「未来につながる転換点となり得る」とする2023春季生活闘争中間まとめを確認/連合の中央委員会

2023年6月2日 調査部

連合(芳野友子会長、683万7,000人)は1日、都内で中央委員会を開催し、2023春季生活闘争の中間まとめを確認した。30年ぶりとなる高水準の賃上げを獲得した今年の交渉結果について、「労使が中期的視点を持って粘り強くかつ真摯に交渉した結果であり、未来につながる転換点となり得るものと受け止める」と評価。一方、「経済のステージを転換するには、一度きりの賃上げでは不十分」として、賃上げを継続することの重要性を強調した。

賃金改善獲得組合が昨年から614組合増加

中間まとめのベースとなる5月8日までの回答引き出し状況によると、要求を提出した5,988組合のうち、4,833組合が月例賃金改善(定昇維持含む)を要求。妥結済み組合は昨年同時期を356組合上回る3,686組合となっている。そのうち、賃金改善分を獲得した組合は、同比614組合増の2,146組合となっている。

平均賃金方式で要求・交渉を行い、回答を引き出した3,681組合の回答の加重平均は1万923円(3.67%)で、昨年同時期に比べ4,763円増(1.57ポイント増)。ベアや賃金改善などの「賃上げ分」が明確に分かる2,518組合の「賃上げ分」の加重平均は6,047円(2.14%)で、同比4,199円増(1.52ポイント増)となった。300人未満でみても、「賃上げ分」は5,104円(2.00%)と5,000円台に乗せた。

有期・短時間・契約等労働者の賃上げの賃上げ額は、時給では加重平均で56.48円(昨年同時期比31.94円増)。月給の加重平均は8,849円(同3,773円増)となっている。

30年ぶりとなる水準の賃上げが実現

これらの結果をふまえ、中間まとめは、評価の全体的な受け止めについて、「連合が賃上げに改めて取り組んだ2014年以降では最も高く、ほぼ30年ぶりとなる水準の賃上げが実現した」とし、「労使が中期的視点を持って粘り強くかつ真摯に交渉した結果であり、未来につながる転換点となり得るものと受け止める」とした。

また、こうした結果に結びついた要因について、経済社会情勢の面では「輸入インフレが国民経済を直撃するなかで賃上げへの期待が大きかった」「人手不足が顕在化し、人材の確保・定着を意識した企業間の競争が強まった」とし、社会的な問題意識の共有の面では、交渉の前段で経済団体などと問題意識を共有したことで「賃上げに向けた社会的機運の醸成をはかることができた」などと整理した。運動面では、各構成組織で「積極的な取り組みが行われた」などと振り返った。

そのうえで、「デフレマインドを完全に払拭し、積極的な人への投資によって実質賃金が継続的に上昇し経済が安定的に上昇するステージへの転換を確実なものとするためには、賃上げの流れを中期的に継続していくことが不可欠」と強調するとともに、そのためにも、適正な価格転嫁が十分に進んでいない中小企業でも継続的な賃上げができる環境をつくっていくことが必要だと明記した。

中小組合も全体的に健闘と評価

格差是正が進んだかどうかについての評価では、中小も賃上げ額・率ともに2014年以降で最も高くなっていることから「中小組合も全体的に健闘」としたが、上げ幅の分散度合いは昨年より大きいと分析し、「格差是正ができたところは一定数にとどまると推測される」と冷静に評価した。大手並みの賃上げに踏み切った中小企業もあった一方で、昨年並みの回答に終始したところもみられた背景については、「経営状況の違いや賃上げの必要性に対する認識の差などがあると考えられる」とした。

有期・短時間・契約等労働者の賃上げについては、引上げ率でフルタイム組合員を上回り、連合が時給の集計を開始した2000年代中盤以降で最大の引き上げとなったが、「『働きの価値に見合った賃金水準』をめざし引き続き格差是正に取り組む」とするとともに、法定最低賃金の引き上げを通じて未組織の労働者の賃金の底上げにも波及させる必要があるとした。

今次闘争は、物価上昇局面での交渉となったが、実質賃金を維持できたかどうかの評価については、「定昇込みの賃上げ率は2022 年度の物価上昇分を上回ったものの、賃上げ分は2.14%となっている。賃上げ反映後の日本全体の実質賃金の動向を注視しつつ、次年度以降の取り組みにつなげていく必要がある」との表記にとどめた。

一度きりの賃上げでは不十分

課題については、まず、「経済のステージを転換するには、一度きりの賃上げでは不十分であり、継続することが重要」として、今年の取り組みを土台にして、「国、地方、産業、企業の各レベルにおいて問題意識を深め、『未来づくり春闘』を定着させていかなければならない」とした。また、「今後も企業規模間、雇用形態間、男女間の格差是正にこだわりを持って取り組む」などとしている。

中小交渉の基盤となる価格転嫁の取り組みについては、①パートナーシップ構築宣言の拡大と実効性の確保②政府が進めようとしている「労務費の転嫁の在り方」についての指針作りへの意見反映③2023年3月「価格交渉月間」の結果などを踏まえた自主行動計画や業種ガイドラインの改訂・新設④中小企業などへの各種支援策の活用と拡充――など、政策と運動の両面からの取り組みを強化するとした。

2024春季生活闘争に向けては、「国民経済を安定的な成長軌道に乗せていくためにも、政労使で中期的・マクロ的な視点から問題意識を共有することが必要」だとし、「社会対話がより一層重要となっており、今後も経済団体との意見交換や政府会議体への参画などを通じ、『働くことを軸とする安心社会』の実現に取り組む」などとしている。

真のターニングポイントと評価できるかは継続できるか否かにかかる

中央委員会で挨拶した芳野会長は、「直近30年間で最高水準の賃上げが実現した。しかし、コロナ禍の影響により、業績がまだまだ回復途上の業界では、十分な賃上げができていないところや、価格転嫁が重要だと訴えてきたものの、それも十分に進んでいないところもある。したがって、2023闘争は、真の意味でターニングポイントであったと評価するためには、来年、再来年と賃上げを継続できるか否かにかかっていることを肝に銘じていかなければならない」と強調。

そのうえで、「持続的な賃上げは、最低賃金にも影響を及ぼし、労働組合に加入することが困難な人にとっても、私たちが交渉した結果は好影響をもたらすこと、さらには、労働組合に加入したり、新たに結成したりすることによって、もっともっと働く環境が改善されることを訴えていこう」と述べた。

中央委員会ではこのほか、地方連合会費と連合本部会費を一本化した「中央会費制度」とすることが柱となっている新会費制度の導入に向け、組織登録と交付金などのあり方について検討していた作業部会の最終報告を確認した。連合本部では、最終報告をもとに、組織登録と交付金などの取り扱いに関する執行部案を8月の中央執行委員会で提案する予定。