公立・公的医療機関の医療従事者の7割が離職の検討を経験/自治労アンケート調査

2022年3月30日 調査部

医療従事者の7割が離職を検討したことがある――。全日本自治団体労働組合(川本淳委員長、75万2,000人)の専門組織として、病院、保健所などで働く組合員で構成されている衛生医療評議会は、「コロナ禍における公立・公的医療機関で働く医療従事者の意識・影響調査結果」を発表。公立・公的医療機関で働く職員の労働環境やメンタルヘルスの実態を明らかにした。集計されたデータからは、各地域で新型コロナウイルス感染症対応の中心的な役割を果たしてきた公立・公的医療機関の医療従事者が、周囲から差別・偏見を受けたり、行動制限を余儀なくされ、メンタルヘルスに影響を及ぼしていることがうかがえる。自治労は、現場で働く職員の離職防止や全ての医療従事者が働き続けられる労働環境の必要性を訴え、人員確保と処遇の改善を求めている。

離職したい理由で最も多いのは業務の多忙さ

調査は、自治労加盟の医療機関で働く組合員を対象に、2021年11月24日~2022年1月21日にWEBアンケートを活用して実施。45都道府県、7,724人から回答を得た。

現在の職場を辞めたいと思っているか尋ねてみると、「常に思う」(12%)、「しばしば思う」(21%)、「たまに思う」(36%)を合わせた69%が、離職を検討していた。

辞めたいと思う理由(3つまで選択)をみると、「業務が多忙」が最も多く、「業務の責任が重い」、「賃金に不満」なども上位にのぼる。平山衛生医療局長は、「業務量・責任の重さに比べて、処遇が低いことが原因なのではないか」と指摘している。

医療従事者自身やその家族も差別・偏見を経験

2021年1月以降の1年間で、医療従事者であることで、差別・偏見を経験したことがあるかを尋ねてみると、23%が「ある」と回答した。これに対する自由記述では、「コロナ対応の病院勤めと知られると避けられる」、「友達に会うのは控えたいと言われた」といった組合員自身への差別・偏見のほか、「近所の人に子どもの登校をやめるように言われた」など、組合員の家族に対する差別・偏見についての声も寄せられた。

また、2021年1月以降の1年間で、うつ的な症状があったかを尋ねてみると、23%が「ある」と回答。自由記述では、「一般の人より厳しい行動制限」、「家族にも必要以上の行動制限をさせている」といった、家族も含めて思うように行動ができない様子や、「先の見えないことに対する不安や感染リスクの不安」があるとの声が寄せられた。

差別・偏見を受けた経験がある人や休暇取得が困難な人ほどうつ的症状に

差別・偏見とうつ的症状の関係をみると、うつ的症状が「ある」との回答割合は、差別・偏見を経験した組合員で35%、経験していない組合員で20%となっている。差別・偏見を経験した人は、経験していない人に比べてうつ的症状が15ポイント高い。

また、休暇取得とうつ的症状の関係をみると、うつ的症状が「ある」との回答割合は、休暇について「取得が難しくなった」と回答した組合員で33%、「特段の変化はない」または「取得がしやすくなった」と回答した組合員で20%となっている。休暇の取得が難しくなった人は、変化がない・取得がしやすくなった人に比べてうつ的症状が13ポイント高くなっており、平山衛生医療局長は「休暇が取れないことで気分転換、リフレッシュができず、心のリフレッシュもできていないのではないか」と言及している。

うつ的症状がある人はより強く離職を意識

うつ的症状と離職検討の関係をみると、うつ的症状が「ある」と回答した組合員のうち、「常に辞めたいと思っている」が26%、「しばしば辞めたいと思うことがある」が30%、「たまに辞めたいと思う」が32%となっており、あわせた88%が離職を検討したことがあるとしている。

一方、うつ的症状が「ない」と回答した組合員では、「常に辞めたいと思っている」が8%、「しばしば辞めたいと思うことがある」が18%、「たまに辞めたいと思う」が38%。あわせた割合は64%で、うつ的症状があると回答した組合員と比べて20ポイント以上低い。「常に辞めたいと思っている」の回答割合は、うつ的症状が「ない」人に比べて「ある」人のほうが18ポイント高く、うつ的症状がある人の方がより強く離職を意識していることがうかがえる。

医療従事者が働き続けられる労働環境に向けて人員確保と処遇改善を

平山衛生医療局長は、今回の調査結果を受けて「いくら病床や機械を用意してもそれを扱う人がいなければしっかりとした運営ができない」と指摘。「今働いている人が辞めれば欠員による医療崩壊が起こりかねない」として、現場で働く職員の離職防止に向けた対策や、全ての医療従事者が働き続けられる労働環境の必要性を訴えた。また、そのための取り組みとして、人員確保と処遇に関する課題を提示している。

人員確保に向けた課題としては、元から人員不足となっている医療現場が、新型コロナウイルス感染症の影響で業務負担が増加し、労働環境が悪化している点や、診療報酬が平時から緊急時に備える人材確保のための財源として十分でない点を指摘。平時から緊急時に対応できる人材配置や、そのための予算措置を求めるとした。

処遇の課題については、人事院勧告に伴い公立・公的医療機関で働く医療従事者の一時金が引き下げられた点や、相談窓口設置などのメンタルヘルスケアの体制を充実させる必要性を強調。責任に応じた賃金改善とメンタルヘルスケアの整備を訴えた。