賃上げ額の平均は昨年を1,000円以上上回る/連合のヤマ場を終えての賃上げ回答結果

2022年3月23日 調査部

3月15日~17日までを先行組合の回答引き出しのヤマ場に設定していた連合(芳野友子会長)は18日、ヤマ場を終えた時点での回答状況を公表した。定期昇給相当分込みの賃上げ額の平均は6,581円で、昨年より1,000円以上高い。連合の芳野会長は「中長期的視点を持って『人への投資』と月例賃金にこだわり粘り強く交渉した結果」と評価した。

集計組合数も前年に比べ増加

18日公表の回答集計によると、平均賃金方式では、776組合(155万7,857人)の回答結果について集計。定昇相当分込みの賃上げ額の加重平均は6,581円で、率では2.14%となっている。前年同期と比べると、順調な交渉の進捗状況を反映し、集計組合数が前年よりも113組合増加。賃上げ額は前年を1,018円上回り、率では0.33ポイント上回った。

賃金改善やベアなどの「賃上げ分」が明確に分かる組合の集計では、459組合(116万9,812人)の回答結果について集計。「賃上げ分」の加重平均は1,642円で、率にすると0.50%。前年同期と比べると、集計組合数は173組合増加した。額で比較すると43円の減少となったが、連合では「(集計した)組合員数が大幅に増加した影響と考えられる」としている。

中小の賃金改善額が初めて全体平均を上回る

「賃上げ分」の額を組合規模別にみると、「300人未満」が1,746円(0.63%)に対し、「300人以上」が1,640円(0.50%)と、規模の小さい組合のほうが額・率ともに上回っている。額で「300人未満」が全体平均を上回るのは、「賃上げ分」が明確にわかる組合の集計を開始した2015年の闘争以降、初めてだ。

パートタイマーや契約社員などの「有期・短時間・契約等労働者」の賃上げについてみると、時給の加重平均(40万9,442人について集計)は26.25円で、前年同期を1.64円上回った。平均時給にすると1,052.63円となる。

月給の加重平均(7,867人について集計)は4,680円(2.09%)で、前年同期と比べると296円の減少となった。

「しっかりとした要求と有意義な交渉が行われた」連合会長

連合は17日、ヤマ場の回答引き出し状況に対する芳野会長のコメントを発表。コメントは、「産業による違いはあるものの、多くの組合で賃上げを獲得している。コロナ禍の影響に加え、ロシアのウクライナ侵攻や燃料・資材価格の高騰等が起こったなかでの労使交渉となったが、中長期的視点を持って『人への投資』と月例賃金にこだわり粘り強く交渉した結果と受け止める。また、有期・短時間・契約等労働者の賃上げ結果も格差是正に向けて一歩前進と受け止める」などとしている。

18日に開かれた第1回回答集計結果についての記者会見で芳野会長は、「要求に対して、満額の回答を得た組合が多かったのが1つの特徴だ。組合が職場の現状を踏まえてしっかりとした要求を出したのに応え、会社側も企業の中長期的な発展を見据えて、人への投資の観点から真摯かつ、有意義な交渉が行われたことにこそ意味がある」と述べた。

「化学・食品・製造等」では2.9%の賃上げ

会見では、「金属」、「化学・食品・製造等」、「流通・サービス・金融」、「インフラ・公益」、「交通・運輸」の5つの共闘連絡会議の各議長が、同時点での共闘における回答状況を報告した。

「金属」の議長である金子晃浩・自動車総連会長は、16日の集中回答日に出された大手を中心とする回答では「ほとんどの組合で賃金改善分を獲得した」と報告。2014年以降では2015年に次ぐ高い引き上げ額となっているなどと話した。

「化学・食品・製造等」の議長である酒向清・JEC連合会長は、定昇相当分を含めた要求水準は加重平均で9,169円(2.9%)となっていると説明。業績が改善の方向にある一方、原材料価格の高騰や海外輸送網の停滞など先行きが見通せないなかでの交渉となったが、各組合は粘り強く人への投資を訴えたと述べた。

回答状況については、「賃金改善分の獲得組合は明らかに前年よりも増えている」とし、UAゼンセン加盟組合で19から23組合、JEC連合加盟組合で3から10組合に増加したと説明。獲得額は前年を大きく上回り、加重平均で7,701円(前年6,193円)、率では2.3%(同1.98%)となっているなどと述べた。

流通部門の回答額は昨年、一昨年を上回る

「流通・サービス・金融」の議長である松浦昭彦・UAゼンセン会長は、「流通部門では一昨年のほうが昨年よりも回答額が高かったが、今年はそれらよりもさらに高い回答額となっている」と指摘し、特に食品スーパー、インテリア、家電量販店や専門店での妥結結果が良好であり、額では7,000円程度、同一組合で昨年と比べると358円高い水準となっていると説明した。サービス部門では、クレジットカード業界の組合で9,000円を超える賃上げ回答が出ていると述べた。

生命保険関連では、営業職員について、10組合中8組合が収束し、内勤職員については15組合中5組合が収束していると報告。それぞれ賃金改善の回答が引き出されている報告を(該当産別から)受けたと述べた。

損保関連では、まだ解決に至っていない状況だが、損保労連と業界団体との話し合いで、「人への投資に積極的に取り組む必要がある」との回答を団体から引き出していると報告。サービス連合の加盟組合では、昨年、賃上げできなかった組合や引き上げを凍結した組合で賃上げを実現した組合が出ていることを明らかにした。

JR北海道で21年ぶりのベア獲得

「インフラ・公益」の議長である安藤京一・情報労連委員長は、賃上げについて、「昨年を上回る回答を引き出す組合、昨年できなかったが今年、回答を引き出した組合があり、良い結果が出ている組合が多い」と報告。また、初任給の改定を行う組合もあり、「この勢いがこのあとに続くことを期待する」と述べた。また、有期・短時間・契約等労働者の処遇改善について、すべての雇用形態で正社員と同水準の賃金改善や、0.5%~2%の賃金改善、一時金13万円の満額回答を獲得した組合も出ていると話した。

「交通・運輸」の難波淳介・運輸労連委員長は、交通について、新型コロナウイルスの第6波による利用者の減少で厳しい状況が続いており、JRでは定昇を中心に確保している状況だと報告する一方、JR北海道では21年ぶりのベア(500円)を獲得し、JR貨物でも300円のベアを獲得するなど人材不足への対応が図られていると報告した。一方、私鉄では、昨年の引き上げ額よりも高い額で妥結できていると述べた。

妥結まで時間かかりそうな航空業界

航空関連については、利用者が少ないことや、ウクライナ情勢によって欧州便が見通せない状況があるなかでの交渉となっており、妥結まで時間がかかりそうだとの報告が単組からあがっていると説明した。ハイヤー・タクシーでは、コロナ前に比べ営業収入が6割程度に落ち込んでおり、雇用調整助成金を活用しているなかでの交渉となっていると報告した。

物流では、大手を中心に前年を上回る回答を得ているものの、燃料代の高騰のなかで運賃への転嫁が難しい状況もあり、先行き不透明感があるなかでの交渉が続くと話した。