2022年闘争の評価では「労使の社会的な役割を一定程度果たすことができた」と総括―金属労協の定期大会

2022年9月9日 調査部

自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の5産別でつくる金属労協(JCM、議長:金子晃浩・自動車総連会長、201万8,000人)は6日、Web方式を併用して定期大会を開催した。大会で確認した今春の賃上げ交渉結果を総括する「2022年闘争評価と課題」では、賃上げ獲得額が2014年以降で最高となったことなどから、「JC共闘の回答引き出しによって賃上げの機運を高め、経済再生と持続的成長軌道の回復に向けて、労使の社会的な役割を一定程度果たすことができた」などと総括した。

ベアや賃金改善などの「賃上げ」額は2014年以降で最高

大会で報告された「2022年闘争結果」によると、7月19日までの最終集計で、賃金について要求したのは3,139ある構成組合のうちの2,679組合。うち、ベアや賃金改善などの「賃上げ」を要求したのは2,160組合(対要求組合比率80.6%)となっている。「賃上げ」の要求額の平均は3,374円で、一昨年の3,682円は下回ったが、昨年の2,971円より約300円高い水準だった。

回答・集約組合は2,588組合で、うち「賃上げ」を獲得したのは1,557組合(対賃上げ要求組合比72.1%)。「賃上げ」の獲得額の平均は1,820円で、昨年の1,275円を500円以上上回るとともに、賃上げが復活した2014年闘争以降で最も高い額となった。

中小が大手の獲得額を上回るのは6年連続

「賃上げ」の獲得額について組合規模別にみると、「299人以下」が1,897円、「300人~999人以下」が1,649円、「1,000人以上」が1,717円で、規模の最も小さい「299人以下」が最も獲得額が高くなっており、同規模の額が「1,000人以上」の額を上回るのはこれで6年連続となった。

一時金については、2,203回答・集約組合のうち1,082組合が前年を上回る回答を獲得し、平均月数は4.49カ月となり、昨年を0.20カ月上回った。

8月3日現在での企業内最低賃金の状況をみると、締結組合数は1,819組合(締結率57.9%)で、18歳最低賃金の平均額は16万4,718円となり、3年前(16万1,269円)から3,000円以上、高い水準に到達している。

労使の「人への投資」の認識の深化で獲得組合数が拡大

これらの結果から、「評価と課題」は、まず闘争全体の評価について、「『労使の協力と協議』を通じて産業・企業の課題を共有し、『人への投資』の必要性について労使の認識を深めてきたことが後押しとなり、賃上げ獲得組合数と引き上げ額の拡大を実現することができた」とし、闘争を通じて、「組合員の生活の安心・安定を確保するとともに、賃上げの機運を高め、経済再生と持続的成長軌道の回復に向けて、労使の社会的な役割を一定程度果たすことができた」と総括した。

回答については、半導体をはじめとする部品供給の停滞、エネルギー価格の高騰などにより厳しい環境だったが、「賃上げ獲得組合の割合はコロナ禍前の状況に回復し、賃上げ額の平均は、2014年以降では過年度物価上昇率の高かった2015年を上回る最も高い水準となるなど、JC共闘の相乗効果を発揮し、大きな成果を上げることができた」と強調。また、「組合員の生活の安心・安定を確保するとともに、JC共闘の回答引き出しによって賃上げの機運を高め、経済再生と持続的成長軌道の回復に向けて、労使の社会的な役割を一定程度果たすことができた」と述べた。

中小組合の「賃上げ」の獲得額が6年連続で大手組合を上回ったことについては、「中小が大手を上回る賃上げを行うことについて理解が広がり、多くの組合で規模間格差の是正に向けて前進することができた」と言及。このほか、「賃上げの必要性や日本の賃金水準の低さが、経営や社会に広く認識されたことが、賃上げの後押しとなった」などと振り返った。

「人への投資」への理解を一過性にしないことが必要

一方、「課題」については、賃上げ獲得組合の比率が「コロナ禍前の水準まで戻った」ものの、いまだ6割程度だとして、「すべての組合で基本賃金の引き上げを基軸とした『成果の公正な分配』、『人への投資』を獲得するよう、さらに取り組みを強化していくことが重要」だと指摘。また、今次闘争では経営側が「人への投資」の必要性について「理解を示した」が、それを「一過性のものとしないよう、働く者の生活水準の向上と産業の健全な発展にむけて、『人への投資』に対する経営側の意識の変化を経営側全体に広げ、配分構造の歪みを是正していくように取り組む必要がある」と記述した。

水準については、「産業間・産業内の賃金格差是正、とりわけ企業規模間格差是正の取り組みを強力に推進してきた」ものの、「これらは緒についたところ」として、引き続き賃金水準を重視した取り組みを一層進める必要があると訴えた。物価が上昇してきていることから、2023年闘争に向け、「経済、産業・企業の動向を見極めながら、組合員の生活を維持する観点から、物価の動向を注視していく必要がある」とも記載した。

中小の賃金構造維持分の水準にも留意を

相場形成に関しては、「賃上げ」額の平均で中小が大手を上回っているものの、「賃金構造維持分の規模間格差が大きいことから、賃上げ額とともに、賃金構造維持分の格差に留意した取り組みが重要」と、賃金構造維持分の水準にも注目。中小労組のなかには、賃金構造維持分が明確でない組合もあることから、「賃金制度の整備や自社の賃金分析を通じて、賃金構造維持分を労使で着実に確保、確認することが必要」と強調した。

一時金では4カ月を下回る組合がいまだ3割近い

一時金について「評価」からみていくと、「コロナ禍の下における組合員の協力・努力と業績回復への貢献を企業が評価したものと受け止められる」とした。「課題」では、年間4カ月を下回る組合が3割近くを占めていることから、JC共闘が最低獲得水準と位置付けている「年間4カ月分」にこだわった取り組みを進めていく必要があるとした。

企業内最低賃金も含めた「JCミニマム運動」の評価については、「賃上げを上回る企業内最低賃金の引き上げを要求・獲得する組合が出てきている」などと総括。「課題」としては、「経営側が「セーフティ・ネットとしての役割は地域別最低賃金が果たしている、あるいは賃金は成果に応じて支払うべきものと主張し、交渉・協議が難航するところもみられた」ことなどをあげた。

金子議長はあいさつで、今次闘争結果について「ここ数年で最もJC共闘の存在感を発揮できたのではないか」と評価。来春の方針検討はこれから始まるものの、「とりわけ昨今の物価上昇に伴う生活への影響を注視していく必要がある」と話した。

来年9月から改革後の活動に移行

大会ではまた、2022~2023年度運動期の後半1年に向けた「2023年度活動方針」を決定した。JCMでは、活動分野を主に ① 国際労働運動 ② 人材育成――の2つに絞り込む方向で、2021年度から組織改革に着手しており、2023年度が準備期間の最終年度にあたる。来年9月から本格的な移行を目指している。

方針は、「組織改革に向けた具体的活動と残された課題」について、まず、活動を絞り込むことに伴う連合との活動の調整について、「引き続き、産業別の活動をいかに連合の運動として進化させていくのか、金属労協から提起することで前進を図る」としている。

国際労働運動については、この1年間、「インダストリオールとの連携強化やそれに資する本部や地域事務所への人員配置を果たした」が、「これまで以上に、内外に向けた発信力を強化するとともに、それに伴う責任を果たすことが求められる」とした。

人材育成については、この1年間、毎年開催している「労働リーダーシップコース」のほか、労働組合役員として知っておくべき基本知識である経済学やDXに関する入門セミナーを開催したが、「この経験を活かしながら、人材育成方針を充実させていきたい」とした。

春季生活闘争は当面は運動の柱として継続

春季生活闘争(JC共闘)については、産業政策、労働政策などとともに、「将来的にはその運動主体を連合(連合産業別活動センター(仮称))に移していく方向だが、連合活動としてスタートするまでの間は引き続き、JCMの運動の柱として位置づけることにしている。金子議長はJC共闘について、「これまで大事にしてきた『JC共闘』の火が消えてしまうんじゃないかという意見があった。これについてはわれわれも十分にその重要性は承知しているつもりだ。とりわけ春闘時に物心ともに支えとなり機能してきた『JC共闘』はこれからも守りつつ、将来的な持続可能性も念頭に置いて、あるべき組織、推進体制の構築をしていく」と説明した。

来年6月のインダストリオール会議に女性代議員を派遣

個別の活動内容をみていくと、国際連帯では、2023年6月に、南アフリカのケープタウンで開催されるインダストリオール中間政策会議に女性代議員を派遣し、会議における男女共同参画の推進に貢献するなどとしている。

海外事業体における建設的な労使関係の構築に向けた活動では、2022年度にタイ・インドネシアで実施した労使理解に対する活動をふまえて、現地への渡航も含めた労使ワークショップのあるべき姿を検討するとし、「Webを活用した現地会場とのハイブリッド開催を行うなど、日本国内労使が積極的に参画できる仕組みも検討の上、現地でのワークショップを再開する」などとした。

幅広いメンバーが国際労働人材として活躍できるよう教育する国際人材育成の活動では、2022年度の労働講座プログラム参加者を中心に、2023年度は実際にマレーシア現地へ渡航して、マレーシア協議会の組合役員と対面での交流計画を検討するとしている。

労働政策では2023年闘争について、金子議長があいさつでも触れたように、「物価が上昇局面にあることに留意しつつ、経済、産業・企業の動向を見極めながら、組合員の生活を維持する観点から、賃上げ要求について検討を進めていく」として、物価も検討要素の1つと取り上げていく考えを示している。

新しい事務局長に電機連合出身の梅田利也氏が就任

大会ではこのほか、8月にまとめた「人権デュー・ディリジェンスにおける労働組合の対応ポイント」を報告した。労組として実際に対応していく際のチェックポイントなどを示しており、各組合が取り組む際に参考できるようになっている。

役員改選を行い、浅沼弘一事務局長(電機連合)が退任。新事務局長に梅田利也氏(電機連合)が就いた。なお、浅沼氏はJCM顧問となり、インダストリオールにおける役職は継続する。