6,000円以上の賃金引き上げに取り組むとする2023年闘争方針を決定―金属労協(JCM)の協議委員会

2022年12月14日 調査部

自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の5つの産別労組でつくる金属労協(JCM、議長:金子晃浩・自動車総連会長、201万8,000人)は7日、WEB方式を併用して都内で協議委員会を開催し、2023年闘争方針を決定した。賃金引き上げについて、すべての組合で定期昇給などの賃金構造維持分を確保したうえで、6,000円以上の賃上げに取り組むとした。「人への投資」の強化や物価上昇による生活圧迫などをふまえ、引き上げ要求額を2022年闘争(3,000円以上)から倍増した。

「実質賃金の低下を直ちに回復する必要がある」

闘争方針は、金属労協としてこれまで「生活の安心・安定、大変革期を生き抜く『現場力』強化、個人消費を中心とする安定的・持続的な成長の実現を図るべく、基本賃金の引き上げを基軸とした『人への投資』を求めてきた」ものの、「実質賃金の改善は見られず、消費の低迷が経済成長の足かせとなってきた」と指摘。さらに、「2022年4月以降、物価上昇が顕著となり、実質賃金の低下が組合員の生活を圧迫する状況となっている」と述べたうえで、「賃金は、組合員の生活の基盤であり、実質賃金の低下を直ちに回復する必要がある」との考え方を示した。

そのうえで、「2023年闘争では、これまで継続して取り組んできた基本賃金の引き上げを基軸とした『人への投資』を一層強化し、生活を守り、組合員の意欲・活力の向上と人材の確保・定着を図り、それが現場力、企業競争力の強化につながるという好循環サイクルを確かなものとする契機としなければならない」とし、① 成果の適正配分と実質賃金の確保 ② 「人への投資」による「現場力」の強化 ③ 賃金の底上げ・格差是正 ④ 企業内最低賃金協定の締結拡大と水準の引き上げ ⑤ 誰もが活躍できる職場環境の整備――を取り組みの柱に据えた。

「倍増というメッセージを訴えたい」(金子議長)

具体的な取り組み内容をみていくと、賃金については、「日本経済、金属産業の動向や、実質賃金の低下が組合員の生活を圧迫する状況などを総合的に勘案し、『JC共闘』の総力を結集して、生活を守り、『人への投資』を強化する賃上げに取り組む。この基本賃金を基軸とした『人への投資』によって、生活の安心・安定の確保、働く者のモチベーション向上、金属産業の魅力向上による人材の確保・定着を図り、産業・企業の競争力強化、個人消費中心の安定的・持続的な経済成長をめざす」とし、賃金の引き上げについて、「すべての組合で定期昇給などの賃金構造維持分を確保した上で、6,000円以上の賃上げに取り組むことを基本に、各産別の置かれている状況を踏まえて具体的な要求基準を決定する」と掲げた。

前回の2022年闘争方針では、引き上げ幅を「3,000円以上」と設定したことから、その幅を倍増させた形。協議委員会前に記者会見した金子議長は、「誤解を恐れずに言えば、6,000円という額そのものには強い意味はない」「2022年闘争から倍増させたというベクトルの長さと角度を強く組織内にメッセージとして訴えていきたい」と強調。「特に今回は、各構成組織が6,000円というある意味JCMのミニマムの方針を発射台として、『以上』に込めた想いをそれぞれの組織が『自分ごと』として取り込み、今までと同じような水準ではいけないよね、ということを理解してもらったうえで、『以上』の水準をどうしていくか、課題意識を持ってほしい」と語った。なお、JAMでは、平均賃上げでの要求基準を9,000円(賃金改善分のみの水準)とする方向で現在、内部討議している。

求められる原資は例年の域を超える

金子議長は協議委員会のあいさつで、2023年闘争の意義について「今年も、『人への投資』にこだわっていくという点では『変わらない』と思っているが、取り巻く環境の変化を踏まえてもなお、ここ数年の取り組み水準の域から脱しない方々に対しては、あえて『変わる』と言った方がいいのかもしれない」と説明したうえで、現場力強化や生活の安心・安定、持続的な成長の実現といった「人への投資」に込められた要素をふまえれば、「今次闘争で求められる原資は、例年の域を超えるものが必要と感じてもらえるのではないか」と話し、2022年闘争を上回る水準の賃上げが必要であるとの考えを暗に示した。

17万7,000円を企業最低賃金協定の最低到達目標に

賃金ではまた、企業内最低賃金協定の全組合締結を目指し、未締結組合は協定締結に取り組む。協定の水準は、「高卒初任給準拠」を基本とする。

金属労協ではこれまで、月額17万7,000円程度(時間あたり1,100円程度)をJC共闘の「中期的目標」として、各産別がその達成に計画的に取り組んできた。しかし、地域別最低賃金の全国加重平均が来年は1,000円程度となるとともに、東京都と神奈川県が1,100円程度まで引き上げられることが見込まれるとして、月額17万7,000円を「最低到達目標」に衣替えして設定。一方、この水準をすでに達成している組合が目指す「中期目標」を定め、その水準を「月額19万3,000円以上(時間あたり1,200円以上)」とした。

一時金については、従来からの方針どおり、「年間5カ月分以上を基本とする」とし、最低獲得水準は「年間4カ月分以上」とした。

働き方では、テレワークを導入した場合は、導入後の課題や問題点について労使で検証し、必要に応じて見直しを進めることを盛り込んだ。また、副業や兼業に関する就業規則などを見直す場合には、労働時間の把握・管理や健康確保への対応などに留意して、制度導入について労使で協議したうえでルールを確認するとした。会社がリスキリングを講じる場合は、「企業の責務として、職務に必要な知識や技能を習得する機会を求めていく」などとした。

このほかでは、バリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」や、人権デュー・ディリジェンスなどを盛り込んだ。「付加価値の適正循環」では、取引に関する公的なガイドラインなどに基づき、労働組合としても職場レベルでのチェック活動を推進。産別労使、大手企業の労使では中小企業の付加価値の拡大に向け、支援策を検討する。人権デュー・ディリジェンスについては、プロセスに労働組合が参画し、情報提供・意見反映を行うなどとしている。

大手の要求提出は2月21日まで

要求提出のスケジュールについて、大手の先行組合で構成する「集計対象組合」などは2月21日(火)までに要求提出を行い、各産別の交渉日程を可能な限り揃え、共闘の相乗効果を高める。毎年、3月中旬に設定される回答のヤマ場については、連合とも連携しながら今後の戦術委員会、中央闘争委員会で決定する。