全産業平均賃金と介護職との賃金格差は約4万円に/NCCUアンケート調査

2022年3月30日 調査部

介護従事者の月額賃金の平均額は全産業平均賃金より約4万円低い――。介護職場で働く労働者らを組織するUAゼンセン傘下の日本介護クラフトユニオン(NCCU、染川朗会長、約8万6,000人)は、「2021年賃金実態調査報告書」を発表。集計されたデータからは、介護従事者が、現在の賃金や一時金が他産業より低く、業務量、業務内容に見合わないことに不満を感じていることが明らかとなった。NCCUは、より危機感を持って人材確保と処遇改善に取り組むべきだと訴えている。

関わっている介護サービスは訪問介護が最も高い

調査は2018年以来3年振りに実施。今年度は2021年8月20日~10月22日を調査期間として、分会組合員5,000人と個人組合員438人に調査票を配布し、合計3,069人(月給制組合員2,001人、時給制組合員1,068人、回収率56.4%)から回答を得た。

現在関わっている主な介護サービスの割合をみると、月給制組合員(以下、「月給制」)では「訪問介護」が26.1%と最も高く、次いで「有料老人ホーム」が21.7%、「デイサービス(認知症対応型・地域密着型を含む)」が14.8%となっている。時給制組合員(以下、「時給制」)では「訪問介護」が27.7%と最も高く、次いで「デイサービス(認知症対応型・地域密着型を含む)」が22.7%、「有料老人ホーム」が15.4%となった。

主に従事している職種の割合をみると、月給制では「入所系介護員」(17.2%)、「ケアマネジャー」(13.0%)、「訪問系介護員」(11.0%)などが高い。時給制では「訪問系介護員」(22.6%)、「入所系介護員」(21.3%)、「通所系介護員」(15.3%)などが高くなっている。

8月の賃金は月給制、時給制ともに3月に比べて増加

2021年3月と8月の月額賃金(所定内賃金)の平均額の変化をみると、月給制の8月の月額平均は26万5,216円となり、3月(26万2,569円)と比較して2,647円(1.0%)の増加となった。これを全産業平均賃金30万7,700円(「令和2年(2020年)賃金構造基本統計調査」結果より)と比較すると、約4万円低くなっている。

村上副会長・政策部門長は、「前回調査(2018年)では、全産業平均賃金との格差が約6万円だったので差はかなり縮まっている」と指摘。この効果の1つとして、厚生労働省が介護職員の賃金改善を目的として導入した「介護職員処遇改善加算」、「介護職員等特定処遇改善加算」などによる効果をあげた。その一方で、「ケアマネジャー、福祉用具専門相談員、事務職などは加算対象とならないため、賃金の上がり方が鈍くなっている」と課題も提示している。

半数以上が現在の賃金に不満を感じる

今の賃金に満足しているかを尋ねたところ、「満足している」と「まあまあ満足している」の合計は、月給制が30.9%(それぞれ6.1%、24.8%)、時給制が47.2%(同12.2%、35.0%)となっている。

一方、「少し不満である」と「大いに不満である」の合計は、月給制が66.6%(それぞれ42.8%、23.8%)と時給制が50.0%(同34.6%、15.4%)となった。職種別でみると、月給制では「入浴オペレーター」や「福祉用具専門相談員」などが高くなっており、村上副会長・政策部門長は、「他の職種に比べて労働時間が長くなりやすい職種であるにもかかわらず、賃金が低い点に不満があるのではないか」と指摘した。

「不満である」とした回答者にその理由(最もあてはまるもの2つ以内)を尋ねたところ、月給制、時給制ともに「社会的な平均賃金より低いと思うから」(それぞれ44.1%、35.4%)が最も高い。そのほか、「今の業務量に見合っていないから」(同38.9%、33.5%)、「今の業務内容に見合っていないから」(同28.1%、30.7%)、「生活していくために十分ではない額だから」(同25.3%、26.0%)の割合も高くなった。

一時金への不満は月給制で約7割に

2020年冬の一時金および2021年夏の一時金(税込金額)の平均額についてみると、月給制は2020年冬が20万1,281円、2021年夏が19万7,712円。時給制は2020年冬が2万6,727円、2021年夏が2万4,933円となっている。

一時金の額に満足しているかみると、「満足している」と「まあまあ満足している」の合計は、月給制は21.6%(それぞれ4.3%、17.3%)、時給制は18.2%(同4.2%、14.0%)。一方、「少し不満である」と「大いに不満である」の合計は、月給制が69.5%(それぞれ33.2%、36.3%)、時給制が46.3%(同19.7%、26.6%)となった。「少し不満である」と「大いに不満である」の合計を職種別でみると、月給制では賃金に対する回答と同様に、「入浴オペレーター」や「福祉用具専門相談員」などの割合が高くなっている。

「不満である」とした回答者にその理由(最もあてはまるもの2つ以内)を尋ねたところ、月給制では、「社会的な平均賃金より低いと思うから」(53.8%)が最も高く、半数以上となっている。一方、時給制では、「一時金の制度がないから」(33.4%)が3割を超え、最も高くなった。

介護職員処遇改善加算制度を認識していない場合も

2012年より導入された「介護職員処遇改善加算」について、本来であれば同制度の対象である職種の組合員に対し、自身が同制度の対象であるかを尋ねたところ、「はい」と回答した割合は月給制が70.4%、時給制が57.4%となった。月給制では4分の1強、時給制では約4割が「いいえ」または「わからない」と回答しており、現場では組合員の制度に対する認識や、制度に関する情報周知が不足していることがうかがえる。

また、2019年に新設された「介護職員等特定処遇改善加算」について、自身が同制度の対象であるかを尋ねると、「はい」と回答した割合は月給制で35.0%、時給制で20.4%。一方、「わからない」の割合が月給制では29.4%、時給制では45.1%にのぼった。

社会的役割として見合う賃金へ是正を

染川会長は、今回の調査結果を受けて、「人材確保に密接にかかわるのは処遇の問題」であると指摘。「人が来ない理由は労働の対価として見合わない賃金であるからで、これを社会的役割として見合う賃金へ是正していかなければ、介護人材はこの先さらに不足し、介護保険制度の維持にもかかわるのではないか」として、より危機感を高めて人材確保と処遇改善に取り組む必要性を強調した。