「開発・設計職基幹労働者」ポイントで7,000円以上の水準改善を統一要求基準とする闘争方針を決定/電機連合の中央委員会

2023年2月1日 調査部

電機連合(神保政史委員長、56万5,000人)は1月26日、都内で中央委員会を開催し、2023年総合労働条件改善闘争方針を決定した。大手電機メーカーで構成する中闘組合の賃金の統一要求基準について、「開発・設計職基幹労働者」の個別ポイントで、現行水準を7,000円以上改善するとした。昨年方針に比べると、4,000円高い基準。電機連合が、統一要求基準で7,000円以上の水準を掲げるのは、1998年の闘争以来25年ぶり。

中闘組合合計の売上高、営業利益ともに増加

電機連合では、① 生産性 ② 労働市場 ③ 生計費――の3項目を、賃金を決定する要素に設定している。生産性では、国内景気(GDPなど)や企業の景況感、生産の状況などが判断材料となるが、2022年度の実質GDPはプラス2.0%(日本銀行展望レポ-ト10月)と公表されており、「業況が良い」とする企業が「業況が悪い」とする企業を上回っているとのデータもある(日銀短観)。電機・電子産業の国内生産高累計は12兆円を超える水準にある。

労働市場については、雇用や賃金の動向を判断材料としているが、方針は、実質賃金指数が2022年度に入り減少傾向にあるとともに、9月の前年比では1.2%の減少となったことを指摘した。また、日本の賃金水準が2000年から20年間にわたりほぼ横ばいで推移しており、額はOECD平均を下回っていると指摘。生計費については、企業物価指数、消費者物価指数がそれぞれ対前年同月比でプラスとなっている点や、消費者マインドが弱っていることに言及した。

方針はまた、電機連合に加盟する大手12組合の企業業績の動向を紹介。12社合計の売上高は40兆5,250億円で前年度実績に比べ5.6%増。営業利益は2兆6,360億円で同3.4%増となり、業績回復が鮮明となっている状況をデータで示した。中闘組合企業の財務状況も引き続き安定傾向にあると指摘した。

7,000円以上の水準改善を掲げるのは1998年以来

こうした闘争を取り巻く情勢と、連合・金属労協の方針をふまえ、電機連合の闘争方針は、「電機連合は今次闘争の意義を、『「生活不安、雇用不安、将来不安」の払拭と、電機産業の魅力と働く者のモチベーション向上に向けて、積極的な「人への投資」に取り組む』と位置づけ、働くすべての労働者への社会的な波及と経済の好循環に向けて積極的な賃金水準の引き上げに取り組む」ことを基本方針のなかで表明。賃金要求については、「賃金体系維持を図ったうえで積極的な賃金水準の引き上げに取り組む」と記した。

賃金から具体的な要求内容をみていくと、統一要求基準では、「開発・設計職基幹労働者賃金」の個別ポイント水準を7,000円以上改善することを掲げた。昨年方針(3,000円以上)よりも4,000円高い水準。なお、同ポイントを年齢要素にすると30歳相当にあたる。電機連合が賃上げの統一要求基準で7,000円以上の水準を掲げるのは、高卒・技能職の35歳標準労働者の個別ポイントで7,000円のベースアップを掲げた1998年の闘争以来、25年ぶりのこと。

大手メーカーで構成する中闘組合は、この統一要求基準に沿って要求額を設定することになる。電機連合は「産別統一闘争」方式を採用しており、中闘組合がそれぞれスト権を構え、スト指令権を中闘委員会(電機連合委員長が委員長)に委譲。そのうえで、要求から交渉日程、妥結まで足並みを揃えて、経営側との交渉・協議にあたる。中闘組合は、パナソニックグループ労連、日立グループ連合、全富士通労連、東芝グループ連合、三菱電機労連、NECグループ連合、シャープグループ労連、村田製作所グループ労連、富士電機グループ連合、OKIグループ連合、安川グループユニオン、明電舎の12組織で構成する。

産別最低賃金も現行水準を7,000円引き上げる内容

いわゆる企業内での最低賃金協定である「産業別最低賃金(18歳見合い)」の水準改善も統一要求基準とし、17万3,500円以上に改善することを掲げた。これは現行水準を7,000円以上引き上げる内容。産業別最低賃金については、昨年の闘争後も産別労使交渉の労使(電機連合と電経連加盟の大手6社の経営側)で、その認識に関する協議を継続実施。協議の結果、今次闘争以降、おおむね3年をかけて、産業別最低賃金の水準を高卒初任給の水準に準拠させていくとの認識を労使共有事項とすることを確認した。

闘争行動を背景としない統一目標基準の取り組み項目では、「製品組立職基幹労働者賃金」(35歳相当)や、年齢最低別最低賃金、高卒初任給、大卒初任給、技能職(35歳相当)ミニマム基準があるが、「製品組立職基幹労働者賃金」の水準引き上げについては、「『開発・設計職基幹労働者賃金』の水準改善額に見合った額」とした。年齢別最低賃金では、25歳と40歳で設定し、25歳については「18万8,500円以上の水準に改善」(現行水準に対して4,000円の引き上げを念頭に設定)とし、40歳については「23万6,500円以上の水準に改善」(同5,000円の引き上げを念頭に設定)とした。

高卒初任給については、「17万6,000円以上の水準に改善」(同5,000円の引き上げを念頭に設定)とし、大卒初任給については23万円以上の水準に改善」(同5,000円の引き上げを念頭に設定)と設定した。技能職群(35歳相当)ミニマム基準は21万円とした。

一時金は統一要求基準で、「平均で年間5カ月分を中心とし、『産別ミニマム基準』として年間4カ月を確保する」とした。

「物価上昇をふまえた水準改善の実現を」(神保委員長)

神保委員長はあいさつで、「2014年から、生活安定を図り、個人消費を喚起し、経済を好循環させることを要求根拠にして、賃金水準の改善に取り組んできた。2014年以降、9年連続で賃金水準の改善を実現し、一定の成果をあげてきたが、全体をみれば、依然として日本の賃金水準はOECDのなかでも低位にあり、継続的に水準改善を図る必要がある」としたうえで、「昨年からの急激な為替変動や物価の急上昇が私たちの生活に大きな影響を及ぼし、実質賃金はさらに低下傾向にある。労働組合としてこの課題を真摯に受け止め、継続的な賃金水準の改善に取り組み、物価上昇をふまえた水準改善を実現し、組織内外に波及させなければならない」と強調した。

職場でのコミュニケーションの活性化を新たに盛り込む

方針は賃金・一時金以外では、総実労働時間の短縮、働き方改革など労働協約関連の課題、人権デュー・ディリジェンスなどの電機産業の持続的発展に向けた項目や、「付加価値の適正循環」などを盛り込んだ。

総実労働時間の短縮では、コロナ禍でのテレワークやフレックスタイム制などの柔軟な働き方によって、長時間労働につながる場合もあることから、労働時間の実態や年次有給休暇の取得実績などの検証を行う。労働協約関連項目での働き方改革の取り組みでは、今回新たに、職場環境整備として「働き方にかかわりなく組織内やチームにおいて連携が図れるよう体制を構築するとともに、1 on 1 ミーティングなど職場内におけるコミュニケーションの活性化に取り組む」ことを盛り込んだ。

また、誰もが活躍できる職場環境の実現に向け、DXが進展し、リスキリングを行うことが重要になってきていることをふまえ、「一人ひとりのキャリア形成支援」も新たに掲げた。具体的には、企業に事業の方向性を示させ、組織内や個々人に必要となるスキルを明確にさせたうえで、そのスキル習得を目的としたリスキリングを含む教育訓練機会の確保・充実に向け労使協議を行うとしている。さらに、休暇・休職制度などキャリア開発に資する制度の導入や、活用できる環境の整備を行うとし、制度が導入されている場合でも、利用実態をふまえ、あらためて協議を行うとした。

要求提出と交渉日程については、2月16日(木)までを要求提出日に設定するとし、スト権の確立、スト指令権の委譲は3月2日(木)までとした。

「社会性に目を向けた取り組みを」(日立グループ連合)

方針討議では、大手組合では三菱電機労連、日立グループ連合、東芝グループ連合、全富士通労組、パナソニックグループ労連、NECグループ連合から発言があった。

三菱電機労連は、国内の実質賃金が上昇しなかったことについて、人件費をコストと捉える風潮と、コスト削減偏重による「我慢競争」が根っこにあると指摘。「今次闘争では、サプライチェーン全体で生み出した付加価値と労働の価値を適正に評価したうえで、現役世代がかつて経験したことのない物価上昇への対応も加味したうえで、大幅な賃金水準引き上げを実現しないといけない」などと強調した。

日立グループ連合は、これまで賃金が上がらなかった原因について「企業全体として、デフレマインドから抜け出すことができなかった。賃金をコストと見なす発想から抜けきれない」の2点があったと指摘。そのうえで、「あらためて、賃金が未来につながる人への投資であることをわれわれが認識し、日本経済の需要を喚起するその燃料であるということをふまえて、今一度、社会性に目を向け、思い切った取り組みをすることが必要だ」などと述べた。東芝グループ連合は、現場の組合員の期待に応えるためにも、「すべての加盟組合が結果にこだわりながら、そしてすべての組合員にわれわれの思いが伝わるように、電機連合がこだわってきた波及効果を最大限に発揮しながら結果を出していくことが必要だ」などと発言。全富士通労組は、1998年以来の高い要求水準であることから「難しい交渉になる」としたうえで、例年以上の組合間、本部と組合間の密な情報交換体制を要望した。

パナソニックグループ労連は「統一闘争の強みである全体のまとまりで経営に迫り、共通認識に立って実質賃金が低下しているとの課題を解決するために、妥結水準を要求に近づける交渉を全力で進めていきたい」と意思表明した。NECグループ連合は、人手不足の時代だからこそ、継続した賃金引き上げの必要性を指摘。「この春闘を機に、政労使できちんと考え方を合わせて、それを実現するためにどうすべきか、具体的な施策、方針、実効性ある行動といったサイクルをきちんと回す初年度にしていくべきだ」と訴えた。

答弁した中澤清孝書記長は、あらためて、統一要求基準決定の背景となった今期の企業業績、財務状況などのデータを紹介したうえで、「われわれは自信を持ってこの闘争に向かっていくべきだ」と強調した。