社会的役割にふさわしい専門職としての賃金水準獲得を/日本医労連定期大会

2023年8月2日 調査部

日本医労連(佐々木悦子中央執行委員長、約14万6,000人)は7月18~20日の3日間、都内で定期大会を開催し、2023年度の運動方針を決めた。方針の柱は(1)賃金底上げと大幅賃上げ、(2)大幅増員、働くルールの確立、(3)安全・安心の医療・介護の実現、(4)いのちと平和を守る政治の実現、(5)20万人医労連の早期達成――を提示。社会的役割にふさわしい専門職としての賃金水準の獲得をめざす姿勢を強調するほか、安全・安心な医療・介護提供に向けた人員確保や環境整備、財政保障などを求めている。

運動促進が看護職員処遇改善評価料などの創設にもつながったと評価

あいさつした佐々木悦子中央執行委員長は、2023春闘で単組支部が前年以上にストライキに立ち上がったことや、本部・県医労連が過酷な労働実態について告発・署名活動を行い大幅増員、大幅賃上げを求める運動を進めてきたことに言及。その上で、2022年に実施された国家公務員医療職俸給表(三)級別標準職務表の改定や、看護職員処遇改善評価料、介護職員等ベースアップ等支援加算の創設は、「間違いなく私たちの運動による成果」とした。

一方、これらの制度がすべてのケア労働者の賃上げにつながっていないことも指摘。加えて、国でも看護職・介護職の人員確保に向けた処遇改善に取り組む必要性への意識が高まっているとして、「今こそ、大幅賃上げを実現するチャンス」と捉え、実現に向けて産別結集を強めることを訴えた。

生計費原則に基づく賃金要求の必要性を強調

新運動方針は、賃金底上げと大幅賃上げについて、これまでも必要性を訴えてきた生計費原則に基づく賃金要求への団結に言及。森田進書記長は、「物価高騰が続き家計支出が増えている今だからこそ、自分たちが生活していく上で必要な賃金がどれくらいかという視点を持つ必要がある」と強調した。

また、「社会的役割にふさわしい賃金水準」の実現に向けた診療・介護報酬上の医療・介護労働の正当な評価と財政保障を要求することを提示。そのほか、「8時間働けばまともに暮らせる賃金」という基本の要求を組合員の中にしっかりと意識づけるため、賃金に関する基本的な考え方の学習を広げ、意思統一を進めることを示している。

全労連が推進する「全国一律最賃1,500円」の取り組みに結集

最低賃金の取り組みでは、2020年度までの4年間で取り組んだ、看護師と介護職の全国を適用地域とした特定最賃(産別最賃)の新設を目指す「全国最賃アクションプラン」について、総括報告書において特定最賃新設の意義や地域最低賃金制度に向ける意識、生計費原則に基づく賃金の在り方への理解が進んだとする総括が多く示され、「取り組みの成果を確認することができた」と強調。一方で、全労連が推進する「全国一律最賃1,500円」の実現をめざす運動に集中するべきとの意見が多いことに加え、とりわけ賃金水準の低い介護職に関しては、全国一律最賃1,500円の実現が必然的に賃金底上げに直結することにもなるとの認識などから、「全労連が実現に向けたプランを定めている2024年7月までは、全力で全国一律最賃制度実現の取り組みに結集すること」を提起している。

ベアを獲得した組合数は既に前年最終実績以上に

2023春闘の要求提出状況は5月31日時点で、487組合中300組合(61.6%)と前年同期(72.7%)と比べて減少し、統一要請書提出も170組合(34.9%)と前年同期(51.7%)より減少した。一方、全医労が全支部指名ストライキに立ち上がり、124支部でストライキを決行したことが全体を牽引し、ストライキを決行した組合は222組合(25.1%)と、前年同期(5.0%)より大きく前進。決行までに至らなかったものの、ストライキ実施に踏みだそうとした単組支部の声も複数寄せられたとして、森田書記長は「2024春闘に向けて意思統一を深めていく」とした。

要求に対する回答状況をみると、同日時点で252組合・51.7%(前年最終実績363組合・75.0%)が回答を引き出しており、そのうち平均賃上げ額の回答があったのは138組合・54.8%(同171組合・47.1%)だった。ベア回答は62組合・12.7%と既に前年最終実績(同56組合・11.6%)を上回っており、「例年になかった回答数で、ストライキを構えてしっかり交渉した結果」(森田書記長)と総括している。なお、定昇込みの平均賃上げ額は平均5,100円・1.98%で、前年最終実績(4,982円・1.98%)に比べ、119円増となった。

新設された処遇改善制度の加算分を基本給へ反映させることを目指す

2022年10月より開始した「看護職員処遇改善評価料」「介護職員等ベースアップ等支援加算」の申請状況をみると、5月9日時点で、申請組合数のうちベアに反映できたのは看護職3組合・1.2%、介護職3組合・4.8%とごくわずか。一方、看護職242組合・98.8%、介護職59組合・95.2%が手当対応と回答しており、森田書記長は「一時的な手当ではなく、基本給へ転換していく取り組みを2024春闘に向けて打ち出す」との姿勢を示した。

また、「2.5カ月+α」を要求して交渉に臨んだ2023年夏季一時金の回答状況は、6月8日時点で、回答数が158組合(前年同期192組合)。正職員の単純平均は月数で1.537カ月(前年同期比0.043カ月減)、平均額は39万7,012円(同9,602円減)でいずれも前年同期より減少した。こうしたことを踏まえ、一時金については、「年間6ヵ月+α(夏季2.5ヵ月+α、年末一時金3.5ヵ月+α)」を基本として要求設定。算定基礎となる基本給が低く抑えられている実態から、最低保障額として「最低賃金協定要求月額(誰でも)×統一要求の月数(年間135万円以上(22.5万円×6ヵ月)+α)」とすることを提案している。

安全で行き届いた看護のための人員体制実現に向けて運動を強化

大幅増員、働くルールの確立については、慢性的な人手不足やコロナ禍による看護現場の負担や離職の増加を受けて、負の連鎖を断ち切るために「やりがい・喜びのある看護」への意識を職場で共有化する重要性を指摘。「安全で行き届いた看護」のための人員体制実現に向けた運動を強化することを強調している。

また、労働時間規制と、そのための人員確保・財政的裏付けについて、「厚労省、需給検討会、中央社会保険医療協議会などへの要請を強める」として、完全週休2日制や諸休日・休暇の完全取得、「1日8時間以内・勤務間隔12時間以上・週32時間以内」といった夜勤交替制労働などの条件がどこの職場でも実現し得る増員計画の策定を求めることを示した。

新興感染症拡大時でも対応できる病床整備や人員配置を求める

安全・安心の医療・介護の実現では、診療・介護報酬の見直しについて、「現場の医療・介護活動を正当に評価し、医療・介護現場の勤務環境改善に資する改定内容となるよう、関係団体への共同の働きかけや政府要請などを通年の取り組みとして検討する」と指摘。新興・再興感染症拡大の際にも対応できる病床・集中治療体制の整備や「余力」を持たせた人員配置、そのための財政保障を国に求めるため、医団連とも適宜協力しながら運動を進めることとした。

そのほか、2023年9~11月にかけて「いのちまもるキャラバン行動」に取り組み、全県での実施となるよう意思統一を強めることを提示。新型コロナ感染に直面して浮き彫りとなった国の社会保障抑制政策の転換を求めるほか、地域労連や社保協、共同する医療・介護関係団体や労働組合と連携して取り組むとしている。

安心して生活できる社会実現に向けてふさわしい量と質を持った組織の建設を目指す

組織拡大については、「いのちと平和を守り、社会保障の切捨てを許さない運動を広げ推進するためにも、日本医労連の組織を飛躍させることが必要」として、早期の組織数18万人の達成と、20万医労連に向けた前進を図ることを強調している。

組織人員数について、佐々木中央執行委員長は冒頭あいさつで、「4月には昨年を大きく上回る5,800人以上の新入職員が医労連の仲間に加わった」一方、「今大会時の組織数は16万3,186人と昨年に引き続き増員とはならなかった」と言及。「制度・政策に大きな影響を与え、医療・介護・福祉労働者が誇りを持って働き続けられる賃金・労働条件の改善や、国民が安心して生活できる社会を実現するために、ふさわしい量と質を持った組織の建設が求められている」として、組織拡大・強化に一丸となって取り組む姿勢を示した。

GNUへの加盟も決定

今大会では、アメリカやヨーロッパ諸国など33ヵ国39組織(2023年6月時点)が加盟しているGlobal Nurses United(世界看護師連合。略称GNU)に加盟することも決定した。これまで、総会などに出席するための渡航費用や時間的な拘束がかかる点などから加盟が見送られてきたが、コロナ禍を経てオンライン会議の導入が進んだことでその課題が解消される見込みが立ったと判断。また、日本の医療・介護の労働実態を国際的にアピールすることや、今後も起こり得る新興感染症のパンデミックなどの対策に向けて、「他国の医療・福祉労組と連携を図り、国際連帯の場に入っていくことが重要」との認識から、加盟に踏み切ることとなった。