賃上げ額は加重平均1万5,335円(4.62%)、年間一時金5.26カ月に/JEC連合定期大会

2023年7月21日 調査部

化学・エネルギー関連産業の組合でつくるJEC連合(酒向清会長、約11万6,000人)は7月13、14の両日、北海道札幌市で定期大会を開き、すべての働く仲間の立場に立った能動的な運動を展開していくことなどを柱とする向こう2年間の新運動方針を決めた。大会では、「2023春季生活闘争まとめ」も確認した。23春闘の賃上げ回答結果(5月末段階)をみると、回答額は定期昇給相当分を含めた加重平均で前年比7,357円増の1万5,335円(4.62%)。年間一時金は、加重平均で174万3,710円(5.26カ月)だった。「まとめ」は定昇込みの賃上げ率が 2022年度の物価上昇分を上回ったことを評価する一方で、賃上げ反映後の日本全体の実質賃金の動向を注視しつつ、次年度以降の取り組みにつなげていく必要性を指摘している。役員改選では、新会長に堀谷俊志副会長(三菱ケミカル労働組合)を選出した。

新運動方針は、「強固な絆で新たな一歩!」をスローガンに掲げたうえで、① すべての働く仲間の立場に立った能動的運動 ② 思いを共にする仲間と共に行動し仲間を増やし、減らさない運動 ③ それぞれの主体性を尊重した多様性のある組織 ④ 国内外の働く仲間と手を結び、社会から信頼される組織 ⑤ 社会と共存し持続可能で健全な産業の発展――の5つの柱を示し、それぞれについて、2024~25年度に取り組む具体的な内容を列記している。

すべての働く仲間の立場に立った運動を能動的に展開する

すべての働く仲間の立場に立った能動的運動については、「労働組合の社会的役割と責任を常に考え、すべての働く仲間の立場に立った運動を能動的に展開し、自由、平等、公正、包摂的な社会の実現をはかる」として、加盟組合へのサポート体制を通年で図るなど雇用を守る取り組みを充実させることに加え、春闘や格差是正の継続的な取り組みによる労働条件・処遇の維持向上、定年延長を基軸とした60歳以降の雇用安定と働きの価値にふさわしい処遇の実現、職場や労働組合におけるジェンダー平等の取り組みなどを進める。

「連合やJEC連合に加盟して良かったと感じられる対応を」(酒向会長)

共に行動し仲間を増やし減らさない運動では、組織拡大を「労働組合の社会的役割と自組織の強化であるとの認識のもと、最重要課題の一つ」と位置付け、「業種別部会・地方連絡会・加盟組合の取り組みを全体で支援しながら推進する」とした。具体的には、① 正社員を含む組織内の対象組合員を増やす ② 加盟組合の関連・関係企業の組織化 ③ 連合未加盟組織の組織化――等に取り組む。

酒向会長はあいさつで、仲間を「増やす」だけでなく「減らさない」運動を掲げたことについて、「現在のJEC連合の加盟人員は、実は創設時とほとんど変わっていない。(この間)大きな組織の加盟があったので、それがなければ大幅な人員減になっていた」ことを指摘したうえで、「加入者を増やしていくことはもちろん、いかに仲間を減らさないかが重要だ」と説明。「減らさないためには、加盟組合にとって連合やJEC連合に加盟して良かったと感じられることがポイント。加盟組合と日頃からしっかりとコミュニケーションをとりながら、加盟組合のニーズにできる限り応えるよう、痒いところに手が届く対応を心掛けていきたい」と述べた。

産別組織としての基本機能も強化。中小規模の加盟組合に対し、業種別部会と組織局が中心となってサポートに努めるほか、加盟組合に産業別組織の運動をわかりやすく迅速に情報伝達することや調査活動・各種教育研修の充実を図る。

業種別部会の垣根を越えた活動の重要性も指摘

主体性を尊重した多様性のある組織に関しては、JEC連合がネットワーク型組織として、① 石油 ② 化学 ③ セメント ④ 医薬化粧品 ⑤ 塗料 ⑥ 中小・一般――の6つの業種別部会を中心とした活動を展開していることを、「それぞれの立場を尊重し積極的に活動することが組織の強みだ」と指摘。その強みを活かしながら、それぞれの産業の特徴を網羅した① 賃金などの労働条件に関する取り組み ② 産業政策活動 ③ 加盟組合との連携・支援 ④ 組織拡大の推進等のさまざまな取り組みを実施する。

一方、各業種別部会が「部会の垣根を越え、JEC連合に集う仲間として一体感をもって活動していくことも重要」だとして、6部会合同執行委員会や2部会合同執行委員会を開催することも明記している。

化学・医薬化粧品産業の発展に向けた取り組みを推進

社会から信頼される組織では、「化学ならびに医薬化粧品産業の発展に向けた取り組み」も推進。化学産業については、「化学産業における課題解決や産業の発展には、より多くの働く者の声を社会に発信していかなければならない」として、今後もUAゼンセン製造産業部門化学部会との間で、「産業政策を中心とした連携を継続し具体的な活動を進めていく」考え。JEC連合との連携協定を解消し、連合を離脱した化学総連(大手化学メーカーの労組で構成、約5万人)に対しても、「化学産業の労働組合が連携し、より大きな力を生み出し、産業の発展に努めるためにも、引き続き連携についての協議を進めていく」としている。

一方、医薬化粧品産業における連携についても、2019年にUAゼンセンと共同で設立した産別横断的組織「ヘルスケア産業プラットフォーム」に参画して、「ヘルスケア産業の発展とそこに働く労働者の雇用と生活の安定に寄与していく」とする。

このほか、運動方針は持続可能で健全な産業の発展についても、「『雇用の安定確保』『職場の安全・衛生の確保』『総合労働条件の維持・向上』をはかるためには、『産業の活性化』『企業の健全な発展』が必須」だとして、政策の実現に向けて「行政・政党・議員・業界団体・他組織への積極的な働きかけをおこなう」ことなどを明記。さらに、JEC連合としてのエネルギー政策のあり方についても議論をスタートさせる方針を打ち出している。

初任給は要求組合の半数で前進回答を獲得

大会では、「2023春季生活闘争まとめ」も確認した。今春の賃上げ交渉の回答結果(5月末段階)をみると、回答を引き出したのは、昨年同時期より2組合多い143組合。そのうち、賃上げを獲得したのは、前年同時期より31組合多い110組合だった。回答額は、定期昇給相当分を含めた加重平均で1万5,335円(4.62%)、賃上げ額は同9,138円で、それぞれ前年を7,357円、6,704円上回った。

昨年との比較が可能な62組合でみると、定期昇給相当分を含めた回答額の加重平均は1万2,812円(4.57%)、賃上げ額は同8,473円で、こちらも前年を4,453円、6,377円上回っている。

年間一時金は、加重平均で174万3,710円(5.26カ月)で、月数は昨年(5.21カ月)を0.05カ月上回ったが、額(181万1,868円)は6万8,158円下回った。

このほか、初任給について要求した82組合の半数にあたる41組合が前進回答を獲得。引き上げ幅は、高卒8,156円、大卒9,086円、大学院卒9,272円となっている。

経済のステージを転換するには賃上げの継続が重要

「まとめ」は賃上げについて「定昇込みの賃上げ率は 2022年度の物価上昇分を上回った」ことを評価する一方で、「賃上げ分は 2.14%となっており、賃上げ反映後の日本全体の実質賃金の動向を注視しつつ、次年度以降の取り組みにつなげていく必要がある」ことも指摘。「経済のステージを転換するには、一度きりの賃上げでは不十分であり、継続することが重要。今年の取り組みや交渉結果などを土台として、国、地方、産業、企業の各レベルにおいて問題意識を深め『未来づくり春闘』を定着させていかなければならない」として、月例賃金にこだわった継続的な賃上げの必要性を強調している。

2023春闘の賃上げ状況について、酒向会長はあいさつのなかで、「2014年以降では最も高くほぼ30年ぶりという水準の賃上げが実現したことは、粘り強い交渉の成果でもあるし、労働組合が横でつながりながら連携し共闘した結果だ」などと主張。そのうえで、「春闘は点ではなく線でつながっていくもの。今回の賃上げを多くの仲間に広げること、また今年一過性ではなく中長期にわたって継続していくことが必要だ」と強調した。さらに、そのためには「24春闘が極めて重要になる」として「賃金が当たり前に上昇していく時代へのターニングポイントとするべく、JEC連合全体で一体感を持って臨んでいく」姿勢を訴えた

新会長に堀谷俊志氏を選出

大会では役員改選が行われ、退任した酒向会長の後任に堀谷俊志副会長(三菱ケミカル労働組合)を選出。寺田正人事務局長は再任された。

堀谷新会長は就任あいさつで「われわれは労働組合で、生産性を上げ利益を上げていくことが求められている団体ではない。人と人との関係を重視して、いい意味でのおせっかいを互いが焼き合う組織にしていきたい。いざというときの団結力・結束力がどこの組織より強い組織であり仲間でありJEC連合にしていきたい」と抱負を語った。