職場から1,000円以下の時給をなくす取り組みを/日本医労連定期大会

2021年7月30日 調査部

[労使]

日本医労連(森田しのぶ委員長、15万1,000人)は7月20、21日の両日、都内でオンラインと併用の定期大会を開催し、2021度の運動方針を決めた。方針の柱は(1)いのちと平和を守る政治の実現、(2)賃金底上げと大幅賃上げ、(3)大幅増員、働くルールの確立、(4)安全・安心の医療・介護の実現、(5)20万人医労連の早期達成――を提示。大幅賃上げでは、「今すぐ1,000円未満の企業内最賃をなくし、時給1,500円以上を目指す」姿勢を強調している。役員改選では、森田しのぶ委員長が退任し、新委員長に佐々木悦子副委員長が選出された。

医療体制の拡充・強化と医療労働者の大幅増員を目指す

あいさつした森田委員長は、「コロナ禍が長引くことで医療・介護事業所の経営も悪化し、そこではたらく労働者の心身の疲弊も極限に達している」と指摘し、「コロナ禍で疲弊しきった医療体制・公衆衛生体制の抜本的拡充・強化、そしてそれを支える医師・看護師をはじめとした医療労働者の大幅増員」を目指す考えを示した。また、組織拡大について、「コロナ禍のなか、現状で組織数は17万人を維持している」としたうえで、制度・政策に大きな影響を与え、国民や医療・福祉労働者が誇りをもって働き続けられる職場をつくり、諸要求を実現するため、その実現にふさわしい量と質をもった組織が必要だ」として、組織拡大の重要性を強調した。

特定最賃の実現に向けた取り組みを継続

新運動方針は、賃金底上げと大幅賃上げについて、全労連「全国一律最低賃金アクションプラン2024」の内容も踏まえ、「企業内最賃を地域最賃改定額以上に引き上げ、医療・介護・福祉の職場から1,000円以下の時給をなくし、時給1,500円以上を目指す」としている。また、2020年度までの4年間で取り組んだ、看護師と介護職の全国を適用地域とした特定最賃(産別最賃)の新設を目指す「全国最賃アクションプラン」について、2021年の申し出でアクションプランとしては一旦区切りをつけるとして、取り組みの総括を踏まえ、引き続き特定最賃の実現に向けた今後の取り組みを改めて提起するとしている。

産別統一闘争への結集を強めて相互協力・支援を図る

一方、医療業界の2021春闘は、現場の負担増とは裏腹に厳しい交渉となっている。要求提出状況は5月13日時点で482組合中267組合と5割強。回答状況(6月8日時点)も回答を得た組合は前年同時期より25組合少ない258組合で、ベア回答は前年同時期の半数程度にとどまっている。ただし、定昇込みの賃上げ額は平均4,805円(1.88%)で、前年実績(4,746円、1.84%)を若干上回っていることから、方針は「コロナ禍の影響を受けた医療機関や介護施設が多いなかでも、前年を上回る賃上げ平均額となっているのは、組合が『コロナ禍で奮闘する職員の大幅賃上げは当たり前』と論戦をはり、安易な定昇削減などを許さなかった結果でもある」などと評価。引き続き、生計費原則に基づく要求(最低賃金の底上げと大幅賃上げ要求)や産別統一闘争への結集を強め、相互協力・支援を最大限に活かした取り組みを図る姿勢を示している。

賃上げについては、討議でも春闘への結集や団体交渉が難しいなかでのベースアップや、一次団交での回答から最大限の前進を引き出すことを妥結目標とした二次団交の実施など、コロナ禍の厳しい状況下でも交渉前進に向けた粘り強い取り組みが報告された。森田書記長はこれを受け、「集中して支援できるところは支援したうえで、全体の力で引き続き取り組む」などと述べた。

また、コロナ禍の経営悪化の影響を受けて、2020年には3割の組合が前年より引き下げとなった夏期一時金については、6月8日時点で186組合が回答を獲得した。正職員の単純平均は月数1.576カ月(前年比0.005カ月減)、額では39万47円(同6,136円減)となっている。

2020年は冬期一時金も約4割の組合で引き下げとなり、年間合計では5割弱の組合が前年対比でマイナス回答となった。こうしたことも踏まえ、方針は「年間6カ月+α(夏季2.5カ月+α、年末一時金3.5カ月+α)」を基本として要求設定し、最低保障額として「最低賃金協定要求月額(誰でも)×統一要求の月数(年間135万円以上(22.5万円×6カ月)+α)」とすることを提案している。

月9日以上夜勤や長時間労働解消に向けた取り組みの推進も

大幅増員、働くルールの確立については、「コロナ禍が長引くことにより、これまで以上に人手不足感が強まった1年を経験し、本来の看護業務を見つめ直す必要性が増している」と指摘。「やりがい・喜びのある看護」の実現に向けた運動への結集を高める取り組みを強化する。

また、日本医労連の「夜勤改善の手引き」や厚労省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」等を活用し、労働時間管理体制の明確化、始業前残業など不払い労働の根絶、夜勤協定の締結・順守など、具体的な要求を出して職場からのたたかいを強めると強調。夜勤実態調査や看護職員の労働実態調査結果も踏まえて、「月9日以上夜勤や長時間労働の解消、勤務間隔の確保、休日・休暇の取得や諸権利の行使などに必要な人員を職場ごとに明らかにして増員を要求する」としている。

ほかにも、労働時間規制とともに、それを裏付ける必要人員の確保として、完全週休2日制や諸休日・休暇の完全取得、在宅部門もふくめた1人勤務の解消などの条件がどこの職場でも実現し得る増員計画の策定を求める。

労働安全衛生活動の強化としては、衛生推進者・衛生管理者の配置や労働安全衛生委員会の適正化をすすめ、すべての職場で労働安全衛生活動を強めると指摘。あわせて、「コロナ禍において感染防護とケアの仕方の工夫がより必要となり、感染防護具着用時の身体的負荷に関する改善策なども求められるようになった」ことから、「安全配慮義務の徹底を求め、改善要求を行っていく必要がある」としている。

コロナ禍の状況を踏まえた地域医療構想や医療計画を

安全・安心の医療・介護の実現では、診療・介護報酬の見直しについて、「現場の医療・介護活動を正当に評価し、医療・介護現場の勤務環境改善に資する改定内容となるよう、関係団体への共同の働きかけや政府要請」を検討する。

都道府県で策定された「地域医療構想」については、「コロナ禍の下での医療崩壊を踏まえた大幅な見直し」が求められるとして、都道府県・自治体に対し、今後の感染症対策を考慮した上での「地域医療構想」を見直しと地域住民の要求にそった「医療計画」の策定について、要請を強める姿勢を示している。

さらに、コロナ禍を経て国民が必要と感じる要請項目を盛り込んだ「安全・安心の医療・介護の実現と国民のいのちと健康を守るための国会請願署名(いのち署名)」や、2021年9月より開始予定である社会保障抑制政策の転換等を求める「いのちまもる地域キャラバン行動」についても、引き続き実行に迫る運動を実施することを強調している。

次世代育成の取り組みも強化

そのほか、組織拡大については、「いのちと平和を守り、社会保障の切捨てを許さない運動を広げ推進するためにも、日本医労連の組織を飛躍させることが必要」として、20万医労連に向けて前進を図るとしている。また、加盟組織・組合の組織力量強化のための学習を重視して取り組むなど、世代継承に向けた取り組みも強化する。