2023春闘に向けた「総合生活改善闘争・基本方針」を提示/生保労連定期大会

2022年8月31日 調査部

生命保険会社の労働組合で構成する生保労連(松岡衛委員長、24万2,000人)は8月23日、都内でオンライン併用の定期大会を開き、2022年度の運動方針を決めた。方針の柱の「総合生活改善闘争」では、2023春闘に向けた「総合生活改善闘争・基本方針」も提示した。松岡委員長は、当面続く見込みの物価上昇を踏まえ、「次期春闘では従来以上に『組合員の生活を守る』といった観点や、『組合員からの期待にどう応えるか』といった観点が重要だ」と訴えた。役員改選では新委員長に勝田年彦氏(住友生命)、新書記長には田中祥平氏(朝日生命)を選んだ。

生保産業の健全な発展をめざす産業政策の取り組みへの対応を

運動方針の柱は、① 生保産業の社会的使命の達成 ② 総合的な労働条件の改善・向上 ③ 組織の強化・拡大 ④ 生保産業と営業職員の社会的理解の拡大――の4本。1つ目の柱の「生保産業の社会的使命の達成」では、「健全な産業づくりや生保産業の産業別労働組合ならではの活動・政策提言等を通じて、社会に一層貢献し、生保産業の社会的使命の達成をはかる」としている。具体的には、経営の健全性向上について、「社会に貢献する産業・企業づくりの観点を強く意識」し、総合生活改善闘争での「統一取組み課題」に据えることで、「組合員一人ひとりが自らの会社や仕事により一層の誇りを持ち、将来への希望を持って働くことのできる」取り組みを推進。生命保険に関連する規制改革や保険商品の募集・勧誘ルールをめぐる動向、郵政民営化への対応などの生保市場の健全な発展をめざす産業政策の取り組みについても、それぞれ的確な対応をはかる。

また、国民が安心できる生活保障をつくるための税・社会保障に関する政策の策定・提言を行うほか、政策活動の効果的な推進に向けて支援議員との連携を強化。連合の政策にも生保労連の政策がより反映されるよう意見反映に努める。

統一闘争を通じて総合的な労働条件の改善・向上をはかる

2つ目の「総合的な労働条件の改善・向上」は、「組合員の意識や取り巻く環境が変化していく中、『人への投資』を通じて安心と働きがいの持てる職場・ルールをつくることが一層求められている」との認識のもとで、「統一闘争を通じた共闘効果の発揮や相場形成、各組合の取組みに資する情報交換・情報提供等で、組合員の総合的な労働条件の改善・向上をはかる」構え。2022春闘も包含した「総合生活改善闘争」の基本的考え方を踏まえ、年間を通じた全組合参加の統一闘争に取り組む。

「守り」の要素をベースに「攻め」の要素をより重視して取り組んだ22春闘

生保労連では2004年度から、春闘を「労働諸条件全般を見据えた総合的な生活改善闘争」と位置付け、年間を通じた統一闘争を進めてきた。2018年度には、中期ビジョン「チャレンジビジョン2030」を策定し、労働条件の引き上げ・底上げ・安定化に取り組む重要性を再確認している。

22年度も同ビジョンを踏まえ、統一取り組み課題として ① 経営の健全性向上 ② 営業職員体制の発展・強化 ③ 賃金関係 ④ ワーク・ライフ・バランスの実現 ⑤ 多様な人材が活躍できる環境整備――の5つの柱を設定し、秋季・春季を通じた取り組みを展開。「社会環境の変化に対応した働き方の実現に向けた取組みの推進」を全ての加盟組合が取り組む「統一共通課題」に設定して、「営業活動・働き方の変革をサポートする各種制度・施策の充実と定着・改善」と「『生産性の高い働き方』と『生活時間の充実』の相乗効果をより意識した取り組みの推進」に年間を通じて取り組んだ。特に22春闘では、長期化するコロナ禍を踏まえて、「引き続き『守り』の要素をベースとしつつ、『攻め』の要素をより重視していく春闘」と位置付けてきた。

日々の活動・努力が反映される労働評価をめざして「着実な成果」が/営業職員

大会で報告された「2022春闘の取組みの成果と課題」によると、営業職員では、「日々の活動・努力が反映される労働評価をめざして」10組合が取り組んだ結果、「支給規定上の改善」に関わる回答を1組合が獲得したほか、「新契約活動に対する労働評価」(8組合)、「保有・保全活動に対する労働評価」(5組合)、「資格格付基準の緩和」(4組合)「臨時・特別措置の実施」(10組合)、「施策関係」(9組合)などの回答を得た。

こうした結果について生保労連は、「各組合は『賃金改善の定義』を踏まえた幅広い内容の要求を行ったことから、着実な成果があった」ことを評価したうえで、今後の課題として、「各組合が営業職員の期待・納得感に最大限応えていけるよう、また、取組みの成果が実効性あるものとなるようフォロー・後押ししていく」ことや、各社で特別対応が終了しつつある資格・給与保障等の「下支え」について、「終了後の状況を注視していく必要がある」ことなどをあげている。

月例給与改善要求の考え方の一層の定着・浸透を/内勤職員

内勤職員の賃金改善は、月例給与の引き上げに7組合、臨時給与に11組合、年収制に3組合が要求を掲げたほか、6組合がパート・契約社員の賃金改善に向けて取り組んだ。

その結果、月例給与で2組合が「初任給支給水準の引上げ」と「特定層の月例給与の増額」を引き出したほか、「現行水準の維持」の回答を得たところも2組合あった。臨時給与では4組合が「現行を上回る支給水準の獲得」等の回答を得たほか、3組合が「全層一律の増額」や「特別対応分を含めた現行水準の維持」「全従業員を対象とした特別一時金の支給」の回答を得た。年収制でも、2組合が「昨年を上回る水準の昇給原資獲得」の回答を引き出したほか、1組合が「現行を上回る支給水準」の回答を獲得。パート・契約社員の処遇改善では、2組合が「正社員と同水準の昇給率の確保」と「一時金の支給」等の回答を引き出している。

生保労連は、「長期化するコロナ禍の中での組合員の頑張りに応える最大限の対応が示された」と評価する一方、今後は「各組合の課題認識にきめ細かく応えていくため、賃金改善の考え方、とりわけ月例給与の改善要求の考え方について一層の定着・浸透をはかる必要がある」などと指摘している。

「次期春闘では従来以上に『組合員の生活を守る』観点が重要」(松岡委員長)

こうした結果を踏まえ、大会では2023春闘の基本的な考え方や取り組み課題を含めた「総合生活改善闘争・基本方針」を確認した。前年と同じ5つの統一取り組み課題を設定したうえで、「コロナ禍や国際情勢等が経済・景気動向や各社経営、営業職員体制、組合員の雇用・労働条件等に与える影響を十分注視しつつ、社会環境の変化に対応した組合員の営業活動や働き方の変革を支援する」とした。とりわけ、「組合員の生活と活動に影響を与える消費者物価の動向を例年以上に注視する」方針。物価の上昇について松岡委員長は、「当面続く見込みであり、状況を踏まえると次期春闘では従来以上に『組合員の生活を守る』といった観点や、『組合員からの期待にどう応えるか』といった観点が重要。議論を尽くして産業をリードしていく」などと訴えた。

「生産性の高い活動・働き方」と「生活時間の充実」で働きがい・生きがいの向上も

2023春闘では、統一共闘課題に「『生産性の高い活動・働き方』と『生活時間の充実』の相乗効果による働きがい・生きがいの向上に向けた取組みの推進」も掲げている。

「生産性の高い活動・働き方」では、営業職員について新規のお客さまとの接点の確保・拡大や各種デジタルツールの活用促進などを進めるとともに、内勤職員のテレワークをはじめとした柔軟な勤務制度の運用状況のチェック・フォロー、活用促進、メリハリある働き方の実現などに取り組む。

「生活時間の充実」に向けては、年次有給休暇取得日数の増加等による総労働時間の短縮と、男性の育児休業取得状況の改善等による両立支援制度の拡充・活用促進の取り組みを強化する。

各組合・組合員のニーズを踏まえた共感のもてる組織づくりを

3つ目の柱となる「組織の強化・拡大」では、「各組合が抱える課題の多様化や組合員の意識の変化が進む中で、各組合・組合員のニーズを踏まえた、共感のもてる組織づくりが一層重要となっている」ことを指摘したうえで、「課題へのアドバイス機能の強化、組合活動への参加の促進、政策実現に向けたネットワークの強化等を通じて、働く仲間との絆・つながりを深め、組織の強化、拡大をはかる」考え。加盟組合との日常的な情報交換や連携強化をはかるなかで、雇用・組織問題を抱える組合への支援体制の強化に努めるとともに、ユニオンリーダーの養成や組合間の相互交流を図る。さらに、組合活動の男女共同参画の推進や未組織労働者の組織化、連合運動への積極的参画、組合活動の「見える化」なども展開する。

4つ目の「生保産業と営業職員の社会的理解の拡大」では、「生保産業と営業職員が果たしている役割を対外的に正しく伝え、その社会的イメージを向上させることは、今後も生保産業が発展し、働く者の働きがい・生きがいを向上させていく上で必要不可欠となっている」として、広報・PR活動の強化や、社会的理解の拡大をはかることなどを掲げている。

「組合員や社会から共感を得られる運動で産別労組の存在意義を発揮していく」(勝田新委員長)

役員改選では松岡委員長(日本生命)と小山貴史書記長(住友生命)が退任。新委員長は勝田年彦氏(住友生命)、新書記長には田中祥平氏(朝日生命)を選んだ。

勝田新委員長は就任あいさつで、生保産業・組合員を取り巻く環境について、「コロナ禍を契機に急速に変化し、今後もデジタル化の進展のみならずダイバーシティや働き方の変革も伴いながら、社会的な変容が進むものと想定される」と述べ、「これまでの延長線上な対応ではなく、変化を恐れずに一層のチャレンジを続けながら、組合員や社会から共感を得られる運動をめざし、産業別労働組合の存在意義を遺憾なく発揮していく」決意を示した。