定昇相当分を含め5%程度の賃上げを求める2023春季生活闘争方針を決定―連合の中央委員会

2022年12月7日 調査部

連合(芳野友子会長、687万8,000人)は1日、WEB方式を併用して千葉県・浦安市で中央委員会を開催し、2023春季生活闘争方針を決定した。闘争方針は、来春の労使交渉で経営側に求めていく月例賃金の引き上げ指標について、定期昇給相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め5%程度と設定した。連合が、定昇相当分を含めて5%以上の賃上げ要求を掲げるのは、1995年以来28年ぶり。

「未来づくり春闘」を深化させる

闘争方針は、2023闘争に向かう基本スタンスについて、賃金が上がらず、企業部門で適切な価格転嫁が進まないなどの現状にあるとして、「社会全体で中期的・マクロ的な視点から問題意識を共有し、GDPも賃金も物価も安定的に上昇する経済へとステージを転換し望ましい未来をつくっていくことが必要だ」と強調。また、「経済の後追いではなく、経済・社会の原動力となる『人への投資』をより一層積極的に行うとともに、国内投資の促進とサプライチェーン全体を視野に入れた産業基盤強化などにより、日本全体の生産性を引き上げ、成長と分配の好循環を持続的・安定的に回していく必要がある」と述べて、2022闘争で新たに掲げた春闘のコンセプトである「未来づくり春闘」を深化させると宣言した。

格差是正と、分配構造の転換に取り組む姿勢も強調している。規模間、雇用形態間、男女間の格差是正については2022闘争で一定の改善もできたが、闘争方針は「依然道半ばであり、さらなる前進をはかる必要がある」と言及。また、「物価上昇によって働く仲間の生活は苦しくなっており、賃上げへの期待は大きい。とりわけ、生活がより厳しい層への手当てが不可欠」として、今回も「規模間、雇用形態間、男女間の格差是正を強力に進める必要がある」とした。

サプライチェーンでの付加価値の適正分配を前面に

今回の闘争方針では、サプライチェーン全体での付加価値の適正分配を、例年になく、前面に押し出しているもの特徴だ。そのため、賃上げに向けた基盤整備の取り組みに関する記述では、「サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配」を筆頭に配置。

「企業規模間格差是正を進めるためには、サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配や適切な価格転嫁によるサプライチェーン全体でのコスト負担が必須」と強調し、「取引の適正化」を確実に進めるとともに、労働組合の立場からも「パートナーシップ構築宣言」の拡大などに取り組むとした。「パートナーシップ構築宣言」は、サプライチェーンの取引先・事業者の連携・共存共栄を進めるため、新たなパートナーシップを構築することを、「発注者」側の立場から企業の代表者の名前で宣言するもの。経団連会長、日商会頭、連合会長、関係大臣をメンバーとする会議で創設され、いまでは1万6,000を超える企業が登録している。

生産性を高めていくには継続的な「人への投資」が重要

賃金などそれぞれの項目の要求内容をみていくと、賃金要求については、「国際的に見劣りする日本の賃金水準を中期的に引き上げていく必要がある」「超少子・高齢化により生産年齢人口の減少が不可避である中、将来にわたり人材を確保・定着させ、わが国全体の生産性を高めていくには、継続的な『人への投資』が重要」「マクロ的には物価を上回る可処分所得増をめざす必要がある」「全体として労働側への分配を厚くし、企業規模間、雇用形態間、男女間の格差是正について、さらに前進させる」などと主張したうえで、① 産業相場や地域相場を引き上げていく【底上げ】の取り組み ② 企業規模間、雇用形態間、男女間の格差を是正する【格差是正】の取り組み ③ 産業相場を下支えする【底支え】の取り組み――に分けて、それぞれ要求指標を掲げた。

2022闘争から賃金の引き上げ幅を1%上積み

まず、【底上げ】の要求指標については「各産業の『底上げ』『底支え』『格差是正』の取り組み強化を促す観点とすべての働く人の生活を持続的に維持・向上させる転換点とするマクロの観点から、賃上げ分を3%程度、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含む賃上げを5%程度とする」と設定。2022闘争方針から定昇相当分を含む賃上げ要求幅を1%分積み増した。連合が定昇相当分を含む賃上げ要求の指標で5%以上を掲げるのは、1995年以来、28年ぶりだ。

賃上げ分を3%程度とした理由について、闘争方針は、「内閣府の年央見通し(2022年度実質GDP2.0%、消費者物価2.6%)や日本全体の生産性上昇率のトレンド(1%弱)を念頭に、国際的に見劣りのする賃金水準の改善、労働市場における賃金の動向、物価を上回る可処分所得増の必要性、労働者への分配増などを総合的に勘案」したと説明している。

規模間格差是正に向けた35歳の目標水準は29万円

【格差是正】の要求指標は、「規模間格差是正」と「雇用形態間格差是正」に分けて、それぞれ目標水準と最低到達水準を設定している。「規模間格差是正」では、目標水準を35歳ポイントと30歳ポイントで設定し、35歳を29万円、30歳を26万1,000円とした。一方、最低到達水準は、35歳を26万6,250円、30歳を24万3,750円とするとともに、企業内最低賃金協定1,150 円以上とした。

「雇用形態間格差是正」では、「昇給ルールを導入する」「昇給ルールを導入する場合は、勤続年数で賃金カーブを描くこととする」「水準については、『勤続17年相当で時給1,750円・月給28万8,500円以上』となる制度設計をめざす」とし、最低到達水準を「企業内最低賃金協定1,150 円以上」と設定した。

【底支え】の指標は、「企業内のすべての労働者を対象に協定を締結する」「締結水準は、生活を賄う観点と初職に就く際の観点を重視し、『時給1,150 円以上』をめざす」とした。

賃金が把握できない中小は総額1万3,500円以上を求める

中小組合が、賃金実態が把握できないなどの事情がある場合の要求指標としては、「連合加盟中小組合の平均賃金水準(約25万円)と賃金カーブ維持分(1年・1歳間差)をベースとして組み立て、連合加盟組合平均賃金水準(約30万円)との格差を解消するために必要な額を加えて、引き上げ要求を設定する。すなわち、賃金カーブ維持分(4,500円)の確保を大前提に、連合加盟組合平均水準の3%相当額との差額を上乗せした金額9,000円を賃上げ目標とし、総額1万3,500円以上を目安に賃上げを求める」とした。

このほかでは、男女間賃金格差・生活関連手当支給基準の是正に向け、賃金データにもとづいて男女別・年齢ごとの賃金分布を把握し、「見える化」(賃金プロット手法等)をはかるとともに、勤続年数なども含む賃金格差につながる要因を明らかにして問題点を改善することなどを掲げた。一時金では、有期・短時間・契約等で働く労働者についても、均等待遇・均衡待遇の観点から対応をはかるとしている。

「中小企業でも5%程度の賃上げが実現できる環境を」(芳野会長)

あいさつした芳野会長は、「現在、日本の実質賃金はマイナスで推移しており、賃金が物価に追いつかない状況が長く続けば、内需の6割を占める個人消費が落ち込み、世界経済の減速とあいまって深刻な不況を招く恐れがある。すべての働く者の賃金をしっかりと引き上げていかなければならない」と強調。また、「中小企業の現場からは、『エネルギー・原材料価格の高騰は、企業収益を圧迫し、人材維持・確保のための賃上げ分も含めた価格転嫁ができなければ、事業を継続できない』との声があがっている。賃上げのネックとなっている最大の構造問題は、デフレマインドが払しょくできず、適正な価格転嫁がスムーズに進んでいないことにある。政府は、労働者の7割を占める中小企業においても、5%程度の賃上げが実現できる環境を整えるべきだ」と訴え、サプライチェーンでの付加価値の適正循環に向けた環境整備についても強く求めた。

要求提出は2月末までで、先行回答ゾーンは3月13日~17日

要求提出について、「原則として2 月末までに要求を行う」とした。闘争体制については、「金属」「化学・食品・製造等」「流通・サービス・金融」「インフラ・公益」「交通・運輸」に分かれる5つの部門別共闘連絡会議を設置し、会合を適宜開催しながら、有期・短時間・契約等の雇用形態で働く労働者も含めた賃金引き上げなどについて相互に情報交換と連携をはかる。

中央委員会終了後には、共闘連絡会議の第1回全体代表者会議を開催。回答ゾーンを確認した。先行組合回答ゾーンを3月13日(月)~17日(金)とし、ヤマ場は 3月14日(火)~16日(木)とする。3月月内決着回答ゾーンは3月20日(月)~ 31日(金)とする。