企業内最低賃金の要求基準を16万8,000円以上へ引き上げ/自動車総連の中央委員会

2022年1月19日 調査部

[労使]

トヨタや日産など大手メーカーも含む自動車各社の労働組合が加盟する自動車総連(金子晃浩会長、約79万9,000人)は13日、オンライン方式を併用して都内で中央委員会を開催し、今春の賃上げ交渉に向けた「2022年総合生活改善の取り組み方針」を決定した。2019年から始めた賃金の絶対額の水準到達を重視する取り組みを継続する。一方、企業内最低賃金の要求基準を16万8,000円以上(月額)に設定し、昨年の要求基準から4,000円引き上げた。

2019年から絶対額重視の共闘へ転換

自動車総連は、賃上げの取り組みについて、2018年までは賃金の上げ幅による共闘を行ってきたが、2019年から賃金の絶対額の水準到達で共闘する方針に転換。そのため、産別としての賃金の上げ幅としての要求基準は明示せず、各単組がそれぞれの目指すべき水準への到達をめざした要求を組み立てる。それに伴い、産別は平均賃金での要求方式だけでなく、個別賃金での要求の定着を促している。

絶対額を重視した取り組みは進んでおり、加盟単組の8割以上は、会社からの賃金データの入手や、賃金課題の明確化と目指すべき水準の設定を終えている。会社側に引き上げを要求するなど具体的な取り組みを行っている単組は約6割に達し、7割以上は賃上げ後の配分などにも関与している。

2021年の取り組み後の「中堅技能職」での個別賃金水準について、5年前(2016年)との比較を組合規模別にみると、「1~299人」が2,624円上昇しており、「300~499人」では1万1,660円と1万円以上上昇している。ただ、「3,000人以上」でも3,698円上昇しており、規模間での格差是正の観点から、自動車総連では「継続した取り組みが必要」としている。

企業内外における格差是正も勘案

今年の方針も、「各単組の目指すべき賃金水準及び賃金課題の解決に向け、自ら取り組むべき賃金水準を設定」するとし、「労働の質的向上、賃金の底上げ・底支え、企業内外における格差是正の必要性などの要素を総合的に勘案し、賃金カーブ維持分を含めた引き上げ額全体を強く意識した基準内賃金の引き上げに取り組む」と強調している。

単組が目指すべき賃金水準を設定する際の参考のため、今年も目安となる基準額を6段階で設定。最も下の基準である「自動車産業ミニマム」では「技能職若手労働者(若手技能職)」で21万5,000円、「技能職中堅労働者(中堅技能者)」で24万円とし、その上の基準の「自動車産業スタンダード」ではそれぞれ22万円、24万8,000円、その上の「自動車産業目標」では23万9,000円、27万2,000円などとした。

現時点の締結率は82.7%

企業内最低賃金について、今年も積極的に取り組むとしている。まず、協定未締結の全ての単組は、「必ず新規締結に向けて要求を行う」とした。なお、2021年取り組み後の締結率は82.7%となっている。

要求基準は月額で「16万8,000円以上」とし、昨年の基準「16万4,000円以上」から4,000円引き上げた。締結額の総連平均は16万2,702円で、昨年の基準にも達していないが、基準引き上げの必要性について、企業内最低賃金・特定最低賃金と地域別最低賃金の金額差が年々縮小していることや、特定最低賃金の引き上げには企業内最低賃金の引き上げが不可欠である点をあげた。

年間一時金については、昨年と同様。「年間5カ月を基準」として取り組むとした。なお、業績を意識した付帯条項付の回答は望ましくないとのスタンスで取り組むとしている。

今後のスケジュールについては、1月21日までに各グループ労連が方針決定を終える。2月16日を主要単組の統一要求日に設定した。

「絶対額重視の取り組みは成長の一助にもなる」(金子会長)

あいさつした金子会長は、交渉を取り巻く情勢について、「自動車産業は、足元は厳しい状況だが、過去のリーマンショックや東日本大震災の時の要因が主に需要の大きな落ち込みだったことと比較すると、今回の場合は、供給側の問題が大きいと言える」と指摘し、「コロナウイルスの感染再拡大を含めてけっして楽観視はできないが、けっして悲観する必要もない」と発言。

絶対額を重視する取り組みについて、「この3年間で、徐々に成果があらわれてきている。今後も継続していくことで、賃金水準の引き上げだけでなく、日本経済の底上げ、持続的な成長の一助になると信じている」と述べるとともに、自動車産業がカーボンニュートラルなどの影響を受けている現状を触れたうえで、「こうした競争に勝ち抜いていく源泉が人であることは言うまでもない。ものづくり産業、そして、裾野の広い自動車産業を国内に残していくためには、人材を確保し、成長させていくことが必要だ」と強調した。

さらに金子会長は、「人材確保のためには、賃金や企業内最賃をはじめとした労働条件の向上や働き方の改善が不可欠だ」と述べるとともに、「産業全体の魅力を高めていかなければならない」と主張。「それには、メーカーのみならず、部品、販売、輸送、一般業種を含めバリューチェーン全体に付加価値を適正に配分すべく、付加価値の最適循環運動を引き続き推進していくとともに、非正規雇用で働く仲間も含めたすべての働く者も取り組み対象としていくことが必要だ」などと訴えた。

Q&Aなどで企業内最賃の取り組みをサポート

方針に関する討議では、SUBARU労連が企業内最低賃金の要求基準について「労連内でも4割が16万4,000円に到達していない。16万8,000円は非常に高い基準」として、あらためて16万8,000円とした思いや考え方を本部に尋ねた。

労働政策を担当する東矢孝朗・副事務局長は「企業内最低賃金と地域別最低賃金、特定最低賃金との差が年々縮小しており、自動車産業で高い付加価値を生み出している労働者の働く価値が、地域の最低基準と同じ水準になってしまうことを危惧している」などと説明。総連では16万8,000円をクリアしている単組が2割にとどまる状況であるものの、本部として企業内最低賃金に関するQ&Aを提供するなど交渉をサポートする考えを示した。

ダイハツ労連からも発言があり、「所定外労働の短縮や休業による所得減などにより、あらためて基準内賃金の重要さを認識した」として賃金改善に向けて最大限の取り組みを行うと意気込みを語った。