技能・知識向上を考える割合は5割超、転職を検討が3割超に/日本介護クラフトユニオンの就業意識実態調査

2022年8月24日 調査部

キャリア形成に関して、現在の資格等の技能・知識の向上を考える割合は5割を超え、転職を検討する割合も3割を超える――介護職場で働く労働者らを組織するUAゼンセン傘下の日本介護クラフトユニオン(NCCU、染川朗会長、約8万7,000人)は、「2022年就業意識実態調査報告書」を発表。集計されたデータからは、介護従事者が、経済面や体力への不安、賃金の安さや仕事量の多さへの不満を感じていることが明らかとなった。NCCUは、さらなる人材確保と処遇改善の必要性を訴えている。

訪問介護や有料老人ホーム、デイサービスに関わる割合が高い

調査は2022年3月17日~4月22日を調査期間として、分会組合員8,265人と個人組合員451人に調査票を配布し、合計6,044人(月給制組合員3,935人、時給制組合員2,109人、回収率69.3%)から回答を得た。

現在関わっている主な介護サービスの割合をみると、月給制組合員(以下、「月給制」)では「訪問介護」が25.7%と最も高く、次いで「有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)」が22.1%、「デイサービス(認知症対応型・地域密着型を含む)」が14.4%となっている。時給制組合員(以下、「時給制」)では「訪問介護」が31.6%と最も高く、次いで「デイサービス(認知症対応型・地域密着型を含む)」が22.4%、「有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)」が13.5%となった。

主に従事している職種の割合をみると、月給制では「入所系介護員」(17.7%)、「ケアマネジャー」(13.6%)、「訪問系介護員」(10.9%)などが高い。時給制では「訪問系介護員」(26.8%)、「入所系介護員」(21.4%)、「通所系介護員」(17.1%)などが高くなっている。

有休が取得できない割合は月給制・時給制ともに前年より増加

年次有給休暇(以下、「有休」)の取得状況をみると、「いつでも取得できる」「ある程度取得できる」「取得できても希望通りではない」の合計は、月給制で77.1%となり、前年(78.6%)より1.5ポイント減少。時給制では78.2%となり、前年(81.9%)より3.7ポイント減少した。一方で、「なかなか取得できない」「全く取得できない」の合計は、月給制で20.4%と前年(19.0%)より1.4ポイント増加、時給制では7.8%と前年(7.1%)より0.7ポイント増加している。

「なかなか取得できない」「全く取得できない」と回答した人の取得できない理由(2つ以内)をみると、月給制、時給制ともに「人手不足で取りにくい」(それぞれ67.3%、52.4%)が最も高くなっている。村上久美子副会長・政策部門長は、「コロナの影響により人手が足りないため、休みも取りづらいのではないか」と推察している。

2020年4月から2021年3月までの1年間で有休を10日以上付与された人の有休取得日数をみると、5日以上取得できている割合は月給制で83.8%、時給制で80.6%。その一方で、「5日未満」「取得していない」の合計は、月給制が9.0%、時給制が11.8%となっている。職種別でみると、「入浴オペレーター」や「福祉用具専門相談員」の割合が高くなっており、村上副会長・政策部門長は両職種の課題の1つである「労働時間の長さ」に言及し、各労組が時間管理委員会等を活用して、労使で協議を進めていく必要性を強調した。

働く上での不安や不満がある割合は月給制で7割以上に

働く上での不安があるかを尋ねたところ、月給制では74.8%、時給制では63.7%が「ある」と回答。「ある」と答えた人に最も不安を感じる理由(3つ以内)を聞いたところ、月給制、時給制ともに「賃金や貯蓄などの経済的な不安」(それぞれ25.7%、18.1%)、「自分の身体(体力・体調)」(同23.3%、29.2%)が上位にのぼっている。なお、「新型コロナウイルス感染症の罹患、発症」は月給制で7.5%、時給制で11.2%となり、前年(同10.8%、13.5%)より減少している。

不安により離職を考えたことがある割合は、月給制で62.1%、時給制で56.4%。内訳をみると、月給制では「同僚・上司・利用者やその家族のハラスメントにあいそう」(81.6%)、時給制では「事業所内での人間関係がうまくいかない」(80.0%)が8割を超えた。

また、働く上での不満があるかを尋ねたところ、月給制では75.7%、時給制では57.0%が「ある」と回答。「ある」と答えた人の最も不満を感じる理由(3つ以内)をみると、月給制、時給制ともに「賃金が安い」(それぞれ32.7%、33.7%)、「仕事量が多い」(同19.0%、12.6%)が上位にのぼった。

不満により離職を考えたことがある割合は、月給制で65.1%、時給制で58.0%。内訳では、月給制、時給制ともに「やりがいがない」(同92.6%、91.7%)がトップとなった。

現在の仕事からの変更や転職等を考える理由では年収・賃金上昇がトップ

調査では新たに、キャリア形成に関する設問として、現在の仕事からの変更(職種や雇用区分等)や資格取得、転職を考えているかについて尋ねている。

結果をみると、「考えている」と回答した割合は、月給制で48.3%、時給制で36.1%。その内容(複数回答)では、月給制、時給制ともに「今の資格等に関する技能や知識の向上」(それぞれ58.7%、57.1%)が最も高い一方、「介護とは関係ない仕事への転職」(同33.5%、34.9%)、「介護関連の別会社への転職」(同33.5%、30.7%)など、転職に関する回答割合も高くなった。

「考えている」と回答した人の理由(複数回答)をみると、月給制、時給制ともに「年収や賃金を上げるため」(それぞれ44.6%、42.9%)、「経験や知識を広げるため」(同42.5%、42.1%)、「自分のスキルを高めたいため」(同37.2%、37.8%)が上位となっている。

一方、「考えていない」と回答した人の理由(複数回答)は、月給制では「やりがいや達成感を十分得ているため」(25.8%)や、「今の職場が好きで変わりたくないから」(25.4%)などが高い。時給制では「労働時間が自分に合わなくなるから」(26.7%)が最も高いものの、月給制と同様に「今の職場が好きで変わりたくないから」(26.6%)、「やりがいや達成感を十分得ているため」(26.3%)なども高くなっている。

人員配置基準の問題は「ぎりぎりのローテーション」「時間に追われる」が上位に

所属する事業所の人員配置基準に問題がないかを尋ねたところ、「問題あり」と回答した割合は月給制で33.5%、時給制で25.4%。その理由(複数回答)をみると、月給制、時給制ともに「基準以上でもぎりぎりのローテーションだから」(それぞれ52.6%、45.7%)、「業務中、常に時間に追われているから」(同50.7%、50.6%)などが高くなっている。

また、現在議論が進んでいる、介護ロボットなどICT(情報通信技術)の活用を条件にした介護施設の人員配置基準の変更について、懸念される課題や問題(複数回答)を尋ねたところ、月給制、時給制ともに「人員削減で安全性が確保できなくなる」(それぞれ42.4%、44.9%)、「人員削減でサービスの質が低下する」(同41.3%、41.6%)などが高くなった。

介護従事者の現状を社会に認識してもらう必要性を訴える

染川会長は、今回の調査結果で、働く上での不安や不満の要因に賃金水準があることについて、「社会全体に介護従事者の現状を知ってもらい処遇改善の必要性を理解してもらうことも必要」と指摘。また人材の定着・増加に向けて「たとえ1割でも不安や不満があるようであれば、その課題に対してしっかりと対策を講じ、不安や不満の解消に努めなければならない」と強調し、より危機感を持って人材確保と処遇改善に取り組む必要性を訴えた。