パートタイマーの賃上げは実質賃金を維持できたと評価/UAゼンセンの定期大会

2023年9月20日 調査部

UAゼンセン(松浦昭彦会長、186万7,000人)は13、14の両日、都内で定期大会を開催した。連合方針を上回る賃上げ方針で臨んだ2023労働条件改善闘争の賃上げ妥結結果について、全体としては「賃上げの大きな流れ」をつくったとしたものの、正社員組合員については「実質賃金の確保について十分にできたとは言えない」と総括。パートタイマーについては、「ベアに相当する賃金引き上げ分は物価上昇分を大幅に上回り、実質賃金が維持されている」と評価した。大会ではまた、そごう・西武労組のスト実施をめぐって、産別本部に対して多くの意見があがった。

正社員組合員の賃金の平均妥結額は1万512円(3.64%)

2023労働条件闘争では、UAゼンセンは賃金引き上げの方針で、「産業間・規模間・雇用形態間格差是正に引き続き積極的に取り組んでいくことを踏まえ、制度昇給等の賃金体系維持分に加えて4%程度、合計6%程度の賃金引き上げをめざす」こととした。賃金闘争の最終妥結状況をみると、正社員(フルタイム)組合員では、7月3日時点で1,342組合(闘争参加組合の75.1%)が妥結。制度昇給とベアなどを合わせた全体の賃上げ額の平均妥結額(加重平均)は1万512円(3.64%)で、前年と比較可能な1,294組合で前年と比較すると、4,369円(1.46%)の増加となった。

妥結組合のうち、全体の賃上げ額で総額5%以上を獲得したのは146組合(10.9%)。体系維持分が明確である組合で、3%以上の引き上げ(ベアなど)を獲得したのは83組合(19.7%)だった。要求に対して満額以上で妥結したのは238組合(17.7%)となっている。

格差是正の状況について、規模別での比較でみると、正社員組合員が300人未満である949組合の全体の賃上げ額の妥結平均額は8,013円(3.11%)で、300人以上(393組合)は1万933円(3.73%)だった。

部門別の状況をみると、全体の賃上げ額の妥結平均額は「製造産業部門」(591組合)が1万1,046円(3.71%)、「流通部門」(381組合)が1万308円(3.60%)、 「総合サービス部門」(370組合)が1万426円(3.67%)となり、前年と比較できる組合で集計すると、3部門ともに前年を上回った。

パートタイム組合員の賃上げ率は5%を超える

短時間組合員についてみると、パートタイム組合員では、374妥結組合の全体の時給引き上げ額(制度昇給+ベアなど)の加重平均は52.6円(5.08%)で、前年と比較できる341組合で前年と比べると30.5円(2.83%)上回った。

制度昇給分を区別できる184組合のベアなどの賃金引き上げ分は45.7円(4.40%)で、前年と比較可能な129組合の集計でみると、前年を29.5円(2.79%)上回った。

一方、契約社員組合員の全体の賃上げ額の加重平均は6,670円(3.07%)で(妥結組合数は143組合)、前年と比較可能な123組合の集計でみると、前年を3,225円(1.44%)上回った。

加盟組合の理解と真摯な交渉で賃上げの大きな流れをつくった

こうした結果をうけ、一般報告に盛り込まれた2023労働条件闘争についてのまとめは、「2022年度消費者物価指数の伸び率が約40年ぶりの3%超えとなったことやポストコロナなどによる人材不足、賃金水準の国際競争力低下等、近年にない環境変化の中での闘争となった」とし、「加盟組合の理解と真摯な労使交渉が賃上げの大きな流れをつくることにつながり、成果を挙げることができた」と振り返った。

正社員組合員の賃上げについては、方針で要求基準を前年などよりも引き上げた水準にしたものの、ベアなどの「賃金引き上げ分は2%台前半と2022年度の物価上昇分(3.2%)を下回る水準となり、実質賃金の確保について十分にできたとは言えない結果となった」と率直に評価。また、全体の賃金引き上げの妥結率の分布は「前年に比べ広がった」とし、「前年までとは全く違う観点で交渉が進められた組合と、前年までの流れを変えられなかった組合との差が反映している」とその背景を分析した。

規模間格差の縮小は果たせず

中小組合の賃上げについては、300人未満の組合のうち、全体の賃上げ率が5%を超えた組合が1割程度あった一方、3割程度の組合が全体の賃上げ率で2%を下回ったことをあげて、「結果として規模間格差の縮小は果たせていない」と総括した。

パートタイマーの賃上げについては、「先行妥結組合が高い妥結となり、平均を大きく押し上げた」とし、制度昇給とベアを合わせた「妥結総合計6%を超える組合が大きな塊となった」と言及。「ベアに相当する賃金引き上げ分は物価上昇分を大幅に上回り、実質賃金が維持されている」などとした。

共闘機能については、「特に先行組合が例年になく大きな塊となった」とし「妥結結果がマスコミ等でも大きく報道され、社会的な相場をけん引する役割を果たした」とした。

「実際には決して簡単な交渉ではなかった」(松浦会長)

松浦会長はあいさつで、連合の要求方針(体系維持分込みで5%)よりもUAゼンセンが高い要求方針(総額6%)としたことで「社会的に注目されたが、今回の賃上げの背景としての物価上昇は企業利益の増加を必ずしも伴わず、むしろ不十分な価格転嫁で苦しんでいる企業も多い実態にあり、実際に交渉を行う加盟組合にとっては、決して簡単なものではなかった」と、実際の交渉環境を振り返ったうえで、正社員の妥結平均が3%半ばで前年同月比1.4%増、パートタイマーが5%台で同2.8%増となった結果に対し、「経営環境的にはむしろ厳しい傾向もあるなかで、各加盟組合は本当によく健闘した」と述べた。ただ、同時に、大手と中小の格差は「残念ながら拡大した」と課題も口にした。

さらに、来年に向け、「厳しい妥結を受け入れざるを得なかった一つひとつの組合が、どうすれば来年賃上げを勝ち取ることができるのか、加盟組合と都道府県支部・部門・本部が一緒になって考え、手を打っていく必要がある。もし、賃上げできる体力があるのに『賃上げできない』という企業があるのであれば、争議行為も視野に入れて闘い方を考えておくことも必要だと思う」と持論を語った。

この1年間の組織化実績は約2万4,000人

今年は2年間の運動期の中間年にあたるため、2023・2024年度運動方針に沿った2024年度の活動計画を確認した。重点活動は、「200万UAゼンセン」を展望した組織化や、加盟組合の組織強化、短時間組合員に関する政策・運動の立案・推進などを掲げた。なお、2023年度の組織化は、合計で2万4,140人(新加盟組合25組合・1分会合計1万201人、企業内組織拡大30組合1万3,939人)。

また、「2025中期ビジョン」で掲げた4つの挑戦(「一人ひとりが希望する働き方を選択でき、能力を発揮し、十分な生活を営める雇用をつくる」など)に沿った活動も重点的に進める。

労働条件闘争を中心にした雇用や労働条件の取り組みでは、賃上げについて、「2023賃金闘争の流れを継続した賃上げへ向けて、年間をとおして社会的な合意形成や価格適正化の実現などの環境整備を進め、持続的に賃金と物価の好循環を実現できるよう取り組む」とした。

そごう・西武労組のスト実施についてあいさつで触れる

松浦会長はあいさつの冒頭で、傘下のそごう・西武労組が8月31日に実施したストライキについて言及した。9月7日に開かれた記者会見で、UAゼンセンが前面に立って支援する形をとらなかった理由として松浦会長が述べた内容のなかで、組合が加盟するテナントが西武百貨店に入っていたという発言が主に新聞記事に取り上げられたことについて、「(報道側の)誤認識があった」と釈明。

大会直前の中央執行委員会で単組から意見や質問が出たことを明らかにしたうえで、「そうなら、テナントを抱える流通(の単組)はストライキができないのか、UAゼンセンは、それらはすべて応援しないということなのか、といえば、そうではない」と否定した。

松浦会長は、UAゼンセンが従来、ストライキを実施してきた案件としては、賃上げや明確な合理化提案、組合の存続にかかわる不当労働行為などで、今回の件は「少し性格が違う闘いだった」ことや、「株式譲渡のスキームでの譲渡先に加盟組合の労使関係があったりしたなかで、UAゼンセンとして、今回、ストライキの指令を行う形をとらずに対応してきた」と中央執行委員会で説明した内容について、百貨店労組から「本当にこういうUAゼンセンの行動で良かったのか」「組織論はあっても、組織論をこえて、UAゼンセンの仲間としての支援の仕方、発信の仕方があったのではないか」という声があったと紹介。

これらの意見をうけ、松浦会長は、そごう・西武労組の労使協議はこれからも続くことから、今回出された様々な意見や、今後のそごう・西武労組の交渉ででてくると想定される提案などを考慮して、「UAゼンセンの交渉対応として、しっかりと検証し、その検証をふまえて行動に移していく」と話した。

UAゼンセンが前面に出るべきだったとの声が相次ぐ

ただ、一般報告の質疑応答では、あらためて、百貨店労組を中心に、本部に対する意見が相次いだ。「UAゼンセンがスト指令しなかったことは、われわれ執行部は残念だったと思っている」「UAゼンセンの動きが見えないという一定数の声が組合員からあがった」「スト通告時の会見にUAゼンセンはいなくて、百貨店労組のメンバーのみが行動した。これは異常事態だ。何のために産別があるのかと言われてもしょうがない」「(ストにあたり)UAゼンセンとしての対応があったら、少しでも違った形での行動が世論を動かしたと思う」「加盟単組の立場からは、UAゼンセンとしての動きがまったく見えず、見えないからこそUAゼンセンに対して不信感を抱かざるをえないような状況だった」など、UAゼンセンが前面に出るべきだったとの声が目立った。

また、質問として、UAゼンセンとして今後、どのような支援の具体的な行動をとるのか、UAゼンセンがそごう・西武の売却先であるフォートレス・インベストメント・グループに具体的にどのようなことを求め、行動するのか、などの発言がだされた。

産別としては売却決議の延期などを求めてきた

古川大書記長は「昨年の売却の報道以降、UAゼンセンとしてもそごう・西武労組、セブン&アイグループ労連と連携しながら、その労使協議、団体交渉の推移をそれぞれ、相談を受けながら対応してきたとともに、その間、雇用維持を最優先とした経営体制をセブン&アイHDに対しても求めてきた」「ストの最終局面では、売却決議の延期を含む経営判断も、セブン&アイHDに対して求めてきた」などと、UAゼンセンが行ってきた取り組みを紹介。

そのうえで、UAゼンセンが前面に出なかった理由について、松浦会長が説明した背景を繰り返したうえで、「直接の動きを行わないと判断した」とし、支援の仕方については「足らなかったかもしれないが、そごう・西武労組とも話を聞きながら、その内容についても、ストについても、アドバイスをさせてもらったところもある」と理解を求めた。

今後のUAゼンセンの取り組みについて、「実際にどう進めていくのかというと、そごう・西武労組の労使交渉、協議をしっかりと支えて、ということしかない。また、今回のUAゼンセンとして直接的にはスト実施を行わなかった背景・理由に関しても、いただいた意見を踏まえれば本当にそういう判断だけでよかったのか、加えて、持株会社、事業会社、M&Aといった環境変化があるなか、労使協議・交渉に対して加盟組合のそれぞれ労使がある、ホールディングスにまた労使があり、さらには売却スキームのなかにまた加盟組合がある、こういったなかで、今回のことを踏まえて、今後の対応についてどうしていけばいいのか早急に検討しながら、今後に生かしたい」などと答弁した。

「想像力が足りなかった」と松浦会長も自戒の念

松浦会長は、「やはり組織の理屈だけで動いては気持ちに添わないというところをしっかり考えないといけない。そういう意味では想像力が足りなかった、と率直に私自身、振り返るなかで受け止めたい」と自戒の念を表したうえで、今後について、「(報道でも述べた雇用確保を前提とした経営計画を提示させて早期収束させることを)『強く求めていく』という行動をとらないといけない。もちろん単組の窓口として流通部門があり、そしてUAゼンセン本部があるという連携のなかでやっていかなければならないが、私自身もこれまで以上にことの経過についてしっかりと毎回確認しながら、取るべき対応をとるという形で考えていきたい」などと話した。

一般報告は承認されたものの、反対が3票、保留が30票でる異例の展開となった。

大会ではこのほか、2025年7月に行われる第27回参議院議員選挙(比例代表)で田村まみ氏を組織内候補者として擁立することを決定した。