医療・介護労働者の賃金・労働条件改善と人員体制の拡充を/日本医労連定期大会

2022年8月3日 調査部

日本医労連(佐々木悦子委員長、14万9,000人)は7月19~21日の3日間、都内でオンラインと併用の定期大会を開催し、2022年度の運動方針を決めた。方針の柱は、① いのちと平和を守る政治の実現 ② 賃金底上げと大幅賃上げ ③ 大幅増員、働くルールの確立 ④ 安全・安心の医療・介護の実現 ⑤ 20万人医労連の早期達成――を提示。コロナ禍の困難な状況が続く中で奮闘する医療・介護労働者が、誇りを持って働き続けられる賃金・労働条件の改善や、安全・安心な医療・介護を提供するための人員体制の拡充・強化などをめざしている。

医療・介護提供体制の強化や組織拡大に向けた取り組みを

あいさつした佐々木委員長は、新型コロナウイルス感染症拡大の第6波(2022年1~3月)の影響により、病院受け入れや救急搬送が困難となる事例が増加するなど、医療崩壊が起こっていたと指摘。「救える命が救えないという事態を二度と繰り返さないために、公立公的医療機関の再編・統合の見直しや、医療・介護従事者の大幅増員をはじめとする医療・介護提供体制の強化に向けて運動を進める」考えを示した。また、組織拡大について、「国民が安心して生活できる社会の実現にふさわしい量と質を持った組織の建設が求められる」として、組織拡大に向けた取り組みを強力に推進することを強調した。

社会的役割にふさわしい専門職としての賃金水準を

新運動方針は、「賃金底上げと大幅賃上げ」について、「『社会的役割にふさわしい賃金水準』の実現に向けて、診療・介護報酬上の医療・介護労働の正当な評価と財政保障を要求する」と指摘。対象施設・職種を限定せず、すべてのケア労働者を対象とした賃上げの実施を求めている。

また、他産業の専門職との格差を解消し、社会的・横断的な賃金水準を実現するため、各年代の生計費を反映したポイント賃金も要求。ほかにも、医師・看護師の賃金の在り方を国際水準並に引き上げることの重要性などを指摘している。

企業内最賃を引き上げて誰でも時給1,500円以上を目指す

最低賃金の引き上げについては、全労連「全国一律最低賃金アクションプラン2024」の内容も踏まえ、引き続き「企業内最賃を地域最賃改定額以上に引き上げ、医療・介護・福祉の職場から1,000円以下の時給をなくし、誰でも時給1,500円以上を目指す」ことを提示。生計費原則に基づき、「8時間働けばまともに暮らせる賃金」の実現をめざす。

一方、2020年度までの4年間で取り組んだ、看護師と介護職の全国を適用地域とした特定最賃(産別最賃)の新設を目指す日本医労連の「最賃アクションプラン」については、取り組みの総括を行う。具体的な対応については、「到達点の確認と、課題や成果を明らかにしたうえで、今後の取り組みに反映させなければならない」(森田進書記長)として、大会後に改めて提起するとしている。

22春闘の統一闘争は昨年よりも前進

2022春闘の要求提出状況は、6月7日時点で482組合中354組合(73.4%)と前年同期(55.2%)より増加。統一要請書提出も251組合(52.1%)と、前年同期(41.7%)より増加した。森田書記長は、「コロナ禍の昨年や一昨年に比べて、統一闘争は前進した」とする一方、ブロック毎に分析すると「取り組みの進み具合に強弱がみられる」と指摘。引き続き、産別統一闘争の意義と重要性について、学習を深めながら強化していく。

要求に対する回答状況をみると、同日時点で306組合・63.8%(前年最終実績293組合・60.2%)が回答を引き出した。そのうち平均賃上げ額の回答があったのは152組合・49.7%(同162組合・55.3%)、ベア回答を引き出したのは54組合・11.2%(同21組合・4.3%)だった。定昇込みの平均賃上げ額は5,026円・1.92%で、前年最終実績(4,837円・1.90%)に比べ、189円・0.02ポイント増となっている。

「2.5カ月+α」を要求して交渉に臨んだ2022年夏季一時金の回答状況は、6月9日時点で、回答数が192組合(前年同期186組合)。正職員の単純平均は月数で1.580カ月(前年同期比0.004カ月増)、平均額は40万6,614円(同1万6,567円増)。パートの単純平均は月数で0.893カ月(同0.343カ月減)、平均額でも前年同期比4,178円マイナスの10万5,092円となった。

こうした結果も踏まえ、一時金については、生活給の一部になっているとして「年間6カ月+α(夏季2.5カ月+α、年末一時金3.5カ月+α)」を基本とし、算定基礎となる基本給が低く抑えられている実態から、最低保障額「最低賃金協定要求月額(誰でも)×統一要求の月数(年間135万円以上(22.5万円×6カ月)+α)」を設定することも提案している。

余力のある人員体制や夜勤・長時間労働の解消に向けた取り組みを強化

一方、「大幅増員、働くルールの確立」については、コロナ禍によりひっ迫する医療提供体制を改善するための増員を訴える必要性に言及しつつ、日常的に余力を持たせた現場の人員体制の重要性も指摘。「医師不足を補うための『診療の補助』の拡大ではなく、患者の状況に応じた判断や説明、確認やこころのケアなど、『療養上の世話』を充実させたい」として、「安全で行き届いた看護」のための人員体制実現に向けた運動を強化する。

また、医労連の「夜勤協定の手引き」や厚労省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」等を活用し、労働時間管理体制の明確化、始業前残業など不払い労働の根絶、夜勤協定の締結・順守など、具体的な要求を出して職場からのたたかいを強めると指摘。夜勤実態調査や看護職員の労働実態調査結果等も踏まえて、「月9日以上夜勤や長時間労働の解消、勤務間隔の確保、休日・休暇の取得や諸権利の行使などに必要な人員を職場ごとに明らかにして増員を要求」するほか、コロナ感染病床設置を理由にした一方的な長時間夜勤導入への反対も表明している。

医療・介護現場の勤務環境改善に向けた関係団対への働きかけや政府要請を

「安全・安心の医療・介護の実現」では、診療・介護報酬の見直しについて、「現場の医療・介護活動を正当に評価し、医療・介護現場の勤務環境改善に資する改定内容となるよう、関係団体への共同の働きかけや政府要請などを通年の取り組みとして検討する」としている。

また、2022年9~11月にかけて「いのちまもるキャラバン行動」に取り組み、全県での実施となるよう意思統一を強める。新型コロナ感染に直面して浮き彫りとなった国の社会保障抑制政策の転換を求めるほか、地域労連や社保協、共同する医療・介護関係団体や労働組合と連携して取り組む。

組合活動の見える化や組合員となることの優位性をアピール

組織拡大については、「いのちと平和を守り、社会保障の切捨てを許さない運動を広げ推進するためにも、日本医労連の組織を飛躍させることが必要」として、早期の組織数18万人の達成と、20万医労連に向けた前進を図ることとしている。森田書記長は、コロナ禍による新入職員への働きかけ・宣伝機会の減少や第5波以降の退職者の増加などが組合員数の減少に繋がっていると指摘し、組合活動の見える化を心掛け、組合員となることの「優位性を大いにアピールし、組織拡大強化に繋げていく必要がある」と強調した。

また、非正規雇用労働者の処遇改善に向けては、当事者が関わって立ち上がることの重要性を指摘し、「すべての組織で、非正規雇用労働者の要求前進と組織拡大を結びつけた取り組みを位置付ける」としている。