定期昇給相当分を含め、賃上げを5%程度とする要求指標を提示――連合の2023春季生活闘争基本構想

2022年10月26日 調査部

連合(芳野友子会長)は、10月20日に開いた中央執行委員会で、2023春季生活闘争方針案のたたき台となる「2023春季生活闘争基本構想」を確認した。賃上げ要求の指標として、ベースアップや賃金改善などの賃上げ分を「3%程度」とし、定期昇給相当分(賃金カーブ維持分)と合わせ、「賃上げを5%程度」とする考え方を示した。11月の中央執行委員会で予定される正式な方針案の策定に向け、まずは11月1日に開く中央討論集会で、構成組織・地方連合会と議論する。

構想どおりなら、5%以上の賃上げ(定昇分込み)指標となるのは28年ぶり

連合では、賃上げ要求の指標を「底上げ」「格差是正」「底支え」の3つ領域に分けて、構成組織に示す。マクロの観点での賃上げ指標としては、「底上げ」に記述された内容が該当する。

基本構想は「底上げ」の要求指標について、「各産業の『底上げ』『底支え』『格差是正』の取り組み強化を促す観点とすべての働く人の生活を持続的に維持・向上させる転換点とするマクロの観点から、賃上げ分を3%程度、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含む賃上げを5%程度とする」と提起した。

最終方針でもこの内容で決まることになれば、1995年以来、28年ぶりに5%以上相当の賃上げ(定昇分込み)要求指標を掲げることになる。なお、1995年の方針は規模間格差是正の観点から額を重視した「平均賃上げの要求目標は、1万4,000円中心とする。この要求額は、5,600円の定昇相当分、1,700円の物価上昇分、6,700円の生活向上分を積み上げたもの」(平均ベース賃金を28万円と推計)という内容だった。

昨年の最終方針では、定昇相当分を含む賃上げ要求指標は「4%程度」だったことから、要求水準を1%分引き上げた形。基本構想はベアや賃金改善などの「賃上げ分を3%程度」としたことについて、「内閣府の年央見通し(2022年度実質GDP2.0%、消費者物価2.6%)や日本全体の生産性上昇率のトレンド(1%弱)を念頭に、国際的に見劣りのする賃金水準の改善、労働市場における賃金の動向、物価を上回る可処分所得増の必要性、労働者への分配増など総合的に勘案」したと説明している。

規模間格差是正の目標水準では35歳、30歳ともに昨年を上回る水準を提示

「格差是正」の指標では、【規模間格差是正】と【雇用形態間格差】それぞれについて、「目標水準」と「最低到達水準」を示している。

【規模間格差是正】の「目標水準」では、35歳ポイントを29万円、30歳ポイントを26万1,000円とした。これらは2021年賃金センサスのデータから算出している。昨年の最終方針と比べると、35歳ポイントは1,000円アップ、30歳ポイントは2,000円アップとなっている。「最低到達水準」では、35歳ポイントを26万6,250円、30歳ポイントを24万3,750円とし、企業内最低賃金協定について1,150円以上とした。

【雇用形態間格差】の「目標水準」では、「昇給ルールを導入する」ことや、水準について「勤続17年相当で時給1,750円・月給28万8,500円以上」となる制度設計を目指すことなどを掲げ、「最低到達水準」は「企業内最低賃金協定1,150円」とした。

「底支え」の指標では、「企業内のすべての労働者を対象に協定を締結する」「締結水準は、生活を賄う観点と初職に就く際の観点を重視し、『時給1,150円以上』をめざす」としている。

企業規模間格差の是正を目指す中小組合の要求指標では、「賃金カーブ維持分(4,500円)の確保を大前提に、連合加盟組合平均水準の3%相当額との差額を上乗せした金額9,000円を賃上げ目標とし、総額1万3,500円以上を目安に賃上げを求める」とした。

マクロ的には物価を上回る可処分所得増をめざす

これらの賃金要求についての考え方について、基本構想は、「国際的に見劣りする日本の賃金水準を中期的に引き上げていく必要がある」と述べるとともに、「超少子・高齢化により生産年齢人口の減少が不可避である中、将来にわたり人材を確保・定着させ、わが国全体の生産性を高めていくには、継続的な『人への投資』が重要である」と強調。また、物価を加味した実質賃金は停滞していることから、「マクロ的には物価を上回る可処分所得増をめざす必要がある」などと述べた。

一方、闘争に向けた基盤整備については、サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配に関して、「企業規模間格差是正を進めるためには、サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配や適切な価格転嫁によるサプライチェーン全体でのコスト負担が必須である」と明記。中小企業の適切な価格転嫁を支援する姿勢を例年以上に強く打ち出している。

賃上げ分について「昨年と違う数字を掲げたことが重要」(連合・仁平総合局長)

連合は11月1日に「2023春季生活闘争中央討論集会」を開催し、この基本構想について構成組織・地方連合会と議論する。その後、闘争方針案を作成し、最終決定は12月1日に開催する中央委員会で行う。議論の結果次第では、内容は変更されることもあり得る。

春季生活闘争を担当する連合の仁平章・総合局長は、賃上げ分を3%程度と設定した根拠について、物価上昇分や生活向上分などを積み上げる考え方はとっていないと説明。2022年度の過年度物価上昇率は2%を超えるものの、世界的に経済情勢の不透明感が増しつつあり、業績が回復途上の業界もあることなどを理由にあげて、賃上げ分として「昨年(2%程度)とは違う数字を掲げた」ことのほうの重みを強調した。