新会長にJAM出身の芳野友子氏を選出/連合の第17回定期大会

2021年10月8日 調査部

[労使]

労働組合のナショナルセンターである連合(689万3,000人)は6日、都内で第17回定期大会をWEB会議システムを併用して開催し、「2022~2023年度運動方針」を決定した。集団的労使関係の構築に向けた取り組みや、多様な就労形態で働く人とつながる活動などが柱。役員改選では、3期6年、会長を務めた神津里季生氏(基幹労連)が退任し、芳野友子氏(JAM)が新会長に選ばれた。女性の会長が誕生するのは、1989年の連合結成以来はじめてのこと。

スローガンは「安心社会へ新たなチャレンジ」

今大会のスローガンは、「安心社会へ新たなチャレンジ~すべての働く仲間とともに『必ずそばにいる存在』へ~」。コロナ禍であることを考慮し、WEB会議システムを併用しながらの帝国ホテル(東京・内幸町)での開催となった。厚労相らの来賓あいさつも、ビデオ上映で行われた。

あいさつした神津会長は、働く仲間を取り巻く状況が厳しさを増し、不安定な雇用の増加をはじめ、中間所得層の地盤沈下、貧困の固定化、格差の深刻化が大きく進んでいるにもかかわらず、「労働組合という存在が、世の中の多くの人々にとっては未だに縁遠いものであって、本来の、自分たち自身の持ち物になり得るのだという意識になっていないことを大変もどかしく思う」と述べるとともに、「人々が自分たちの権利意識をもっと明確なものとし、そのもとで、労働組合というものは自分たち自身の持っている貴重なツールなのだという、その認識を持ちうるような社会にしていかなければ、働く者本位の社会は実現せず、そして、ひいては民主主義も本物にならない」と集団的労使関係の重要性を強調した。

さらに、わが国の社会が長期にわたって将来不安に覆われてきたなかで、「権威にあらがわないという意識、長いものには巻かれろという弱さも、私たち日本の社会に根強くはびこっている」と世間の風潮に対して危機感を表したうえで、「労働組合こそが、私たち連合こそが、先頭に立って社会の意識を本来の姿に変えていかなければならない」と連合の役割の重要性を強調。

また、「これまで労働組合活動と距離のあった働く仲間、あるいは連合の存在を知り得なかった働く仲間との関係づくりを進め、誰もが参加・関与しやすくなるようにすることで、労働組合への理解を広げていくことが必要」と述べ、労働組合としての運動スタイルの広がりの必要性なども訴えた。

今期は改革パッケージの中間期

連合は、前期(2019年10~2020年9月)の運動方針で、運動を再構築するとともに、それを実現する基盤を強化するため、 ① 運動領域と重点化 ② 組織体制・運営 ③ 人財の確保と育成 ④ 財政――の4分野に関する改革パッケージを掲げた。

運動領域と重点化では、運動方針を3つの重点分野と4つの推進分野に整理。組織体制・運営では、新たな組織化プランである「連合組織拡大プラン2030」の策定や労働相談体制の見直し、フリーランサーも会員となることができる「連合ネットワーク会員」サイトの立ち上げや、中小地場労組の受け皿となる加盟形態の「地域ゼネラル連合」(仮称)の検討などを打ち出した。財政については、新会費制度への移行に向けた作業部会の設置などを盛り込んだ。

改革パッケージの実行期間は、前期から今期、そして来期まで(2025年9月まで)の3期6年で、そのうち5年を実行期間とし、最後の1年で目標の実現度合いなどを検証することにしている。今期は、改革パッケージ期間の「中間期」にあたるため、「2022~2023年度運動方針」に盛り込まれた活動は、基本的に、16期から継続した内容となっている。

労働者代表制の導入も視野に

今期の活動内容をみると、運動領域と重点化の分野では、前期と同様に、 ① 組織拡大など(「すべての働く仲間を守り、つなぐための集団的労使関係の追求と、社会に広がりのある運動の推進」) ② 安心社会とディーセント・ワークの実現など(「安心社会とディーセント・ワークをまもり、創り出す運動の推進」) ③ ジェンダー平等など(「ジェンダー平等をはじめとして、一人ひとりが尊重された『真の多様性』が根付く職場・社会の実現」--が重点分野となっている。推進分野は、社会連帯活動や政治活動などからなる。

重点分野の組織拡大の活動では、すべての職場における集団的労使関係の構築に向け、「組織化・組織強化および労働者代表法制の今後の導入も視野に入れた職場における過半数代表制の適正な運用徹底や、規定の厳格化などに取り組む」としている。「曖昧な雇用」で働く就業者について、すでに確認している法的保護の考え方にもとづき、「社会的セーフティネットの強化、『労働者』概念の見直し・拡充などに取り組む」ことも盛り込んだ。

「地域ゼネラル連合」のあり方を具体化

「働く(Work)みんなの連合サポートQ」(愛称:Wor-Q、ワーク)のサイトを充実することで、多様な雇用・就労形態で働く人たちとのつながりを深める。同サイトでは、フリーランスも含めて無料で会員登録することができ、無料相談したり、共済も含めたさまざまな情報を入手することができる。

地方組織に直加盟している組合や特別参加組織、単組である地域ユニオンの構成組織への移行を進めるとともに、「地域ゼネラル連合(仮称)」のあり方について具体化を図るとしている。前期では、「地域ゼネラル連合(仮称)」の創設に向け、論点を整理するため、現状の課題などについて構成組織・地方連合会に対して2回、ヒアリングを行った。

昨年9月に策定した「連合組織拡大プラン2030」の実現に向けた活動では、「構成組織・地方連合会は自ら掲げた組織拡大目標の必達に向けて、パート・有期契約・再雇用労働者、子会社・関連会社、中小・地場産業などの組織化に全力で取り組む」などとしている。

解雇の金銭解決制度は導入を阻止

ディーセント・ワーク実現に向けた雇用・労働政策では、「コロナ禍においても、労働者が安心して就労できるよう、雇用調整助成金の休業制度および産業雇用安定助成金による在籍出向の活用につながる取り組みを推進する」としている。

法改正などについては、すでに確認済みの重点政策に沿い、無期転換ルールについて「運用実態を踏まえたうえで、有期契約労働者の保護にかかる課題の解決に向けた見直しに取り組む」とし、企画業務型裁量労働制については「対象業務の安易な拡大は、長時間労働を生み出す恐れがあるため、認めない」としている。解雇の金銭解決制度については、「構成組織・地方連合会が一体となって取り組み、導入を阻止する」と強調している。

春闘を通じた格差是正の取り組みを継続

賃金・労働条件の向上の取り組みでは、「春季生活闘争や通年の労使協議を通じて、『賃上げ』『すべての労働者の立場に立った働き方の実現』の実現とあらゆる格差(企業規模間、雇用形態間、男女間、地域間)の是正をはかるとともに、労働条件の社会横断化を促進する」としている。

中小企業の基盤強化については、「サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配」の実現に向け、「公契約基本法、公契約条例、中小企業振興基本条例の制定および『パートナーシップ構築宣言』の推進に取り組む」とともに、各地域で開催する「地域活性化フォーラム」などを通じて、「産官学金労言」の各団体が連携することで課題解決することなどを提起した。

最低賃金については、「労働の対価としてふさわしい水準に引き上げるとともに地域間格差の是正に努め、社会的セーフティネットとしての機能を強化する」としている。

ILO条約の批准に向けた取り組みを推進

ジェンダー平等については、「カスタマー・ハラスメントや就活生などに対するハラスメントを含むあらゆるハラスメントの根絶に向けて、禁止規定の創設をはじめ国内法のさらなる整備をはかるとともに、ILO条約の批准に向けた取り組みを推進する」ことや、2024年9月までを計画期間とする「ジェンダー平等推進計画」の第1段階における目標達成に向け、構成組織・地方連合会と連合本部が一体となって取り組むことなどを盛り込んだ。

労働相談対応の強化に向けて、労働相談対応者のスキルアップを図るとともに、中央・ブロック・地方連合会オルガナイザーなどとの連携を通じて、組合づくりにつながる展開も目指す。

推進分野にある政治活動に関しては、「左右の全体主義を排し、健全な議会制民主主義が機能する政党政治の確立を求める」、「働く者・生活者を優先する政治・政策の実現を求める」、「与野党が互いに政策で切磋琢磨する政治体制の確立に向け、政権交代可能な二大政党的体制をめざす」など、「連合の政治方針」にある「連合の求める政治」の内容を基本として、「連合組織が一体となって政治・選挙活動を進める」とした。

「ガラスの天井を突き破るチャンス」(芳野氏)

役員改選では、神津里季生会長が退任し、前期まで副会長を務めていたJAMの芳野友子氏が新会長に選ばれた。会長代行には、UAゼンセンの松浦昭彦会長と、自治労の川本淳委員長が就いた。なお、前期の逢見直人・会長代行(UAゼンセン)は常勤で務めたが、今期は両氏とも非常勤で務める。事務局長については、これまで2期4年務めた相原康伸氏(自動車総連)が退任し、日教組委員長の清水秀行氏が選ばれた。

連合の新執行部。左から清水事務局長、芳野会長、松浦会長代行、川本会長代行。

役員選挙では、各役職ともに定数どおりの立候補となったため、新役員全体に対する信任投票となった。出席代議員480人が電子投票し、信任は435票だった。

これまでは、役員推薦委員会が推薦する会長候補、事務局長候補が8月中旬に開催される中央執行委員会で報告されるのが慣例だったが、今回は人選が難航。報告できたのが結局、9月28日の中央執行委員会となった。選挙管理委員会は立候補届出期日を9月22日で告示していたが、同月31日に再告示することとなった。28日まで、役員推薦委員会が開かれた回数は計38回に及んだ。役員推薦委員長の難波淳介氏(運輸労連)は、「連合結成以来、32年間で初めての女性の会長となるが、新たな発想による連合運動の広がりに期待している」と報告した。

選出後にあいさつした芳野氏は「歴代の会長をみると、経験も経歴もすごい方々なので、私のような構成組織のトップを経験していない者が、700万連合のトップに立つことがふさわしいことなのか、実感していた」と述べながらも、連合運動に関わるきっかけとなった当時の連合東京の女性委員会のメンバーが「本人の思いとは裏腹に構成組織を去るのを見てきた」とし、「そうした女性たちの顔が思い浮かび、ガラスの天井を突き破るチャンスを逃してはならないと思い、覚悟をした」と述べた。「この間、多くの女性たちから激励のメッセージ、電話、メールをもらった。不安はたくさんあるが、このメッセージで勇気づけられ、いまは立候補し、認められて良かったと思っている」と結んだ。