昨年、鉄鋼大手が獲得した賃金改善分を含む8,700円以上の賃上げをめざす/基幹労連の中央委員会

2023年2月15日 調査部

鉄鋼、造船重機、非鉄などの業界の労働組合でつくる基幹労連(神田健一委員長、26万8,000人)は8日、都内で中央委員会を開催し、AP23春季取り組み方針を決定した。2023年度の賃金改善の要求基準について、昨年度の方針で2023年度について「3,500円以上を基本とする」としていた内容にもとづき、「3,500円以上を基本」とすることを再確認した。神田委員長は、今春、賃金交渉する組合に対し、昨年、鉄鋼大手が獲得した賃金改善分2,000円を含む2023年度の総賃上げ額の8,700円を土台に上積みを目指してほしいと訴えた。10日の集中要求日では、三菱重工などの総合重工7組合が揃って1万4,000円の賃金改善を経営側に要求した。

今年度は2年サイクルの「個別改善年度」にあたる年

基幹労連では、春の労使交渉の取り組みを「AP春季取り組み」と呼んでいる。APとは、「Active Plan」の略。産別全体として賃上げに取り組むのは2年に1度とする「2年サイクル」方式をとっており、2年間の前半年にあたる年を「総合改善年度」と位置づけ、この年に全体として2年分の賃上げ交渉に取り組む。後半年にあたる年は、「個別改善年度」と位置づけており、「年間一時金」と、グループ関連や中堅・中小企業による「格差改善」が取り組みの中心的となる。ただ、部門・部門内の部会がまとまりをもって、1年ごとに賃上げ交渉を行う方式も認めている。

今年は「個別改善年度」にあたる年で、昨年が「総合改善年度」だった。昨年の取り組み方針では、賃金の要求について、「基幹労連が一体となって、2022年度・2023年度のなかで2年分の賃金改善要求を行う」こととし、要求額を「2022年度3,500円」「2023年度3,500円以上を基本とする」と設定。そのうえで、「具体的には部門・部会のまとまりを重視して要求を行う」とした。

日本製鉄やJFEスチール、神戸製鋼の大手3社が所属する鉄鋼部門「鉄鋼総合」部会の各組合は、昨年は、揃って「2022年度3,500円」「2023年度3,500円」の賃金改善を要求し、「2022年度3,000円」「2023年度2,000円」で妥結。三菱重工などの船重部門「総合重工」部会の各組合は、揃って2022年度だけの賃金改善に取り組み、3,500円を要求して1,500円で決着した。三菱マテリアルなどの非鉄部門「非鉄総合」部会の各組合も、揃って2022年度だけの賃金改善に取り組み、3,500円を要求。三菱マテリアルが1,000円、住友金属鉱山が「別途協議」などと、回答が分かれる結果となった。

賃金改善要求する組合は成果につながる取り組みを展開

今年の方針は、基本的考え方のなかで、「個別改善年度」にあたることから、「『年間一時金』と『格差改善』を主要な取り組みとする」とするとともに、「賃金改善に取り組む組合は、AP22春季取り組みの評価と課題(総括)にもとづき、部門・部会のまとまりをもって成果につながる取り組みを展開する」と記述した。「格差改善」の取り組みの効果をあげるために、「中央本部は、部門・部会の取り組みを強力に支援する」「総合組合は、グループ・関連組合や業種別組合に対し、積極的な支援を行う」ことも掲げた。

また、産業にふさわしい賃金水準を確保するため、「『実質賃金の維持』『経済の成長成果の配分』『相場賃金の確保』という3つの原則もふまえながら、金属産業トップクラスの維持・確保にむけ取り組んでいく」とし、「2022年度の消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合)は2%台後半と予想されており、物価上昇による家計への影響をふまえ、働く者の生活を維持・向上させることが必要」だとして、物価上昇を念頭に置いた賃上げの重要性も強調した。

「鉄鋼が昨年引き出した8,700円を土台に上積みを」(神田委員長)

賃金に関する取り組み方針の具体的な内容をみると、賃金改善については、昨年方針にもとづき、「3,500円以上を基本とし、働く者の生活を維持・向上させることをふまえ、部門・部会でまとまりをもって取り組む」とした。また、「具体的な配分にあたっては、基本賃金項目への配分をめざしつつ、課題解決の視点もふまえ、最も効果的なあり方を各組合で追求する」とした。昨年、賃金改善の交渉で「別途協議」「継続協議」に終わった組合は、今年の取り組み期間を通じて解決を図るとした。

中央委員会であいさつした神田委員長は「各部門・部会のまとまりのもとで総合改善年度のAP22春季取り組みに取り組んできた結果、鉄鋼部門では2年間の回答を引き出し、2023年度については、基本賃金2,000円+賃金構造維持分6,700円の月額8,700円の賃金改善を労使合意した。このことをふまえ、業種別、グループ・関連組合は、2023年度分として具体的に示された8,700円という数値を土台に格差改善の上積みを目指してほしい」と述べるとともに、「単年度で取り組む総合組合は、すでに4%、具体的には1万円~1万4,000円という改善を掲げると聞いている。掲げた要求を必ず引き出す努力とともに、グループ・関連への支援も並行して行ってほしい。すでに2023年度の賃金改善を勝ち取った総合組合は、あらゆる方策を駆使して業種別、グループ・関連の回答押し上げに傾注することとし、当然、本部はもとより、全体で支えていく構図をつくりあげる」と強調した。

企業内最低賃金はJCM目標の17万7,000円をめざす

企業内最低賃金については、金属労協がJC共闘の最低到達目標として設定した月額17万7,000円(時間あたり1,100円)と、最低到達目標を達成した組合が中期でめざす中期目標である月額19万3,000円以上(同1,200円以上)の達成に向けて取り組むとしている。要求額は、適用される法定最低賃金が年率3%の引き上げとなることを想定して、「優位性が担保できる水準とする」とし、最低でも時間額で法定最賃に30円以上をプラスした額とすることを基本とするとした。

年間一時金については、構成要素を「生活を考慮した要素」と「成果を反映した要素」とし、「生活を考慮した要素」については年間4カ月(額では120~130万円)程度とし、「成果を反映した要素」については、要求方式ごとに方針が示す水準以上を目指すことができる組合は「増額に取り組む」とした。各要求方式の具体的な要求基準をみると、「『金額』要求方式」では「生活を考慮した要素」を120~130万円とし、「成果を反映した要素」を「40万円を基本に設定する」とした。「『金額+月数』要求方式」では、「40万円+4カ月を基本とする」とし、「『月数』要求方式」では、「5カ月を基本とする」とした。

労災付加補償では死亡弔慰金3,400万円への到達をはかる

「格差改善」の取り組みでは、月例賃金については、「条件の整う組合」が取り組むとし、自組合が所属する業種別部会や自組織の実情に応じて設定するとした。速やかに改善すべき項目に定めている「年次有給休暇付与」では、人材確保の観点もふまえ初年度付与日数20日以上を求める。「労災・通災付加補償」では、労災付加補償については「死亡弔慰金3,400万円への到達をはかる」とし、通勤途上災害補償については「労働災害付加補償の1/2である1,700万円への到達をはかる」などとした。

交渉体制では、中央戦術委員会を設置し、部門・部会のまとまりをもって相乗効果を発揮するため、中央戦術委員会の確認のもとに、必要に応じ、合同業種別戦術委員会を設置する。また、業種別戦術委員会間の情報交換や戦術の調整を機動的に行うため、中央戦術委員会の確認のもとに業種別戦術委員長会議を設置する。

総合重工大手7組合は1万4,000円の賃金改善を要求

方針討議では「鉄鋼総合組合として、月額8,700円を土台に、グループ・関連はもとより、2次、3次も含めた組合にも賃金改善を波及するべく、強力に支援する」(JFEスチール)、「職場で奮闘する組合員の生活の安心・安定、モチベーションの維持・向上の観点と、組合員の期待に応え、将来に向けた優秀な人材の確保と定着のための『人への投資』を追求し、賃金改善の意義をしっかりと経営側に伝え、成果を得るべく最大限努力する」(川崎重工)、「部門・部会のまとまりだけでは、物価が上昇している局面では外部・内部へのメッセージとしては弱い。産別として賃金改善の方針を広く社会に伝えることによって、大きなうねりをつくる必要がある」(IHI)などの決意表明、意見が出された。

集中要求日は2月10日(金)とし、同日、三菱重工、川崎重工、IHI、住友重機械、三井E&S(マシナリー)、キャタピラー日本(製造)、日立造船の総合重工大手7組合は揃って、1万4,000円の賃金改善を経営側に提出した。また、非鉄大手組合では、三菱マテリアルが3,500円以上、住友金属鉱山が「6,000円以上(物価上昇分として)」、三井金属が4,000円、DOWAが3,500円の賃金改善をそれぞれ要求し、JX金属が「インフレ手当支給および直長手当増額(1万円/月・人)」を要求した。