「賃金水準の停滞こそが構造的課題の原因の1つ」と芳野会長が強調/連合の中央委員会

2022年10月12日 調査部

連合(芳野友子会長、687万8,000人)は10月6日、都内で中央委員会を開催し、2023年度活動計画などを確認した。芳野会長はあいさつで、物価上昇が進むなか「賃上げが追いついておらず、家計の厳しさが増している」とし、「賃金水準の停滞こそが、経済の長期停滞と様々な格差につながる構造的課題の原因の1つになっている」と強調。2023年の春季生活闘争に向け、引き続き「未来づくり春闘」を掲げて取り組むと述べた。

「コロナ禍前に戻ったとは到底実感できない状況」(芳野会長)

あいさつした芳野会長は、現在の国民生活について、「今年3月下旬に行動制限が解除されたことを受け、4-6月期のGDP改定値は大幅に上方修正され、街角の景気実感についても『持ち直しが続く』と示されるなど、数値上は改善傾向にあることが窺える。しかし、税や社会保険料が上がる一方で、賃金は上がらず、円安による資源や食料の輸入価格上昇による支出増を受けて家計や企業の実質所得が減少するなど、コロナ禍前に戻ったとは到底実感できない状況にある」と述べた。

さらに、今年8月の全国消費者物価指数が前年同月比2.8%上昇となり、消費税増税の影響を除けば1991年9月以来、31年ぶりの伸び率となったことに触れて、「数値だけを見れば、政府と日銀が掲げる2%の物価上昇目標を上回っているが、賃上げが追いついておらず、家計の厳しさが増している」と指摘。日本の賃金水準の現状について、「日本の賃金水準は長期間停滞している。先進国のなかでは最下位争いをし、アジアのなかでもすでにトップとは言い難いのが現実だ。この賃金水準の停滞こそが、経済の長期停滞と様々な格差につながる構造的課題の原因の1つになっている」と危機感を表したうえで、「経済の後追いではなく、経済・社会の原動力となる『人への投資』をより一層積極的に行うことで、この状況を変えていかなければならない」と強調した。

2023闘争は新たなステージへの転換点に

また、格差是正が必要な中小企業を取り巻く環境について、「現下の物価高が労働者の生活と中小企業などの経営を圧迫している」とし、「これは、主にエネルギー価格等の輸入物価の高騰がもたらしているもので、為替レートの動きを含め注視が必要。政府は適正な価格転嫁や取引の適正化などの取り組みを促しているが、その実効性が課題だ」と発言。2023闘争に向けては、「具体的な検討はこれからだが、日本の経済と社会を新たなステージへと変えていく転換点とすべく、引き続き『未来づくり春闘』をかかげ、私たち組織労働者の取り組みが日本の未来をつくるということをお互いにしっかりと意識しながら、進めていきたい」と強調した。

「Wor-Qアドバイザリーボード」を新設

2023年度活動計画では、「円安や輸入物価の上昇など、これまでとは異なる局面にある中でも、すべての働く仲間の雇用とくらしをまもるべく取り組みを展開する」と記述。各重点分野であげた具体的な活動内容をみていくと、フリーランスとのつながりを深める活動の一貫として、組織内外の多様なメンバーによる「Wor-Qアドバイザリーボード」を新設する。「Wor-Q」はフリーランスの人たちの課題を解決するサイトで、会員になれば弁護士相談サポートなども受けられるが、アドバイザリーボードをつくることで、政策策定に結びつけることができる新たな運動の仕組みを構築するとしている。

また、すべての働く仲間や生活者の労働運動への「理解・共感・参加」をめざし、「労働組合のイメージアップに向けた検討を進めるとしている。

企画型裁量労働制の業務拡大は認めない

法改正への対応では、無期転換ルールの見直しや労働契約関係の明確化について、「運用実態を踏まえ、雇用の安定や公正な処遇の実現に資する見直しとなるよう取り組む」とし、企画業務型裁量労働制について、「対象業務の安易な拡大は、長時間労働を生み出す恐れがあるため、認めない姿勢で対応する」としている。

男女平等参画、ジェンダー平等などでは、クオータ制導入に向けた議論に着手する。生理の貧困など、困窮する女性への支援を強化するとともに、男女の更年期、生理休暇などの課題を可視化し、解決に向けた取り組みを進めるなどとしている。

活動計画に関する討議では、JAMなど3組織が発言。JAMは、物価が上昇するなか、労働者の処遇を維持・確保していくためにも、企業間取引における原材料費の上昇分の価格転嫁を促進すべきだとして、連合がより強くその姿勢を打ち出すべきだと述べた。全国ユニオンは、春季生活闘争について、2023年はもっと社会的波及力が強まるような連合からの情報発信を要望。労供労連は、最近の政権の原発に関連した動きなどについて言及した。

芳野会長はあいさつで「国葬儀」についても言及

なお、芳野会長はあいさつのなかで、9月27日に行われた安倍晋三元首相の「国葬儀」についても触れた。芳野会長は連合会長として出席した。

芳野会長は、「政府は、法的根拠や国会関与のあり方など様々な問題を抱え、国民の理解が広がらないなかで行われる結果になったことを重く受け止めるべきと考える。国権の最高機関である国会の関与をおろそかにし、閣議決定だけで進めようとしたことは、議会制民主主義や立憲主義を軽視し、安倍政権以降の一強政治のおごりといわざるを得ないと考える。今回の検証と今後のあり方については、国会で与野党が議論することで一致したと承知している。このような事態が繰り返されぬよう、国会と政府での真摯な議論を求めたいと考える」と発言。

出席したことについて、「政府からの案内を踏まえ、三役会、中央執行委員会に報告したうえで対応してきた。問題を残したままの実施は受け入れがたいとの立場だったが、その一方では、政労使三者構成の一角であるナショナルセンターとして、国際社会が参加する式典に対応する責任、あるいは諸問題の検証と、総理大臣経験者が凶弾に倒れたことへの弔意の区別、そして、立憲民主党、国民民主党の対応を念頭に置きながらも、連合としての主体的な判断、以上の点を勘案し、極めて難しい、苦渋の判断だったが、連合会長としては、弔意を示す一点において出席せざるを得ないと判断した」と説明。「この間、いただいたご意見についてはそれぞれ受け止めつつ、今回の国葬儀には問題があるとの立場に立ちつつも、弔意を示す一点においての判断であったことについて、理解いただければと思う」と理解を求めた。