「物価上昇分を踏まえた賃上げを求めていくことが基本姿勢にあるべき」(松浦会長)/UAゼンセンの定期大会

2022年9月28日 調査部

わが国で最も組合員数が多い産業別労働組合であるUAゼンセン(松浦昭彦会長、181万9,000人)は9月21、22の両日、一部リモート方式も併用して都内で定期大会を開催した。この1年間の活動経過を報告するとともに、向こう2年間にわたる「2023~2024年度運動方針」を決定した。あいさつした松浦会長は、物価上昇が進むなかでの来年の賃上げ交渉について、「粛々と今回の物価上昇分を踏まえた賃上げを求めていくことが基本姿勢にあるべきだ」と強調し、実質賃金を低下させない取り組みの重要性を訴えた。

今年の賃上げでは正社員で前年・前々年実績を超える結果に

松浦会長はあいさつで、まず、今年の賃上げ交渉結果について言及。コロナ禍の影響などにより、今年も一部の業種が厳しい状況にあったが、闘争方針のなかでは2021年のような「特異な年」の位置づけはせず、全体としてより積極的な賃上げを求めることを基本として取り組んだ。UAゼンセンが組織する主な業種は、繊維、医薬、化学、流通、小売、外食、レジャー、サービス、介護など。

松浦会長は、「妥結に向けては、社会水準が前年を大きく上回る傾向となるなか、UAゼンセンとしても明確に前年を上回る妥結水準を求め、部門・都道府県支部と連携のもと、各加盟組合において懸命の交渉を行った。その結果、UAゼンセン全体の妥結結果としては、正社員組合員で前年実績・前々年実績を超え、連合集計を上回る結果を残すことができた」と総括。組合員の半分以上を占める短時間組合員の賃上げ率が、7年連続で正社員を超える妥結結果となったことも評価した。

全体的な結果については、300人未満の中小組合の賃上げ額や率が依然として300人以上の組合を下回るという課題は残したものの、「総合的にみて、今回の賃上げは前年度の特異な状況を乗り越え、2020賃金闘争からの流れを引き継ぐことができた」と言及。賃金以外の総合労働条件についても、「労働時間や均等・均衡処遇、定年制度、育児・介護、ハラスメント対策、ジェンダー平等など、各加盟組合の実情に応じた要求・取り組みが多数行われ、着実な前進が図られた」と述べた。

「日本の賃金は停滞局面を脱したと言えない状況」(松浦会長)

松浦会長はまた、来年の賃上げ交渉に向けた、賃金を取り巻く基本的な課題認識について、「2013年以降は、ようやく物価もわずかながら上昇局面に入り、賃金引上げ交渉が多くの組合で毎年行われ、名目では賃金上昇局面をつくり出すことができたが、実質でみればやはり日本の賃金は停滞局面を脱したと言えない状況が続いている」と指摘。

さらに、欧米などの先進諸国で物価と賃金が安定的に上昇した結果、日本は相対的に「物価も安いが賃金も安い国」になったと述べるとともに、現在進んでいる世界同時発生的な物価上昇局面の主な要因は、欧米での消費の急速な回復や、エネルギー価格などの急上昇、大幅な円安であり、今回の物価上昇は「輸出産業を除き企業の収益には寄与しない」と言い切った。

そのうえで、来年の闘争方針の論議に向けて、「私は粛々と今回の物価上昇分を踏まえた賃上げを求めていくことが基本姿勢にあるべきだと思う」と強調。「企業側からすれば厳しい話かもしれないが、ここでさらなる実質賃金低下を起こせば、内需は冷え込み、さらに企業を苦境に追い込むことになる」「私たちが賃上げを我慢したとしても、今回の物価上昇は外的要因によるものであり、欧米ではすでに物価上昇に対応して賃金も急速に上昇しているので、物価がもとに戻ることはないと考える」と述べて、今回の賃金引上げを生産性向上の原動力にしていくべきとの考えを披露した。

前例にとらわれず創意工夫した運動をつくる

2023~2024年度運動方針を決定した。方針は運動の基調として、①新しいUAゼンセン運動創造への挑戦②「2025中期ビジョン」のめざす社会の実現に向けて取り組みを加速③仲間をつくり、つながりを強め、多様性を活かし、総合力を発揮――の3本を掲げた。

「新しいUAゼンセン運動創造への挑戦」では、コロナ対応やリモート方式の普及などの情報通信技術の活用の変化を、「運動を前進させる契機」と捉え、「民主的な労働運動」「民主的な組織運営」を基本に「現場」「対面」「一体感」を大切にしながら、前例にとらわれることなく創意工夫を行い、運動を創造していくとした。「『2025中期ビジョン』のめざす社会の実現に向けて取り組みを加速」では、2016年1月の中央委員会で確立した同ビジョンにおける運動期間の最終盤に入ってきていることから、そこで掲げた4つの挑戦(一人ひとりが希望する働き方を選択でき、能力を発揮し、十分な生活を営める雇用をつくる、など)の取り組みを加速すると強調した。「仲間をつくり、つながりを強め、多様性を活かし、総合力を発揮」では、200万人組織への拡大を目指す「200万UAゼンセン」を展望した積極的な仲間づくりなどを進めるなどとした。

一つひとつの組合が力を高める

重点に掲げた具体的な運動の内容をみると、「200万UAゼンセン」に向け、「ひとつでも多くの職場に労働組合をつくり、職場や組合員の課題を解決して、働く者の社会的・経済的地位の向上をめざす」としている。また、7割を300人未満の中小組合が占めていることも意識し、組織強化に向け、「一つひとつの組合が力を高め、主体となって同じ方向に向かって運動を展開できるよう加盟組合中心の組織強化に取り組む」としている。

さまざまな属性を持つ組合員が増えていることから、「障がい、外国人、ひとり親、介護などさまざまな課題をもつ組合員の声がUAゼンセン運動に適切に反映されるよう、参画を促進」するとした。UAゼンセンでは、組合員の半数以上が短時間組合員で占めていることもあり、「100万人を超える短時間組合員を代表する日本最大の労働団体であることを意識した運営を強化する」としている。また、雇用形態間での均等・均衡処遇の実現に向けて、雇用形態に公正な政策・制度の実現に取り組むことなども盛り込んだ。

結成10周年記念サイトを開設する

UAゼンセンは今年が結成10周年であることから、記念事業を行う。本部では、新たな情報発信チャンネルとして、Facebook、Instagramを開設。ホームページには、記念サイトを開設して、10年間の歩みやUAゼンセン加盟の魅力などを伝える動画を発信する。

活動の重点化にあわせて、組織改編も行う。「多様性協働局」を新設し、多様な属性をもつ組合員の声を政策により反映させやすくする。また、短時間組合員に関する政策・運動を主要な柱の1つとして進めるための方策について検討、実施する「短時間組合員総合戦略本部」を本部3役のもとに設置する。

これまでは、政策を担当する局と政治を担当する局が分かれていたが、政策制度の立案・要請、国政・地方行政対応、政党対応の連携を強化するため、「政策局」と「政治局」を統合し、「政策政治局」とする。また、UAゼンセン全体として、国会・地方議会対策、選挙対策を戦略的に進めるため、本部3役のもとに「政治戦略本部」を設置する。

支持者増が得票に結びつかない原因を分析して3年後に備える

なお、先の参議院議員選挙では、組織内候補として支援した「かわいたかのり」氏(比例、国民民主党)が再選を果たした。松浦会長は選挙結果について、「今回の比例の闘いについては、結果が当選であったからすべてよし、とするわけにはいかないと思う。これまで以上に拡がった目標と結果との乖離、支持者増が得票に結びつかない原因、などをしっかり分析し、3年後の比例の闘いに備えなければ、UAゼンセンが組織内議員を確実に出し続けることは危うくなる、その危機感を持って総括作業を現在進めている」と発言。

国民民主、立憲民主の両野党に対しては、「幅はあっても中道で、働く者の立場に立つ現実的な政策を打ち出せる野党の大きな塊をつくれなければ、緊張感のある政権交代可能な政治体制を構築することはできない。また、参議院選挙の結果からは、今の立憲民主党と国民民主党がただ一緒に闘うだけでは国民の期待を集めることも難しいように思う。これからの国会対応、またいつ起きるかもしれない解散総選挙対策を通じて、特に立憲民主党には共産党との関係やエネルギー政策の見直しなど、国民民主党が歩み寄ることのできる環境づくりに努力を求めていきたいと思う。国民民主党も改革中道の野党としての立場をしっかり堅持しつつ、存在感の発揮と同時に野党間連携・協力の実現にも注力いただきたい」と注文を付けた。

役員の改選を行い、副会長だった八野正一氏(三越伊勢丹労組出身)が退任。代わりに、愛知県支部長だった畑慎一氏が就いた。他の3役は留任となっている。