将来世代にとってより良い社会の実現を目指す運動を/JEC連合定期大会

2021年8月4日 調査部

[労使]

化学・エネルギー関連産業の組合でつくるJEC連合(酒向清会長、11万9,000人)は7月15日、京都府京都市でオンライン併用の定期大会を開き、すべての働く仲間の立場に立って能動的な運動を展開していくことなどを柱とする向こう2年間の運動方針を決めた。方針は、運動の理念に「包摂的な社会実現のため、持続可能な開発目標(SDGs)の達成」することを提起。酒向会長は、「労働組合活動を推進することがSDGsの目標達成につながると言っても過言ではない」としたうえで、目指すべき運動の方向性について、「自分たちの将来世代にとって、より良い社会を目指していく」姿勢を強調した。

新運動方針は、「仲間と共に新たな行動」をスローガンに掲げたうえで、基本理念(私たちの役割)に①すべての働く仲間の立場に立った能動的運動②思いを共にする仲間と共に行動し仲間を増やす運動③それぞれの主体性を尊重した多様性のある組織④国内外の働く仲間と手を結び、社会から信頼される組織⑤社会と共存し持続可能で健全な産業の発展――の5項目を示したうえで、2022~2023年度に取り組む具体的な内容を列記している。

「組合活動を推進することがSDGsの目標達成につながる」(酒向会長)

すべての働く仲間の立場に立った能動的運動については、「労働組合の社会的役割と責任を常に考え、すべての働く仲間の立場に立った運動を能動的に展開し、自由、平等、公正、包摂的な社会の実現をはかる」として、雇用を守る取り組みの充実や労働条件・処遇の維持向上、安心して働き続けられる職場環境の構築を進めるほか、今方針では、「包摂的な社会実現のため、持続可能な開発目標(SDGs)の達成」を掲げ、セミナー等を開いて啓発活動に努めていくことも強調している。

酒向会長はあいさつで、2015年9月に国連で採択された貧困、飢餓、健康、教育、平等、働きがい、経済、気候変動などの国際目標を掲げたSDGsについて、「目指すべき方向性は、労働組合活動の考え方にとても近く、労働組合活動を推進することがSDGsの目標達成につながると言っても過言ではない」などと指摘。「今さえ良ければ良いのではなく、自分たちの将来世代にとって、より良い社会を目指していこう」と訴えた。

 能動的運動に関しては、ほかにも60歳以降の雇用の安定と働きの価値にふさわしい処遇の確立などを目指す取り組み方針を作成して来年1月の中央委員会で確認することや、ワーク・ライフ・バランスと男女共同参画の推進に向けて2017~2021年度の5カ年計画で進めてきた「~Rebalance2020~」の取り組みについて、計画を1年延長したうえで2021年度にとりまとめた5年間の総括をもとに次期推進計画の策定し、2023年度からのスタートを目指すことなどを盛り込んでいる。

アフターコロナを意識した組織運営を

共に行動し仲間を増やす運動では、「組織拡大を最重要課題の一つ」と位置付け、「業種別部会・地方連絡会・加盟組合の取り組みをJEC連合全体で支援しながら推進する」とした。具体的には、①正社員を含む組織内の対象組合員を増やす②加盟組合の関連・関係企業の組織化③連合未加盟組織の組織化--等に取り組む。

産別組織としての基本機能も強化。定期大会や中央委員会、討論集会等の従来の取り組みについて、アフターコロナを意識した組織運営に努めるほか、現場の組合員が「運動を知る」ことを意識した情報伝達や調査活動の充実、自然災害や感染症拡大などに対応した「事業継続計画(BCP)」とそれを実行・改善する「事業継続マネジメント(BCM)」の確立などを掲げている。

今後の労働組合の活動について、酒向会長はあいさつのなかで「ニューノーマルにおける運動のあり方が問われるなか、コロナをきっかけに今まで大切にしてきたものが、もろく崩れてしまう不安を感じるときがある」と危機感を示しつつも、「労働組合の原点はどのような時代であっても不変だ」として、「コロナをきっかけに労働運動をより良い形に進化させ、『持続可能性』を常に根底に据え、組織運営を行っていく」姿勢を強調した。

ネットワーク型組織としての積極的な活動が組織の強み

主体性を尊重した多様性のある組織に関しては、JEC連合がネットワーク型組織として、① 石油 ②化学 ③ セメント ④ 医薬化粧品 ⑤ 塗料 ⑥中小・一般--の6つの業種別部会を中心とした活動を展開していることを、「それぞれの立場を尊重し積極的に活動することが組織の強みだ」と指摘。その強みを活かしながら、「それぞれの産業の特徴を網羅した ① 賃金などの労働条件に関する取り組み ② 産業政策活動③加盟組合との連携・支援 ④ 組織拡大の推進等さまざまな取り組みを実施する」としている。

5産別の情報交換と連携強化に向けた協議を進める

JEC連合は、紙パ連合との事務所を共同利用することで、連携の強化や財政の効率化を図ってきている。社会から信頼される組織については、こうした取り組みも踏まえ、「新しい枠組みでの横断的業務の連携も含め、五産別(JEC連合、紙パ連合、フード連合、ゴム連合、セラミックス連合)と情報交換等を行い、連携強化(経営分析講座等)に向け協議を進める」とした。

化学・医薬化粧品産業の連携に向けた取り組みも推進

「化学ならびに医薬化粧品産業の連携に向けた取り組み」も推進。化学産業については、「化学産業における課題解決や産業の発展には、より多くの働く者の声を社会に発信していかなければならない」として、UAゼンセン製造産業部門化学部会との間で、「産業政策を中心とした連携を継続し具体的な活動を進める」構え。JEC連合との連携協定を解消し、連合を離脱した化学総連(大手化学メーカーの労組で構成、5万人)に対しても、「(連携解消から)5年強の月日が流れたが、両組織の関係修復については、あまり進展がなく、本件に携わった産別役員の交代も進んでいる」状況を示したうえで、「このままでは化学産業の労働組合の将来にとって好ましくない」と指摘。「改めて関係性を見つめ直し、連携について協議をおこなっていく」考えを打ち出している。

一方、医薬化粧品産業の連携では、2019年にUAゼンセンと共同で設立した「ヘルスケア産業プラットフォーム」を通じて、「ヘルスケア産業の産業政策実現活動を進化させるとともに、さらなる活動連携の深化を進めていく」としている。

このほか、運動方針は持続可能で健全な産業の発展についても、「『雇用の安定確保』『職場の安全・衛生の確保』『総合労働条件の維持・向上』をはかるためには、『産業の活性化』『企業の健全な発展』が必須だ」として、政策の実現に向けて「行政・政党・議員・業界団体・他組織への積極的な働きかけをおこなう」ことなどを明記している。

賃上げ額は加重平均6,872円(2.27%)、年間一時金5.17カ月に

大会では、「2021春季生活闘争まとめ」も確認した。今春の賃上げ交渉の回答結果(5月末段階)をみると、回答を引き出したのは、昨年同時期より15組合少ない130組合。そのうち、賃上げ分を獲得した組合は、前年同時期より3組合多い51組合だった。回答額は、定期昇給相当分を含めた加重平均で6,872円(2.27%)、賃上げ・ベア額は同2,647円で、それぞれ前年を433円、1,506円上回った。年間一時金は、加重平均で171万8,022円(5.17カ月)で、こちらは額(7万8,200円減)、月数(0.13カ月減)ともに、昨年を下回っている。

こうした回答状況についてまとめは、賃上げについて「コロナ禍にあって、業種・業態に少なからず影響は見受けられるが、ベア獲得数は前年と変わらず、賃上げの流れは継続できた」ことを評価した。その一方で、一時金水準について、「99人以下」の夏季一時金の単純平均が58万6,479円だったのに対し、「1,000人以上」が93万7,962円になるなど規模間の差が大きいことに着目。「業績に反映されている部分も多いため、特に中小労組ではその影響を受けやすい傾向にある」として、「安定・将来不安を払拭する賃金水準、生活確保という意味合いも含まれている一時金水準、この両面を踏まえた交渉が望まれる」と総括した。

2022春闘に向けては、「今後もコロナの影響は少なからず続くと思われるが、将来世代につながる持続可能な社会の実現に取り組んでいく必要がある」などと強調したうえで、「春闘の位置付けはその年だけ考える『点』ではなく、将来を見据えた『線』で考えるべきだ」として、「点ではなく線」の交渉を進めていくことを今後の課題に挙げている。