「参加と対話」型の運動をめざす組織変革プロジェクトの最終報告を確認/JAMの定期大会
2023年9月13日 調査部
金属、機械関連の中小労組を多く抱えるものづくりの産別労組、JAM(安河内賢弘会長、約36万7,000人)は8月31日から2日間、静岡県静岡市で第25回定期大会を開催した。組織変革プロジェクトの最終報告や2023年春季生活闘争総括を確認するとともに、向こう2年間の新運動方針を決定。組織変革プロジェクト最終報告では、組合員の単組やJAM本部、地協の活動への参加を促すため、日常的なコミュニケーションの促進や、レクリエーション活動を通じた組合活動の楽しさを伝える工夫などを提言した。役員改選では、安河内会長、中井寛哉書記長ともに再選された。
23春闘では「次元の違う水準の賃上げが実現」と総括
今年の定期大会では、2023年春季生活闘争総括、組織変革プロジェクトの最終報告などを確認するとともに、新たな運動方針を決定。役員改選も行った。
2023年春季生活闘争総括では、賃金改善額(5,330円)、平均賃上げ額(妥結額8,882円)ともに、1999年のJAM結成以来の最高水準となったことから、「これまでとは次元の違う水準の賃上げが実現した」と評価した。
しかしその一方で、賃金改善分が2022年の過年度物価上昇(総合)の3.2%に届かなかったことや、賃金改善額の分散が大きかったことを指摘し、「規模間、業種間、地域間の格差縮小の取り組みに課題を残した」と課題を述べるとともに、「物価上昇を背景とした賃金交渉に慣れていないため、組合員、執行部、使用者側の考え方に開きがあった」などの見方を示した。
あいさつした安河内会長は2023春季生活闘争について、「今次春闘はたいへん素晴らしい結果を残した」と各単組の取り組みに賛辞を示しながらも、過年度物価上昇率と、連合の最終賃上げ率に比したマクロの統計でみた実質賃金の状況から「春闘の波及力という意味では十分でない」と指摘。「やはり労働組合がなければ、賃金は上がらないということを世の中に伝える必要がある。日本経済を復活させるためには賃金を上げるしかない。そして、賃金を上げるために組織化を進めることが日本を救うことになることから、組織化を全力で進めなければならない」と強調した。
そのうえで、「賃上げは3年続けて当たり前、5年続けて本物だといえる。単組の状況をみると厳しい状況があるのは十分承知しているが、2024年以降も力強い方針を策定し、粘り強い『物わかりの悪い』交渉を継続してほしい」と述べた。
調整チームと作業チームに分かれて検討結果を報告
組織変革プロジェクトでは、昨年の定期大会で「作業委員会」が報告をまとめ、変革の方向として、「参加・対話型運動の構築」を図っていくことを提起した。作業委員会の報告では、地協の活性化と組合員の参加を大きな課題として整理した。なお、JAMには全国に105の地協がある。
昨年の定期大会以降、この方向性をもとに、「調整チーム」と3つの「作業チーム」を設置し、調整チームは財政面での課題や地方と本部の役割分担などを検討。作業チームは、地協の活性化や組合員の参加、発信の仕方や広報のあり方、人材育成などの具体策について検討した。
作業チームがまとめた最終報告に絞ってその内容をみると、地協などの活動については、地協が生き生きと活動できるよう、現状の「地協活動モデル」(活動や体制の基準を示したもの)の見直しや、地協の目的・役割、具体的な活動の見える化、発言しやすく参加しやすい雰囲気づくりなどを提言した。
単組や地協活動への組合員の参加を促進する方法としては、執行部による組合員全員との意見交換やレクリエーション活動、組合の基礎的な情報を得るための研修などを提案した
次年度に向けた具体的な行動としては、「地協活動モデル」改訂案の議論に入るほか、地協でのWEBを活用した会議の開催も検討する。
運動の見える化に向けては、内部では単組に寄り添った日常的なオルグで書記局員の姿を組合員に見せることや、教育の平準化などを提言。外部では、タイムリーな記者説明会やJAM主体でのデモ行進、ロビー活動などを掲げ、これらのための重点課題を ① 組織拡大 ② メディアへの発信 ③ 街宣行動――の3項目に設定した。広報では、何気ない生活のなかで「JAM」が目に留まるような取り組みや、戦略・戦術をもった広報、単組の成功事例の掲載などを提案した。
次年度に向けては、広報に特化した専門グループの設置や、組織拡大キャンペーンの実施、街宣行動を要望した。
大会の冒頭では、組織変革に向けて新たに制作した動画を代議員に披露した。安河内会長は、動画上映後、「常に変わり続ける組織にする。そのためにも組織化が必要だが、ただ組合員を増やせばいいということではなく、労働運動をしっかり進められる組織にすることが必要で、そのために必要となるのが参加と対話だ」と説明。「しかし、楽しくないと続かない」とし、楽しみながら多くの組合員が参加できる運動を目指す考えを示した。
職場の取り組みでは協約の点検や個別賃金要求などが柱
新運動方針の内容をみると、「職場に関する取り組み」として、集団的労使関係強化を掲げている。JAMは中小の単組が多いため、「組合と経営側が十分な労使協議を行わないまま雇用調整や事業再編など、雇用にかかわる提案を受け入れてしまう事例も散見される」として、労働協約の点検と整備・拡充、雇用の維持・確保および企業・経営問題に取り組む。具体的には、結成以来、10月~12月を労働協約の点検期間としているが、地方・地協活動のなかでの「労働協約研修会」の開催を推進するとした。
企業・経営問題では、「経営情報の開示」と「労使協議の場の確保と徹底」が重要となると述べて、決算書を開示させて分析するなどの取り組みをできるだけ多くの組合ができるよう日常の取り組みを強化することや、教育機材なども見直すとしている。
ブラック企業対策も掲げており、組合の弱体化を狙う企業や経営者、社会保険労務士に対して「毅然と立ち向かい、労働者の権利を守るために、組織の総力をあげて取り組む」としている。
賃金・労働条件については、引き続き個別賃金要求の推進・拡大などに取り組む。2023年春季生活闘争では高額の賃金改善を獲得できたものの、「分散は大きく、賃金水準が低い単組で十分な賃金改善ができなかった場合は、格差がさらに拡大したと言わざるを得ない」と述べて、物価上昇局面では「個別賃金の取り組みをこれまで以上に強化していかなければならない」と強調している。
単組活動の向上で解散・離脱を阻止
組織に関する取り組みでは、組織の解散・離脱が大幅に増加していることをかんがみ、「オルガナイザーと地協役員が一体となって単組活動を向上させ、地方JAM・地協活動を強化するとしている。
組織拡大では、2023年度は組織拡大実績が「10単組・612人」で、前年(6単組・307人)を上回ったものの、引き続き、組織化戦略「アタック50」で拡大領域として掲げた「有期契約労働者」「JAM加盟単組の関連組織」「未組織事業所および未組織労働者の組織化」「産別未加盟組織、業種別共闘に結集する中立組合」「『中小ものづくり産業』を結集軸とする産業別組織」――での拡大に向けた議論を地方・地協・単組を交え行う。
社会に関する取り組みでは、「価値を認め合う社会へ」の実現に向けた取り組みを今回も柱に掲げており、価格転嫁が進んでいない単組・企業を洗い出すとともに、ものづくり国会議員懇談会を通じた政府に対する対策強化の要請も行うなどとした。
6人の副会長のうち2人は女性
役員改選では、安河内会長(本部)、中井書記長(本部)が再選され、6人いる副会長のうち2人を女性が占めた。現会長・書記長体制はこれで4期目に入る。なお、副会長の顔ぶれは以下のとおり(以下敬称略)。谷口和雄(NTN)、渡邊雅也(コマツ)、上野都砂子(CKD)、秋山直宣(ダイキン工業)、中庭隆博(ヤンマー)、平山純子(コイト電工)。