活動分野の国際運動と人材育成への絞り込みに向け準備を開始/金属労協の新運動方針

2021年9月10日 調査部

[労使]

自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の金属関連5産別でつくる金属労協(JCM、髙倉明議長)は7日、定期大会をWeb開催し、向こう2年間の運動方針を決定した。活動分野を、国際労働運動と人材育成に絞り込むとする将来の組織改革に向け、具体的な準備を進める。役員改選により議長が交代し、新議長に金子晃浩・自動車総連会長が就任した。

組織改革の目標時期は2024年度以降

金属労協では、財政状況の悪化を契機に、2015年度から書記長レベルで構成する「組織財政検討プロジェクト」を立ち上げ、財政に均衡した組織や活動のあり方について検討を続けてきた。

プロジェクトは、昨年の定期大会で、検討結果を答申。答申は、金属労協としての活動分野を、① 国際労働運動にかかわる取り組み ② 人材育成の取り組み――の2点に絞り込み、それぞれの取り組みを充実させるとともに、体制の強化を図ることを提起。一方、春季生活闘争、産業政策、労働政策などの活動については、活動の主体を連合の共闘組織や部門別組織に移すなど、順次整理していくとした。

答申の内容をうけ、昨年の定期大会で確立した2021年度限りの運動方針は、あるべき姿の実現に向けた組織改革の必要性を提起。2021年度は各産別で組織議論を進め、2022年度~2023年度を具体的な改革の準備期間とするとしていた。組織改革に着手する時期は、2024年度以降を目標に設定している。

春闘は連合などとの役割分担を考慮して検討

今大会で決定した2022年度~2023年度の運動方針は、これまでの方針どおり、国際労働運動については、「基本的にこれまでの活動を踏襲し、さらに充実を図る。特に、国際的な観点からの産業政策や労働政策については、国内における労働政策・産業政策との連携や取り組みを推進するための体制の強化について取り組みをすすめる」としている。

人材育成の取り組みについては、「既存の労働リーダーシップコースや各種研修会について、Webセミナーを活用しながら変革を図る。さらに、産別・単組役員の能力向上に資するため、時宜に即した小回りの利くセミナーや金属労協として重点をおくべきテーマについて息の長い研究会的なセミナーを実施するなど、実現可能性を模索しながら取り組みを進める」とした。

春季生活闘争、産業政策、労働政策の活動については、「この2年間の活動期間の中で、産別を横断する組織としての位置づけと、連合や産別等の他組織との役割分担を考えながら、活動の絞り込みや進め方の変更、産別の参画のありかたなどについて検討を進める」としている。なお、金属労協では、現行の連合の部門別連絡会について、活動の自主性と一定の権限をもって活動できる「産業別活動センター」(仮称)への移行を求めていくとしている。同センターを、春季生活闘争や産業政策などの活動の受け皿にしたい考え。一方、同センターが連合内にできるまでは、金属労協内での取り組みを継続するとしている。

これらの改革を行う際の予算の策定方法や金属労協事務局の人員の配置、各産別から参画する各種委員会のありかたなどについても、2年の準備期間の中で検討するとしている。

引き続きインダストリオール副会長獲得をめざす

組織改革以外の活動では、国際連帯活動について、金属労協が加盟する国際産別組織インダストリオールの第3回世界大会が2021 年9月にWeb方式で実施されることから、従前の副会長・アジア太平洋地域共同議長のポストを引き続き獲得することに加え、本部への派遣メンバーをJCM書記次長クラスとすることなどを掲げた。また、アジアの金属労組を集めた会合のあり方を模索する。

多国籍企業労組ネットワークの構築では、今なお海外現地事業体における労使による対立が報告されているとして、タイ・インドネシアにおける労使ワークショップを実現可能な形式で開催するとしている。

労働政策の金属共闘については、「JC共闘の一層の強化を図り、金属労協のあるべき姿の検討材料とするため、JC共闘の歴史的経過と理論を振り返り、整理する」とし、また、「金属産業において引き続き大変革が進行する中で、生活の安定と向上、産業の新たな発展基盤の確立、経済の持続的成長を達成するため、生産性運動三原則に基づく『成果の公正な分配』として、基本賃金の引き上げを基軸とした『人への投資』を追求していく」とした。統一取り組み項目の設定など、項目を重点化しつつ、共闘効果を高めることも検討する。

「継続的な賃上げ実現に向け道をつないだ」と評価

2021春闘の最終総括である「2021闘争評価と課題」を確認した。回答を引き出した2,622組合(前年2,680組合)のうち、賃上げ(賃金改善分)を獲得した組合は992組合(同1,292組合)。賃上げ獲得組合の賃上げ額の平均は1,275円(同1,230円)となっている。規模別では、1,000人以上が957円(同961円)、300~999人は1,112円(同1,123円)、299人以下は1,363円(同1,316円)と、中小が大手を上回った。

評価と課題は、全体的な評価について、「コロナ禍の極度に厳しい経済・産業情勢の下での交渉」となったものの、「生産活動や企業業績が回復の兆しを見せていることを背景に、潜在的な成長力が1%弱程度で維持できているなど、慎重に情勢を分析し、議論を重ねて基本的な考え方を整理してきたこともあり、要求・回答の両面においてJC共闘として相乗効果を発揮し、相当数の組合において賃上げを獲得するなど、成果をあげることができた」とした。

回答引き出し組合に対する賃上げ獲得組合の比率は、2014年以降で最も低い水準となったが、7割の組合が賃上げ要求を行い、かつ4割の組合で平均1,275円の賃上げを獲得したことから、「JC共闘全体として、2014年闘争以降の賃上げの流れを途切れさせることなく、2022年闘争以降の継続的な賃上げの実現に向けて道をつなぐことができたものと言える」と評価した。

「一体感をもった共闘の強化」が課題と指摘

課題については、「かつてのいわゆる純ベア方式一本から、格差是正を図るためのさまざまな方式の取り組みが行われるようになってきているが、一方で、一体感をもった共闘をさらに強化するため、要求・回答内容の相互理解を進めることが課題となっている」と指摘。「企業規模間・産業間格差是正や、国際的に見た日本の低賃金水準是正の観点から賃金水準を重視しつつ、生産性の向上に見合った『成果の公正な分配』を確保するための上げ幅を追求するため、どのようにJC共闘の共闘効果を高めていくか、検討を深める必要がある」などとした。

役員改選が行われた。自動車総連会長だった髙倉議長が退任し、10日に自動車総連の定期大会で会長に就任した金子晃浩・前事務局長が新議長となった。事務局長は浅沼弘一氏(電機連合)が留任となった。