たたかう労働組合のバージョンアップを/全労連定期大会

2022年8月3日 調査部

全労連(小畑雅子議長、約72万4,000人)は7月27日から3日間、都内でオンライン併用の定期大会を開き、今後2年間の運動方針を決めた。方針は、① すべての労働者のゆとりある生活と労働の確保へ ② 地域の「公共」を取り戻し、持続可能な地域循環型の経済・社会の確立を ③ 平和憲法いかす政治への転換をはかる――の3つの要求の柱と、それらに基づく取り組みに4つのアプローチ(戦略)を位置付けて実現をめざすことを提起している。

3つの要求の柱と4つのアプローチを提起

方針は、はじめに向こう2年間の運動の進め方について、「労働者の切実な要求実現に向けて、たたかう労働組合のバージョンアップを図ることをめざす」姿勢に言及。「組織課題を克服するための方針づくりの討議をすすめ、その実践に足を踏み出す」とした。

具体的には、① すべての労働者のゆとりある生活と労働の確保へ ② 地域の「公共」を取り戻し、持続可能な地域循環型の経済・社会の確立を ③ 平和憲法いかす政治への転換をはかる――3つの要求の柱を提起し、運動の基調に据えた。

賃金引き上げと労働時間短縮にこだわった要求を

第1の「ゆとりある生活と労働の確保」では、「低賃金の職場に労働者は参入せず、人手不足による長時間労働と就労意欲の低下を招き、さらに求職者を寄せ付けなくなる」などとして、「賃金引き上げと労働時間短縮」にこだわった要求と運動の必要性を指摘。さらに、賃金の最低基準として、「月24~25万円、時間額で1,500円以上の収入」が得られるよう、賃金の底上げ闘争の強化を掲げた。こうした要求の実現に向けて、「すべての組織が、ストライキ等の高い交渉力を発揮しうる手段をつかってたたかえる労働組合になることをめざす」ほか、時間外労働を減少し、所定労働時間を1日7時間にする「労働時間短縮運動」や、非正規労働者の組織化を推進し、当事者が声を上げるたたかいに取り組むことなどで「ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の確立に舵を切らせる2年間」とする方向性を打ち出した。

ジェンダー平等が労働運動と社会に根付くことをめざす(小畑議長)

小畑議長は冒頭のあいさつで、「全労連は、4半世紀にわたって続く実質賃金の低下に歯止めをかけ、男女の賃金格差を是正していくために、とりわけ2つの取り組みに力を入れてきた」として、全国一律最低賃金制度の確立・最低賃金1,500円とケア労働者の大幅賃上げ・底上げをめざす取り組みに注力してきたことを紹介。そのうえで、「女性も男性も一人ひとりの労働者が、自立して8時間働けば普通に生活できる賃金に抜本的に引き上げ・底上げしていかねばならない」と述べて、「真のディーセントワークの実現のために、ジェンダー平等が労働運動と社会のなかに根付き、だれもが差別や抑圧から解放されることをめざそう」などと訴えた。

なお、大会では、「ジェンダー平等を推進するため、加盟のすべての組織が学び、話し合い、行動する」ことや、「だれもが仕事と家族的責任の両立がはかられ、人間らしく生きる権利を保障する労働条件、職場環境、制度・政策の実現をめざす」ことなどを明記した「全労連 ジェンダー平等宣言」を採択した。

地域の「公共」を取り戻す

第2の「地域の『公共』を取り戻す」については、長引くコロナ禍で「私たちの生活と地域の維持に欠かせない『公共』が、あまりに脆弱な状況にあることが明らかになった」としたうえで、「最も困難なことは、公共にかかわる職場で働く労働者の働く権利が奪われてきたことにある」と強調。公共職場で働く労働者の労働条件の抜本的な改善や「医療、介護、保育、教育、交通、通信など、公共性が高く、民営化になじまない事業や自治体でアウトソーシングされた事業の『再公営化』をもとめる政策づくり」や、物価の高騰から生活と地域を守るとりくみなどの運動を構築することで、「すべての地域が元気で活性化されることをめざし、『地域』を基礎に労働組合と地域住民の共同で前進をめざす」考えを示した。

この点について小畑議長は、「戦後、日本国憲法のもとで、基本的人権を国民に保障するための仕組みが、網の目のように作られてきたが、その大事な仕組みの一つひとつが『行政改革』『規制緩和』『民間活力の導入』などの名のもとに、崩され、壊されてきた」と主張し、「壊されてしまった、または壊されようとしている『公共』を、国民、地域住民の手に取り戻そう」などと呼び掛けた。

第3の「平和憲法をいかす政治」については、「平和と人権と民主主義が守られ憲法がいきる社会をめざし、労働組合として全力をあげる」として、「労働運動の前進にも資するたたかいをイメージし、声を上げれば変えられる実感が持てるたたかいを展開する」などとしている。

4つの戦略で一体となった運動を進める

方針は、上記3つの要求を実現させるための、① たたかう労働組合のバージョンアップ ② 格差の是正へ「非正規差別、女性差別の根絶とジェンダー平等の実現」をすべての運動に位置付ける ③ 組合員の力を最大限に引き出し、要求運動と組織拡大の結合で組織の再生をはかる④要求実現が可能な政治への転換をはかる――とする4つのアプローチ(戦略)を提示。このアプローチで、全労連を中心に単産・地方が一体となって運動を進めていく考えだ。

賃金の引き上げ・底上げと労働者の権利をまもる取り組み

運動の方向性を踏まえて重点課題ごとの方針(各論)をみると、賃金の引き上げ・底上げを目指す取り組みでは、「企業内最低賃金や初任給の引き上げを通じ、賃金の底上げ闘争を強化する」構え。また、大企業に対し、「内部留保課税などを活用するよう求めていく」。そのうえで、① 最低賃金全国一律・1,500円への引き上げ ② 公契約の適正化 ③ 公務員賃金の引き上げ――などに取り組むことも明記している。

一方、雇用・労働法制の課題に関しては、「アフターコロナを合い言葉にした労働法制の規制緩和をはかる政府・業界の動きに対抗し、労働者の権利を守り、労働条件を改善するための労働法制闘争を展開する」方針の下、雇用維持、労働時間や働き方の改善、格差是正、労働者制判断の拡大とフリーランス保護などの取り組みを列記している。

全国一律最賃アクションプラン2024を補強

全労連は2016年の定期大会で、「全国最賃アクションプラン」を確認。以後4年間、全国一律最低賃金制の導入等に取り組んだ。2年前の前回大会では新たに「全国一律最低賃金アクションプラン2024(期間:2020年8月~2024年7月)」を採択。「これまでの4年で築いた到達を土台に」全国一律最賃制への法改正(2022年春での実現をめざす)や時間額1,500円を当面の最低賃金水準目標とする広範な合意形成、中小企業支援の抜本的な強化等の目標を掲げていた。今大会では、「この2年間の取り組みを通じて、『最賃アクションプラン2024』の目標である『全国一律制への法改正は2022年春での実現をめざす』ことができなかった」として、同プランの補強を確認した。

補強は、全国一律制の法改正が実現できなかった要因として、① 賃金闘争と一体に最低賃金運動を広げられなかった ② 法改正に必要な数の国会議員に全国一律最賃制度の必要性を広げ切れなかった ③ 全体の運動として学習と宣伝を広げ切れなかった――ことをあげたうえで、これらを広げる運動を軸に、春闘で1,500円以上の要求と企業内最低賃金の引き上げを進めることや、全都道府県での意見書採択の追求、国会議員と各政党への要請活動の強化、中央最低賃金審議会委員と地方最低賃金審議会委員の獲得などの取り組みを強める方針を明記している。

地域の未組織労働者の組織化方針を確認

組織強化・拡大の課題では、「魅力ある組合・魅力ある活動を作ることが重要」との考えの下、オンラインなどを活用しながら参加できる日常活動の構築や、組合活動の見える化、組合基礎学習の強化などの組織強化に力を入れる構え。「退職=脱退」にさせないための取り組みや、争議支援の早期解決などの活動強化を図る方針も掲げている。

全労連は2000年初頭に、組織拡大・機能強化の重点目標として、① 全都道府県にローカルユニオンを結成 ② すべての地域労連に常設労働相談所を設置 ③ すべての地方への地方共済会の設立――の「3点セット」を軸に未組織労働者の組織化に向けた方針を決め、2010年までに未組織労働者の受け入れ体制を整えてきた。しかし、その後は拡大をつくることができず、新加盟・新結成が大きな課題となっている。こうした現状を踏まえ、大会では、「地域の未組織労働者の組織化方針」を確認した。

方針は当面する検討課題として、「地方労連、地域組織とも組織減少、財政減少、役員の担い手不足で、日常の組織運営に支障をきたす状況」にあることに加え、「単産地方組織に加盟する労働組合組織の結集強化」や「単産個人加盟ユニオンの広がりのなかで、労働相談運動、地域運動への参加の契機につなげる工夫」などが必要になっていることを指摘。これらの課題に対し、ローカルユニオンを労働相談の受け皿から地域労組のスタイルへの組織的な前進をめざすことや共済運動を組織財政強化に結びつけた方針を提起・実践すること、労働相談からの組合加入とセットで共済加入を位置付けることなどの対応策を示している。

役員改選では、小畑雅子議長と黒澤幸一事務局長が再選された。