『人への投資』と月例賃金の持続的な改善など総合生活改善闘争に取り組む。企業規模間、雇用形態間、男女間などの格差是正をはかり、労働条件の社会横断化を促進する」とした。中小企業の基盤強化に向けて、「サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配」の実現に向けた適正な価格転嫁に取り組むことなども明記した。

ハラスメントの根絶に向けて国内法を整備する

3つめの重点分野のジェンダー平等の取り組みでは、あらゆるハラスメントの根絶に向けた国内法の整備、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の自覚を促す取り組みの推進、クオータ制の導入をはじめとするポジティブ・アクションの強化、女性の意識決定過程への参画を促進し、その影響評価を行いながら政策などに反映していく「ジェンダー主流化」、男女雇用平等法の実現などを掲げた。

2026年1月から「地域ゼネラル連合」がスタート

もう1つの議案の柱である新「地域ユニオン」設置と「地域ゼネラル連合」の創設は、現在、地方連合会などに直加盟している組合の受け皿となる新たな加盟形態「地域ゼネラル連合」をつくるというもの。

具体的には、各都道府県に置かれる新たな「地域ユニオン」が、産別への加盟ができない中小・地場組合や個人の受け皿の機能を果たす。現行の地域ユニオンに加盟する組合・個人と、建設系労組を除く現在の特別参加組織・地方直加盟組織は、新「地域ユニオン」創設までに産別に移行できない場合、新「地域ユニオン」に加盟することになる。連合本部に置かれる「地域ゼネラル連合」が、各地方の新「地域ユニオン」のセンター機能を果たす。2026年1月からスタートさせる。

主な狙いは、各地域ユニオンでの組合員に対する支援を全国で平準化させること。また、会費を統一化し、「1人最低月額1,000円」という基準を設けた。

「賃上げが2年間での最も大きな成果」(芳野会長)

あいさつした芳野会長は、前期2年間の厳しい経済・社会状況を「コロナ禍」「物価高」「円安」の「三重苦」だったと表し、「それに打ち勝つため『賃上げ』『賃上げ』『賃上げ』と連呼しながら、春季生活闘争に挑んだ」と振り返った。

そのうえで、「目の前で起こった、この急性インフレを乗り越えるためには、賃上げすることが最も有効な解決策であることは明らかだ。しかし、この30年にわたる慢性デフレの日本では、賃金が上がるということを経験せずに過ごしてきた労働者が大勢いる。このことは、政府、経済界とも共通の認識となって、あの政労使の意見交換の場が設定され、大企業だけでなく中小企業でも賃上げが実現できるように、サプライチェーンにおける原材料費や労務費の価格転嫁の必要性が確認された結果、30年ぶりの高水準で賃上げが実現した」と述べた。

また、芳野会長は「すべての働く人に賃上げを実感してもらうための手段の1つとして、最低賃金を引き上げるということも重要で、春季生活闘争の結果は、過去最大の最賃の引き上げにつながった。長期にわたり苦戦してきた賃上げの取り組みが、様々な環境要因はあったものの、良い結果となり、2年間の取り組みの中でも最も大きな成果の1つとなった」とし、これまでの2年の在任期間での実績として賃上げの取り組みを高く評価した。

「ジェンダー平等・多様性推進は、本質的には人権問題」(芳野会長)

そのうえで、運動のあらゆる取り組みのプラットフォームとして、「ジェンダー平等・多様性推進の取り組み」と「社会的な対話」をあげた。芳野会長は、「見た目には、性別役割分担が払拭されているかのように見えても、中身が伴っていなければ、ジェンダー不平等が解消されるとは言えない。ジェンダー平等・多様性推進は、本質的には人権問題だ」と指摘。

「男性だからとか、女性だからとか、性別に関わらず、あるいは性的指向に関わらず、一人ひとりがその存在を尊重され、能力を発揮し、自己実現ができ、社会に参画することができることが望ましい社会だ。これまでの男性中心の社会を脱して、一人ひとりが尊重される社会に作り替えていくことは、私たち労働組合が担わなければならない課題の中でも、大きな1つではないだろうか」と呼びかけ、「そのためにも、まずは労働組合自身も他人ごとではなく、ジブンゴトとして取り組んでいこう」と、組合自身の積極的な活動の推進を呼びかけた。

あらゆる取り組みの基盤に社会的対話を

もうひとつ注力すべきこととして、「社会的対話」をあげた理由について、4月に公表した調査で、連合を身近な存在として感じているのは2割程度にとどまったことをあげ、「ほぼ、労働組合の組織率の範囲でしか連合は存在していないに等しいと自覚する必要がある」と指摘した。さらに、「良い取り組みであっても、身内で称え合うだけにとどまってしまっているのではないか、冷静に目を向けなければならい」などと述べ、「だからこそ、自分たちの外の世界とのコミュニケーション、つまり『社会的な対話』がこれからの連合には非常に重要なポイントになってくる」と主張。そのうえで、「連合を意識してもらい、身近に感じてもらうために、様々な方々との対話を大切にしていきたい」と強調した。

岸田首相も政府代表として出席

大会では政府代表として、岸田文雄首相が来賓あいさつした。岸田首相は、今年の連合最終集計の賃上げ率が3.58%と30年ぶりの高水準を記録するとともに、最低賃金の引上げ幅も全国加重平均で1,000円超となったことから、「ここに至る連合の皆様の多大な御尽力に敬意を表し申し上げます」と感謝の意を表明。また、「賃上げ、そして人への投資による経済の好循環を実現し、明日は今日よりも良くなると実感できる日本経済としていくため、引き続き皆様方とコミュニケーションを密に取りながら、全力で取り組んでまいります」と話した。自民党政権下で首相があいさつするのは2007年の福田康夫氏以来16年ぶりのこと。野党からは、立憲民主党の泉健太代表、国民民主党の玉木雄一郎代表も出席し、あいさつした。

女性役員比率が初めて40%を超える

役員改選では、会長は芳野友子氏(JAM)が留任し、事務局長も清水秀行氏(日教組)が留任した。会長代行は、松浦昭彦氏(UAゼンセン)が留任となり、もう1人の代行は前自治労委員長の川本淳氏に代わり、現自治労委員長の石上千博氏が就任した(任期はそれぞれ2年間)。全役員に占める女性比率は40.9%となり、連合結成以来、初めて40%を超えた。

新役員が承認された後のあいさつで芳野会長は、「今は多くの男性役員がいるが、(各組合は)女性役員にも勇気を持って声かけし、チャンスを与えて欲しい」と積極的な女性組合役員の登用を要望。また、「組合の外のみなさんに、組合運動がなかなか理解されていないことを実感した。連合のハードルを下げて、すべての労働者、生活者のための労働運動を続けたい」と抱負を述べた。