「これまでとは次元の違う水準の賃上げが実現」とする2023春季生活闘争中間総括を確認/JAMの中央委員会

2023年5月31日 調査部

金属、機械関連の中小労組を多く抱えるJAM(安河内賢弘会長、36万7,000人)は5月26日、都内で中央委員会を開催し、2023春季生活闘争の中間総括を確認した。現時点での回答集計では、賃金改善額、平均賃上げ額ともに、1999年の結成以来、最高の水準で推移しており、中間総括は「これまでとは次元の違う水準の賃上げが実現した」と評価。安河内会長はあいさつで「JAMが作った賃上げの流れは、未組織の中小企業で働く仲間にも大きな波及効果があった」などと話した。

結集度が高かった賃金改善要求額

中間総括は、今年の取り組みの概要・特徴点として、「賃金改善額、平均賃上げ額ともにJAM結成以来最高となり、これまでとは次元の違う水準の賃上げが実現した」とするとともに、「この結果を、一時的なものではなく歴史的転換点とすべく、今後も継続していかなければならない」と強調した。

ここまでの交渉における経過と結果について、賃上げに関する内容からみていくと、要求状況では、賃金改善分ありの単組の平均の賃上げ要求額(構造維持分+改善分)は1万3,009円で、改善分だけでみた平均要求額は8,469円。中間総括は、今年は、改善分について「9,000円~1万円未満」の水準で要求する組合が特に多くなっている状況を示したうえで、「賃金改善要求額への結集度は高かった」と振り返った。なお、JAMは、今春闘では改善分の要求基準を9,000円に設定した。

回答状況では、賃金改善獲得額は全体平均で5,320円。規模別にみると、「300人未満」の組合が5,003円、「300人以上」が6,296円となっている。中間総括は、改善額とともに、獲得単組数についても「これまでにない高水準」としている。また、5月中旬を過ぎても、中小を含めて5,000円以上を維持していることを特徴点としてあげた。

平均賃上げの結果では、要求額(1万2,307円)、回答額(8,886円)、妥結額(8,996円)ともに結成以来の最高の水準を記録している。

個別賃金は現行水準の開示は昨年から増加

賃金の絶対額の向上を図るために、JAMが力を入れている個別賃金の取り組みについてみると、個別賃金水準の開示件数は、30歳現行水準が522組合(前年同期差29組合増)、35歳現行水準が519組合(同32組合増)で、ともに昨年を上回ったものの、要求水準と回答・確定水準の件数は昨年を下回った。

回答水準は、30歳が改善額5,964円(水準にすると24万9,782円)、35歳が改善額6,188円(同27万6,393円)となっており、改善額は平均賃上げでの改善額の平均より高い水準となっている。

一時金については、「夏季一時金の月数は、要求、回答ともに、前年を上回っている」とする一方、規模によるばらつきが大きく、「中小・中堅労組のコロナ禍からの回復ペースは遅れている」としている。

企業内最低賃金については、回答額と未回答単組の現行額の平均額が昨年の16万4,800円から16万8,473円に上昇したが、2023闘争方針で設定し、昨年方針から2,000円引き上げた年齢別最低賃金(18歳)の16万9,000円には届かなかった。

方針の改善額を超える要求単組は70%超

共闘体制の強化の取り組みについては、「早期から春季生活闘争の議論を開始し、要求前段の取り組み強化をはかった」結果、「結果として、JAM方針の改善額を超える要求単組は70%を超え、2014年以降の30%から40%を大きく上回り、要求の結集度は高まった」と評価。統一要求日の要求提出状況は、「5割を超えて高くなっている」とした。

また、大手で構成し、先行回答を引き出す「共闘登録単組」が「高額の早期回答引き出し」を実現したことで、「賃上げ機運の醸成と相場形成に寄与した」とした。

物価上昇局面の賃上げの考え方でばらつきも

今後の課題について、まず、個別賃金要求の取り組みについては、「物価上昇の有無にかかわらず取り組みを強化していく必要がある」とし、地方JAMによる単組サポート強化や賃金調査の継続と拡大などを継続するなどとしている。

相場形成と共闘体制の強化に向けては、「これまでと次元の違う5,000円を上回る回答を得ることができた」ものの、回答額の分散が大きかった理由として「価格転嫁や企業業績に加え、物価上昇局面の賃上げに対する考え方について、企業、組合ごとにばらつきが大きかったことも挙げられる」と分析。また、「物価上昇を背景とした賃金交渉に慣れていないため、個別労使の組合員、執行部、使用者側の考え方に開きがあった」との見方を示した。

実質賃金の維持について、「組合員の生活防衛の観点から正当な要求根拠であり、当然、獲得すべきであることについて労使の認識をさらに一致させていく必要がある」とし、「物価上昇局面では、共闘登録単組の取り組みや単組オルグによる相場形成と共闘体制の強化がこれまで以上に重要となる」と相場波及の重要性などを訴えた。

「来年以降もベア春闘を続ける」(安河内会長)

あいさつした安河内会長は、ここまでの賃金改善の獲得について「物わかりの悪い春闘」を粘り強く続けた結果だとし、「JAMがつくった賃上げの流れは、未組織の中小企業で働く仲間にも大きな波及効果があったと考えている」と評価した。

その一方で、今後も賃金が上がり続けることが常識である点や、地方の中小企業の再生の必要性などを訴え、「今次春闘が『大転換となる歴史的春闘』となったわけではない。『大転換となる歴史的春闘』にしなければならない。そのために来年以降もベア春闘を続けていかなければならない。2024年春闘の議論はすでに始まっている」と強調した。

2025年参議院選挙の組織内候補者を決定

中央委員会ではこのほか、2024・2025年度運動方針の骨子や、2025年に行われる第27回参議院議員選挙への対応を確認した。

第27回参議院議員選挙への対応では、組織内候補として、郡山玲氏を擁立するとした。郡山氏は、JAM加盟単組の武蔵精密労働組合の元執行委員長で、現在はJAM本部の政治センターに所属している。なお、所属政党については「関係各所への調整を進め、早急な決定をめざす」としている。