賃金体系維持分に加え2%基準の賃金引き上げを要求/UAゼンセンの2022労働条件闘争方針

2022年1月26日 調査部

[労使]

繊維・衣料、医薬・化粧品、化学・エネルギー、食品、流通など多様な業界の労働組合でつくるUAゼンセン(松浦昭彦会長、約182万人)は20日、オンライン方式を併用して中央委員会を開催し、今春の賃上げ交渉に向けた「2022労働条件闘争方針」を決定した。昨年は新型コロナウイルス感染拡大による影響が大きく、幅をもたせた賃上げ要求基準を設定したが、今回は、「2%基準」と引き上げ基準を明確に示した。パートタイマーについての要求基準では、2%以上の時間給引き上げを掲げた。

引き上げ「目標」から「基準」に戻す

UAゼンセンの加盟組合には、外食産業やレジャー、百貨店など、新型コロナウイルス感染拡大の影響が大きい業種も含まれていることもあり、昨年の方針では、賃金改善分の取り組みについては、「格差是正分として2%までの幅を目標に賃金を引き上げる」と記載し、引き上げ要求について幅を持たせるとともに、「目標」との位置づけにとどめ、「異例の年との位置づけで要求・交渉を進めた」(松浦会長)。

しかし、今年は、「過年度物価上昇はゼロ近傍ながら原油高をはじめとした輸入物価の上昇により足元の消費者物価がプラス基調にあること、GDPもコロナ前の水準には到らないものの回復基調にあること、そして、まだまだ産業・業種による幅はあるが厳しい環境にある業種も昨年秋以降は事業環境に改善がみられている」(松浦会長)ということもあり、賃金改善を求めていく姿勢を明確にするとともに、「UAゼンセン全体として賃金体系維持分に加え2%基準の賃金引き上げを要求する」として、引き上げ幅の位置づけを「基準」に戻して方針を策定した。

「シビアな環境の復興のために賃上げが必要」(松浦会長)

あいさつした松浦会長は、「もちろん、観光や外食関連など、厳しい事業環境が長期化したことから、昨年より大きく改善したとは言い難い状況にある業種があることは承知している」としたうえで、「しかし、コロナ禍からの出口を模索しようとする段階にある本年、物価も上昇する中で賃上げが昨年並み以下であれば、今後の消費回復はとてもおぼつかないものとならざるを得ない。いま、シビアな環境にある産業・業種の一日も早い復興に向けても今次賃上げが重要だ」と強調した。

人への投資を起点に消費拡大・景気回復につなげる

今次闘争の基本的な考え方として方針は、「『ウイズコロナ』『ポストコロナ』時代の社会・経済構造の変化に対応し、雇用の維持を前提としつつ労働条件の維持向上に着実に取り組む」と強調。「これまでの組合員の努力に報いるためにも、賃金引き上げと働き方改善・労働時間改善を両輪として生活改善および労働条件の維持・向上を求める」とし、「これらの『人への投資』を起点とし、消費拡大・デフレ脱却・景気回復につなげるなどとしている。

また、新型コロナウイルス感染症の影響が残るなか、外国人や障がい者を含むすべての働く人が、職場で安全・快適に業務を進めることができるよう点検と改善を求めていくと表明している。

賃上げや格差是正に取り組むことが「労働組合の本来的役割」

こうした考え方をうけた2022賃金闘争における要求の考えは、まず、「組合員の生活向上を求めて賃金引き上げに取り組む」と提起。賃金引き上げの流れを継続することが経済成長や物価上昇を促し、生活水準の向上という社会的目標を果たすことにつながると指摘するとともに、生活水準維持や組合員の努力に報いる賃金引き上げや格差是正などに取り組むことは「労働組合の本来的役割」だと強調した。

また、企業内最低賃金を必ず協定化すると言及。さらに、働きがいと納得感を持って仕事に取り組むために、評価にもとづく公正な賃金制度を整備することや、均等・均衡ある賃金表、昇給昇格制度の構築を行い、賃金体系維持分を明確にした要求を行うことなどを打ち出した。

ミニマム水準は高卒35歳・大卒30歳で24万円

具体的な要求基準をみると、正社員(フルタイム)組合員の平均賃金引き上げでは、産別が定めるミニマム水準に達成していないか、水準が不明の組合については、「賃金体系維持分に加え、2%基準で賃金を引き上げる」とし、賃金体系が維持されていない組合は「賃金体系維持分を含め9,500円または4%基準で賃金を引き上げる」などとした。なお、ミニマム水準の具体的な金額は、高卒35歳・勤続17年で24万円、大卒30歳・勤続8年で24万円と設定している。

産別が定める到達水準(すべての加盟組合が目指す)に達成しない組合については、「格差是正の必要性をふまえ、部門ごとに各部会・業種の置かれた環境に応じた要求基準を設定する」とした。到達水準は、高卒35歳・勤続17年、大卒30歳・勤続8年ともに「25万5,000円を基本に部門ごとに設定」としている。なお、部門は、製造産業部門、流通部門、総合サービス部門の3つに分かれている。

到達水準以上の組合については、「目標水準へ向け部門ごとに要求基準を設定する。部門の決定にもとづき、一定部分については総合的な労働条件の改善として要求できるものとする」とした。目標水準(中期的に目指す水準)は部門ごとに設定している。

パート賃上げ基準では金額も提示

UAゼンセンでは、組合員の過半数を短時間(パートタイム)で働く組合員で占めている。短時間(パートタイム)組合員の賃金引き上げ基準では、「制度昇給分に加え、2%以上の時間額を引き上げる。制度昇給分が明確でない場合は、制度昇給分を含めた要求総率として4%基準、総額として時間当たり40円を目安に引き上げる」とした。昨年の方針と違い、今年は時間当たり額での引き上げ幅も示した。UAゼンセンによると、「UAゼンセン賃金実態調査」の全国平均賃金が1,051円(2021年10月時点)であり、その4%を算出すると40円程度になるという。

雇用形態間の不合理な格差の是正へ向けて要求する手当についても、総額に含めるとしている。また、体系維持原資(制度昇給分)などの格差是正が必要な場合は正社員(フルタイム)組合員以上の要求を行うとし、昇給制度が未整備の場合は、別途制度導入を要求するなどとした。

最低賃金は17万3,000円をもとに設定

最低賃金の要求基準では、昨年の要求基準である月額16万9,000円から、昨年の闘争結果や最低賃金の引き上げ状況などを勘案して4,000円引き上げた額である17万3,000円、時間額はそれを平均的な労働時間で除した1,060円をもとに、消費者物価の地域差を勘案して各都道府県別に算出した金額以上とするとした。昨年と同様、法定最低賃金×110%に達していない場合は、まずはその水準を目指し、協定化を図る。

正社員組合員の初任賃金についても要求基準を設定し、 ① 高卒:17万4,000円基準 ② 大卒:21万7,000円基準――とした。基準を上回る場合は、平均賃金の引き上げと均衡ある引き上げを行うとしている。

はじめて外国人労働者の就業環境整備を盛り込む

賃金闘争以外の項目では、労働時間の短縮・改善において、所定労働時間の基準について、到達基準で2,000時間未満、年間休日115日以上、目標基準で1,900時間未満、年間休日120日以上などと定めた。

総合的な労働条件の改善では、今回新たに「外国人労働者の就業環境の整備」を盛り込んだ。外食チェーンなど加盟組合企業の多くで外国人を雇用する状況となっていることから、特に人権尊重を意識し、 ① 規則・規定の点検と多言語化 ② 法令順守および企業の講ずべき措置に関する協議③多文化が共生する職場づくり――に取り組む。

製造産業部門は2年ぶりに数字で基準を設定

こうした産別方針をうけて、製造産業(932組合、約19万人〈本部発表ベース、以下同じ〉)、流通(531組合、約110万人)、総合サービス(786組合、約53万人)の各部門は21日、部門の闘争方針を決定した。

製造産業部門では、昨年はコロナ禍で主要組合の7割が減収減益に陥るなどの状況にあったことから、部門として、数字をあげての一律の賃上げ要求基準は示さなかった(産業・業種の実情に応じて設定するとの内容)。

今年は、主要組合の7割が増収増益に転じ、雇用調整助成金の申請件数も減少したことから、2年ぶりに数字をあげて要求基準を設定。部門全体としての要求基準は「賃金体系(カーブ)維持分に加え、1%以上の賃金引き上げ、到達水準との格差是正を含め2%基準の要求を行う」とした。

製造産業部門では8割以上を300人未満の中小組合が占めていることもあり、約8割の組合がミニマム水準に達していない。方針は、ミニマム未達組合(および水準不明組合)の要求基準については「賃金体系(カーブ)維持分とは別に、賃金引き上げ1%以上に、格差是正を含め2%を要求する」などとした。

流通部門は産業間格差の是正を目指す

流通部門では、業績堅調な業種が多く、コロナ禍の影響が大きい百貨店や専門店も、コロナ前の水準には及ばないものの復調の兆しがみられる。また、大卒社員の35歳以降の賃金水準が他産業に比べて見劣りするなど、産業間格差の縮小を図る必要があることをふまえ、昨年よりも積極的な要求基準を設定した。

具体的には、正社員組合員については、ミニマム水準未達(および水準不明)の組合は「賃金体系維持とベースアップ含む賃金引き上げ:一人平均9,500円以上を目標に取り組む」とし、ミニマム水準を超えるが到達水準に未達の組合は「賃金体系維持分に加え、ベースアップを含む賃金引き上げ:一人平均4,500円以上・2%以上を目標に取り組む」などとした。

一方、短時間組合員の要求基準については、「正社員組合員の要求水準同等もしくは、それ以上を要求する」とし、正社員と職務の内容が異なる・職務の内容が同じ組合員については、昇給制度がある場合は「2%以上の賃金引き上げを目標とする」とし、制度がない場合は「4%以上の賃金引き上げを目標とする」とした。正社員と同視すべき短時間組合員については「正社員の賃金水準と均等になるよう、賃金引き上げを要求する」とした。

総合サービスは幅のある要求基準に

外食チェーンなどが所属する総合サービス部門は、最も新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けており、いまだ「特異な状況が続いている」(原田光康・部門事務局長)ことから、昨年に引き続き、賃金については幅のある要求基準とした。

正社員組合員の要求基準では、ミニマム水準未達(および水準不明)の組合については「4,500円(賃金体系維持相当分)に加え賃金引き上げ2.0%基準、または一人平均9,500円を基準に要求することを原則とし、少なくとも、4,500円(賃金体系維持相当分)に加え賃金引き上げ1.0%以上、または一人平均7,000円を下回らないように要求する」とした。

総合労働条件の改善では、取り組みの必須項目として「労働時間の短縮・改善」などをあげた。総合サービス部門には、フード、フードサービス、生活サービスなど9つの部会があるが、すべての部会が年間総実労働時間の目標を掲げている。フード、フードサービス、ケータリング、インフラサービス、ホテル・レジャーの各部会は2,000時間、生活サービス、医療・介護・福祉、人材サービスの各部会は1,900時間、パチンコ関連部会は1,980時間を目標に、それぞれさまざまな取り組みによって労働時間削減に取り組む。

UAゼンセンの加盟組合は2月20日までに、会社側に要求を提出する。