自動車総連のメーカー部会、電機連合の中闘のすべての組合が要求に対する満額回答を引き出す/金属労協の各産業での先行回答状況

2023年3月24日 調査部

金属労協に加盟する自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の各大手組合の賃上げの先行回答では、組合要求に対する満額回答が相次いだ。トヨタや日産の労働組合などを含む自動車総連のメーカー部会12組合では、すべての組合で要求満額を獲得。産別統一闘争を展開する電機連合の中闘組合は、揃って要求どおりの7,000円の改善額を引き出した。基幹労連に加盟する三菱重工や川崎重工などの総合重工組合は、賃金改善1万4,000円の満額回答を引き出した。

<自動車総連>

トヨタでは第1回協議で事実上の決着

自動車総連では、トヨタや日産など11の大手自動車メーカー労組に、日本発条労組を加えた「メーカー部会」12組合が、金属労協の集中回答日までの回答引き出しをめざした結果、賃上げについては、すべての組合で要求に対する満額を獲得するという異例の決着となった。

各組合の要求額は、平均賃金で、トヨタは、「事技職の指導職」で9,370円引き上げ、「業務職の業務職1級」で4,670円引き上げ、「技能職のEX級」で5,470円引き上げ。日産は、総額で「平均賃金改定原資1万2,000円」。本田技研労組は総額で1万9,000円。三菱自工とマツダが総額で1万3,000円の引き上げなど。トヨタでは、2月中旬の第1回労使協議会で会社側が早々と満額回答の意思を組合側に伝え、2年連続での回答日を待たない事実上決着となった。早期決着となったのはこのほか、日産、ホンダ、三菱自工など。

ヤマハ発動機では、組合側は「賃金改善分7,000円(総額1万3,400円相当)」を要求していたが、会社側は要求を上回る「総額1万5,400円(賃金改善分9,000円)」を提示し、組合側がこれを受け入れた。

一時金は、12組合中、10組合が要求に対する満額を獲得。主な回答結果をみるとトヨタが6.7カ月、日産が5.5カ月、ホンダが6.4カ月などとなっている。

3月15日の記者会見で自動車総連の金子晃浩会長は、今年は自動車総連として、①2019年から進めている絶対額を重視した取り組みを、大きな環境変化があるなかでも引き続き確実に行う②足もとの物価上昇についてもしっかり職場の状況をふまえた要求をしていく③これらを組合員だけでなく、同じ職場で働く仲間や、組合のない企業で働く労働者、取引先にも広く波及させていこう――という3つの観点を念頭において取り組んだとし、「交渉過程ではこうした組合の主張に対し、例年以上に会社側の理解があったが、業績の厳しいところ、中小では、十分にわれわれの求める水準の回答は難しいと慎重な姿勢に終始したところもあった。こうしたなか、12組合すべてで要求に沿った回答が得られたことは非常に評価している」と述べた。

早期回答が相次いだことについては、「今年は本当に異例の年だったが、プラス効果は間違いなくあった」とし、JC内での相乗効果にもつながったとの見方を示した。

<電機連合>

歯止め5,000円以上から交渉を追い上げ、7,000円引き出す

中闘組合が産別統一闘争を展開する電機連合では、パナソニックグループ労連、日立グループ連合・日立製作所労組、全富士通労連・富士通労組、東芝グループ連合・東芝労組、三菱電機労連・三菱電機労組、NECグループ連合・日本電気労組など12中闘組合が揃って、「開発・設計職基幹労働者」(30歳相当)の個別ポイントで7,000円の水準改善を要求し、12組合すべてで要求どおりの7,000円の回答を受けた。中闘組合の賃金体系維持分はおおむね6,000円~8,000円であることから、賃上げ額全体を率にすると、4~5%程度になるという。

電機連合では、13日に、中闘組合が闘争行動に移るかどうかを判断する回答額の下限、いわゆる「歯止め基準」を「5,000円以上」に決定。最終的には、歯止め基準をすべての中闘組合がクリアするどころか、満額まで交渉を追い上げることに成功した。

産業別最低賃金(18歳見合い)では、NECグループ連合・日本電気労組が現行水準から1万2,500円、全富士通労連・富士通労組が同9,500円の引き上げを獲得し、この2組合以外は7,000円引き上げで決着した。一時金は、要求・交渉方式をとる日立グループ連合・日立製作所労組が「6.1カ月+特別加算3万円」、三菱電機労連・三菱電機労組が「5.8カ月」などとなっている。

電機連合の神保政史委員長は3月15日の会見で、賃金の回答結果に対する受け止めとして、「経営側と人への投資の重要性を確認して、導き出した回答であり、高く評価したい」とコメント。歯止め基準を5,000円以上としたにもかかわらず、全中闘組合で7,000円を獲得できたことについて、「中闘組合間の連携を密にしたことが、最終的に満額回答につながった」と話した。

<JAM>

JAM結成(1999年)以来、「ダントツの数字」(安河内会長)

機械・金属関連をカバーするJAMの大手先行組合では、島津が「賃金構造維持分7,069円+賃上げ1万1,200円」の総額1万8,269円、シチズンが「賃金構造維持分7,200円程度+賃上げ1万円」の総額1万7,200円、日本精工が「賃金構造維持分5,943円+賃上げ9,000円」の総額1万4,943円、コマツが「賃金構造維持分6,250円+賃上げ1万2,149円」の総額1万8,399円(うち2,149円は再雇用者・非正規改善分)などの回答を引き出した。
 今季の方針は、賃上げ分を9,000円基準としていた。

JAMでは加盟組合の中小組合の割合が高く、8割以上を300人未満の組合が占める。中小の交渉はヤマ場以降に本格化するが、17日までの回答集計では、300人未満の組合で、賃金改善分が明確に分かる組合での賃金改善分の平均獲得額は4,915円(195組合が獲得)となっている。昨年の最終集計(2022年6月)での同額が2,012円だったことから、中小でも獲得額は大幅に増加している。

JAMの安河内賢弘会長は3月15日の記者会見で、15日までの賃上げ回答結果について「JAM結成(1999年)以来、ダントツの数字であり、歴史的な回答が出た」と表現。「JAMの先行単組のみならず、JCMの先行組合が力強い道を開いてくれた。その道のど真ん中を中小労組が歩いて行きたい」と語った。

<基幹労連>

非鉄総合でも満額や満額を上回る回答

鉄鋼、造船重機、非鉄などの業界をカバーする基幹労連では、総合重工と非鉄総合の大手組合が、2023年度の賃上げ交渉に臨んだ。なお、日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼の鉄鋼大手は、昨年の交渉で2022年度・2023年度の2年分をまとめて交渉して決着している(2022年度3,000円、2023年度2,000円の賃金改善)。

総合重工では、三菱重工、川崎重工、IHI、住友重機械、三井E&S(マシナリー)、キャタピラー日本(製造)、日立造船の各組合が揃って、賃金改善分だけで1万4,000円を要求し、三井E&S(マシナリー)以外では、満額回答を受けた。総合重工での満額結着は1974年以来49年ぶりとなる。なお、基幹労連によると、総合重工各社の賃金構造維持分は6,000円。三井E&S(マシナリー)では、満額に届かなかったものの経営側は1万円の賃金改善を回答した。

非鉄総合では、三菱マテリアル(要求額:賃金改善3,500円)、DOWA(同賃金改善3,500円)、三井金属(同賃金改善4,000円)で、経営側が組合要求どおり回答。三井金属ではさらに、経営側が「生活順応手当4,000円」も追加回答した。住友金属鉱山では、組合側が物価上昇手当として6,000円以上を求めていたが、会社側は要求を上回る同手当1万円を回答した。JX金属では、「インフレ手当支給および直長手当増額(1万円/月・人)」を組合側が求めていたが、経営側は、それらを6,543円で回答した。

基幹労連の神田健一委員長は3月15日の記者会見で、「大変革期にあるなかで、ものづくりの技術・技能の伝承、イノベーションの推進に欠くことのできない人材の確保と定着、その先を見据えた人への投資、引き続きの賃金改善の重要性、これらも含めたサプライチェーンの強化、生活の安定・安心を支えるなどの観点から、これらを労使共通のものとして真摯に論じ合い、知恵を出し合いながら、実のある結果として引き出したものであり、高く評価する」と総括した。

<全電線>

電線大手4社すべてで満額か満額以上

全電線の古河電工、住友電工、フジクラ、昭和電線の大手4社では、すべての組合で満額か満額以上を獲得。古河電工が個別賃金で6,000円の賃金改善、住友電工が平均賃金で9,000円の賃金改善、フジクラが同9,100円の賃金改善(組合要求は9,000円)、昭和電線が6,000円の賃金改善となっている。

全電線の佐藤裕二委員長は3月15日の記者会見で、「われわれの要求に対し、経営側も真摯に向き合い徹底した話し合いのもと、回答に至った。4単組すべてで要求に沿った回答がでるという近年にない良い流れを中堅・中小組合の波及させたい」と語った。